地域団体商標とは?メリット・デメリットや登録要件について徹底解説!
商標実務に携わっていなければ、「地域団体商標」を聞くのは初めての方もいるのではないでしょうか。
また実務に携わっていても、地域団体商標を扱った経験のある方は多くないと思います。
地域団体商標は地域ブランドによって地域経済の活性化を図りたいと考える事業者にとって重要であり、商標登録の必要性は高いです。
本記事では地域団体商標の理解を深めるために、制度の概要や登録要件、地域団体商標を普及啓発するための施策について紹介していきます。
地域団体商標制度とは?
地域団体商標制度とは簡単に言うと、「地域の名称」と「商品(サービス)の名称等」の組み合わせからなる商標を保護する制度です。
「地域の名称」と「商品(サービス)の名称等」の組み合わせからなる商標は、原則的に識別力が無いとして登録できません。
例外的に商標が「全国的に周知」ならば登録できるという規定はあるものの、これはかなりハードルが高いものです。また全国的に周知となる前の、他人による商標の便乗使用を防ぐのが困難でした。
このような問題を解消すべく、識別力の要件を緩和して商標登録を認める地域団体商標制度が設けられました。
地域団体商標の例
以下のとおり一度は聞いたことのある名称が、地域団体商標として登録されています。
- 「沖縄そば」(権利者:沖縄生麺協同組合)
- 「博多人形」(権利者:博多人形商工業協同組合)
- 「松阪牛」(権利者:松阪肉事業協同組合 他)
- 「なると金時」(権利者:全国農業協同組合連合会)
- 「今治タオル」(権利者:今治タオル工業組合)
地理的表示(GI)との違い
地域団体商標制度に似た制度として、地理的表示保護制度(GI制度)があります。
両制度はいずれも地域ブランドを保護します。
しかし、地域団体商標制度の規制手段は商標権者による権利行使であるのに対し、地理的表示保護制度の規制手段は農林水産省による取締りであるなど、細かな相違点がいくつかあります。
この相違点ついて特許庁が分かりやすく表にまとめていますので、以下に載せておきます。
引用元:特許庁「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」
地域団体商標のメリットとデメリット
次に地域団体商標のメリット・デメリットについて、それぞれ見ていきます。
メリット
- 通常の商標と同様、差止請求や損害賠償請求などの権利行使ができる。また他社へのライセンス契約(通常使用権の許諾)も可能。
- 特許庁から地域団体商標として登録されたというお墨付きを得ることで、地域ブランドの信用力の向上や商品・サービスの訴求力の向上につながる。
- 組合などの組織強化やブランドに対する自負が形成される。
デメリット
- 地域団体商標の商標権を譲渡できない。
- 専用使用権の設定ができない(通常使用権の許諾は可能)。
- 地域団体商標の出願前からその商標を使用している者は、先使用権により引き続き使用できてしまう。
専用使用権、先使用権とは
専用使用権と通常使用権は、いずれもライセンス契約により発生する、商標登録を使用させる権利です。
両者の大きな違いは、専用使用権には独占的な登録商標の使用が認められる点です。そのため専用使用権を設定した範囲については、商標権者であっても使用できません。
地域団体商標は後述する登録要件「2.地域団体商標を団体の構成員に使用させること」のように、団体やその構成員による地域団体商標の使用が前提となります。
専用使用権の設定を可能としてしまうと、団体やその構成員による登録商標の使用が制限されてしまうので、認められていません。
また先使用権とは簡単にいうと、未登録の有名な商標を保護する制度です。
しかし地域団体商標における先使用権には、第三者との利害のバランスの観点から、「有名な」という周知性の条件が課されないという特徴があります。
先使用権については、以下の記事で解説しておりますので、参考にしてください。
地域団体商標の5つの登録要件
次に地域団体商標が登録されるための要件を見ていきます。
- 商標法で定められている団体であること
- 地域団体商標を団体の構成員に使用させること
- その商標が使用された結果、一定の範囲で周知となっていること
- 地域団体商標が「地域の名称」と「商品または役務の普通名称など」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなること
- 地域団体商標の出願前から、商標中の地域の名称が商品(役務)と密接な関連性を有していること
1.商標法で定められている団体であること
例えば以下のような団体が挙げられます。
- 農業協同組合、酒造組合、商工組合等
- 特定非営利活動法人、商工会、商工会議所
- AやBに相当する外国の法人
一方、個人や法人格を有しない組合、一般社団法人、一般財団法人などは認められません。
