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発明が特許になるための「特許要件」とは。カンタンに解説

特許出願は、早い者勝ちの世界ですから、特許庁に出願を済ませれば、まずは一安心!

しかし権利化するためには、出願審査請求をすることによって、審査官による審査を受けなければなりません。

ここで問題となるのが、特許要件です。大きく分けて5つ、あるいは7つあるともいわれる、特許になるための要件を満たして初めて、特許が成立することになるのです。

そこで今回は、発明をしたときに、特許にするためのさまざまな要件について、ここでは8つに分けて解説します。

1~3は特許の対象についての要件、4~6は他の発明との関係での要件、7は実施可能要件、8は出願人についての要件です。

<この記事でわかること>
・特許になる発明とは
・審査基準のポイント

(執筆:金原正道 弁理士

発明であること(特許要件1)

特許とは、新規に開発された技術に対し独占権を与える制度ですが、その対象となるのが「発明」です。

発明は、一般にも理解されている言葉ですが、特許法という法律をみると「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」とされています。

技術的思想とは、反復継続して再現できる技術的なアイデアであって、具体性や客観性のない未完成なものでは発明とはいえません。

ただし、具体的に製品化までされている必要はありません。

自然法則を利用したものとは、自然界において経験的に認められるものであればよい一方で、自然法則自体(エネルギー保存の法則など)、自然法則に反するもの(永久機関など)、人為的な取り決め(ゲームや会計ルールなど)は発明ではありません。

さらに、単なる発見であって創作でないもの(X線自体の発見など)や、技能など技術的思想でないものは、発明とはいえません。

IT、AIを利用してビジネス方法を実現したものや、薬剤としての効果が発見された化合物などは、発明と判断され特許になる可能性があります。

産業上の利用可能性があること(特許要件2)

産業上利用することができる発明をした者は、一定の要件を満たした場合に、特許を受けることができるとされています(特許法第29条第1項柱書)。

産業上の利用については、可能性があればよいとされており、特許・実用新案審査基準では具体的に、次のようなものは産業上の利用可能性がないとしています。

人間を手術、治療または診断する方法については、人道上の見地から、また治療の際に特許について調べるなど不可能であることから、特許の対象とはなりません。

これに対し医薬品や治療器具は、特許の対象となります。

個人的、実験的にのみ利用される発明(業として利用できない発明)や、実際には明らかに実施できない発明についても、産業上の利用可能性がなく、特許にはなりません。

公序良俗違反ではないこと(特許要件3)

公の秩序、善良の風俗または公衆の衛生を害するおそれがある発明については、特許を受けることができないとされています(特許法第32条)。

特許出願が拒絶される理由としては珍しく、「遺伝子操作により得られたヒト」などが具体例とされています。

新規性があること(特許要件4)

特許の対象となる発明であっても、新規性のないものは特許にはなりません。

新規な技術が公開される代わりに一定期間、保護される制度では、公知になった発明に独占権を与えることが望ましくないためです。

具体的には、下記の発明には新規性がありません(特許法第29条第1項)。

  • 1 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明
  • 2 特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明
  • 3 特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

特許出願をするよりも前に、発明の内容を書籍や論文、インターネットなどで公開した場合には、新規性が失われることになります。

ただし、意に反して新規性を失った場合のほか、試験、論文発表、一定の学術団体による研究会での発表や、特定の博覧会に出品した場合など、新規性を失わなかったものとして認められる場合があります。

なお、守秘義務契約のもとでの実施、研究や、技術の開示などでは、公然とはいえないため、新規性を失うことにはなりません。

進歩性があること(特許要件4)

新規性を失った発明や特許出願時の技術常識に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する当業者が容易に思いつく発明は、進歩性がないとして、特許を受けることができません(特許法第29条第2項)。

当業界の知識を有する人が容易に思いつくものであるかどうかは、審査でも争いになるところです。

たとえば、従来技術からは予想もできない優れた効果は顕著である発明や、従来は実現できなかった要因を解決した発明など、単なる素材や設計の変更ではない場合には、進歩性があると認められやすくなります。

先願であること(特許要件5)

先願(せんがん)

特許は、先に出願した人が権利を取得できることは知られています。

特許法では、これを下記のように規定しています。

「同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。」(特許法第39条第1項)

同じ発明について複数の権利が成立してしまうと、権利が複雑になり、後から出願した発明に権利を与えるのは特許制度にそぐわないためです。

なお、同日に、同じ発明について出願が競合した場合には、まずは協議によって、協議が成立しないときは特許庁がくじで決めることになっています。

特許出願と、簡易な発明である考案についての実用新案登録出願とが、同一である場合にも、先願の規定は適用されます。

拡大先願

同一の発明かどうかは、特許請求の範囲の記載により判断されます。

ところが、特許請求の範囲の記載からは同一の発明ではなくても、先の出願の明細書等に同一発明が記載されていれば、後の出願に特許を与えることは望ましくありません。

そこで、先の出願が出願公開される前、まだ公知になっていなくても、後の出願は、先の出願の明細書等に記載された発明と同一発明については、特許を受けることができません(特許法第29条の2)

実施可能要件を満たすこと(特許要件6)

