海外で商標を取る費用はどれくらい?米国弁護士&日本弁理士が解説!
外国商標入門において、海外に商標を出願する場合のルートとして以下があることを説明しました。
- パリルート出願
- 直接出願
- マドプロ出願
今回は、それぞれのルートで出願した場合の費用比較を行ってみようと思います。
費用計算のための前提
費用比較のための想定事例として、以下のような商標出願事例を想定します。
- 出願国:アメリカ、ヨーロッパ(EM)、中国
- 商標: 文字のみからなる商標(色なし)
- 類数: 9類、28類、41類
- 指定商品・役務:各類について5個
また、各ルートにおいて、以下が発生する場合には、比較のために以下の固定額として考えます(実際には変動要素が大きいので、以下の固定額はあくまで計算のための便宜上のものとなります。)。
- 日本出願費用:20万円(各ルートで日本出願を基礎とする必要がある場合)
- 日本弁理士仲介費用:20万円(出願/国別)、10万円(各中間)
- 現地代理人費用:30万円(出願/国別)、15万円(各中間)
日本弁理士及び現地代理人の費用については、いずれも登録成功報酬は発生しないものとの前提とします。
なお、概算によるおおよその比較を目的とするので、細々とした手続に係る費用(優先権主張の手数料等)については一旦は除外して考えてみたいと思います。
パリルート出願
1.アメリカの出願~登録までの費用
2.ヨーロッパの出願~登録までの費用
3.中国の出願~登録までの費用
4.パリルートの出願~登録までの総費用
1.アメリカの出願~登録までの費用
(1)出願
パリルート出願は、日本出願に対して優先権主張を行うものなので、その前提として日本出願費用が発生します(+20万円)。
また、現地代理人を介して米国特許商標庁(USPTO)に出願しなければならないので、現地代理人費用が発生します(+30万円)。
USPTOに対する手数料が350米国ドル(≒35,000円)(標準電子出願の場合)×出願類数(3類)なので、庁費用として105,000円を支払うこととなり、出願時点での総額は、60万5000円となります。
もしアメリカ出願において、日本弁理士に仲介を依頼する場合には、+20万円がかかることとなり、出願時点の総額が80万5000円となります。
(2)中間
出願されたものは全て方式審査・実体審査が行われます(つまり類区分の正しさや指定商品・役務の記載明確性に関する審査から、抵触する先行商標出願又は登録商標などの審査まで、フルの審査が行われる。)。
特に拒絶理由通知を受けることなく、登録となることができれば、中間段階では特に費用が発生しないことになりそうです。
しかしながら、拒絶理由通知を複数回受けることとなる場合には、その都度現地代理人費用の15万円、日本弁理士が仲介する場合にはさらに10万円が発生することとなります。
(3)登録
晴れて登録査定となった場合、USPTOは登録に際して登録料の支払を求めませんので費用は発生しないこととなります。
小括
以上からすると、以下のようになります。
・拒絶理由通知を受けない場合:
費用総額:60万5000円(日本弁理士が仲介する場合には80万5000円)
・拒絶理由通知を1回受けて登録となった場合:
費用総額:75万5000円(日本弁理士が仲介する場合には105万5000円)
2.ヨーロッパの出願~登録までの費用
(1)出願
アメリカ同様、優先権主張を行うので、前提として日本出願が必要となりますが、アメリカ分でカウント済みなので、ヨーロッパ単独として費用発生しません。
一方、アメリカ同様、現地代理人を介して欧州連合知的財産庁(EUIPO)に出願しなければならないので、現地代理人費用が発生します(+30万円)。
EUIPOに対する手数料が基本料(オンライン)=€850+2類目加算=€50+3類目以降加算=€150で、合計€1,050(≒138,000円)を庁費用として支払うこととなり、出願時点での総額は、43万8000円となります。
もしヨーロッパ出願において、日本弁理士に仲介を依頼する場合には、+20万円がかかることとなり、出願時点の総額が63万8000円となります。
(2)中間
