パテントファミリーについて【特徴・調べ方・出願時の注意点】
パテントファミリーとは
パテントファミリーとは、一つの発明をもとに、複数の国・地域に特許出願している「出願群」のことを言います。
例えば、日本の特許庁に発明aについての特許出願Aをした後、この発明aについて、アメリカに特許出願B、インドに特許出願C、台湾に特許出願Dをそれぞれ出願した場合、特許出願A,B,C,Dは、パテントファミリーに該当します。
パテントファミリーの特徴
パテントファミリーは、それぞれの国や地域での審査内容が似通ったものになる、という特徴があります。
実は各国の審査担当者は、パテントファミリーに属するそれぞれの特許出願の、審査内容を確認することができます。つまり他国での審査内容を確認したうえで、自国の審査をすることが可能なのです。
特に新規性・進歩性は、国や地域によって大きく異なるものではありません。それぞれの国の審査で、同じ引用文献に基づいて新規性・進歩性違反を通知されることも珍しくないです。
実際、実務では先ほどの特許出願A(日本)、特許出願B(アメリカ)、特許出願C(インド)、特許出願D(台湾)の全てについて、同じ引用文献に基づく新規性・進歩性違反が通知されることもよくあります。
パテントファミリーの調べ方
パテントファミリーを調べると、ある国の審査で拒絶理由が通知された時に、他国でも同様の拒絶理由が既に通知されていて、拒絶対応も完了しているケースがあります。このような場合には、当該他国と同様の対応をすることで拒絶理由を解消できることが多く、迅速な対応が可能となります。
パテントファミリーの調べ方としては、日本の検索システム(J-Platpat)、もしくは、ヨーロッパの検索システム(Espacenet)を用いる方法が知られています。
J-Platpat(特許情報プラットフォーム)では、特許・実用新案、意匠、商標に関する公報の検索ができます。またEspacenetは、特許・実用新案に関する公報の検索が可能です。
※文中の画像で表示されている特許番号等は、画像処理により表示を消しています。
J-Platpatを使う
J-Platpatによるパテントファミリーの検索方法について、説明します。
まずはJ-Platpatにアクセスしましょう。
次に、アクセスした「特許・実用新案」のプルダウンメニューから、「特許・実用新案番号照会/OPD」を選択します(図1参照)。
「特許・実用新案番号照会/OPD」の画面になりましたら、パテントファミリーのうち、知っている公開番号(公開特許公報の番号)や特許番号(特許公報の番号)を入力し、「照会」ボタンを押します(図2)。
公開番号や特許番号は、日本のもの以外、アメリカや中国、PCT国際出願の番号なども使用できます。
「照会」ボタンを押すと検索結果が表示されます。次に、検索結果画面の右側にある「OPD」ボタンを押しましょう(図3)。
「OPD」ボタンからは、パテントファミリーの一覧が表示されます(図4)。
国・地域コードを見れば、今回は日本、アメリカ、韓国、中国、スイス、ドイツに出願をしていることがわかります。また画面の右側に「書類一覧 開く」のボタンが表示されている国や地域の出願については、各国特許庁から通知された書類(審査経過)を閲覧できます。
これらの書類を確認すれば、拒絶理由が通知されているか否か、また、拒絶理由の詳細な内容などを知ることができます。
Espacenetを使う
次にEspacenetによるパテントファミリーの検索方法について、説明します。
まずEspacenetにアクセスします。
画面中央上部の”Enter your search terms”とある検索ボックスに、パテントファミリーのうち、知っている公開番号(公開特許公報の番号)や特許番号(特許公報の番号)を入力します(図5)。
J-Platpatと同様、Espacenet でも日本やアメリカ、中国、PCT国際出願などの公開番号ないし特許番号を入力できます。ただし日本の公開番号を入力する場合には、”〇〇〇〇-××××××”ではなく、” 〇〇〇〇××××××”と”-”を省略してください。
公開番号や特許番号などを入力すると、該当する番号の出願リストが図6のように表示されます。
このリストの中から、確認したい案件を選んでクリックすると、画面の右側に書誌データ(Bibliographic data)が図7のように表示されます。
ちなみに各国の審査経過は、図7の右側上部にある”Global Dossier”をクリックすることで、確認ができます。
この画面から、中央付近にある”Bibliographic data“をプルダウンして”Patent family”を選択すると、画面右側にパテントファミリーの一覧が表示されます。
なおパテントファミリーの一覧では、”Simple family”、”INPADOC family”、”Latest legal events”が表示されますが、一番左側の”Simple family”を選択しましょう(図8)。
パテントファミリー特有の、出願時の注意点
先述したように、パテントファミリーにはそれぞれの審査内容が同じような内容になる、という特徴があります。
そのため国によっては、他国でのパテントファミリーの審査結果を利用することで、新規性・進歩性などの審査をより効率的に行う制度を採用しています。
この制度は国ごとに特色があるので、出願時にはいくつかの点に注意しなければいけません。
アメリカ
アメリカにおける特許制度の大きな特徴の一つに、IDS(情報開示陳述書)という制度があります。
IDS制度とは、米国の特許出願に関連する情報、例えば、パテントファミリーで通知された新規性・進歩性に関連する情報を特許庁に開示するという制度です。
具体例をみてみましょう。もしも特許出願A(日本)、特許出願B(アメリカ)、特許出願C(インド)、特許出願D(台湾)をした場合、特許出願A,C,Dの審査で通知された拒絶理由通知や、拒絶理由通知で引用された先行文献を、アメリカ特許庁に提出する。これがIDS制度です。
またパテントファミリーにPCT国際出願が含まれているなら、この国際出願でなされた国際調査報告も、原則としてアメリカ特許庁に提出します。
関連記事
IDSって何?米国弁護士がアメリカの特許を解説!
国際特許とは?外国での特許権取得について
インド
インドにはパテントファミリーの出願情報や審査経過について、インド特許庁に対して情報を開示する義務がある、という特徴があります。
この情報開示義務においては、以下のような情報をインド特許庁に渡します。
- パテントファミリーの出願日、公開日、登録日
- 出願番号、公開番号、特許番号、出願状態など
- 拒絶理由通知の写し
- 特許査定時の特許請求の範囲など
関連記事
ブラジル
ブラジルでは近年、審査の促進という観点から、自国での実体審査を行う前に他国の審査結果を利用する、予備的審査がなされています。
予備的審査は、欧州やアメリカなどの国で出願されたパテントファミリーがある場合、これらの国の審査経過を利用して拒絶理由の有無や引用文献などを通知する、という制度です。
この予備的審査は、早期審査の対象であるといった特別な事情のない限り、適用されます。予備的審査の対象になると、仮にアメリカでの特許出願で新規性・進歩性の拒絶理由通知がなされている場合には、新規性・進歩性について、同じ拒絶理由通知がブラジルでの出願にも通知されます。
ただしアメリカの出願内容に準じた拒絶理由通知だからといって、アメリカの特許請求の範囲に合わせる補正をする必要はありません。
補正をせずに意見書で反論したり、他のパテントファミリー(日本など)の特許請求の範囲に合わせる補正をするなどの対応も可能です。
完全無料で事務所選びをサポートします
まずはお気軽にお問合せください!
特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
あなたの技術に強い弁理士をご紹介!