アメリカでの特許取得にかかる費用!米国弁護士が徹底解説します!
はじめに
アメリカで特許を取るといっても、費用はどの程度のものなのでしょうか?またどのような費用項目があるのでしょうか?
本日は費用面について解説します。
注:費用はすべて記事公開当時のレートに基づき計算しています。
費用構造
アメリカで特許を取得するには、以下の費用を考えておく必要があります。
- 米国特許商標庁(USPTO)へ支払う庁手数料
- 特許出願書類等の翻訳費用
- 手続を依頼する米国代理人の手数料
- (米国代理人との中継を日本弁理士に依頼する場合)日本弁理士の中継手数料
費用が発生する場面
代表的なところでは、以下の場面で費用が発生します。
- 出願・移行時
- オフィスアクション応答時
- IDS提出時
- 登録時
代表的には、これらの場面において、上述の庁手数料、翻訳費用、米国代理人手数料、日本弁理士手数料がそれぞれ発生します。
庁手数料
以下のUSPTOのウェブサイトにおいて、最新の料金一覧が公開されています。
例えば、独立クレームが2個、従属クレームが10個含まれる特許出願(基礎出願:日本出願)(全60頁)を、アメリカにおいてパリルートで電子出願する場合と、同じ出願をPCTルートにて(国際調査機関:日本国特許庁)アメリカで電子移行する場合を例示して、どのように庁費用が計算されるのか考えてみましょう。
1.パリルート
- 基本出願手数料(Basic Filing Fee):US$320.00
- 独立クレーム超過手数料(3を超過する各独立クレームにつきUS$480.00):US$0.00
- 合計クレーム超過手数料(20を超過する各クレームにつきUS$100.00):US$0.00
- 出願頁数超過手数料(100頁を超過する書類につき50頁ごとにUS$420.00):US$0.00
- 調査手数料(Search Fee):US$700.00
- 審査手数料(Examination Fee):US$800.00
出願時合計:US$1,820.00(約20万円)
2.PCTルート
- 基本移行手数料(Basic National Stage Fee):US$320.00
- 独立クレーム超過手数料(3を超過する各独立クレームにつきUS$480.00):US$0.00
- 合計クレーム超過手数料(20を超過する各クレームにつきUS$100.00):US$0.00
- 出願頁数超過手数料(100頁を超過する書類につき50頁ごとにUS$420.00):US$0.00
- 移行調査手数料(National Stage Search Fee):US$540.00※1
- 移行審査手数料(National Stage Examination Fee):US$800.00
移行時合計:US$1,660.00(約18万円)
※1:USPTO以外が国際調査機関を務め、国際調査報告が作成されてUSPTOに提供された場合の料金です。日本国特許庁を国際調査機関とする場合は、ほとんどがこれに該当しますが、何かの理由で国際調査報告が国際段階で作成されない場合、より高い料金US$700.00が適用されます。ちなみにUSPTOが国際調査機関を務めた場合、US$0.00やUS$140.00などの安い調査手数料が適用されますが、日本に在住する限りにおいて、現状はUSPTOを国際調査機関に指定することはできません。
3.日本出願(比較)
ちなみに、同じ出願を日本国特許庁に対して行った場合の費用を比較までに紹介します。
基本手数料:14,000円
出願審査請求手数料(138,000円+(クレーム数×4,000円)):186,000円
合計:200,000円
日本では、出願時には審査手数料を払う必要はなく、審査請求時に審査手数料を支払うべきものですが、アメリカでは出願時に審査手数料を支払う必要があるので(審査請求制度がない)、審査請求手数料も加えた金額にて比較しています。
4.小括
このように見ていくと、庁手数料という観点では、日米でそれほど大きな差はない、といえるかと思います。またパリルートなのかPCTルートなのかによってもそれほど大きな差はないといえるでしょう。
翻訳費用
特許翻訳分野では、字数(又は語数)×単価にて翻訳料金を計算するのが一般的です。
単価しては、日本弁理士に依頼するのか、翻訳会社やフリーランスの翻訳者に依頼するのかによって上下しますが、一般的に特許は専門性が高い分野なので、他の分野に比べて単価が高めと言わざるを得ません。
ちなみに、日本弁理士に翻訳を依頼した場合には、翻訳会社等に依頼した場合と比べて、高めの単価となることが多いです。
注意すべきは、翻訳会社等に依頼すればより安い費用にて翻訳文を用意することができるかもしれませんが、この場合、技術的や法的な視点で、特許庁手続に堪えうるか否かは、自身の判断で担保することが必要となる点です。
このような点に自信がない場合には、高めの相場であったとしても、日本弁理士に翻訳文を用意してもらう方がよいように思います。
現地代理人手数料
現地代理人(米国特許弁護士)の手数料は、基本的には単価×当該案件に費やした時間にて計算されるタイムチャージとなっています。
