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冒認出願とは?特許を盗まれた時の対応方法。現役弁理士が解説します

冒認出願とは

冒認出願とは、特許を受ける権利を有していない者が出願することをいいます。冒認出願の例としては、他人の発明を見て勝手に出願した場合がありますが、その他にも、共同開発をしていた会社や製品の製造を依頼していた会社が、勝手に出願する場合もあります。

なお特許を受ける権利とは、発明を完成させた者が取得する、特許権を請求できる権利です。

この特許を受ける権利は譲渡できるため、発明を完成させていない者であっても、特許を受ける権利を譲り受けることで、特許出願をすることが可能になります。

冒認出願は拒絶・無効理由に該当する

冒認出願は拒絶理由に該当します(特許法49条7号)。また、無効理由にも該当します(特許法123条1項6号)。

第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。

第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。

出典:特許法 | e-Gov法令検索

冒認出願は審査段階で拒絶される、という制度になっていますが、実際のところ審査段階で冒認出願であることを審査することは非常に難しく、この段階で冒認出願であることを指摘されることはほとんどありません。

とはいえ審査段階で冒認出願であることが看過された場合でも、無効審判により特許を無効にすることが可能です。

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冒認出願は異議理由に該当しない

冒認出願は、特許異議申立における異議理由に該当しません(特許法113条)。

特許異議申立は、特許庁自ら特許処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであり、権利帰属に関する冒認出願違反については、当事者間の紛争解決を主目的とする無効審判で争うべきであるからです。

出願人に罰則はあるのか

冒認出願をしたことに対する刑事罰上の罰則については、特許法上規定されていません

ただし冒認出願をしたことに対する民事上の措置(損害賠償請求等)については、冒認出願された側(真の権利者側)に損害が発生していれば、認められる場合もあると考えられます。

冒認出願への対応措置

冒認出願への対応措置は、特許権取得の前と、特許権取得の後で異なります。

特許権取得前の場合、特許を受ける権利の移転請求を、裁判所に提起することができます。

一方で、特許権取得後の場合、特許権の移転請求を裁判所に提起する措置と、特許無効審判を特許庁に提起する措置を取ることができます。

特許を受ける権利の移転請求【権利取得前】

特許を受ける権利の移転請求(正確には、特許を受ける権利の確認請求といいます)とは、真の権利者が、冒認出願(又は共同出願違反をした出願)に対して、特許を受ける権利の移転を求める請求です。

この移転請求について条文上の規定はありませんが、実務上認められている請求です。この請求が認められて、判決が確定することで、冒認出願に対する出願名義の変更が可能となります。なお、この出願名義の変更は新権利者による単独手続で行うことができます。

しかし特許を受ける権利の移転請求は、特許権取得後にはすることはできません。権利取得後には、次で紹介する特許権の移転請求で同様の対応をすることになります。

特許権の移転請求【権利取得後】

特許権の移転請求は、真の権利者が、冒認出願(又は共同出願違反をした出願)に基づく特許権の特許権者に対して、特許権の移転を求める請求です(特許法74条)。特許権の移転請求は裁判所に対して請求します。この特許権の移転請求が認められて判決が確定することで、特許権者の移転登録をすることができ、特許権は設定登録時から真の権利者が有していると扱われるようになります(特許法74条2項)。

事例の紹介

特許権の移転請求が認められた事例として、東京地裁で争われた「自動洗髪装置」に係る特許権の移転請求(平成29年(ワ)第10038号)を紹介します。

本件は、自動洗髪装置の開発依頼をした被告と、この開発依頼を受けた原告との間で、特許権の真の権利者について争われた事件であり、当初の開発依頼を中止したことを契機として、トラブルに発展しました。

本件では、特許権を取得した被告と移転請求をした原告の両方が、真の権利者であることを主張しています。そして裁判所は、以下の点を考慮して、原告を真の権利者であると認定しています。

  • 被告から自動洗髪装置の開発依頼を受けた原告が、先行技術の調査等を経てエアバックを利用する方法を着想し、特許発明の構成が全て開示されている全体構想計画案等を自ら作成した
  • 被告は、特許出願する段取りを整えたり、事業計画を策定して公的補助を受ける準備をしたりしているが、発明の完成に当たり、発明者と評価するに足る貢献をした具体的事実は認められない
  • 原告は、被告の代理出願をした弁理士から受領した出願書類案に対して異議を延べていないが、原告が開発した機会を製造することにより経済的利益を得られる限り、特許の取得等についてはこだわらないという方針を取ることも不合理ではない

特許無効審判【権利取得後】

特許無効審判とは、特許庁に対して、特許の無効を求める審判手続をいいます(特許法123条)。特許無効審判が認められて確定すると、特許権は無効となり、初めからなかったものとみなされます(特許法125条)。

第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

第百二十五条 特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、特許が第百二十三条第一項第七号に該当する場合において、その特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、その特許が同号に該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。

出典:特許法 | e-Gov法令検索

しかし特許無効審判で争われた特許権の内容は、既に特許公報によって公開されていて、新規性を失っているため、再度特許出願をしても特許を取得することはできません

そのため特許を取り戻すことができない、という点において、特許無効審判よりも前述の特許権の移転請求の方がより真の権利者にとって利益になる手続だといえます。

事例の紹介

冒認出願による特許無効審判の事例として、噴出ノズル管に関する特許の無効審判を紹介します。

本件は、ある法人の取締役である甲が、同法人の代表取締役である乙の取得した特許権に対して、冒認出願であることを理由とする特許無効審判を請求した事例です。本件では、甲と乙のいずれもが真の発明者であることを主張しており、最終的に、請求項1と3については冒認出願を理由とした無効審決が確定しています。

特許無効審判では、特許権者(特許無効審判の被請求人)が真の権利者であることを立証する必要があります。しかしその一方で、特許無効審判の請求人は、冒認出願であることを裏付ける事情を具体的に指摘し、その裏付けとなる証拠を提出することが要求されています。

そのため、特許無効審判と特許権の移転請求とで、冒認出願であることの立証負担は大きく変わらないと思われます。

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