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任天堂VSコロプラの特許侵害訴訟から見る大企業の特許活用戦術!

2021年現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、自宅での巣ごもり需要が高まっています。この影響でスマホゲームの国内市場規模も1兆円超に成長しています。ビジネスチャンスが増えると、市場参入を急ぐあまり、他社特許の監視がおろそかになってしまうこともあります。

今回は、ゲーム業界の重鎮である任天堂が、スマホゲームの「白猫プロジェクト」で有名なコロプラを特許侵害で訴えた事例を紹介します。

《2021年8月4日に本事案が和解となりました。詳細はこちらの記事で解説しています。》
 →任天堂・コロプラが和解成立!和解金33億で特許権侵害訴訟が決着!

<この記事でわかること>
・任天堂が訴訟提起するまでの経緯
・任天堂の特許訴訟戦略
・訴訟を起こされないために注意すること

(執筆:知財部の小倉さん

訴訟の経緯

任天堂がコロプラを特許権侵害で提訴

2018年1月10日、任天堂は同社の特許5件をコロプラが侵害するとして、東京地裁に提訴しました。コロプラの製品としては、「白猫プロジェクト」が任天堂の特許を侵害するとされました。

もちろん、水面下での交渉は続いていたようで、2016年9月ごろから任天堂はコロプラに指摘していました。コロプラは1年にわたり任天堂からの指摘に対して、特許権を侵害しないことを任天堂に説明しましたが受け入れられなかったようです。この時点で和解できればよかったのかもしれませんが、交渉は決裂となり裁判へと発展しました。

スマホゲームは損害賠償額も超高額!

コロプラの「白猫プロジェクト」が侵害したとされる特許は5件で、製品の差し止めと合わせて44億円の損害賠償が請求されました。近年、スマホゲーム市場は急成長していますし、かなり高額な損害賠償となっていますね。

白猫プロジェクトはAndroidとiOS用のスマホゲームアプリで、無料でプレイできますが、課金してアイテムを購入することもできます。2014年7月に配信が開始され、2016年6月に1億ダウンロードを突破しました。コロプラの2017年9月期の売上高は522億円で、同時期のゲームの売り上げでは白猫プロジェクトが1位でした。このような規模で実施しているので、特許を侵害すると高額な損害額となってしまうのですね。

任天堂の特許活用戦術

コロプラに特許侵害を提起した任天堂の法務部は、最強の法務部と言われています。そんな任天堂の特許訴訟戦略について、弁理士ドットコムが運営する以下のサイトでも解説されていますので、詳しく見てみましょう。

→出典:任天堂、訴訟記録にみる「対コロプラ」攻略法(弁護士ドットコムニュース)

侵害されたとする任天堂の特許5件

今回の事件で任天堂が特定した特許と対応する白猫プロジェクトの機能は以下のとおりです。

  • 特許第3734820号:「ぷにコン」(プレイキャラクターの移動操作)
  • 特許第4262217号:「チャージ攻撃」(長押しで近くの相手を自動で攻撃)
  • 特許第4010533号:「スリープモード」(省電力モードからの復帰する際の確認画面)
  • 特許第5595991号:「フォローシステム」(協力プレイやメッセージなど通信する機能)
  • 特許第3637031号:「シルエット表示」(障害物の陰に入ったキャラクターの表示)

この中で最も重要視されている特許が「ぷにコン」に関するものである。ぷにコンとは、ソフトウェア上で動作するジョイスティックのようなものです。

訴訟の準備万端?任天堂の登録特許の訂正

ぷにコンに関する特許である特許第3734820号は訴訟を提起以前の2005年10月28日に、以下の内容で登録されていました。

【請求項1】
 所定の座標系に基づいて、プレイヤの操作に応じて指定される座標情報を出力するポインティングデバイスによって操作されるゲーム装置のコンピュータに実行されるゲームプログラムであって、
 前記ポインティングデバイスがプレイヤにより座標入力されていない状態から座標入力されている状態へ変化し、その後、座標入力されている状態が継続するときに、前記コンピュータに、
 前記変化したときに前記ポインティングデバイスから出力される座標情報に基づいて、前記座標系におけるゲーム制御を行うための基準座標を設定する基準座標設定ステップと、
 前記座標入力されている状態が継続する間に前記ポインティングデバイスから出力される座標情報に基づいて、前記座標系における指示座標を設定する指示座標設定ステップと、
 前記基準座標から前記指示座標への方向である入力方向および前記基準座標から前記指示座標までの距離である入力距離の少なくとも一方に基づいて、ゲーム制御を行うゲーム制御ステップとを実行させる、ゲームプログラム。

