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IDSって何?米国弁護士がアメリカの特許を解説!

IDS 特許

はじめに

アメリカ特許入門において、アメリカ特許には、情報開示陳述(Information Disclosure Statement:IDS)という特有の手続があることをご紹介しました。
今回は、IDSについてもう少し詳しくお話したいと思います。

(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士

IDSとは

IDSの明文規定は、連邦規則法典第37巻(Code of Federal Regulations, Title 37:37 CFR。日本の特許法施行規則に相当)にあります。
その第1.56規則において、特許性について重要であることが知れている情報を、米国特許商標庁(USPTO)に対して開示しなければならない義務が定められています。
37CFRの全文は、日本国特許庁において日本語訳が公開されていますので、ご参照ください。

37CFR第1.56規則によると、IDS義務違反が行われた場合、特許が付与されないことが規定されています。

誰の義務?

では、IDSの義務は、誰に課せられているのでしょうか?
37 CFRでは、以下の者にIDSの義務があるとされています。

  • (1)出願に記名されている全ての発明者
  • (2)出願準備・出願手続に関与する弁護士・代理人
  • (3)出願準備・出願手続に実質的に関与し、かつ発明者、出願人、譲受人(将来的譲受人も含む。)と関係がある者

上記(1)は、願書に発明者として記載される人をいうことは明らかです。

上記(2)は、出願書類作成やUSPTOへの手続を代理する代理人を意味します。
アメリカ特許入門において、アメリカにはPatent AttorneyとPatent Agentが存在することを紹介しましたが、弁護士とは前者を、代理人とは後者を意味しています。

上記(3)は、やや分かりにくいですが、端的に「特許取得に利害を有する人」や「その関係者」と整理されてよいかと思います。
利害を有するという意味では、発明者の所属する会社(出願人又は譲受人)が挙げられます。
一方、利害を有する人の関係者という意味では、発明者・出願人とアメリカ代理人との間を仲介する日本の特許事務所・弁理士も含まれると考えられるでしょう。

一方、特許取得に利害を有するとしても、その出願書類作成やUSPTOへの手続に関与しない者(例えば、共同研究を一緒に行ったが権利化は他社に任せることとした共同研究会社や、権利化の途中で当該発明を買い取ることにしたが権利化は譲渡人に引き続きお任せすることとした譲受人など)は、IDS義務を負わないといえます。
ただし、この場合でも、権利化をお任せした相手方にIDS義務違反があれば、特許権の有効性に影響を受けるので、無関心ではいられないでしょう。

対象情報は?

37 CFR第1.56規則においては、IDS義務者が知っている情報であって、特許性について重要であるものが対象とされています。

(1)特許性とは

代表的には、「新規性」や「非自明性」(≒進歩性)に関する情報が挙げられます(これらについては、アメリカ特許入門を参照ください。)。

これ以外にも、発明の実施可能性に関する情報(例えば、後日の試験から発明が有効に実施できないことが示唆されるデータが取れた場合など)、発明者の適否に関する情報(例えば、発明者と掲げられる者について、実際には発明を行っていないことが示される情報など)も含まれます。

(2)重要とは

「重要」とは、特許性について「ネガティブ」に働くものが想定されています(37 CFR第1.56規則(b))。

(2-1)各国特許庁での拒絶理由通知及び引例

この意味でいうと、アメリカ外の特許庁から出された拒絶理由通知やその引用文献など(PCT国際段階で作成される国際調査報告・見解書やその引用文献も含みます。)は、当該発明の特許性そのものを拒絶するものなので、IDS義務の対象といえるでしょう。
この点、各国特許庁から出された拒絶理由通知をIDSとして提出する必要があるのか(引用文献だけを提出すればよいのではないか)が議論されることがあります。
拒絶理由通知には、引用文献をどのように適用して特許性が否定されるのかが詳細に記載されていますので、概して「特許性について重要」といえる場合がほとんどかと思います。
実務上は、明らかに「特許性について重要」ではないと自信を持って言い切れない限り、拒絶理由通知そのものもIDSにおいて提出します。

