ライセンスとは?アメリカでの事情も併せて解説!
ソフトウェアや著作物の文脈で、「ライセンス」や「許諾」という言葉をよくお聞きになるかと思いますが、「ライセンス」や「許諾」とはどういう意味なのかよく分からないという方も多いのではないでしょうか?
今回はライセンスについて解説したいと思います。
ライセンスとは?
元来の意味
元来は欧米の概念に起源があり、日本語では「許諾」と訳されることが多いです。以下では、ライセンス=許諾として、話を進めさせていただきます。
アメリカにおいては、一般に以下のように説明されます。
Generally, a “license” is permission granted by a qualified authority permitting a licensee to do something that would otherwise be prohibited.
(試訳:一般に「ライセンス」とは、適格な権限主体により付与させる許可であって、ライセンスを受けた者に対して、ライセンスを受けなければ禁止される事項を行うことを許可するものである。)
出典:license | Wex | US Law | LII / Legal Information Institute
要は、本来禁止される事項について、禁止を解く権限のある人から、「やってよい」という許可をもらうことだといえます。
アメリカでの意味合い
日本ではライセンスとは知的財産の関係以外ではあまり耳にしないので、知的財産専門の言葉のように思われることもありますが、本場のアメリカでは、知的財産以外にも、不動産の文脈や、政府による認可の文脈などでも用いられるもので、元来の意味の通り、「禁止を解く」という意味合いの法律用語として使われます。
日本では違和感あるかもしれませんが、ホテル宿泊契約は、ホテル側が宿泊者に対してその宿泊設備の使用を許可するライセンス契約の一種として捉えられています。
知的財産の文脈においては、特許権者や著作権者などの知的財産保有者(=禁止を解く権限のある人)が、その知的財産について、特許法や著作権法などの知的財産法に基づく独占権(=本来禁止される事項)を解いて、他人による実施や使用を妨害しない(=許可する)ことを言っています。
日本での意味合い
上述のように、日本では知的財産の文脈以外ではライセンスという言葉をあまり耳にしませんが、知的財産以外の文脈では、ダイバーライセンスなど、「免許」や「資格」という意味で使用される場合もあります。
一方、知的財産の文脈においては、アメリカ同様、特許権者や著作権者などの知的財産保有者(=禁止を解く権限のある人)が、その知的財産について、特許法や著作権法などの知的財産法に基づく独占権(=本来禁止される事項)を解いて、他人による実施や使用を妨害しない(=許可する)ことと解されています。
「妨害しない」の本質
日本でもアメリカでも、上述のように、ライセンスとは、知的財産を使っても知的財産権を行使しないという特約(受忍義務)を、知的財産保有者が負担するものと解されています。
しかしながら、その本質としては、特段の事情がない限り、単にライセンス保有者が実施・使用するのを妨害しさえしなければよく、それ以外の義務を負担するものではないことが原則となります。
例えば、不動産の賃貸借を行う場合には、財産(不動産)の使用を許可するという面では、ライセンスと共通項がありますが、賃貸借の場合には、不動産が使用に適するように整えてあげる義務がオーナー側に発生したり、賃貸借期間中は、オーナーといえどもその不動産に立ち入ったり、別の用途に使用したりすることが禁止されるなど、賃貸借に伴って、様々な付属的な義務が発生します。
ライセンスが賃貸借とは顕著に異なる点としては、その知的財産が使用に適するように整えてあげたり、知的財産保有者自身がその知的財産の実施・使用を差し控えたり、などという他の義務を直ちに負うものではないとされています。
もし知的財産保有者において、受忍義務以外の義務を負担してもらう場合には、追加的契約行為によって、知的財産保有者側に追加的義務を負ってもらうことが必要です。
ライセンサーとライセンシー?
ライセンサーとは、当該知的財産について実施・使用を許す立場をいい、多くの場合には当該知的財産の保有者です。ライセンシーとは、一方、当該知的財産について実施・使用を許してもらう立場をいいます。
この立場の違いから、ライセンスを巡る交渉においては、相反する利害を持っていますが、その一例を以下で紹介したいと思います。
ライセンスの範囲
ライセンサーは、大事な知的財産を使用させるわけなので、使用できる範囲を極力限定的かつ狭くしたいと思います。
よって、対象となる知的財産の特定、使用期間、使用製品、使用地域などを細かく厳格に指定したいでしょうし、かつ書面ではっきりさせたいと考えるでしょう。
場合によっては、後からライセンスの範囲をいかようにでも調整できるよう、書面によるライセンスを付与せずに、口頭でライセンスなのかそうでないのかよく分からない意思表示をして済ませたいとも思うかもしれません。
一方、ライセンシーは、なるべく緩やかに広く使用できるようにしたいと思うので、ライセンサーとは反対に、広く緩い範囲を取りたいと思います。
よって、究極的には単に知的財産をライセンスしますとのみされ、他に何の条件も付されない契約を獲得したいと思うでしょう。
また、ライセンスをもらったのか否か不明な状態では不安定なので、ライセンスの旨が書かれた書面がほしいと思うでしょう。
承認
ライセンサーは、ライセンスを付与した後も、大事な知的財産をちゃんと大事に使ってくれるのか不安なので、例えば広告物を作成したり、商品デザインなどをする場合には、事前に自分の承諾を得るような体制にしたいと思うでしょう。
一方、ライセンシーは、何かをやる度にライセンサーの承認を取るのでは、迅速性に欠けるし、また思いもしないところで非承認を受けてしまうと、事業遂行の妨げになってしまうので、承認などは避けたいと思うでしょう。
