海外での商標登録のタイミングは?何を登録すべきかも解説します。
はじめに
昨今では、スマートフォンや無線技術の進展と浸透に伴い、スタートアップビジネスでも国境を越えることが極めて容易になりました。
- (1)ご自身のビジネスを振り返っていただき、主観的又は客観的に日本国外を対象としたビジネスになっていないか?を確認すること
- (2)なっているのであれば対象となる国の商標調査を行っておくべきであること
- (3)将来的な商標的安定性を確保するために、自身のネーミングについて対象国で商標登録を受けておくべきであること
の重要性を解説いたしました。
今回は、このうち(3)について、どのタイミング商標登録を受けるべきなのか?を解説します。
(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士)
商標登録の重要性
オンラインビジネスと海外商標の繰り返しになりますが、対象国で商標調査を行って、ご自身のネーミングが使用可能であることが分かっても、その使用可能性は、その調査時点限りのものであると申しました。
せっかく費用をかけて商標調査を行って、同時点では問題ないことを確認できていたとしても、その状態を固定化するためには、あなた自身がそのネーミングについて商標登録を受ける必要があります。
商標登録を行わないまま使用するリスクについては、オンラインビジネスと海外商標をご参照ください(第三者による差止、損害賠償請求、廃棄・除却の請求を受けるリスクがあり、せっかく考えたネーミングを手放すだけでなく、在庫を全て処分させられるリスクがあります。)。
何について商標登録を受けるべき?
ビジネスで用いられる標識としては、(1)会社名・屋号、(2)ロゴ、(3)商品名・サービス名、(4)キャッチコピーなどが挙げられますが、その個別の解説の前に、商標とは何か?について、今一度おさらいしたいと思います。
商標とは?
外国商標入門及びオンラインビジネスと海外商標では、商標制度とは、商標について生じる信用、顧客吸引力、ブランドを保護する制度であるとお話しました。
つまり、個々の標識を保護して言葉狩りのようなことを許す制度なのではなく、個々の標識について蓄積される信用、顧客吸引力、ブランドを保護する制度なのです。
とすると、その標識そのものについて、それの付された商品・サービスとあなたとを結びつける素質のあるものでなければなりません。
この素質のことを商標法においては、「識別性」と称しています。
識別性とは?
識別性をより具体的に説明すると、例えば、あなたは自身で育てたりんごを販売するビジネスをされているとしましょう。ここで、その商品たる「りんご」について、「りんご」という商品名や「おいしいりんご」という商品名をつけた場合を考えてみましょう。
「りんご」や「おいしいりんご」の表示を店頭で見ただけで、消費者は、これがあなたの販売するりんごであることを結びつけることができるでしょうか?その答えはできないですね。
商品りんごについて、「りんご」や「おいしいりんご」と言ったところで、他の人の販売する商品りんごと区別することができません。よってこのような表示には、識別性がない、ということになります。
では、あなたの商品りんごについて、例えば「紅美果」だとか「太陽」などと命名したり、完全なる造語を名前にした場合はどうでしょうか?りんごについて、「紅美果」や「太陽」という名前はあまり聞き慣れないので、その印象とあなたが販売者であるということが結びつきやすくなりますね?このような表示には、識別性の余地あり、ということができます。
識別性については、おおよそ多くの国で、
- 一般的(Generic)
- 記述的(Descriptive)
- 示唆的(Suggestive)
- 恣意的(Arbitrary)
- 造語的(Funciful)
の5段階にて捉えており、この順に識別性が強くなります。
多くの国で「一般的(Generic)」には識別性を認めていない他、「記述的(Descriptive)」についてもそのままでは識別性を認めていない(使用された結果認知を得たことを要する)実務になっています。
上の例でいうと、商品りんごについて「りんご」は「一般的(Generic)」であり、「おいしいりんご」は「記述的(Descritptive)」、「紅美果」は「示唆的(Suggestive)」(紅い美しい果実とは何となくりんごがイメージされますね)、「太陽」は「恣意的(Arbitrary)」(太陽とは天体を示す意味で、りんごに用いる人は通常いません。「恣意的」にそのように呼んでいるといえます。ただし、果物と太陽は親和性が高いので、業界慣行によっては「示唆的(Suggestive)」と評価することもできる場合もあります。)といえるでしょう。
以上からすると、「一般的(Generic)」や「記述的(Descritptive)」な表示については、あなたの商品・サービスについて第三者も原則として商標登録を受けられないので、商標登録を受けるべきなのは、商標として識別性を持ちうるもの、すなわち、あなたが商品・サービスについて使用している示唆的(Suggestive)、恣意的(Arbitrary)、造語的(Funciful)な表示ということができます。
ただし、識別性の判断は、専門知識を要しますし、また国・文化によってもばらつきがありますので、当該国の弁護士や弁理士に相談されることをお勧めします。
(1)会社名・屋号
以下では、ビジネスで用いられる標識それぞれについて考えていきたいと思います。
まず会社名・屋号については、結論から言って商品名・サービス名そのものとして使用しないのであれば、商標登録を受ける必要がない場合が多いです。
基本的に、会社名・屋号は、ビジネスを行っている人・会社などの主体を示すものです。あえて商品名・サービス名と使用しない限り、商品名やサービス名であると認識されることは考えにくいです。