(2-2)A分類の先行技術文献

実務上、扱いが悩ましいのが、明細書に「先行技術文献」として記載される文献や、各国の特許庁の調査結果として、A分類」として記載される文献です。
「A分類」とは、特許性を否定するものではないが、関連する背景技術が記載されるものとして記録される文献です。
一義的には、明細書中に記載の文献や「A分類」の文献は、特許性を否定するものではないものなので、IDS提出が不要であるとも思われますが、以下の理由から一般にはIDS提出をすることが推奨されています。

明細書中に記載の文献や「A分類」の技術文献には、本発明の構成要件の一部が記載されていることが多いです。
例えば、本発明が、A+B+C+Dで構成されるとすると、「A分類」として記録される文献には、A+BやA+B+Cなどが記載されることが多いだろうと思われます。
このような場面において、C+D又はDを思いつくのにどれほどのハードルがあるのか(本発明の特許性に重要な情報)において、「A分類」の文献に大きなヒントが潜んでいる場合があります。

このような潜在的情報の存在を考えると、発明者・出願人において、明細書中に記載の文献や「A分類」の文献が「特許性について重要」ではないと明らかに自信を持って言い切れない限り、これらの文献もIDS提出した方がよいというべきでしょう。

(2-3)関連商品情報

本発明の対象となる商品よりも1つ前の型の商品が世の中で既に販売されている場合、その関連性の程度によっては、その情報をIDS提出した方がよいといえます。
その理由としては、上記(2-2)に同じです。

(2-4)出願前の自発的な先行技術調査の結果

本発明を最初にどこかの国で出願する前に、自発的に先行技術調査を行うことがあります。
その調査の過程で得られた結果についても、ネガティブな情報はもちろんのこと、「A分類」とされるであろう情報も、IDS提出した方がよいといえます。

(2-5)第三者より告知を受けた情報

貴社が出願している発明について、出願公開等によりその内容を知得した第三者が、当該発明に関する何らかの情報を当該国の特許庁に対して情報提供をしたり、その意見を貴社又はその代理人に送付してくる場合があります。
このような第三者の情報提供又は意見は、特許性に関して重要な情報が含まれることが多いので、アメリカに当該発明を出願している場合には、これらがIDS提出から漏れないように注意が必要です。

この情報をIDS提出することを怠ってしまうと、当該第三者からIDS義務違反を主張されるリスクを抱えてしまうので、要注意です。

(3)「知っている」とは

文字通り、IDS義務者において、その認識がある情報をいいます。
よって、基本的には、自身において認識のない情報をわざわざ調べてIDS提出する必要はないといえます。

この「知っている」という要件で重要なのは、上記(2-3)~(2-5)の情報です。
IDS義務違反に問われた時、「故意を以て情報を隠匿したのか」という点が1つの重要な論点となります。

上記(2-1)や(2-2)の情報であれば、他国の特許庁で公開されたりすることも多く、「ついうっかり」という抗弁も立てやすいかもしれません。

しかしながら、上記(2-3)~(2-5)は、関係者しか知り得ない情報ですので、「ついうっかり」と主張したところで、「隠すつもりだったのではないか」との推定が働きやすいので、「故意による隠匿」に傾きやすくなる点に注意が必要です。

何を提出する?

IDSの対象となる情報は、具体的には以下を提出することにより行います。

  • 提出物件のリスト
  • 提出物件のコピー(公開済みの米国特許文献については不要)
  • (非英語物件)当該情報の関連性を説明する資料
  • (非英語物件)当該情報の英語翻訳文が容易に入手可能な場合は、当該英語翻訳文

例えば、日本国特許庁から出された拒絶理由通知及び引用文献をIDS提出する場合には、以下を現地代理人に引き渡すことが一般的です。

  • 拒絶理由通知(日本語)のコピー
  • 拒絶理由通知の英語翻訳文
  • 引用文献(日本語)のコピー
  • 引用文献の英文要約(日本国特許庁のHPから入手可能なもの)

これらを引き渡せば、現地代理人において必要なリストを作成してくれます。
また拒絶理由通知の英語翻訳文を渡すことで、「関連性を説明する資料」に代替することができます。
なお、引用文献の英語翻訳文について、もし対応する外国出願があるのであれば、そのコピーを提出することも可能です。

各国特許庁における拒絶理由通知及びその引用文献以外を提出する場合には、何をどこまでIDSとして提出するか、現地代理人とよく相談することをお勧めします。

いつまで義務がある?

