アメリカと日本の特許制度はどう違うの?米国弁護士&日本弁理士が解説!
はじめに
アメリカ特許入門やIDS解説、グレースピリオドなどの記事により、アメリカの特許制度を解説してきました。
本日は、これまで解説してきたことも踏まえて、日本の特許制度との違いという切り口で、アメリカの特許制度を解説したいと思います。
結論をまとめると、日米では制度の差異が多く、アメリカでの特許取得は米国弁護士とのコミュニケーションが重要になります。高度な専門知識も求められるので、アメリカへ出願する人はまず国内の弁理士に相談しましょう。
出願日は?
アメリカも日本も、出願した順番で特許を付与するという先願主義(アメリカは厳密にいうと先発明先願主義)を取っているので、いずれも早期に出願日を確保することが大切といえます。
またアメリカも日本も、パリ条約に基づく優先権主張を認めているので、外国出願について優先権主張される場合には、外国出願の出願日が当該国での審査上出願日として取り扱われることも共通しています。
この点でも日米において差はないといえるでしょう。
違いとしては、アメリカは厳密には先発明先願主義なので、本来特許出願を行う権限がない人が行った特許出願(いわゆる冒認出願)の効果を争うDeviation手続という手続が特許庁にて行える点が挙げられます
なお日本だと、冒認出願の争いは原則として、裁判所での手続になります。
出願人は?
アメリカも日本も、特許を受ける権利を有する者のみに出願人資格を認めています。
出願人適格については、日米で大きな違いはないといえるでしょう。
日本の場合
日本では、特許を受ける権利は発明者個人に生じることが原則となっています。
特許を受ける権利の扱いについて発明者がその使用者と別途契約(就業規則による定めを含む)をした場合には、使用者側が特許を受ける権利を有するという制度になっています。
使用者側が特許を受ける権利を持つとき
- 特許を受ける権利がそもそも使用者に生じたことになるのか(原始取得)
- 一旦発明者に権利が帰属した後に使用者に移転することになるのか(承継取得)
は、従業員たる発明者との契約(就業規則)次第となります。
アメリカの場合
一方のアメリカでも、特許を受ける権利は発明者個人に生じることが原則ですが、発明者との契約により使用者がその権利を持つこともできます。
この場合、その従業員たる発明者が発明をするために雇用されている(specially hired to invent)の場合には、使用者は、特許を受ける権利を原始取得することになりますが、そうでない場合には、承継取得ということなります。
なお日本では、発明者から特許を受ける権利を承継した承継人は、自らを出願人として特許出願をすることができます。
アメリカでも同様に、現在は承継人自らが出願人となって特許出願を行うことができますが、2013年の特許法改正前までは、発明者のみが出願人となる道しかありませんでした。
出願を急ぎたい場合は?
学会発表用の原稿のみで特許出願用の原稿は揃っていないものの、商品化スケジュールの関係上、急いで特許出願を行って出願日を確保しておきたい。こんな状態があるかと思います。
この場合、日米いずれの場合にも仮出願を行えます。
仮出願とは、学会発表用の原稿を特許明細書代わりに使用しつつ、特許請求の範囲については後から補充する形式で行う出願のことです。
旧来はアメリカでしか採用されていなかった制度でしたが、現在は日本でも採用となりました。
また以前は、アメリカでは言語を問わずに行うことができるところ、日本は外国語を英語に限っていました。今は日本でも英語以外の外国語で仮出願できるようです。なお両国ともに翻訳文の提出は必要です。
先行開示の扱いは?
先行開示とは、特許出願前に自らの行為に起因して、発明の内容を開示してしまったことをいいます。
特許制度の原則論からいうと、新規でないものに特許は付与されないので、自らの行為とはいえ、発明内容を出願前に開示してしまっては特許を受けられなくなります。
しかしながら、その原則を貫いてしまうと特許制度の利便性が悪いので、日米ともに一定の例外が設定されています。
日本の制度
日本では、その例外のことを新規性喪失の例外といっています。
出願日前1年以内に、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、またはその意に反して新規性を失った場合、所定の手続を特許庁に対して行うことにより、その事実については特許出願の審査に影響を与えないこととなっています。
アメリカの制度
アメリカではグレースピリオドと称されており、日本同様、出願日前1年以内に、同一の発明者(または共同発明者)に直接ないし間接に由来してなされた開示等については、特許出願の審査に影響を与えないこととなっています。
日本と違って、例外の適用を受けるために別個の手続きがいらないことが特徴です。審査において問題となった際に対処することで足ります。
◆グレースピリオド?先行技術?米国弁護士がアメリカの特許を解説!
審査請求?
