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仮出願とは?米国弁護士がアメリカへの特許出願を解説!

アメリカ特許 仮出願

はじめに

アメリカ特許の手続戦略において、アメリカには、仮出願(Provisional Application)という手続があることをご紹介しました。
今回は、仮出願についてもう少し詳しくお話したいと思います。

(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士

<この記事でわかること>
・アメリカ特許特有の制度
・仮出願とは?
・仮出願のメリット/デメリット

アメリカ特許の基礎知識についてはこちらの記事でまとめています。
アメリカ特許入門!米国弁護士がアメリカでの特許出願を徹底解説

仮出願とは?

(1)概要

合衆国法典第35編(United States Code Title 35)(いわゆる米国特許法。その日本語訳はこちらを参照)第111条によると、発明について所定の開示資料を提出する(後述)ことにより、出願日を確保して仮の出願を行うことができます。

「仮」というのは、それ自体では審査の対象とならないこと、所定期間(後述)中に本出願に切り替えるなどの手続をしないと、放棄されたものと取り扱われることを意味します。

(2)必要書類

仮出願を行うには、以下の2点が必要となります。

  • 明細書
  • 図面(必要な場合のみ)

通常の出願とは異なり、クレームは不要となっています。

また、明細書は、日本語で提出することもできます。
英語翻訳文は、本出願を行うまで不要です。

なお、明細書としては、書式などは厳密に定められておりませんが、当該業界における標準的な技術者(≒当業者)が、その内容を見て発明を実施することができる程度の充実性(実施可能要件)は、仮出願といえども必要です。

(3)本出願の出願期限

仮出願の日から12か月以内に、本出願についての手続をする必要があります。
これを怠ると、仮出願は、放棄されたものとして取り扱われます。

(4)本出願の方法

本出願を行う方法には、以下の2つがあります。

  • (A)仮出願自体を本出願に切り替える
  • (B)仮出願に対して優先権主張を行った通常出願を別途行う

(5)出願日の取扱い

仮出願を本出願に切り替えると、本出願自体が仮出願日に行われたものと取り扱われます。
したがって、特許期間も、仮出願日を基礎として算出されます。

一方、仮出願に対して優先権主張を行う方法を取ると、特許期間の算出においては本出願日に行われたものと取り扱われます。
しかしながら、新規性や進歩性などの特許要件の審査については仮出願日を基準として行われます。
ただし、上記(B)の方法は優先権主張を行うものなので、本出願を行う際に仮出願に記載のない新規事項を追加することができます
新規事項を追加した場合には、この新規事項を含む請求項については本出願日が審査の基準となります。

※グレースピリオドについても併せて確認しておきましょう。
グレースピリオド?先行技術?米国弁護士がアメリカの特許を解説!

仮出願を本出願に切り替えることは、アメリカが先発明主義を取っていた時代には、後願排除効を早く得られるというメリットがありました(アメリカ特許の手続戦略の「バイパス出願」をご参照)。
しかしながら、現在では、法改正により、優先権主張を行う場合でも後願排除効に影響がないようになったため、実務上は、切り替えではなく仮出願の優先権主張を行った本出願を行うことがほとんどです。

仮出願のメリットは?

仮出願には以下のメリットがあります。

(1)手持ちの情報で速やかに出願可能

上述のように、出願言語は英語でなくともよいですし、クレームを提出する必要がないので、発明についてどの範囲で権利が必要か検討することなく、とりあえず出願することができます。

また、本出願を行う際に、新規事項を追加することもできるので、発明の基本コンセプトについてのみ出願日を確保しつつ、本出願までに実施例を充実させるという戦略を取ることもできます。

(2)出願内容の公開なく出願日を確保可能

仮出願は、通常の出願とは異なり、そのままでは出願公開の対象となりません
本出願がなされた時に初めて、本出願について出願公開がなされることとなります。
なお、出願公開がなされない以上、米国特許商標庁(USPTO)における特許検索エンジンでも、仮出願の情報がヒットすることはないといえます。

よって、特許出願をするか否か(つまり発明を公にしてもよいか否か)を決定しかねている状況でも、後で特許出願をしたいと思ったときに備え、公開のリスクを避けて出願日を確保することができます。

公開が懸念される場合、通常の特許出願を行っても、出願公開準備が始まる1年2か月後くらいを目途として出願を取り下げれば、出願公開を避けることは理論上は可能です。
しかしながら、いつから出願公開準備が始まるのかは完全に予測することは難しく、また通常の特許出願は公開されることが前提で特許庁でもプロセスを組んでいるので、出願取下げにより100%公開を避けることができるとは言い難いというリスクがあります。