2.地域団体商標を団体の構成員に使用させること
構成員に加えて団体自身が使用する場合であっても良いといわれています。
一方、団体のみが地域団体商標を使用し、構成員が使用しない場合は認められません。
3.その商標が使用された結果、一定の範囲で周知となっていること
周知性の程度については全国的な需要者の認識は必要なく、商品(サービス)の種類・流通経路等に応じた一定範囲の需要者に認識されていれば良いとされています。
この「一定範囲」は、商品やサービスの種類や流通経路などの個別事情で変動するものの、基本的には隣接する都道府県の範囲程度の需要者の認識が必要といわれています。
4.地域団体商標が「地域の名称」と「商品または役務の普通名称など」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなること
地域団体商標として登録を受けられる名称には、一定のルールがあります。
1.「地域の名称」+「商品(サービス)の普通名称」
例:〇〇メロン、〇〇いちご
2.「地域の名称」+「商品(サービス)の慣用名称」
例:〇〇織、〇〇温泉
3.「地域の名称」+「商品(サービス)の普通名称または慣用名称」+「商品の産地やサービスの提供場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字」
例:本場〇〇はまぐり
「普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる」とあるように、図形などと組み合わせた商標やロゴタイプの商標などは、地域団体商標として登録を受けることができません。
なお「地域の名称」は出願時の都道府県名や市町村名に限られず、「土佐」のような旧国名や旧地名、河川・山岳の名称、海域名など広い範囲の地理的名称が含まれます。
ちなみにパターン3の「商品の産地やサービスの提供場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字」は、例えば「特産」、「名物」、「名産」などが認められます。
一方「元祖」、「本家」、「特級」、「高級」は認められません。
5.地域団体商標の出願前から、商標中の地域の名称が商品(役務)と密接な関連性を有していること
商標中の地域の名称は、商品(サービス)と密接な関連性が必要です。
例えば商品の産地やサービスの提供場所、商品の製法が地域に由来している場合などが当てはまります。
なお地域団体商標の構成中の商品(サービス)名は、指定商品(指定役務)と一致させる必要があります。
例えば商標が「〇〇ぶどう」であれば指定商品は「〇〇産のぶどう」としなければならず、「〇〇産のぶどうジュース」を指定商品にはできません。
地域団体商標の検索方法
商標を検索するときには通常J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使います。
一方、地域団体商標については、特許庁が「地域団体商標検索ページ」という専用サイトを設けています。
このサイトはキーワード検索だけでなく、「都道府県」と「産品」をそれぞれ選択することで簡単に検索ができる仕様です。
例えば都道府県を「兵庫」、産品を「食肉・牛・鶏」と選択肢して検索すると、「神戸牛」など兵庫県内の地域団体商標が検索結果に表示されます。
地域団体商標ガイドブック
特許庁が開設しているサイトでは、地域団体商標の概要や活用事例などがまとめられた「地域団体商標ガイドブック」が掲載されています。
最新の地域団体商標が都道府県別に掲載されているだけでなく、「特許庁の6つの支援策」として専門家の紹介や外国出願の補助金などについても紹介されているのが特徴です。
地域団体商標カード(地団カード)とは?
「地域団体商標カード」とは地域団体商標の普及啓発を図るために、独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)が令和元年度より発行しているカードです。
現在約130種類のカードが発行されており、全国各地で入手することができます。
御朱印集めのような感覚で、全国各地を訪れた際に入手してみましょう。
まとめ
地域ブランドによって地域経済の活性化を図りたいと考える事業者にとって、地域団体商標の登録は必須といえるでしょう。
また登録するだけで満足するのではなく、上記で紹介したような地域団体商標カードを活用することで地域ブランドの認知度をさらに高めることができます。
本記事を読み返して、ブランド展開や実務に活かしてください。
知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。
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