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アメリカ特許の手続戦略は?分割出願・継続出願も併せて解説!

はじめに

アメリカ特許入門において、アメリカ特許の取得ルートをご紹介しました。
今回は、アメリカでの出願手続についてもう少し掘り下げて、手続戦略の構築にご参考いただきたい事項をお話したいと思います。

(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士

<この記事でわかること>
・アメリカ特許特有の制度
・アメリカで特許出願する際の手続戦略について
・継続出願とは
・分割出願とは

アメリカ特許の基礎知識についてはこちらの記事でまとめています。
アメリカ特許入門!米国弁護士がアメリカでの特許出願を徹底解説

手続戦略って何?

例えば、鉛筆と消しゴムを別々に持ち歩くのが不便だなという課題意識に基づき、鉛筆と消しゴムを一体化させる発明をし、これについて2020年3月1日に特許出願をしたとしましょう。
そしてその後の試験研究により、鉛筆と一体化させる消しゴムとしては、所定の大きさのものや所定の成分を含有するものがより優れていることが判明したとします。
この好適な消しゴムの大きさや成分を、後から特許出願の中に追加することはできないのでしょうか?

日本の特許法においては、一旦提出された出願について出願時点で記載されない事項(新規事項)を追加補正することはできないのが原則です。

しかしながら、当該出願時点にて出願内容に記載されない事項を追加した内容を別の出願としつつ、先の出願の出願日から12か月以内であれば、先の出願に対して、いわゆる国内優先権(特許法第41条に基づく優先権)を主張することが認められています。
この優先権を主張して出願を行うと、先の出願に記載された事項については、先の出願の出願日を維持したまま、先の出願に記載されない事項を追加した内容にて出願することができます(追加した事項は、後の出願の出願日をベースに判断)。

この国内優先権制度を利用すれば、上記の例でいうと、鉛筆と消しゴムを一体化した基礎発明については、2020年3月1日の出願日を確保しつつ、好適な大きさや成分に関する記載を追加した2回目の出願を、例えば2021年2月22日(2020年3月1日から12か月以内)に行うことができます。
この場合、この好適な大きさや成分に関する請求項については、2021年2月22日を基準として新規性・進歩性などが判断されることになります。

一方、別の例として、鉛筆と消しゴムとを特別な接着剤を使って一体化させる発明について、2020年3月1日に特許出願をしたとしましょう。
ところが、拒絶理由通知を受け、消しゴムの材質を特定しなければ、特許にならないとされたため、明細書中に開示に基づき「プラスチック製」消しゴムと補正したとしましょう。

この補正により、このままでは「特別な接着剤」は、「プラスチック製消しゴム」を鉛筆と一体化させるのに用いたものに限り、特許権を行使することができることになってしまいます。
この「特別な接着剤」を、プラスチック製以外の材質の消しゴムについて用いた場合でも、特許権を行使することができるようにする方法はないのでしょうか?

このような場合、日本の特許法においては、元々の特許出願を基礎として、「特別な接着剤」に関する特徴を請求項に記載した別出願を行うことが認められています。
この別出願を「分割出願」といいます。
分割出願を利用すれば、元々の特許出願の出願日(上記例でいうと202031日)を維持しつつ、「特別な接着剤」について、元々の特許出願とは別に権利化を図ることができます。
ただし、国内優先権制度とは異なり、分割出願では新規事項を追加することはできませんので、注意が必要です。

このように、特許出願をした後に生じた事象について、特許法上の手続を駆使して、出願人の希望する特許取得を目指していく戦略のことを、ここでは「手続戦略」といいます。

アメリカの手続制度は?

日本における代表的な制度として、国内優先権制度と分割出願制度を紹介しました。
では、アメリカではどのような制度があるのでしょうか?

