商標ライセンス契約ってなに?トラブルに発展しないために気をつけること
先日、「ゆっくり茶番劇」というYouTubeの商標ライセンスが話題になりました。
ニュースを見られた方の中には、
「商標ライセンスってなんだろう?」
「ライセンス契約でお金が取られるの?」
と思われた方もいるかもしれません。
知らない間にトラブルに巻き込まれてしまう可能性がある商標ライセンス(商標権)。
ここでは、トラブルに発展しないために気をつけることを解説します。
>>>「ゆっくり茶番劇」関連のトラブルについてはこちらで解説中
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商標ライセンス契約=ブランド力を守る
「どうしても商標を使いたいなら契約をしてください」というのが商標ライセンス契約です。
商標ライセンスとは、ブランドの価値である商標を守るもの。
簡単にいうと、「この商標は私のものです。勝手に使わないでください」という宣言です。具体的には、特許庁に商標とその用途を申請し、登録をすることで自分の大事な商標を守ります。
登録後に他社に商標を無断で使用された場合、「使用の取り消し」や「損害賠償請求」などの対応が可能になります。
商標を無償で提供する場合もありますが、多くの場合は有償です。この対価を「ライセンス料」、または「ロイヤリティ」といいます。
ライセンス料を払ってでもその商標を使いたい、というケースで商標ライセンス契約が行われます。
なおライセンス契約が終了するとその商標は使えなくなります。
商標とは
そもそも商標とはなんでしょうか?
商標法にはこのように書かれています。
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
引用:商標法2条
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
ちょっと難しく書かれていますが、商標をひとことで言うと「商売に使用するトレードマークやネーミング」です。
特許と大きく違うのは、「同じ名称でも用途が違えば商標登録ができる」ことです。
商標はブランド力の向上には欠かせません。
例えば、
- 「ウォシュレット®」といえば、TOTO
- 「チキンラーメン®」といえば、日清食品
- 「宅急便®」といえば、ヤマトホールディングス
このように、商標名を読みあげるとすぐに企業名が思い浮かんでくるもの。これが商標ライセンスの効果です。
気づかれた方もいるかもしれませんが、「®」は登録商標のマークを表しています。
このマークは身近なところでも目にしますので、気にかけてみると意外な発見があるかもしれません。
商標ライセンスの目的は?
商標ライセンス(商標権)のおもな目的は、「ブランド価値の有効利用」です。
例えば、
- 商標をユーザーに認知してもらい、自社のブランド力を上げる
- 自社のブランド名(商品名)を、他社にパクられないようにする
- 認知されている商標を他社に貸し出すことで、ライセンス料をもらう
などがあげられます。
ライセンス料ってなに?
ライセンス料とは商標を貸し出すことで得られる対価です。
ライセンス料の決め方はさまざまですが、おもに次の2つが一般的です。
- 出来高払い方式
- 固定額払い方式
1.出来高払い方式
売上額にライセンス料率を掛けた金額を支払うのが「出来高払方式」です。
ランニング・ロイヤリティともいい、商標が売り上げに貢献したからその対価を支払う、といった意味合いがあります。
ブランドにもよりますが、ライセンス料率はおよそ4%前後。1億円の売り上げがあった場合、ライセンス料を400万円支払うことになります。
また売上額に関わらず、最低保証金(ミニマム・ロイヤリティ)を支払うという条件を追加する場合も少なくありません。
2.固定額払い方式
固定の金額を支払う、ランプサム・ペイメントとも言われる方法です。
最初に固定額を支払うだけのパターンや、毎年一定額を支払うパターンなどがあります。
ブランドの種類や価値によって金額は異なります。
この方式は、安定してライセンス料を得られる反面、相手企業の売上額がどれだけ高くなっても、追加でライセンス料を受け取ることができないことがデメリットです。
出来高制と固定額制、どちらがいいの?
ケースバイケースですが、一般的には出来高払い方式が選ばれます。
相手会社が商標を借りる目的は、その商標の持つ「顧客認知度」や「信用」を利用して、売上げの向上につなげること。売上げUPの見込みがあれば、出来高払いのほうが利益が得られます。
そのため、出来高払い方式を選ぶケースが少なくありません。
では一方、固定額払い方式はどのようなケースで選ばれるのでしょうか?