その点、仮出願であれば、そもそも公開されないことが前提となっている形態なので、本出願を行わない限り公開のリスクは避けられているといえるでしょう。

(3)費用が安い

仮出願を行う場合には、基本手数料のみが発生します(280米ドル)。

一方、通常の特許出願を行う場合、少なくとも以下の手数料が発生します。
もしクレームの数が超過しているなどの事情があれば、さらに追加費用が課せられることになります。

  • (A)基本手数料300米ドル
  • (B)調査手数料660米ドル
  • (C)審査手数料760米ドル

なお、上記金額は全て、2021年3月1日時点において大規模団体に適用のある金額を表示しています。

このように、仮出願では出願費用を大幅に抑えることができるので、特許出願をするか否かを決定しかねている状況でも、後に備えて、仮出願をして出願日だけ確保することを検討することができます。

また、仮出願については、本出願を行わない限り、IDSは求められません
この点でも簡素化が図られていますね。

仮出願のデメリットは?

(1)実施可能要件 

仮出願を行い場合、手持ちの資料をつなぎ合わせて迅速に出願したい場合が多いと思います。
時間を優先したばかりに、当業者が内容を見ても発明を実施できないような内容になってしまってはそのメリットが削がれてしまいます。

上述のとおり、本出願を行う際に、優先権主張を行う方法を選択すれば、仮出願にない事項を本出願に盛り込むことは可能です。
実施可能要件を満たさない場合には、本出願を行う際に、この要件を満たす程度に内容を追加していくことになります。

しかしながら、仮出願に含まれない追加内容については、仮出願日の恩恵を受けることができません。
よって、追加内容が発明の根幹に係るものである場合などには、仮出願した発明全体が仮出願日の恩恵を受けることができない、ということになりかねません。

したがって、仮出願と言っても、実施可能要件についてはよく吟味が必要といえます。

(2)本出願まで合わせた総費用

本出願まで行った場合、仮出願+本出願の総費用は、通常の出願と比べて仮出願の分だけ高いといえます。

一方、仮出願を英語以外の言語で行った場合、本出願を行うタイミングにおいて仮出願について英語翻訳文が必要となります。
ここで、本出願と仮出願の内容がほぼ同様であれば、本出願を英文で作成するに際して仮出願の英語翻訳文を有効利用することができます。
しかしながら、仮出願に対する追加内容が多い場合には、仮出願とは別に英文で本出願を作成する費用が発生します。

このように、仮出願と本出願とを一連として考えた場合、本出願の内容によっては、英文作成費用が通常出願の1.5倍程度になることも考えられます

よって、本出願を行うことがほぼ確定しているものについては、仮出願を行うメリットはないといえるでしょう。

仮出願の利用例は?

多くの利用例としては、学会発表を間近に控え、学会発表原稿を基礎として出願日だけを確保しておきたい、という場合が挙げられます。
上述のように、実施可能要件さえクリアしておけば、形式を問わず明細書とできますし、クレームを提出するがないので、学会発表原稿に少し手を加えれば仮出願用の明細書となるでしょう。

上記のような場合、仮出願を行わずに学会発表を行ったとしても、多くの国で採用されている「新規性喪失の例外」という手続を行うことにより、学会発表による不利益を受けることなく、学会発表後に特許出願を行うことも可能です。
しかしながら、国によって救済の程度にばらつきも大きく、特に欧州や中国では学会発表については救済が非常に限定的とされているため、仮出願により出願日を確保しておくことは有益といえるでしょう。

一方、アメリカが先発明主義であった時代は、後にどちらが先に発明をしたか?をアメリカで証明するための手段として、「ラボノート」と呼ばれる研究開発日誌を段階別に仮出願しておく実務が見られました。
しかしながら、アメリカが原則として先願主義に移行し、ごく限られた範囲でしか先発明認定手続を行うことができなくなった現在では、先発明の証明という意味ではその意義が希薄化しているといえるでしょう。

また、2000年代前半までは、アメリカに仮出願をしておき、この仮出願に対してパリ優先権(アメリカ特許入門:「パリルート出願」をご参照)を主張して、日本を含む各国へ出願展開を行う戦略が見られました。
この戦略は、アメリカの仮出願制度(学会発表原稿に少し手を加えたもので出願として受理される制度)を、国際的な特許出願戦略に応用したものといえます。
この時代には、仮出願制度を採用している国は、アメリカを除きほぼ皆無であったので、世界中でいち早く出願日を押さえるためにはアメリカがハブとなる国でした。
しかしながら、現在では、仮出願に類似する制度が日本、韓国、欧州などでも採用されています。
したがって、これらの国に関する限り、アメリカをハブとした早期出願日戦略は、その意義が希薄化しているといえるでしょう(例えば、日本でのみ特許取得を考えている場合には、もはやアメリカを経由することなく、日本で類似仮出願制度を利用すればよいということになります。)

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