米国特許弁護士の単価は、事務所によって大きく異なり、担当してくれる弁護士の経験年数によっても大きく上下します(経験が長いシニア弁護士や、事務所の経営者クラスの弁護士に依頼する場合、高くなりがちです。)。
肌感覚としては、出願を依頼した場合は、頁数やクレームの数に応じて金額が上下するとはいえ、案件によって料金が大きく上下することはないような所感です(ただし、英文明細書は自前で用意し、その内容チェックを現地代理人に依頼しないことが前提です。もしこれらを依頼するならば、タイムチャージにてかなりの金額になり、出願書類準備だけで日本円で100万円を超える金額になることも考えられます。)。
一方、オフィスアクション対応を依頼した場合、何をどこまで依頼するかによって手数料が大きく変わってきます。
つまり、現地代理人に全面的に依拠して、オフィスアクションの内容の検討や対応案の提言から依頼した場合、その検討手数料についてもタイムチャージが発生しますので、トータルで見ると高額になりがちです。
一方、オフィスアクションの検討や対応案の作成は自前でやって、USPTOへ提出する意見書や補正書の書類作成だけを依頼した場合、比較的低額に収まりがちです。
USPTOは、米国外からの出願の場合、現地代理人を置かなければならないルールとなっており、費用が高いからといって現地代理人を回避することはできません。
現地代理人の費用を低減されたい場合には、何をどこまで現地代理人に依頼するか?をコントロールすること(必要最低限のアドバイス・サポートを受けるよう絞り込むこと)が常套手段といえるでしょう。
別の観点では、アメリカは弁護士人口が100万人を超えると言われるほど弁護士の多い国です。
弁護士が多いため、専門別に事務所が細分化されています。
特許関係を専門とする事務所(ブティック事務所と言います)や企業法務案件全般を広く取り扱う総合事務所、さらには特許関係を専門とするブティック事務所でも、特許庁手続を専門とする事務所があったり、特許訴訟を専門とする事務所があったりとかなり幅広いです。
一般的に、総合事務所は何でも依頼できるメリットがある一方、規模が大きくシニアな弁護士が揃っていることが多いので、料金が高くなりがちです。
一方、特許庁手続向けには割と小規模で特許庁手続に特化したブティック事務所では、小回りが利くことも多く、案件毎に相談して、その案件の難易度に応じて担当弁護士のシニア度を分けてもらうというような対応も相談できることもあるようです。
特許庁手続にはブティック事務所を利用し、大きな訴訟には大手の総合事務所を利用するなどして、目的別に事務所を使い分けることも費用低減の一案かもしれません。
このように、現地代理人費用を抑えるには、必要最低限のサポートに絞り込むこと、また事務所に目利きがあることが重要な点となりますが、初心者にはなかなか難しいところです。
このような点について、日本弁理士の中継を受けると、トータルで見た時に費用の節減になることもあるように思います。
日本弁理士の中継手数料
日本弁理士の中継は、アメリカ特許出願において必ずしも必要なものではなく、ご自身で現地代理人と専門的内容についてコミュニケーションができ、現地代理人に対する目利きが効くのであれば、日本弁理士の中継を省略することもコスト低減の一案といえるでしょう。
日本弁理士の中継手数料は、手続単位で料金が決まっていることが多く、例えばアメリカ出願であれば、事件管理手数料・出願指示手数料などをあわせて(ただし翻訳料は除く)、1つの単価が設定されており、頁数やクレームの数に応じて金額が上下する場合があるとはいえ、案件によって料金が大きく上下することはないような所感です。
オフィスアクション対応については、現地代理人と同様に、タイムチャージ制を取っていることが多いような印象を持っていますが、肌身感覚としておおよそ米国特許弁護士の時間単価よりは安い時間単価で対応されているところが多いように思っています。
上述のように、アメリカ出願を行う場合、そもそも現地代理人をどのように選べばよいのか(専門分野、評判、費用など)、また現地代理人に相談すべきことと自前で考えなければならないことをどのように判断すればよいのか、分からないことも多いと思います。
費用をかけてアメリカ出願をやるからには、後から簡単に無効になってしまうような特許ではなく、しっかりとした特許がほしいはずです。
そうであれば、急がば回れということで、日本弁理士の中継を受けることを積極的に検討されてはと思います。
おわりに
アメリカ特許に関する費用は決して安くはありませんし、また複数の専門家のサポートが必要となることが国内出願と異なるところです。
各専門家を起用するにあたって、報酬金額だけを指標にすることはできず、報酬金額が安ければ安い理由が、高ければ高い理由がありますので、起用前にいくらで何をどこまでやってくれるのか、しっかり協議をした上で、依頼することをお勧めします。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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