気を付けておきたいのは、例えば「紅美果株式会社」という会社が、商品りんごについて「紅美果」の表示を用いているような場合には、会社の略称が商品名になっているため、この場合は「紅美果」について商標登録を受けることをお勧めします。
(2)ロゴ
会社のイメージを表すために、会社のロゴを作ったりする場合がありますが、会社ロゴは単に会社名とともに表示するのみで、商品・サービスの提供において表示しないのであれば、商標登録を受ける必要がない場合が多いです。
気を付けておきたいのは、会社名を伴わずに、会社ロゴ+商品名・サービス名で商品・サービスの提供を行う場合です。この場合、会社ロゴと商品・サービスの結びつきが強くなるので、会社ロゴについて商標登録を受けることをお勧めします。
一方、会社ロゴとは別に、商品・サービス専用のロゴを開発する場合があります。この場合の商品・サービスロゴは、商品・サービスとの直接の結びつきを示すものなので、商標登録を受けることをお勧めします。
(3)商品名・サービス名
これらは、商品・サービスそのものと直接の結びつきを示すものなので、識別性の余地があるものである限り、基本的には商標登録を受けることをお勧めします。
(4)キャッチコピー
キャッチコピーにも、ロゴ同様、会社のスローガンを表すキャッチコピーと、個々の商品・サービスの特徴を表すキャッチコピーの2種類があります。
会社名や会社ロゴ同様、会社スローガンを単に会社名とともに表示するのみで、商品・サービスの提供において表示しないのであれば、商標登録を受ける必要がない場合が多いです。
気を付けておきたいのは、会社名を伴わずに、会社スローガン+商品名・サービス名で商品・サービスの提供を行う場合です。この場合、会社スローガンと商品・サービスの結びつきが強くなるので、会社スローガンについて商標登録を受けることをお勧めします。
一方、商品・サービスのキャッチコピーについては、単にその特徴を文章として表したものなのであれば、「記述的(Descriptive)」であるとして、そもそも商標登録を受けられないものとなります。
よって、「記述的(Descriptive)」である場合には、そもそも商標登録を受けられないし、使用で認知度を獲得していたとしてもあまりメリットは多くないといえるでしょう。
しかしながら、「記述的(Descriptive)」に留まらない場合には、信用・顧客吸引力の蓄積の可能性ありということになるので、商標登録を受けることをお勧めします。
いつ商標登録を受けるべき?
以上のように、あなたの商品・サービスについて識別性を有する余地のある標識(つまり「記述的(Descriptive)」に留まらないもの)に関しては、一般にはその商品・サービスの提供対象となる国で、個々に商標登録を受けることをお勧めします。
では、どのタイミングで商標出願を行うべきでしょうか?
プレスリリースが原則
原則論としては、第三者による先取りを防止するために、「商品・サービスの提供開始に関するプレスリリースを行う直前」が最善と言わざるを得ません。というのも、プレスリリースを見て、先取りをしようという第三者が少なからずいるためです。
この場合、早すぎる出願も問題です。というのも、日本を含む多くの国では、出願と数日の差で、商標出願された商標を公にしているからです(公報という形で公開されるまでには数か月の時間がかかりますが、出願データ自体は数日後に出回る国も多いです。)。
新商品・サービスについて、あなたが正式にプレスリリースする前に、新商品・サービスの名称が公になってしまうのは問題であろうと思います。
商品・サービスの提供開始前
一方、予算の都合上、プレスリリース前の出願は難しいという場合もあるでしょう。
その場合、次に狙うべきタイミングは、「商品・サービスを実際に提供し始めるタイミングの直前」となります。
商標出願をすべきなのは、第三者が先に商標登録を受けて妨害することを防止するところに意義がありますが、あなたが商品・サービスの提供を行っていないのであれば、妨害のしようがありません。
また商品・サービスの提供前に、再度商標調査をして、第三者が既に当該ネーミングについて商標出願を行っている場合には、そのネーミングを変更することもできます。
その他
短期的商品のつもりで商標出願を行っていなかったが予定を変更して長期的に販売することとした場合や、そもそも商標出願をした方がよいことを知らずに、商品・サービスを提供していた、という場合もあるかと思います。
このような場合、第三者があなたのネーミングについて先に商標登録を受けていないことや、また受けていたとしてもあなたに対してクレームしてきていないことは、運がよかったと言わざるを得ないでしょう。
このような場合には、一刻も早く商標出願を行った方がよいことはいうまでもありませんが、今まで何も問題がなかった運の良さを捉えて、費用をかけて商標出願を行うことに躊躇があることもあるでしょう。
その場合には、もし今第三者からクレームを受けて、ネーミング変更・在庫処分を行うことが必要となっても、広告費・在庫費等の観点から事業として問題のない段階であるのか?を考えてみるとよいでしょう。
この答えがYesなのであれば、「問題」となる段階まではそのままにするという事業判断もできなくはないでしょう。
おわりに
今回は、何についていつ商標登録を受けるべきかについて解説しました。
商標は自社の事業やブランドを守る上で非常に重要な権利です。
しかし商標登録、特に外国への商標登録は、タイミングなどを含め複雑なので、しっかりと外国への出願に明るい弁理士へ相談しましょう。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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