明細書は、発明の内容を公開するための技術文献です。そこで通常の技術者が実施できる程度に、明確かつ具体的に発明が記載されている必要があります。

発明が公開されることを条件として、特許権が与えられ、一定期間経過後にはその技術は社会に公開されるものだからです。

このため、発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければなりません(特許法第36条第4項第1号)。

また、特許請求の範囲の記載は、下記に適合するものでなければなりません(特許法第36条第6項)。

  • 1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
  • 2 特許を受けようとする発明が明確であること。
  • 3 請求項ごとの記載が簡潔であること。
  • 4 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

出願人適格を満たすこと(特許要件7)

特許出願人の資格についても、これを満たさないと審査で拒絶になる要件があります。

技術を盗用して勝手に出願をしたり、発明者から権利を譲り受けてもいないのに特許出願をした場合には、その発明について特許を受ける権利を有していないため、特許を取得することができません(特許法第29条第1項柱書)。

これを冒認出願といいます。

発明者が気づいて、特許成立後に異議申立をして取り消したり、後から特許を無効にしたりする手続があります。

発明者が複数いるときや、共同開発などにより、特許を受ける権利が共有になる場合には、共有者が共同で特許出願をしなければなりません。

外国人の権利については、日本国内に住所、居所、営業所はなくても、国際化社会の今日ではほとんどの外国人は、条約や取り決めによって、日本での特許権を得る資格があります。未承認国などに一部の例外があります。

特許要件の審査と、審査基準のポイント

これまでに解説した特許要件は、特許出願をした後に、出願審査請求をしてから、それぞれの技術分野の審査官により審査されます。

審査にあたっては、特許の審査基準が指針として用いられます。

特許の審査基準のポイントhttps://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/tokkyo_shinsakijyun_point/01.pdf PDF [9.83MB]
(特許庁 審査第一部 調整課 審査基準室)

新規性、進歩性の審査基準のポイント

特に重要な特許要件である、新規性進歩性の判断にあたっては、下記のように判断されます。

特許請求の範囲の請求項に記載された発明を特定します。

そして、従来技術や先の出願などの引用発明を、請求項の記載の文言と同様に、特定します。

両者を対比して、作用、機能、性質、特性で物を特定した記載、物の用途のより特定した記載、製造方法によって生産物を特定した記載、数値限定を用いて発明を特定した記載などを考慮に入れて、公知の技術と同一であるかどうか(新規性)、当業界の技術者が容易に思いつくものであるかどうか(進歩性)の判断を行います。

具体例

審査基準にある一例を、見てみましょう。

「成分Aを含有する電着下塗り用組成物」がすでに知られているときに、貝類の船底への付着防止という異なる用途のある、「成分Aを含有する船底防汚用組成物」は、新規性がある可能性があります。

健康志向により食品の機能性に関する研究開発が盛んになったことから、平成28年4月以降、食品の用途発明が認められるようになりました。

「公知の飲料」があったとしても、同様の成分からなる「二日酔い防止用飲料」については、新規性がある可能性があるとされています。

実施可能要件の審査基準のポイント

出願書類の記載に関する、実施可能要件の判断にあたっては、下記のような場合には、特許要件を満たさないと判断されます。

  • 1 発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項が、請求項に記載されている場合
  • 2 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合
  • 3 出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
  • 4 請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合

一例として、

「特定の情報を伝達するための暗号化方式Aにより符号化した信号を、 中継器を介して受信し、前記情報を表示する受信装置」

では、復号手段が中継器、受信装置のどちらに存在しているのかが明らかでないため、実施可能要件を満たしません。

「製造方法Aによって製造された無洗米」

では、新規な製造方法を採用することによってできた無洗米が、従来の方法でできた無洗米とどう違うのか明らかではなく、実施可能要件を満たしません。

特許要件の審査では弁理士の活用を!

審査官は、拒絶の理由がないと判断すれば特許査定を下し、特許料を納付すれば特許が成立します。

拒絶理由があると認めるときは、拒絶理由通知を出し、意見書での反論などの機会が与えられます。

これまでに述べた特許要件のほかにも、特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲等についてした補正が、法律の要件を満たしていないなどの拒絶理由があります。

技術的関係のある発明の単一性の要件を満たさない、複数の発明を同一の特許出願で記載した場合にも、拒絶理由となります。

特許取得の流れについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
 →特許出願の流れを徹底解説!

拒絶理由を覆して特許になるか、それともやはり拒絶査定になってしまうかは、発明そのものの有効性はもちろん、出願当初の書類の記載にもよります。

また、拒絶理由通知が来てからの反論などにも左右されます。

このため、進歩性についての拒絶理由通知に対しては、様々な反論を可能にするために、出願当初の明細書等には、考え得るさまざまな記載をしておくことも重要です。

ここは弁理士の腕の見せ所でもあります。

前記の無洗米の例でいえば、無洗米については特許が取れなくても、無洗米の製造方法であれば特許が取得できるかもしれません。

あるいは、公表するなどして新規性がなくなった発明であっても、その後の改良により、公知になった発明とは異なる新規性のある発明が隠れている可能性があります。

したがって、出願前から、審査が終わるまで、その発明の技術分野に詳しい弁理士をパートナーとして選ぶことが、特許事務所選びでは大切だといえるでしょう。

※特許事務所の選び方についての記事
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