合衆国法典第35編(United States Code Title 35)(いわゆる米国特許法。その日本語訳はこちらを参照)及び連邦規則法典第37巻(Code of Federal Regulations, Title 37)(いわゆる米国特許施行規則。その日本語訳はこちらを参照)では、以下の制度が定められています。

  • 【1】一部継続出願(Continuation-in-Part Application)(米国特許法第120条;米国特許施行規則第1.53規則(b)(2))
  • 【2】継続出願(Continuation Application)(米国特許法第120条;米国特許施行規則第1.53規則(b)(1))
  • 【3】分割出願(Divisional Application)(米国特許法第121条)
  • 【4】仮出願(Provisional Application)(米国特許法第111条(b))

以下では、上記【1】~【3】を解説いたします。
上記【4】についてはこちらの記事で詳しく解説しているので併せて確認しておきましょう。
仮出願とは?米国弁護士がアメリカへの特許出願を解説!

一部継続出願とは?

(1)概要

米国特許施行規則第1.53規則(b)(2)によると、先に出願された米国特許出願(PCT出願を含みます。)の内容を基礎としつつ、これに新規事項を追加することを趣旨とする後の出願とされています。

(2)出願日の取扱い

この制度を用いると、日本の国内優先権制度と同様、審査の基準となる出願日は、以下のとおり認定されます。

  • ①先の特許出願に元来含まれていた内容:先の特許出願の出願日
  • ②追加となった新規事項後の特許出願の出願日

まさしく日本の国内優先権制度に相当する手続といえますね。

(3)出願可能期間

ただ日本の国内優先権制度とは異なり、先の出願が米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office: USPTO)に係属の期間(つまり先の出願について特許付与、放棄又は最終拒絶されるまでの期間)中、出願することが可能です。
日本と比べて、かなりの長期間にわたって、先の出願の出願日を生かしつつ、新規事項を含めて後の出願を行うことができますね。

(4)特徴

上述のとおり、一部継続出願は、長期にわたって利用可能な国内優先権制度ということができます。

ただ、原理上は長期にわたって出願が可能とはいえ、注意しなければならないのは、先の出願が出願公開された後に一部継続出願を行う場合です
この場合には、先の出願の内容が出願公開時点を以て「先行技術」として扱われてしまい(米国特許法第102条(a))、先の出願をベースに一部継続出願中の新規事項の進歩性が判断されてしまうおそれがあります。
これの何が問題かというと、一部継続出願を行う以上、追加となる新規事項は、先の出願に付随関連する内容であることがほとんどかと思います。
とすると、先の出願の内容が「先行技術」として取り扱われてしまうと、新規事項に関する部分の引用例を引用されて「進歩性がない」と判断され、先の出願の内容+新規事項全体で判断してもらえないことになりえるということです。

先の出願の出願公開後に一部継続出願を行う場合には、当該新規事項単体で特許性を備えるよう明細書の内容を充実させておく必要があります。
しかしながら、当該新規事項単体で特許性を備える必要があるのであれば、先の出願と切り離した別出願としてしまってもよいわけで、もはや一部継続出願を行うメリットがないといえます。
メリットがないばかりか、一部継続出願としてしまうと、後述のとおり先の出願の出願日から特許期間が計算される分、特許期間が短くなるデメリットがあるといえます。

なお、日本の国内優先権制度と異なり、親出願たる先の出願は、一部継続出願を行っても取下擬制とはなりません(継続出願・分割出願についても同じです。)。

継続出願とは?

(1)概要

米国特許施行規則第1.53規則(b)(1)によると、先に出願された米国特許出願(PCT出願を含みます。)の内容を基礎とした後の出願とされています。
新規事項を追加してしまうと、一部継続出願となってしまうので、継続出願とはあくまで先の出願に開示した内容の範囲内で調整を行ったものを前提としています。

(2)出願日の取扱い

この制度を用いると、審査の基準となる出願日は、先の出願の出願日となります。

(3)出願可能期間

一部継続出願と同様、先の出願がUSPTOに係属の期間中、出願することが可能です。

(4)特徴

ここまでのところ、「継続出願をするメリットは何があるの?」と疑問に思われている方もいるかと思います。
実は、継続出願は、日本でいうところの自発的な分割出願と同様な位置づけで利用されています。
詳しくは後述しますが、アメリカの分割出願は、日本と異なり、審査官から「限定命令」(単一性違反に関する拒絶理由に近しいもの)を受けた場合に限って、行うことができるものです。
逆にいえば、限定命令を受けない場合には、出願人の希望で分割出願を行うことはできず、出願人の希望で日本の分割出願のようなものをしたい場合に、継続出願を用いることとなるのです。

