実用新案は意味が無いのか?みなさんの疑問に弁理士が答えます!
実用新案は無意味?
「実用新案を取っても意味がない」
こんなことを聞いたことはありませんか?
技術的なアイデアについて特許で出願するか実用新案で出願するか迷ったときに、弁理士から「特許で出願したほうがいい」と言われたことはありませんか?
実用新案は本当に取っても意味がないのでしょうか?
現役弁理士が実用新案に関するこの疑問にお答えします!
なお、実用新案とは何かについては別の記事で詳しく説明しておりますので、詳細はそちらをご覧ください。
→弁理士が解説!実用新案とは?
実用新案のデメリット
(1)無審査で登録される
研究開発をしている中で技術的なアイデアが思い浮かんだ場合、特許と実用新案のどちらで出願したほうがよいのでしょうか。
特許と実用新案はどちらも技術的なアイデアを保護する権利ですが、特許はよく耳にしたことがあるものの、実用新案は特許との違いがよくわからないという方もいらっしゃると思います。
特許と実用新案はどちらも技術的なアイデアを権利として保護するものですから、どちらで出願するかは出願する人の自由です(ただし、実用新案は物品の形状や構造に特徴があるものに限られます)。
しかし、一般的には特許出願をしたほうがよいといわれています。
理由は、上記の「弁理士が解説!実用新案とは?」の記事でも解説したとおり、実用新案は特許と違って無審査で登録になるからです。
正確に言うと、形式面の審査は行われますが、新規性や進歩性などの実体的な審査は一切されることなく登録になってしまいます。
つまり、登録されたとしても本当に有効かどうかはわからないのです。
極端な例でいうと、既に世に知られているような技術であっても登録になってしまうのです。
そうすると、実用新案を取ったとしてもすぐに無効にされてしまうリスクがあります。
これが実用新案のデメリットの一つであり、「実用新案を取っても意味がない」と言われる理由の一つになります。
(2)実用新案技術評価書を提示して警告する必要がある
上記のとおり実用新案は実体審査をしませんので、登録されたとしても本当に有効なのかはわかりません。
このような権利を安易に行使されると、行使された側が不利益を被るおそれがあります。
そこで、実用新案を行使するためには、行使の前に実用新案技術評価書を取得したうえで、それを相手方に提示して警告しなければ権利を行使することができないとされています。
つまり、事後的に実用新案技術評価書を取得しなければならない手間が発生する点も、実用新案のデメリットの一つです。
なお、実用新案技術評価書については別の記事で詳しく説明しておりますので、詳細はそちらをご覧ください。
→実用新案技術評価書とは?
(3)実用新案登録が無効になった場合の実用新案権者の責任が重い
上記のとおり、実用新案を行使するためには、実用新案技術評価書を取得したうえで、それを提示して警告しなければならないとされています。
実用新案技術評価書には、「1」~「6」までの評価と、先行文献が記載されています。
評価が「1」~「5」の場合は、実用新案について特許庁の審査官が否定的な評価をしたということになりますが、「6」の場合は、肯定的な評価をしたということになります。
実用新案技術評価書の記載については「実用新案技術評価書とは?」で詳しく解説しておりますので、詳細はそちらをご覧ください。
実用新案技術評価書の評価が「1」~「5」の場合に権利を行使した後、無効になってしまった場合、原則として実用新案権者は権利行使された者に対し損害賠償責任を負うことになります。
特許庁が否定的な評価をしたにもかかわらず権利行使をしたのですから、無効になった場合には責任を負うことになるわけです。
一方、特許は審査官によってしっかりと審査がされてから登録されるため、仮に無効になったとしても特許権者はこのような責任を負うことはありません。
損害賠償責任は実用新案権者にとって大きなリスクであり、実用新案を取るよりも特許を取ったほうがよいと言われる理由になります。
そしてこの損害賠償責任が実用新案の最大のデメリットであり、「実用新案を取っても意味がない」と言われる理由の一つになります。
(4)その他
実用新案は存続期間が出願の日から10年であり、特許と比べて半分の期間しかないため、長く実施される技術の保護には向いていません。
実用新案のメリット
上記のようなデメリットを考えると、実用新案は取っても意味がないのではないかと思われることでしょう。
実用新案よりも特許を取ったほうがよい場合が多いことはたしかです。
しかし、実用新案にもメリットはあります。
以下では、実用新案のメリットを挙げてご説明します。
(1)登録までの期間が短い
実用新案は実体的な審査をしませんので、出願から通常2~3カ月で登録となります。
一方、特許は出願から登録になるまで数年かかることも多いため、実用新案は非常に早く登録となることがおわかりいただけると思います。
ライフサイクルが短い商品については、特許になるまで待っていると商品の販売が終了してしまい、適切な保護ができなくなるおそれがあります。
なるべく早く権利化して保護したいのであれば、実用新案を取得することはメリットの一つとなるでしょう。
(2)費用が安い
実用新案は特許と比べて一般的には弁理士に支払う報酬が安くなります。
費用の詳細については別の記事で解説しておりますので、詳細についてはそちらをご参照ください。
→実用新案登録の費用を徹底解説!
スタートアップ企業で知的財産の取得にそこまでお金をかけることができないという場合には、実用新案を取得することもメリットの一つであるといえます。
(3)特許よりも進歩性のハードルが低い
特許になるための要件の一つに、進歩性という要件があります。
公知技術に基づいて容易に発明することができたときは、特許を受けることができないという要件です。
一方、実用新案にも似たような規定がありますが、実用新案は、「きわめて」容易に考案することができたときは、実用新案登録を受けることができないとされています。
つまり、特許に比べて実用新案のほうが権利になりやすいといえます。
特許は取れないかもしれないが、実用新案なら有効な権利となる可能性があるのです。
(4)後で実用新案に基づいて特許出願ができる
実用新案は、出願した日から3年以内であればその実用新案に基づいて特許出願ができるという制度があります。
この制度を利用すれば、まずは実用新案として出願して登録しておき、その後実用新案についての技術が市場で盛り上がりそうな状況であれば特許として出願することも可能です。
はじめから特許出願する場合と比べて、まずは実用新案権として保有することができますし、3年以内に特許出願をしなかったとしてもそのまま実用新案権として残りますので、出願後の事業の状況によりフレキシブルな対応が可能です。
まとめ
「実用新案は取っても意味がない」と言われる理由と、実用新案を取得するメリットについて現役弁理士が解説しました。
実用新案は特許に比べてデメリットも多いのは事実ですが、一方で上記のようなメリットもあるため、事業の状況によって特許で出願するか実用新案で出願するかを適切に選択することができれば実用新案のメリットを生かすことができる場面もあるのではないかと思います。
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2007年弁理士登録し、2012年に弁護士登録。 知財経験は約15年で、大手電機メーカー、知財系法律事務所において特許出願から特許権侵害訴訟まで数多くの知財事件に携わる。 ソフトウェア系出身のため、ITやソフトウェアの特許を得意としている。
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