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実用新案権とは?現役弁理士がわかりやすく解説!

特許や知財について調べると「実用新案」という権利を知ることでしょう。

しかしこの「実用新案」は普段聞かない用語。どんな権利なのか、特許や意匠との違いは何か、実用新案を取るメリット・デメリットはなにか、など沢山の疑問があるはずです。

実用新案権について、現役弁理士が解説します。

執筆:幸谷泰造 弁理士/弁護士

実用新案権とは?

実用新案は、特許と同じ産業財産権と呼ばれる権利の一つ。

物品の形状、構造、組み合わせについてのアイデア(考案)を保護する役割があります。従来の製品のなにげない不満を解消するようなちょっとした発明が、実用新案として取り上げられることが多いようです。

基本的な権利の効力は特許権と同じです。

  • まだ世の中に知られていない技術的なアイデアについて、一番最初に特許庁に出願した人が権利者になる
  • 一定期間そのアイデア(考案)を独占的に使える
  • 考案を無断で使っている人に対し、使用停止や損害賠償を請求できる
  • 他人にその考案を使わせてあげる代わりに、ライセンス料を支払ってもらう

実用新案権と特許権 4つの違い

では、特許と実用新案はどう違うのでしょうか?以下では主に4つの違いについて解説したいと思います。

1.保護対象が限られる

特許はテレビの構造やスマホの製造方法など、あらゆる技術を保護できます。それに対し、実用新案は机の形状や洗濯ネットの構造など、物品の形状、構造または組み合わせにまつわる技術しか保護されません

たとえば画像処理方法など方法に関する技術は実用新案権を取れないので、保護したいときは特許を取得する必要があります。

逆に言えば「実用新案権を取ろうと思ったけど、やっぱり特許を取ることにした」なんて乗り換えは可能なのです。

2.審査がない

特許と実用新案の一番大きな違いは、特許が審査を経て権利となるのに対し、実用新案は無審査で権利になってしまうということです。

正確に言うと、形式的な審査はされますが、考案が本当に世の中に知られていないものであるか(新規性と言います)などの点は全く審査されずに登録になります。

極端な例でいえば、すでに世の中にあるパソコンの構造を実用新案として出願したとしても、権利になってしまうのです。

3.保護期間が10年

特許は出願日から20年間権利が存続しますが、実用新案は出願日から10年間と、特許の半分の期間しか保護されません。

ですから長い期間技術を保護したい場合には、実用新案は不向きなのです。

逆にちょっとした発明はライフサイクルの短い傾向にあるので、実用新案で十分なはずです。

4.権利を行使するのに制限がある

実用新案権は、権利行使する際のブレーキが多い、という特徴があります。

先ほどご説明したとおり、実用新案は無審査で登録されてしまいます。つまり最悪の場合、すでに世の中にある技術が突然実用新案権者に独占されてしまう、というリスクがあるのです。

このような事態を防ぐために、権利保持者が他人に対して実用新案権を行使する場合は、実用新案技術評価書という書類を提示して警告してからでないといけない、と法律で決まっています。

実用新案技術評価書というのは、特許庁の審査官が「この実用新案は権利になる要件をどれだけ満たしているか」について評価をしてくれた書類です。

この評価が高ければ高いほど、実用新案はきちんとした有効な権利で、権利行使しても問題ないといえるのです。

(おまけ)意匠権との違い

物品の形状にまつわる権利、という点は意匠権も同じです。

ただ意匠権は形状や模様、色彩、それらの結合、画像、つまりは物品や建築物の見た目について与えられる権利です。

実用新案権は、物品の形状に関する自然法則による技術思想の創作、つまり技術にまつわるアイデアを保護する権利と、役割が違います。

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実用新案のメリット・デメリットは?