したがって、継続出願を検討すべき場合としては、「手続戦略って何?」で紹介した「特別な接着剤」を元来の「鉛筆+プラスチック製消しゴム」とは切り離して権利化したい場合といえます。
つまり、元来の出願に記載の発明とは、少し切り口を異にして権利化したい場面です。

他の例としては、明細書中にのみ記載して請求項には記載していなかった技術について、後から請求項に記載して特許付与を受けたい場面です。
上記のような場面では、わざわざ継続出願をせずとも、補正を行うことで可能な場合もあります。
しかしながら、拒絶理由を既に受けているなど審査がだいぶと進行している段階だと、補正による追加が不可能なこともあるので、このような場合には継続出願を行うことが検討できます。

分割出願とは?

(1)概要

米国特許法第121条によると、先に出願された米国特許出願について、2つ以上の独立した異なる発明が請求項に記載されているとして、審査官よりいずれか1つの発明に限定するよう命令を受けたことを条件として、別の発明についてなされる後の出願とされています。
元々の出願の一部を別個に分けるだけのものなので、新規事項の追加は不可です。

(2)出願日の取扱い

この制度を用いると、審査の基準となる出願日は、先の出願の出願日となります。

(3)出願可能期間

一部継続出願や継続出願と同様、先の出願がUSPTOに係属の期間中、出願することが可能です。

(4)注意事項

上述のとおり、アメリカの分割出願は、審査官より限定命令を受けた場合にのみ行うことができます。
一方、審査官により限定命令を受けた場合であっても、継続出願を行うことも可能です。

では、審査官より限定命令を受けた場合には、分割出願又は継続出願のどちらを行うのがよいのでしょうか?
その答えは、分割出願といえます。

アメリカでは、上述のとおり、継続出願や一部継続出願が広く認められているので、特許性として区別がなく本来ならば一出願でまとめておくべき発明が、形式上別個の出願として複数個乱立している状態がしばしば生じます。
このような場合、本来は一出願として1つの特許権を付与すべきものであるので、USPTOから「形式上別出願とされているものを1つの出願としてみなす手続をするか、別個の出願が特許性として区別可能となるよう補正せよ」と指摘されることがあります(二重特許拒絶)。

このような指摘を受けた場合、複数の別個出願をまとめて1つとみなすことを趣旨とする「ターミナル・ディスクレーマー」という手続を行うことが多いです。
ターミナル・ディスクレーマーを提出すると、まとめて1つとみなされる出願のどれかが期間満了・無効理由などにより消滅すると、他の出願も同時点でたとえ特許期間が残っていても消滅するという効果が生じます。

継続出願とした場合、手続記録上は、自発的に別出願としたものと記録されるので、後から二重特許拒絶の対象とされ、その親出願と一心同体の運命を辿ることになるおそれがあります。
一方、分割出願であれば、記録上、審査官が限定命令により特許性に区別ありと認めたものであるので、後から二重特許拒絶の対象とされにくいというメリットがあります。

よって、分割出願を選択した方が、親出願の消滅に影響を受けない権利を取りやすいということができます。

分割出願にはこのようなメリットがあるため、本来は継続出願しかできない場面(限定命令を受けていない場合)でも、審査官にあえて限定命令を発してもらえるよう働きかけて、分割出願が行えるようにしてもらう戦略を取ることもあるようです。
審査官としても、審査対象を絞ることができるので審査の手間を省略することができますし、また分割出願を取り扱うことで、自身の点数稼ぎとなる(審査官は出願を取り扱うと所定の点数がもらえ、これが勤務成績の評価につながる)ので、応じてもらえることも多いようです。

特許期間は?

