実用新案技術評価書とは?
目次
はじめに
「実用新案技術評価書」という言葉を聞いたことがある方は少ないのではないでしょうか。
実用新案技術評価書とは、簡単にいうと取得した実用新案の有効性について特許庁が評価してくれた結果が記載された書面になります。
特許には「特許評価書」というものは無いのですが、実用新案には「実用新案技術評価書」があります。
今回は、この「実用新案技術評価書」について、現役弁理士が詳しく解説してまいりたいと思います。
なお、実用新案について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しておりますので、詳細はそちらをご参照ください。
→実用新案権とは?現役弁理士が詳しく解説!
実用新案技術評価書とは?
実用新案技術評価書とは、実用新案権の有効性について、特許庁の審査官が評価した書面になります。
特許には「特許評価書」は無いのに、なぜ実用新案には「実用新案技術評価書」があるのでしょうか。
その理由は、特許は新規性や進歩性などの審査が特許庁で行われるのに対し、実用新案は新規性や進歩性などの審査が特許庁で行われないためです。
つまり、実用新案は登録されて権利になったとしても、本当に新規性や進歩性があるのかはわからないのです。
すでに世の中に知られている技術であったとしても、審査がされないため実用新案として登録されてしまいます。
そのような権利を他人に行使してしまうと、本当は有効ではない権利を行使することによって他人に不利益を及ぼしてしまうかもしれません。
よって、実用新案は、他人に権利を行使する前に必ず実用新案技術評価書を取得し、それを他人に提示したうえで警告しなければ権利を行使してはならないとされています。
実用新案技術評価書ってどんなことが書かれているの?
実用新案技術評価書については、特許庁のページにサンプルが掲載されておりますので、詳細につきましては以下をご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/app_c.pdf
実用新案技術評価書には、「1」~「6」までの評価と、先行文献が記載されています。
「1」~「6」までの評価の意味は以下のとおりです。
- 「1」…新規性がない場合
- 「2」…進歩性がない場合
- 「3」…拡大先願がある場合
- 「4」…先願がある場合
- 「5」…同日出願がある場合
- 「6」…先行技術文献等を発見できなかった場合
新規性、進歩性などの要件につきましては、特許と概ね同じですので、詳細につきましては以下の記事をご参照ください。
特許になる発明は?特許の要件についてもわかりやすく解説します!
簡単にいうと、「1」~「5」の場合は、実用新案について特許庁の審査官が否定的な評価をしたということになります。
一方「6」の場合は、肯定的な評価をしたということになります。
評価が「1」~「5」の場合は特許庁の審査官が否定的な評価をしているわけですから、他人に対して権利行使をするのは控えたほうが無難ということになります。
もっとも、「1」~「5」だからといって他人に権利行使をしてはダメというわけではありません。
審査官の評価が誤っている可能性もありますし、ご自身が先行文献等を検討した結果、有効性は認められると考えれば、権利行使をすることは可能です。
他方、評価が「6」だったとしても権利が絶対に有効であるとはいえません。
なぜなら、実用新案技術評価書では、「1」~「5」の項目しか評価されないからです。
これ以外にも権利が有効であるための要件はあるのですが、実用新案技術評価書においては「1」~「5」の観点のみに限られていますので、それ以外の理由で有効性が否定される場合もあります。
よって「6」であっても油断はできないのですが、通常は「6」であればある程度安心して権利行使をすることができるということになります。
実用新案技術評価書ってどうやって取得するの?
先ほどもご説明したとおり、実用新案技術評価書は特許庁の審査官が作成しますので、実用新案技術評価書を取得するためには、特許庁に対し、「実用新案技術評価請求書」を提出します。
実用新案技術評価書はおおむね3~4カ月程度で取得することができます。
実用新案技術評価書の取得にかかる費用は、42,000円+(請求項の数×1,000円)となっています。
請求項の数が1つであれば43,000円ということになります。
実用新案技術評価書は、実用新案が登録されていない出願段階でも請求することができます。
よって、早めに有効性を確認したい人は、実用新案登録出願の後すぐに実用新案技術評価書を請求することが可能です。
実用新案技術評価書って誰が取得できるの?
実用新案技術評価書は実用新案権者が請求する場合がほとんどですが、法律上は「何人も」請求することができることになっています。
実用新案権者以外が請求する場面はあまりないとも思えますが、例えば登録されている実用新案が気になっている人が否定的な評価を得るために実用新案技術評価書を請求することが考えられます。
否定的な評価を得ることができれば、安心して事業を進めることができることになるからです。
実用新案登録が無効になってしまった場合の権利者の責任
実用新案権を行使するためには必ず実用新案技術評価書を取得し、提示した上で警告しなければなりません。
実用新案権を行使したけれども、後で無効になってしまった場合、実用新案権者は権利行使をした者に対し損害賠償責任を負う可能性があるので、実用新案権の行使には十分注意する必要があります。
特許の場合、権利行使をした後で仮に特許が無効になったとしても、特許権者が損害賠償責任を負うということはありません。
なぜなら、特許は特許庁でしっかりと審査がなされた後で特許になるため、有効であることが前提だからです。
しかし実用新案は特許庁で実体的な審査がされませんので、有効性がない場合もあります。
そういった権利を安易に行使して他人に不利益を与えた場合、損害賠償責任を負うとされているのです。
実用新案技術評価書が「6」であれば、仮に無効になったとしても、原則として実用新案権者は損害賠償責任を負わなくてもよいとされています。
これは「6」であれば特許庁が肯定的な判断をしたということになりますので、安易な権利行使とはいえないからです。
一方、実用新案技術評価書の評価が「1」~「5」の場合に権利を行使した後、無効になってしまった場合、原則として実用新案権者は権利行使された者に対し損害賠償責任を負うことになります。
特許庁が否定的な評価をしたにもかかわらず権利行使をしたのですから、無効になった場合には責任を負うことになるわけです。
ただし、評価が「1」~「5」であった場合に無効になったとしても、必ず損害賠償責任を負うわけではありません。
実用新案権者が相当の注意をもって権利行使したのであれば損害賠償責任を負わないとされています。
しかし、通常は評価が「6」以外の場合、実用新案権を行使するのは控えたほうがよいでしょう。
まとめ
実用新案技術評価書について現役弁理士が解説いたしました。
実用新案技術評価書は多くの方にとって聞きなれないものだと思いますが、実用新案を取得して権利活用したいのであれば切手も切り離せない存在であり、大変重要なものになります。
実用新案技術評価書については専門的な知見が必要ですので、実用新案技術評価書を請求する前に、まずは弁理士にご相談することをおすすめします。知財タイムズでは実用新案や実用新案技術評価書についてご相談いただける特許事務所を多数掲載しておりますので、ぜひご検討ください。
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