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特許無効審判について解説!他人の特許をなかったことにする方法

特許無効審判とは?

特許無効審判とはその言葉の通り、特許を無効にしてもらうための審判です。特許無効審判は特許庁に対して請求ができ、無効審決が確定すると、原則として特許は初めからなかったものとみなされます。

特許無効審判を請求する場面

特許無効審判の請求は、特許権者から特許権の侵害訴訟を提起されているか、または侵害訴訟の提起が予想される状況で行うことが多いです。

これは特許権侵害訴訟を提起された場合、特許を無効にすることで権利の侵害を免れることができるためです。

その一方で、特許無効審判が認められた場合、特許権者は特許の消滅という大きな損失を背負うことになるため、無効審判の請求人と被請求人(特許権者)は敵対関係となることが多いです。

無効審判にかかる費用、期間

特許無効審判では、拒絶査定不服審判よりもさらに多額の費用が発生します。

費用としては特許無効審判の請求から審決までで、100万円~200万円程かかることが多いです。またこの審決に対して取消訴訟を提起すると、さらに100万円以上の費用が必要です(300万以上かかることも珍しくありません)。

特許無効審判では、請求人と被請求人との間で互いの主張が全面的にぶつかることになり、相手方の主張のわずかなずれやミスを徹底的に突く、ということもよく行われます。

そのため特許無効審判で提出する書類は、審査段階で提出する書類よりもさらに慎重に作成する必要があり、書類作成料もより割高となるのです。

また特許無効審判は、審決までに1年近い期間を要することが多いです。さらに審決に対して取消訴訟を提起すると、追加で半年~1年以上の時間を要します。

特許をなかったことにするための、無効理由

特許を無効にできる根拠(無効理由)は、特許法で定められています。特許無効審判で頻出する無効理由としては、新規性・進歩性、実施可能要件、サポート要件、明確性要件の4つがあります。

新規性・進歩性

新規性・進歩性は、ほぼ全ての無効審判で主張される無効理由です。

特許権が認められるためには「新規性」「進歩性」という条件を満たさなくてはいけません。特許の場合、1000件程度の先行文献調査に基づいて、新規性・進歩性が審査されたうえで権利化されています。

しかし特許無効審判では、これらの先行文献と異なる文献に基づいて、新規性・進歩性違反を主張する、ということがよく行われています。

実施可能要件、サポート要件、明確性要件

権利化の際、それぞれの要件で以下のことが要求されています。

  • 実施可能要件…特許請求の範囲に記載された発明を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載すること
  • サポート要件…特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載されていること
  • 明確性要件…特許請求の範囲が明確であること

いずれの要件も、審査段階で審査官によってチェックされているため、上述の3要件違反で特許が無効になることはあまりありません。

ただし、これらの要件違反に対する特許権者の答弁などを利用することで、特許請求の範囲の解釈を変動させるようにすることも可能です。

特許無効審判の流れ

特許無効審判の大まかな流れは、以下のようになっています。

  1. 特許無効審判の請求
  2. 審判官による方式審理
  3. 被請求人への副本送達、被請求人の対応
  4. 口頭審理
  5. 審決

特許無効審判の請求

特許無効審判の請求は、審判請求書を特許庁に提出することで行われます。

審判請求書には、無効にする特許、無効理由、証拠を記載します。審判請求書の特徴として、記載量が非常に多く、場合によっては数十ページになることもあります。

特許権者側の対応

請求された特許無効審判について、審判官による方式審理が完了すると、被請求人(特許権者)に審判請求書の副本が送達されます。

このとき特許権者は、請求人の主張している無効理由に対して、

  • 訂正請求により、特許請求の範囲や明細書を訂正する
  • 補正せずに答弁書にて反論する

の、いずれかの対応を取る必要があります。

口頭審理

口頭審理は、書面では十分に言い尽くせない請求人や被請求人の主張を、審判官が直接聞く形式の審理です。

特許無効審判では、この口頭審理が、無効理由の有無における心証形成に大きく関与することが多いため、大変重要な審理です。

審決

審決では、請求人の請求を認める認容審決(特許を無効にする審決)、請求人の請求を棄却する棄却審決(特許は存続する)のいずれかがなされます。

もしも特許の請求項が複数ある場合、一部の請求項については認容、他の請求項については棄却、という審決がなされることもあります。

審決に対し不服を申し立てる

審決に対しては、請求人、被請求人のいずれも、不服を裁判所に申し立てることができます。この時、申し立てをする裁判所は東京にある知財高裁になります。

無効審判を請求した/された事例

無効審判を請求した/された事例として、吹き矢の矢事件の特許無効審判を紹介します。吹き矢の矢事件については、特許侵害訴訟の事例として以前紹介しておりますが、この特許侵害訴訟と並行して特許無効審判も請求されています。

特許権の侵害とは ~吹き矢の矢事件の事例に学ぶ~【現役弁理士解説】

本件における特許無効審判の時系列は、次のようになっています。

  • 令和2年12月11日  特許無効審判を請求
  • 令和3年6月11日  答弁書提出
  • 同年   9月22日  口頭審理
  • 令和4年2月9日  棄却審決
  • その後、審決等取消訴訟が提起
  • 令和4年11月16日  棄却判決

一方で、本件の侵害訴訟は、令和3年5月18日に東京地裁の判決(認容判決、侵害)、令和4年3月30日に知財高裁の判決(逆転判決、非侵害)が出ています。

吹き矢の矢の特許無効審判では、進歩性違反による無効理由の有無が争点となりました。そして、この特許無効審判では、無効理由の有無について争うために、約30個の証拠が提出されています。

先ほど、特許無効審判は非常に高額となると説明しましたが、その理由として、無効理由の有無を主張するための証拠を精査して提出する、あるいは、口頭審理の準備として、相手方がしてくるであろう質疑とその回答を事前に準備する、という作業が生じることが挙げられます。

また、この事件でも、無効審判の請求から審決までに1年2ヶ月かかっており、さらに審決等取消訴訟で9ヶ月かかっているため、合計で約2年間争っていることになります。

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