特許と実用新案の違いはわかったけれど、では具体的に実用新案にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

実用新案のメリット

①権利になるまでが早い

実用新案が登録になるまでの期間は、出願からおおむね2~3ヶ月です。特許になるまでの期間が数年単位であることを考えると、かなり早いといえるでしょう。

これほど早く権利をゲットできるのは、実用新案に審査がないから。

保護期間が10年と短くてもいいから、すぐに権利化したい!という場合は、実用新案権が最適でしょう。

②費用が安い

とにかく安く権利を取りたいという人にも、実用新案はメリットがあるといえます。

実用新案は審査がないため、特許庁に審査費用を支払う必要がありません。

特許の場合、審査請求費用として15万円程度かかりますので、この料金をまるまる節約できるのはメリットです。

また弁理士の手間も、特許に比べるとかからないので、弁理士費用も安くなります。

実用新案のデメリット

①存続期間が短い

先ほどご説明したとおり、特許は出願日から20年間権利が存続しますが、実用新案は出願日から10年間しか権利が存続しないため、長い期間技術を保護することができません

②権利行使がしづらい

実用新案権最大のデメリットが、権利行使がしづらいことです。

前述したように、他者に対し権利行使をするには実用新案技術評価書を取得して、権利行使できるかどうかを特許庁に評価してもらう手間がかかります。

また権利保持者が損害賠償責任を負うリスクがあるのも、権利を使いづらい原因のひとつです。

実用新案は無審査のため「自己責任」となる部分がどうしても多くなります。

ですから実用新案権を行使した後に、仮に実用新案が無効になってしまった場合、権利者が損害賠償責任を負う可能性があるのです。

なお特許については、特許庁の審査官によってしっかりと審査がなされているため、仮に特許が無効になっても権利者に賠償責任が発生することはありません。

実用新案は、昔は特許と同じように審査がされていたのですが、平成5年に法改正がされて無審査となり、このような権利行使の制限がされるようになりました。

そのときから実用新案の出願が減っており、今は特許に比べてあまり使われていないのが実情となっています。

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【具体例紹介】実用新案 身近な事例

実用新案には具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

実用新案で保護される考案は、特許よりも小さな発明というイメージです。例えばペットボトルのキャップや布団叩きなど、ちょっとした物品の構造が実用新案として保護されています。

今回はその中でも、生活になじみ深い「ティッシュ箱」と「フローリングワイパー」について解説します。

押しつぶせるティッシュ箱

ごく一般的なドラッグストアなどで買える厚紙のティッシュ箱ですが、実用新案権を取得しています。

出願人はティッシュやトイレットペーパーなどの紙製品で有名なネピアです。

従来のティッシュ箱は、箱内部が接着剤でしっかりと固定されており、使い終わった後に箱が潰しづらく、ごみがかさばるという問題点がありました。

そこで考案されたのが、箱内部にミシン線を入れることで接着面をはがしやすくし、ぺたんこに折りたためるようにしたティッシュ箱です。

今ではティッシュ箱は折りたためるのが当たり前となっていますが、そこに至るまでにこのような発明があったんですね。

フローリングワイパー


出典:J-Plat Pat(実願平01-099236)

フローリングのふき掃除に使用されるフローリングワイパー。

以前の製品は、ワイパー部分の可動域が限られており、ワイパーの向きを変えて使いたい場合は、柄の部分を持ち替えて使う手間が発生していました。

そこで、ワイパー部分と柄の部分の接合部分に2つの支点を作ることで、可動域を広げ、柄を持ち替えなくてもワイパー部分の方向転換ができるようにしました。

出願人は花王。そう、かの有名なクイックルワイパーも実用新案を取得しているのです。

実用新案権取得にかかる費用

実用新案を取るときにかかる費用は、35~40万円が目安です。

特許が権利取得にトータル60万円ほどかかることを考えると、6~7割程度の金額と、かなり安く権利化できると分かります。

審査がない関係で特許庁へ支払う費用や弁理士の手間賃(弁理士費用、成功報酬)が安いので、実用新案権は比較的ローコストで取得できるのです。

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まとめ

特許と実用新案の違いや、実用新案のメリット・デメリットにつきまして、弁理士が詳しく解説しましたがいかがでしたでしょうか。

実用新案について、少しでも理解が深められたのならば幸いです。

とはいえ、実際に出願するときになると「やっぱり、この発明は特許と実用新案のどっちを取ったほうがより賢いのだろう」と悩むことでしょう。

そんなときはぜひ知財タイムズより、弁理士へお問合せください。皆様の発明がより上手く活用できるよう、知財のプロが相談にのってくれます。

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