一部継続出願、継続出願、分割出願の特許期間は、いずれも親出願の出願日から20とされています。

日本では、分割出願の場合は米国同様、親出願の出願日を基礎に計算されますが、国内優先権主張出願の場合には、後の出願の出願日から計算される点が異なります。

なお、分割出願の項で述べたターミナル・ディスクレーマーのデメリットは、親出願が期間満了で終了する場合には影響がない(分割出願も同じ日に満了するため)ので、実質的には、親出願が無効理由により期間満了前に消滅した場合のリスクといえます。

継続出願等の応用

(1)バイパス出願

日本国特許庁に出願したPCT出願について、30か月の移行期間を待たずして、このPCT出願を親出願とする継続出願/一部継続出願を、USPTOに出願することを一般にバイパス出願といいます。

アメリカ特許入門で解説したとおり、PCT出願は、日本で出願したことを以てアメリカでも出願したものと取り扱われます

ところが、アメリカが先願主義に移行する前(アメリカ特許入門をご参照)は、英語以外の言語で出願されたPCT出願のアメリカにおける後願排除効が、PCT出願時を以て発生しないという特殊な取り扱い(ヒルマー主義。詳細は割愛)がアメリカでなされていました。
この後願排除効を早期に獲得するために、旧前はバイパス出願を行う例が見られました。

しかしながら、アメリカの先願主義への転換により、ヒルマー主義は廃止されたので、後願排除効を目的としたバイパス出願は不要となりました。

現在では、以下のような場合に、バイパス出願を戦略的に行います。

  • アメリカで権利化を急ぐ理由が生じた場合
  • ②PCT移行における翻訳文を出して予備補正を行うプロセスを省略したい(アメリカ用にカスタマイズした請求項を最初から出したい、又は逐語訳の翻訳文ではなく自然な英文で明細書を提出したい)場合
  • ③PCT出願後に知得された実施例や実験結果を追加したい場合

上記(3)については、「一部継続出願」で説明の通り、出願公開前に一部継続出願を行うことが重要な場合があります(出願公開されてしまうと、親出願自体が先行技術とされてしまうため)。
よって、国際公開がなされる前に、早々にアメリカで一部継続出願を戦略的に行います

(2)出願ポートフォリオ化

継続出願/一部継続出願は、親出願からのみならず、子出願や孫出願などからも行うことができます

この特性を活かして、親出願で上位概念の基礎発明を押さえた上で、少しずつ下位概念に落とし込んでいった子出願・孫出願を行うことで、侵害製品を捕捉しやすくする戦略を取ることがあります。

また親出願で押さえた特徴とは別の切り口の特徴を、子出願・孫出願とすることで、権利範囲の多角化を行う戦略を取ることもあります(特許出願のポートフォリオ化)。

ただ、上述のように、ターミナル・ディスクレーマー対象とされてしまっては、親出願と運命共同体となってしまうので、いくら子出願・孫出願により権利範囲を戦略的に段階化することができるとしても、親出願を広範な内容に出願にすることは避けるべきといえます。

なお、子出願や孫出願ができると言っても、その出願できる期間は、最先の親出願が係属している期間となります。

よって、例えば、親出願が特許となってしまった後に、子出願や孫出願をしても、親出願の出願日の恩恵を受けることはできない点に注意が必要です。

(3)特許査定直前の継続出願/一部継続出願

親出願の権利化手続が完了するまでに、当該出願の対象となる製品の市場における位置づけや模倣品の状況が判明しているような場合には、親出願が特許査定となる前に、継続出願/一部継続出願を行うことがあります。

これは、出願のポートフォリオ化とも近い戦略ですが、継続出願/一部継続出願により、具体的な模倣品を捕捉しやすい請求項を、市場動向を見ながら作っていくことに狙いがあります。

この場合でも、「出願ポートフォリオ化」と同様、親出願が無効化されてしまっては意味がないので、親出願を広範な内容に出願にすることは避けるべきといえます。

まとめ

上記で述べたように、一言にアメリカへの特許出願といえど様々な制度があります。

そのためアメリカへの特許出願を行う際はしっかりと外国出願に明るい弁理士と共に戦略を練ることが非常に重要です。

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