たとえば「使っていない商標だから、他人に有償で使ってもらおう」というケースです。
じつは商標は、3年以上使用していない場合、取消請求されてしまう可能性があります。
出願・登録費用を回収しつつ、商標を取り消されないようにするための対策としても有効です。
商標ライセンス契約の事例を3つ紹介
ライセンス契約にはどのようなケースがあるのか、事例を3つ紹介します。
- 消えたヤマザキナビスコのオレオ、リッツ
- 話題にもなった「ゆっくり茶番劇」商標問題
- アイフォンのライセンス料は1億円?
消えたヤマザキナビスコのオレオ、リッツ
ヒットを続けている商品がある日突然、製造できなくなる…。想像するだけでもゾッとするような事例がこちらです。
2枚の円形チョコレートクッキーで甘いクリームを挟みこんだお菓子といえば、オレオ(Oreo)を連想される方が多いでしょう。
ちなみに、筆者の好きなお菓子のひとつでもあります。
このオレオは、1987年に日本のヤマザキナビスコという会社から発売され、「このおいしさ、世界記録」というキャッチコピーでも話題になりました。
30年近くもヒットを続けたオレオですが、2016年9月、米モンデリーズ・インターナショナルと結んでいたライセンス契約の終了とともに幕を閉じます。同時に社名も「ヤマザキビスケット」へと変更。
以降は、オレオやリッツ(Rits)などのナビスコブランド4商品は、モンデリーズの日本法人でもあるモンデリーズ・ジャパンから製造・販売されています。
ヤマザキビスケットは、この事態に負けじと後継商品を製造・販売。
オレオの後継「ノワール(Noir)」、リッツの後継「ルヴァン(Levain)」は、今でも主力商品としてヒットを続けています。
この商品が似ている背景には、商標ライセンスが関係していたんですね。
話題にもなった「ゆっくり茶番劇」商標問題
2022年5月、ネットを中心に話題が急浮上した「ゆっくり茶番劇」の商標問題。
この問題の焦点は、商標ライセンスを関係のない第三者が取得したことにあります。
ライセンス料として年間10万円を設定したことで、あらゆる方面に波紋が広がりました。
関係者の迅速な対応により、2022年6月には解決の動きを見せつつあります。
動画配信者や視聴者には10代の方も多く、商標ライセンスが幅広い世代に浸透した話題になりました。
この話題については、こちらの記事でも詳しく考察をしています。
アイフォンの商標ライセンス料は1億円?
iPhoneといえば、リンゴのマークでお馴染みのApple。
じつはこのiPhone(アイフォン)という商標。日本国内では、インターホン大手のアイホン社が所有しています。
Apple社は、日本でもこの商標を使うべく、2社の間で協議が行われました。
そして、2008年3月に下記のような発表がありました。
「アイホン株式会社(本社:名古屋市熱田区 代表取締役社長:市川 周作)は、Apple Inc.(以下 Apple社という本社:Cupertino,米国カリフォルニア州)と、Apple社の携帯電話「iPhone」(アイフォーン)の商標に関し、弊社が保有する国内および海外の商標権について交渉を行ってきました。このたび、両社は、日本国内においては弊社がApple社に使用許諾を、日本以外の地域においては両社の商標が共存することで友好的な合意に至りました。その他の契約内容については、公表できませんのでご了承願います」
引用:東洋経済ONLINE
ここではライセンス料には触れていませんが、その年間ライセンス料は1億円以上と言われています。
詳しく知りたい方は、こちらの記事でも解説しています。
まとめ
商標ライセンスについて解説しました。
筆者はオレオもノワールも好きですが、なぜ似てるのかまでは知りませんでした。
そしてYouTubeの商標問題やiPhoneのライセンス料などは、知財の中では比較的、身近に感じることができたのではないでしょうか。
身近に感じるということは、知らない間にトラブルに巻き込まれる可能性が高いということ。
この記事で、商標についての正しい知識に少しでも触れていただけたら幸いです。
自動車、航空機業界で設計エンジニアとして15年以上勤務。
業務で特許出願に関わったことから「知的財産」に興味を持つ。
じつは前職場で1件特許出願した経験あり。
今はWebライターとしても活動中です。
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