ヨーロッパにおいては、実体的審査を行わない(つまり抵触する先行商標出願又は登録商標などの審査を行わない。)ですが、方式審査は行います(類区分の正確性、指定商品・役務の記載の明確性に関する審査を含みます。)ので、この点で方式拒絶理由通知が出される可能性があります。
特に拒絶理由通知を受けることなく、登録となることができれば、中間段階では特に費用が発生しないことになりそうです。
しかしながら、拒絶理由通知を複数回受けることとなる場合には、その都度現地代理人費用の15万円、日本弁理士が仲介する場合にはさらに10万円が発生することとなります。
(3)登録
晴れて登録査定となった場合、EUIPOは登録に際して登録料の支払を求めませんので費用は発生しないこととなります。
小括
以上からすると、以下のようになります。
・拒絶理由通知を受けない場合:
費用総額:43万8000円(日本弁理士が仲介する場合には63万8000円)
・拒絶理由通知を1回受けて登録となった場合:
費用総額:58万8000円(日本弁理士が仲介する場合には88万5000円)
3.中国の出願~登録までの費用
(1)出願
アメリカ同様、優先権主張を行うので、前提として日本出願が必要となりますが、アメリカ分でカウント済みなので、中国単独として費用発生しません。
一方、アメリカ同様、現地代理人を介して中国商標局に出願しなければならないので、現地代理人費用が発生します(+30万円)。
中国商標局に対する手数料が基本料(オンライン)=270元+2類目以降加算=270元×2で、合計810元(≒13,800円)を庁費用として支払うこととなり、出願時点での総額は、31万8000円となります。
もし中国出願において、日本弁理士に仲介を依頼する場合には、+20万円がかかることとなり、出願時点の総額が51万8000円となります。
(2)中間
出願されたものは全て方式審査・実体審査が行われます(つまり類区分の正しさや指定商品・役務の記載明確性に関する審査から、抵触する先行商標出願又は登録商標などの審査まで、フルの審査が行われる。)。
特に拒絶理由通知を受けることなく、登録となることができれば、中間段階では特に費用が発生しないことになりそうです。
しかしながら、拒絶理由通知を複数回受けることとなる場合には、その都度現地代理人費用の15万円、日本弁理士が仲介する場合にはさらに10万円が発生することとなります。
(3)登録
晴れて登録査定となった場合、EUIPOは登録に際して登録料の支払を求めませんので、超費用は発生しないこととなります。
小括
以上からすると、以下のようになります。
・拒絶理由通知を受けない場合:
費用総額:31万8000円(日本弁理士が仲介する場合には51万8000円)
・拒絶理由通知を1回受けて登録となった場合:
費用総額:46万8000円(日本弁理士が仲介する場合には76万5000円)
4.パリルートの出願~登録までの総費用
アメリカ+ヨーロッパ+中国ということで、以下のようになります。
・いずれの国でも拒絶理由通知を受けない場合:
費用総額:136万1000円(日本弁理士が仲介する場合には196万1000円)
・いずれの国でも拒絶理由通知を1回受けて登録となった場合:
費用総額:181万1000円(日本弁理士が仲介する場合には270万5000円)
直接出願
原理的には、パリルートと同じということになりますが、以下の点で異なります。
・日本出願が不要である(ー20万円)
・アメリカでは、「商業における使用」又は「使用意思」のいずれかを出願基礎とする必要があり(詳しくはアメリカ商標を参照)、前者であれば出願時に、後者であれば登録直前に使用証拠提出手続を行わなければならず、これが中間手続として、現地代理人費用が+15万円となる。
よって、パリルートとの差分でいえば、直接出願にしたところで、パリルートより5万円程度安い程度しか影響がない、といえるかと思います。
アメリカの使用証拠提出手続においても、日本弁理士を経由すれば、実質的にパリルートとほとんど差がないか、パリルートより5万円程度高い程度といえるでしょう。
マドプロ出願
1.国際段階
2.各国段階
3.各国での登録
4.マドプロルートの出願~登録までの総費用
1.国際段階
(1)出願
まずマドプロ出願を行うためには、日本での出願又は登録が必要となる(詳しくは外国商標入門及びアメリカ商標を参照)ので、その前提として日本出願費用が発生します(+20万円)。