特許第3734820号(特許庁発行)

その後、2016年9月に任天堂がコロプラへ特許侵害を指摘する前の2016年8月に以下のように訂正をしています。「ポインティングデバイス」という文言が「タッチパネル」に代わっており、権利範囲にぷにコンを含めようとしている意図が見えますね。

【請求項1】
 所定の座標系に基づいて、プレイヤの操作に応じて指定される座標情報を出力するタッチパネルによって操作されるゲーム装置のコンピュータに実行されるゲームプログラムであって、
 前記タッチパネルがプレイヤにより座標入力されていない状態から座標入力されている状態へ変化し、その後、座標入力されている状態が継続するときに、前記コンピュータに、
 前記変化したときに前記タッチパネルから出力される座標情報に基づいて、前記座標系におけるゲーム制御を行うための基準座標を設定する基準座標設定ステップと、
 前記座標入力されている状態が継続する間に前記タッチパネルから出力される座標情報に基づいて、前記座標系における指示座標を設定する指示座標設定ステップと、
 前記基準座標から前記指示座標への方向である入力方向および前記基準座標から前記指示座標までの距離である入力距離に基づいて、ゲーム制御を行うステップであって、前記指示座標が前記基準位置を中心とした所定半径を有する円領域からなる制限範囲を逸脱したときには、指示座標が前記制限範囲の外縁部にあるときの入力距離に基づいてゲーム制御を行う、ゲーム制御ステップとを実行させる、ゲームプログラム。

訂正2016-390074(特許庁発行)

※太字部分筆者

訴訟中の任天堂とコロプラの攻防

コロプラの任天堂に対する反論

最強と言われる任天堂法務部が上述したように準備したうえでのコロプラへの指摘だったので、コロプラも大ピンチでした。さて、コロプラはどう対応したのでしょうか?

当然、訴訟前と同様、任天堂の特許権の侵害を否定しました。任天堂の特許権の新規性や進歩性の欠如を理由に特許が無効であることを主張し、真っ向から対立することとなりました。しかし、任天堂が特許権を訂正していたことで曖昧な記載がなくなり、コロプラが特許の無効を主張しづらい状況が作られていました。このあたりは、さすが訴訟慣れしている任天堂といった感じですね。

コロプラによる「ぷにコン」の仕様変更

2020年2月19日の白猫プロジェクトのアップデートにおいて、訴訟の争点となっていた「ぷにコン」の仕様が変更されることが、コロプラより発表されました。従来は、タッチした場所から指を離すとスキルが発動するものでしたが、アップデートからは、ぷにコン上に表示されるボタンを押すとスキルが発動する仕様に変わりました。

コロプラは、本訴訟が公表されてから株価が急落しており、東証1部の値下がりランキングでトップになったりもしていますので、任天堂との対立が長期化することでビジネスへの悪影響が大きくなることを危惧して、和解への方針展開を行ったのかもしれません。

→参考:コロプラが急落、任天堂から特許権侵害で訴えられる(会社四季報ONLINE)

訴訟の結末は任天堂の勝ちか、それとも和解か

任天堂はコロプラへ追い打ちをかけるように、2021年4月に賠償額を追加し96億9900万円としました。増額の理由は時間経過等による追加のようです。裁判では勝てる見込みが強くなった段階で、請求額を再計算する戦略がよく使われるようです。

コロプラはアプリの仕様変更をしたり、賠償額も倍になったりと、状況としては不利であると思われますので、和解を望むかもしれません。しかし、もし任天堂が裁判に勝てると考えているのであれば、この時点では和解に応じてくれないかもしれません。

まとめ

今回は任天堂VSコロプラの特許侵害訴訟における任天堂の特許活用戦術を解説しました。コロプラとしては任天堂が訴訟を起こす前に、仕様変更したりライセンスを受けたりという選択肢もあったかもしれません。それ以前に、開発段階において、他社特許の監視をしていれば、このような状況はなかったかもしれません。

製品開発やリリースが優先され、他社特許調査がおろそかになってしまうと、訴訟経験の豊富な第三者から権利行使を受けてしまうかもしれません。知財タイムズでは、特許出願だけでなくクリアランス調査も相談できる特許事務所をご提案いたします。お気軽に下のボタンからお問い合わせください。

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