37 CFR第1.97規則によれば、出願の係属中とあるので、特許証が発行されるまでIDS義務があるといえます。

いつ出す?

対象となる情報を知ってから3か月以内に提出するようにしましょう。
この期間を超えてしまうと、不要な費用が発生してしまったり、さらには受け付けてもらえない場合もあります(後述)。

費用は?

IDS提出を行う時点の出願の状態によって費用や要件が異なります。
以下の(1)~(4)を満たしてIDS提出をすると、当該提出情報を審査官が検討した旨が記録されます。

(1)第1回拒絶理由通知前まで

特に庁費用や追加要件を課されることなく提出することができます。

(2)第1回拒絶理由通知後~最終拒絶/特許査定まで

以下のいずれかの対応となります。

  • 所定の庁手数料(減免適用がない場合、現在は$240.00)を支払う。又は
  • 当該情報の知得が3か月以内であることの陳述書を提出する(この場合、庁手数料は不要)。

(3)最終拒絶/特許査定後~発行手数料の納付まで

以下の両方を満たす対応となります。

  • 所定の庁手数料(減免適用がない場合、現在は$240.00)を支払う。かつ
  • 当該情報の知得が3か月以内であることの陳述書を提出する。

(4)発行手数料の納付の後

この段階になると、IDS提出をしても審査官により検討されません

当該情報が重要で、審査官による検討を受ける必要がある場合には、特許証発行のプロセスを中断させて、継続審査請求(RCE)を行って審査段階に差し戻すことにより、IDS提出を行うことが原則となります。
RCEについては、アメリカ特許入門にも言及していますのでご参照ください。

(4-1)QPIDS

従来は上記の対応しかありませんでしたが、2012年頃からUSPTOにおいて、Quick Path Information Disclosure Statement(QPIDS)という制度が導入されています。

このQPIDSは、以下の全てを提出することを条件に、従来の出願人の負担が軽減RCE費用の返還がある)されています。

  • 所定の庁手数料(減免適用がない場合、現在は$240.00)を支払う。
  • 当該情報の知得が3か月以内であることの陳述書を提出する。
  • 特許発行の取下げ申請を提出する(所定の庁手数料あり)。
  • RCEを請求する(所定の庁手数料あり)。

このプロセスを行うと、一旦審査段階に差し戻しになります。
審査官によるIDS提出情報の検討を経ても、特許査定が維持される場合には、RCE手数料が返還されます。
あいにく特許査定が覆ることとなると、RCEが受理されて審査が続行されることとなります。

(4-2)QPIDSもRCEも行わない場合

上述の通り、審査官による検討は行われないので、場合によっては無効理由を抱えたまま特許になってしまいます。
ただ、この場合でも、出願記録の中には、一応提出されたものとして記録されるようなので、何も提出しないよりは、故意に隠匿したという認定を避けやすいといえます。

IDS義務違反の効果

上述のとおり、IDSは有効な特許の取得のため重要な手続です。

一方でこのような重要な手続であるのに、なぜ37 CFRという「規則」で定められるのみで、「特許法」(United States Code, Title 35:35 USC。日本の特許法に相当)には定めがないのでしょうか?
37 CFRとは、上述のとおり「規則」であり、議会(≒国会)ではなく、行政機関であるUSPTOが定めるものです。
特許付与の可否に係る義務が「特許法」に根拠がないことは、IDSが単なる手続上に義務に過ぎない、つまりUSPTOに対する手続が完了すれば無罪放免となる?と言ってしまってよいのでしょうか?

その答えはNoです。
IDSが特許法に根拠がないのは、一般にアメリカにおいては、政府機関から何らかの恩恵を受ける手続では、その判断に影響を与える情報を開示することは、わざわざ「法律」で定めるまでもない至極当然な事項であるからと考えられています。
アメリカにおいては、重要情報を開示せずに政府機関から恩恵を受ける行為は、「詐欺」に該当する場合もありと位置付けられており、場合によっては詐欺罪として刑事訴追を受ける可能性もあります。

よって、IDSの遵守は、有効な特許の取得のみならず、法令遵守の観点からも重要と言わざるを得ません。

日米の法文化の違いが大きく表れていますね。

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