不正競争防止法と商標法はどんな関係?商標の守り方
ブランド名やロゴマークといった商標を守る法律として、真っ先に思い浮かぶのは商標法だと思いますが、不正競争防止法でも保護されることをご存じでしょうか。
また商標が商標法と不正競争防止法によって保護されることを知っていたとしても、両者の関係性がイマイチ分からない方もいると思います。
そこで本記事では、不正競争防止法と商標法の関係性や商標登録の要否などについて紹介していきます。
不正競争防止法と商標法の概要
不正競争防止法と商標法の関係を知るにあたって、まずはそれぞれの法律の概要を見ていきましょう。
不正競争防止法
不正競争防止法とは簡単に言うと、事業者間の自由な競争を確保するための法律です。
不正競争の防止や損害賠償請求の措置等を通じて、事業者間の自由な競争の促進などを図り、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。
特定の行為を「不正競争」と定義づけ、その行為を規制することで知的財産を保護するのです。
この不正競争に該当する行為は、以下10個の類型に分けることができます。
不正競争となる行為 | 適用条文 |
---|---|
1.周知な商品等表示の混同惹起行為 | 2条1項1号 |
2.著名な商品等表示の冒用行為 | 2条1項2号 |
3.商品形態を模倣した商品の提供行為 | 2条1項3号 |
4.営業秘密に関する不正行為 | 2条1項4号~10号 |
5.限定提供データに関する不正行為 | 2条1項11号~16号 |
6.技術的制限手段に対する不正行為 | 2条1項17号、18号 |
7.ドメイン名の不正取得等の行為 | 2条1項19号 |
8.原産地等の誤認惹起行為 | 2条1項20号 |
9.信用毀損行為 | 2条1項21号 |
10.代理人等の商標冒用行為 | 2条1項22号 |
商標を保護する規定としては「1.周知な商品等表示の混同惹起行為」と「2.著名な商品等表示の冒用行為」があり、これらの規定を通じて商標を使用する者の業務上の信用の維持を図っています。
これらの行為をした場合は、差止請求や損害賠償請求等のペナルティが課せられるのです。
商標法
一方、商標法は簡単に言うならば、ネーミングやロゴマークといった商標を保護するための法律です。
商標の保護を通じて、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達への寄与と需要者の利益の保護を目的としています。
この商標の保護は、商標権の付与によって実現されます。
具体的には特許庁へ商標出願を行い、審査官の審査をクリアして商標登録がされることで商標権が発生するのです。
この商標権は独占的な権利であり、侵害する第三者は商標権者から差止請求や損害賠償請求等の権利行使を受けることがあります。
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不正競争防止法と商標法の関係
不正競争防止法と商標法の概要が分かったところで、次は両者の関係について見ていきます。
両者の共通点
両者のもっとも大きな共通点は、商標に蓄積された業務上の信用の維持を目的としていることです。
また同一・類似の範囲で他人の商標や商品等表示の使用を排除できる点や、差止請求・損害賠償請求のペナルティが課せられる点についても共通しているといえます。
両者の違い(相違点)
両者の大きな違いは、国家による権利の設定という行政処分の要否です。
すなわち不正競争防止法では、商標を保護するにあたって特許庁に特別な申請(商標出願)を必要としません。
これに対し商標法では、商標を保護するために出願を行い、特許庁による商標権の設定を要する点に違いがあります。
また不正競争防止法は保護される範囲が全国一律ではなく、ブランドの知名度によって変動します。
例えば、X社が営む「ABC」というラーメン屋が東京都内で広く知られているとします。
この場合、Y社が東京都町田市内でラーメン屋「エービーシー」を運営していたならば、X社によるY社への店名使用の差止請求は認められるでしょう。
しかしZ社が北海道内でラーメン屋「えーびーしー」を運営していても、X社の「ABC」は北海道内では無名のため、Z社への差止請求が認められないということが起きうるのです。
一方、商標法の場合は、商標登録されれば全国一律で商標の保護を受けられる点に違いがあります。
不正競争防止法の注意点3つ
不正競争防止法は商標を保護する強力な手段ですが、注意点も存在するので紹介します。
1.要件のハードルの高さ
不正競争防止法において商標を保護する「周知な商品等表示の混同惹起行為(2条1項1号)」と「著名な商品等表示の冒用行為(2条1項2号)」は、それぞれ以下のように規定されています。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
まず「1.周知な商品等表示の混同惹起行為(2条1項1号)」には、「需要者の間に広く認識されているもの」という文言が入っています。
つまり商品等表示に対して、いわゆる「周知性」が求められているのです。この周知性は、一地方レベルの知名度が必要とされています。
また「2.著名な商品等表示の冒用行為(2条1項2号)」には、「著名な」という文言が含まれています。
これは商品等表示に対して、「著名性」が求められているということです。著名性は、周知性よりも広い全国レベルの知名度が必要とされています。
このように周知性や著名性が求められる点で、不正競争防止法は要件のハードルが高いため、事業を開始して間もない場合は保護されない可能性があるので注意が必要となります。
2.原告側の立証負担の大きさ
不正競争防止法や特許法、商標法などにおいて損害賠償請求をする場合は、侵害者による「故意又は過失」が要件となります。
この点、特許法では以下の103条にて過失の推定規定が設けられており、商標法も39条で準用しています。
つまり特許法や商標法では、損害賠償請求で原告が被告の過失を立証する必要がないのです。
これに対して不正競争防止法では過失の推定規定が無いので、被告の故意又は過失を原告が立証しなければならず、負担が大きい点に注意が必要となります。
3.保護される範囲が全国一律ではない
先ほども解説したように、不正競争防止法で保護される範囲は全国一律ではありません。
ブランドの知名度によっては差止請求が認められないということも起きえるのです。
ブランドを保護するのに商標登録は必要ない?
前述のとおり、不正競争防止法は商標に蓄積された業務上の信用を維持する点で商標法と目的が共通しており、相互補完の関係にあるといえます。
しかし周知性や著名性というハードルの高い要件が課されていることから、不正競争防止法の訴えが失敗する可能性もあるのです。
この可能性を踏まえるならば、商品・サービス名などのブランドは商標登録が必要といえるでしょう。
商標登録をしておけば、不正競争防止法のように周知性や著名性を立証せずとも、商標権を侵害する第三者を排除することができます。
また過失の推定規定があることにより、訴訟時の立証負担が不正競争防止法よりも軽くなることが期待できるのです。
まとめ
不正競争防止法は商標法を補完する位置付けではあるものの、要件のハードルの高さなどを考えれば、頼り過ぎは危険です。
事業をスタートして間もない場合など商標の知名度が低いうちは、しっかりと商標登録することで商標を守ることをオススメします。
本記事を通して、商標の保護に活かしてください。
知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。
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