日本では、特許出願をしても出願から3年以内に別途審査請求の手続を行わなければ、出願の審査は開始しません。
出願時に納める出願手数料に審査手数料は含まれておらず、審査請求の際に特許庁へ審査手数料を納めることになります。
一方アメリカでは、特許出願を行えば全ての出願について審査がなされます(審査請求不要)。
したがってアメリカでは、出願時に特許庁へ納める出願手数料のなかに審査手数料が含まれているのです。
何について出願できる?
日米ともに、発明適性(何について特許出願できる?)として、自然法則を利用した技術的思想の創作であることが要件となっていますが、プログラムやソフトウェア関係の発明の扱いについて、差があります。
日本では、プログラムやソフトウェアに関する発明であっても、ハードウェア(コンピューター機器)を用いて具体的に実現されることというハードウェアとの協働性要件を満たせば、特許性が認められます。
逆にアメリカでは、2014年ごろから発明適性の要件が厳格化され、ソフトウェアやプログラムは、人為的取極めだとか抽象的アイデアだとかして、そもそも発明ではないとされてしまう事例が相次ぎました。
このような拒絶を受けたとしても、ハードウェアとどのように連動するのかを明確にすることで、発明適性が認められる可能性があるという実務になっているようです。
こう考えると、ソフトウェア関係は日米で完全に同一とはいえませんが、発明適性の考え方の根底には通じるものがある、といえるのかもしれません。
何が引例になる?
引例とは、特許出願された発明の特許性を否定するための根拠のことです。
引例の種類としては公知公用引例、文献公知引例、拡大先願引例の3種類があります。
日本では、特許出願前に世界のどこかで公知・公用となった技術的アイデアや文献公知(刊行物・インターネットを通じて公衆に利用可能となること)となった技術的アイデアが、特許出願された発明の新規性及び進歩性を否定する引例となることができます。
このほか拡大先願も、本件特許出願の発明の新規性を否定する引例となることができます。
具体的には、本件特許出願より前に出願された他人の特許出願に本件特許出願の発明が書かれているとき、本件特許出願の時点ではこの他人の特許出願が公開されていない・知らなかったとしても、この他人の特許出願がその後に公開される拡大先願が起きた場合が当てはまります。
アメリカの引例について
アメリカにも公知公用引例、文献公知引例、拡大先願引例の3種類があります(詳しくはグレースピリオドの記事を参照ください)。
ただし拡大先願引例は、日本だと新規性の否定にしか使えないのに対し、アメリカでは進歩性の否定についても用いることができます。
よって、日本では拡大先願引例が引かれたとしても、引例との差異を出す補正をすることで拒絶理由を克服しやすいですが、アメリカでは進歩性の話につながりやすいので、引例との差異を出す補正をしつつ、その差異の効果などについても一定程度主張していくことが必要な場合が多いです。
特許性基準は?
日米ともに、新規性、進歩性(アメリカでは非容易性)、明確性、サポート要件、実施可能要件などの特許要件が課されることは共通です。
2000年代まではアメリカの進歩性要件は日本より緩やかと言われていましたが、今では基準が引き上げられ、日本とさほど変わらないように思います。
そうはいっても、細かなところでは諸々の差があります。なお審査官による扱いの差に起因することもありえます。
- 図面にのみ開示される特徴をもってサポート要件が日本より認められやすい傾向にあったりする
- クレーム文言として、機能+手段という形式の上位概念記載をしてしまうと、明細書中に具体的に開示された構成のものに限定して解釈される など
下の特徴はたとえば、結合するための接着剤をクレームで上位概念化して「結合手段」と記載した場合、接着剤以外に構成が開示されないと、結合手段=接着剤と解釈され、釘やねじにより結合させるものが権利範囲外になる可能性があったりします。
その他、特許性基準とは少しずれますが、どこまでが1つの発明として1出願で対応できるか?(発明の単一性)も日米で差があります。
日本ではPCTや欧州、中国などと同様、「特別な技術的特徴」の共通という指標で判断しますが、アメリカではより狭い判断基準(効率的審査に資するか否かの基準)で判断されがちなので、他よりも1出願で対応できる範囲が狭いことが多いです。
アメリカ特有の制度は?
実務上もよく登場するアメリカ特有の制度に、IDSが挙げられます。
IDSとは、特許性について重要であると出願人が知っている情報を、米国特許商標庁(USPTO)に対して開示しなければならない手続です。
その範囲、時期、具体的提出物などの要件について、実務上非常に手間のかかるものです。
おわりに
今回は日米の比較という観点から、代表的なところを解説しました。
細かな実務まで含めると、日米では差異が多くあり、アメリカでの権利化については、米国特許弁護士とのコミュニケーションが非常に重要です。
特許には専門知識が要されますし、またアメリカの専門家とやり取りをするのにも非常にハードルが高いものです。
普段より日本国内・国外の知財について実務に携わっている弁理士に、気軽に相談されるとよいように思います。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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