マドプロ出願の場合、専用願書を受理官庁としての日本国特許庁に提出することになりますが、一般的には日本弁理士に代理してもらいますので、日本弁理士の報酬として+20万円が発生します。
庁手数料としては、以下を収める必要があります。
(a)日本国特許庁への費用:9,000円
(b)国際事務局への費用:以下の合計として477,000円
【内訳】
・色なし基本手数料(653スイスフラン)≒78,000円
・指定国手数料(100スイスフラン×3か国)≒36,000円
・追加手数料(類数が3まではなし)=0円
・個別手数料(アメリカ:460スイスフラン×3類、ヨーロッパ:897スイスフラン(1類目)+55スイスフラン(2類目)+184スイスフラン(3類以降)、中国:249スイスフラン(1類目)+125スイスフラン×2(2類目以降))≒363,000円
よって、出願時総額として、886,000円となります。
(2)中間
国際段階においては、実体的審査を行わない(つまり抵触する先行商標出願又は登録商標などの審査を行わない。)ですが、方式審査は行います(類区分の正確性、指定商品・役務の記載の明確性に関する審査を含みます。)ので、この点で方式拒絶理由通知が出される可能性があります。
特に拒絶理由通知を受けることなく、登録となることができれば、中間段階では特に費用が発生しないことになりそうです。
しかしながら、拒絶理由通知を複数回受けることとなる場合には、その都度日本弁理士費用の10万円が発生することとなります。
2.各国段階
無事に国際段階を通過し国際登録となった場合、指定国(この場合、アメリカ、ヨーロッパ、中国)に通知が行って、各国の審査が開始します。
各国で拒絶理由通知を受けた場合の扱いは、パリルートの各「中間」と同じで、現地代理人費用15万円(拒絶理由への応答については現地代理人を立てなければなりません。)、日本弁理士を介する場合にはさらに10万円が発生することになります。
3.各国での登録
各国での登録(厳密には保護確定といいます。)については、特に費用が発生しません。
4.マドプロルートの出願~登録までの総費用
以上をまとめると、以下のようになります。なお、国際段階で方式不備を受けることはあまり多くないので、国際段階での中間はなかったものと想定します。
・いずれの国でも拒絶理由通知を受けない場合:
費用総額:886,000円(現地代理人費用が発生しません)
・いずれの国でも拒絶理由通知を1回受けて登録となった場合:
費用総額:133万6000円(日本弁理士が仲介する場合には163万6000円)
おわりに
以上より、3か国に出願する場合には、途中で拒絶を受けたとしても、マドプロルートに軍配が上がるということになりました。
ただし、この結果は、日本弁理士や現地代理人の費用を、国のいかんを問わずに一律金額として計算しているため、実際のケースでは、類の数やマークの構成、指定商品・役務の内容、各国における先行出願・登録の有無によって、その金額は大きく変わってくることと思います(特に現地代理人の費用は、国によるばらつきが多いものと思われます。)。
あくまで参考情報としてお考えいただければと思います。
また、パリルート出願や直接出願の場合、日本弁理士を経由せずに、直接に現地代理人と手続を進めることも原理的には可能です。
しかしながら、外国語に堪能であったとしても、各国での商標や法律に関する専門知識の必要な手続において、現地代理人とコミュニケーションを図ることは、実際には大きな困難が伴われます。
費用節約のつもりで直接に現地代理人とやり取りをした結果、本来であればもっとよい権利取得や主張ができたのに・・となってしまうことも十分に考えられます。
知見のない海外だからこそ、日本語で意思疎通可能な商標・法律の専門家である日本弁理士に仲介してもらった方が、費用対効果が結果としてよいことも多いです。
海外商標については、具体的に見える金額の他に、対応上の手間・困難、それに伴われるリスクも踏まえた費用対効果で、費用問題を検討されることをお勧めします。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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