使用の報告
ライセンスの契約は、知的財産の利用実態に連動したロイヤルティを支払うことが定められるものも多いです。
ロイヤルティを受領する立場のライセンサーは、細かな使用状態の報告がほしいでしょうし、その真実性を担保するために必要に応じて調査(監査)を行いと思うでしょう。
一方、ライセンシーとしては、細かな報告書を作成するのは手間ですし、事業情報の共有範囲を狭くしたいはずなので、なるべくざっくりした報告としたいでしょうし、監査などで立ち入られることは避けたいと思うでしょう。
独占性
知的財産は、不動産などの有形財産と異なり、無形ですので、同時に複数の人が使用することのできる性質のものです。
このような性質からすると、ライセンサーとしては、同じ知的財産を複数人に使用させて、ロイヤルティ収入を複数から得たいと思うでしょう。
一方、ライセンシーとしては、わざわざお金を払って買っているライセンスなので、その価値を最大化するために、自分だけが使える状態にしてほしい、他人には使わせないでほしいと思うでしょう。
ライセンスの保証
上述のように、ライセンスの本質は受忍義務であり、別途契約行為をしなければ、それ以外の付随義務が生じないことが原則です。
ライセンサーは、この特性を活かして、知的財産を実施・使用するにあたって、例えば当該知的財産が第三者の権利を侵害しないことを保証することは避けたいと思うでしょうし、第三者の権利問題が発生したならば、使用者であるライセンシーで対応してほしいと思うでしょう。
一方、ライセンシーは、ライセンスを受ける知的財産の開発・制作に関与していないわけなので、第三者の権利問題が生じるのか把握できる立場にないです。とすると、ある日突然自分の分かりしえないところから第三者の権利問題が生じて、自分が損害賠償を行うことになったりするのは避けたいと思うでしょう。そうすると、そういう問題が起きた場合には、ライセンサーによる対応を強く希望することになります。
ライセンスの撤回
ライセンサーとしては、いつでもどこでも理由を問わずにライセンスを撤回できると都合がよいと思うでしょうし、ライセンシーとしては、そんなことをされては影響が大きいので、撤回をそもそも認めたくないし、認めるとしても厳格に狭い範囲でのみ認めたいと思うでしょう。
日本でもアメリカでも、撤回については、ライセンスを受けた人の信頼を不当に裏切ったり、ライセンスにより築かれた安定性を不当に害することになりかねないので、やや厳格に判断される傾向にあります。契約書面に明確に撤回できる場面が記載されているなど、撤回が不意打ちにならないといえない限りは、一旦与えたライセンスを撤回するのはハードルが高いと言わざるを得ません。
小括
上記をまとめると、ライセンスというビジネススキームは、放っておけば受忍義務以外を生じさせないものなので、ライセンサーにとって有利なスキームである一方、一度ライセンスを付与してしまうと、撤回のハードルが高くなるので、ライセンサーとしてはライセンスを付与する時に最も気を遣う、ということになるでしょう。
ライセンシーとしては、なるべく緩く広い使用権を獲得するために働きかけつつ、ライセンス付与の事実の争いとならないように書面によるライセンスを求めたがる一方、追加の契約行為がなければ負担してもらえない権利保証などについて神経を尖らせる、ということになるでしょう。
専用実施権(専用使用権)ってライセンスと違うの?
日本の特許法、実用新案法、意匠法及び商標法において、専用実施権(商標については専用使用権)という概念があり、ライセンスと近いものですが、アメリカなどにはない概念なので最後にご紹介します。
専用実施権(専用使用権)とは、その実施権(使用権)の設定を受けると、その設定を受けた者のみが当該知的財産を実施・使用できる、という制度で、これを設定してしまうと、当該知的財産の保有者であっても実施・使用してはならない、ということになります。このような状態を「専有」という場合もあります。
ライセンスは、上述のとおり知的財産保有者に受忍義務を生じさせるのみで、その他義務を負わないのが原則です。
また知的財産は無形なので、複数人による同時実施・使用が可能であることからすると、ライセンスを付与したとしても、当該知財保有者は、当該知的財産を実施・使用可能であることが原則となります。
つまり、知財保有者自身の実施・使用が可能か否かが、専用実施権(専用使用権)とライセンスとの違いです。
ちなみに、ライセンスにも独占ライセンスと非独占ライセンスの2種類がありますが、ここで言っている「独占」の意味は、通常は、知財保有者が特定のライセンシーに対してのみライセンスを付与し、他の第三者には付与しないことを意味するに留まります。よって、「独占ライセンス」だからといって、特約がない限りは、知財保有者の実施・使用が禁止されるわけではないといえます。
英語の「Exclusive License」という語が「専用実施権」と日本語訳されている例が見られますが、知財保有者の実施・使用が禁止されるのか?という点で、英語の原文では禁止されないのに、日本語訳では禁止されることにあるため、誤訳といわざるを得ません。
反対に、「専用実施権」を英訳するときも、「Exclusive License」とシンプルに訳出すると、同様の誤解を与えてしまうので、専用実施権制度がないことを考慮した上で、注釈をつけるなどする配慮が必要でしょう。
おわりに
ライセンスについて、どういう契約をするか、なかなか悩むことが多いと思います。
弁理士は、特許や著作権を含む知的財産のライセンスについても専門性を有しています。
出願などの特許庁手続のみならず、ライセンスについても相談をされてはいかがでしょうか。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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