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出願しても登録できない?商標の一般名称について解説します

世の中には、iPhoneで知られる「Apple」や、ビールで知られる「KIRIN」など、たくさんの商標が存在しています。これらの商標は特許庁による審査を経て登録されることで、第三者の使用を防止し、自社のブランドを保護することが可能となってます。

しかし商標登録を受けるためには、自分と他人の商品・役務を識別できる(自他商品等識別機構を有する)商標であることが要求されます。自他商品等識別機構を有しない商標には、自社のブランドとしての信用が化体しないため、商標法で保護すべき対象とならないからです。

ところで、自他商品等識別機能を有しない商標の一つとして、一般名称が知られています。今回はこの商標の一般名称について、解説します。

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商標における一般名称とは

商標法において一般名称という言葉は出てきません。そのため、一般名称とはこういうものだ、というはっきりした定義はないのですが、日常的には

  • 一般に使われている商標
  • ありふれた称呼として日常使われている商標
  • 商品の品質等を表すなど、自分と他人を識別することができない商標

のことを一般名称と呼んでいます。

一般名称と普通名称の違い

商標法には、「自分と他人を識別することができない商標(自他商品等識別機能を有しない商標)」について、商標登録を受けることができない旨の規定があります(商標法第3条)。そして、一般名称と普通名称のいずれも、この自他商品等識別機能を有しない商標に該当します。

一般名称と普通名称の違いは、この商標法第3条のいずれに該当するか、という点です。商標法第3条1項は、次のように規定されています。

第3条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

1号 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

2号 その商品又は役務について慣用されている商標

3号 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

4号 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

5号 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

6号 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

出典:商標法 | e-Gov 法令検索

普通名称とは、この3条1項1号に該当する商標を指しています。

他方、一般名称は3条1項1号から3号までを指している場合と、3条1項1号から6号までを指している場合があります。今回は、一般名称は、3条1項1号から3号までを指している商標として説明します。

一般的な名称は商標登録できるのか【要件別・具体例あり】

では、一般的な名称は商標登録することができるのでしょうか?例えば、「みかん」という商標は登録されないのでしょうか?あるいは「東京」という商標は登録されないのでしょうか?

これらの点について、商標法の各号と照らし合わせながら詳しく説明します。

  • 3条1項1号「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けられない
  • 3条1項2号「その商品又は役務について慣用されている商標」は商標登録を受けられない
  • 3条1項3号…その商品の産地など、又はその役務の提供の場所などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けられない

3条1項1号について

3条1項1号は、「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けられないという規定です。

それぞれのポイントを見ていきましょう。

「普通名称」

“普通名称”とは、その商品又は役務の一般的な名称を指しています。なので指定商品「みかん」について商標「みかん」を登録しようとしても、商標「みかん」は普通名称であるため、商標登録はできません。

しかし他の指定商品では、商標「みかん」はその指定商品の普通名称でないため、登録を受けることが可能です。

ちなみに”一般的な名称”には略称や俗称も含まれます。

「普通に用いられる方法で表示」

“普通に用いられる方法で表示”とは、一般的に使用されている書体及び構成、例えばローマ字や仮名文字で表示することを指しています。

ですから一般的に使用されていない当て字や、特殊なレタリングを施した場合、”普通に用いられる方法で表示”に該当しないと判断される場合があります。

「のみからなる」

“のみからなる”とは、例えば図柄と共に用いられる商標や、他の用語と組み合わされた商標は、普通名称に該当しないことを指しています。

該当する事例(登録できない例)

3条1項1号に該当する事例としては、次の事例があります。

【登録できない例】

  • 指定商品:電子計算機 商標:コンピュータ
  • 指定役務:美容  商標:美容

【略称に該当する事例】

  • 指定商品:スマートフォン 商標:スマホ

【俗称に該当する事例】

  • 指定商品:塩  商標:波の花

該当しなかった事例(商標登録できた例)

3条1項1号に該当しなかった事例としては、次の2つがあります。

①指定商品:雑誌  商標:NYLON

特許庁は、「NYLON」がデュポン社の著名な「NYLON」標章と同一又は類似するものであるとしても、現在はポリアミド系の合成高分子化合物の総称であるため、指定商品雑誌の普通名称であるとは言えず、3条1項1号に該当しないと判断しています。

②指定商品:電線及びケーブル,電気通信機械器具等  商標:ケーブルセレクタ

特許庁は、「ケーブルセレクタ」がアンテナ関連に使用される商品のうち「切換器」として使用されていることが認められるものの、この一例をもって、当該商品の普通名称であるとは言えず、3条1項1号に該当しないと判断しています。

3条1項2号について

3条1項2号は、「その商品又は役務について慣用されている商標」は商標登録を受けられないという規定です。

「その商品又は役務について慣用されている商標」とは、同業者間において一般的に使用されるに至った結果、自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなった商標をいいます。

該当する事例

3条1項2号に該当する事例としては、次の事例があります。

  • 指定商品:清酒 商標:正宗
  • 指定商品:カステラ 商標:オランダ船の図形(図形商標)
  • 指定役務:屋台における中華そばの提供 商標:夜鳴きそばのチャルメラの音(音商標)

該当しなかった事例(商標登録できた例)

3条1項2号に該当しなかった事例としては、次の事例があります。

指定商品:歯痛・頭痛薬 商標:ケロリン

特許庁は、商標「ケロリン」は頭痛薬として戦前から長期にわたって多数使用されており、自他商品等識別力を失っているため、文字商標としては3条1項2号に該当するとして登録を認めませんでした。

そこで出願人は、下のように、ケロリンの文字を含めた箱のデザインで商標登録を受けています(登録番号723099号

3条1項3号について

3条1項3号は、その商品の産地など、又はその役務の提供の場所などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けられないという規定です。

こちらも、要点を順番に見ていきましょう。

「その商品の産地など」

その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期、数量若しくは価格

「その役務の提供の場所など」

役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期、数量若しくは価格

「商品の産地や販売地、役務の提供の場所」

国名、都市名、湖沼、山岳、河川、公園等。過去に使用されていた国名や都市名なども含む

さらに、商品の形状や、役務の提供の用に供する物の形状にすぎない場合には、その商品の形状又はその役務の提供の用に供する物に該当します。

「普通に用いられる方法で表示」については、3条1項1号と同様に、一般的に使用されている書体及び構成による表示が該当します。

また、「のみからなる」商標には、商品又は役務の特徴等を表示する2以上の標章からなる商標も、原則として含まれます。

該当する事例

3条1項3号に該当する事例としては、次の事例があります。

  • 指定商品:書籍 商標:商標法
  • 指定商品:録音済みのコンパクトディスク 商標:クラシック音楽
  • 指定役務:放送番組の制作 商標:ニュース

該当しなかった事例(商標登録できた例)

3条1項3号に該当しなかった事例としては、次の事例があります。

①指定商品:加工食料品 商標:カライーカ(商標登録第5690978号)

本件は、商標に「カライ」が含まれているものの、「カライーカ」は特定の意味を有する言葉でないため、商品の産地などを表示する商標でないとして登録されたものと思われます。

②指定商品:洋服,コート等 商標: (商標登録第704086号)

本件は、Tokyoの文字の後ろに記号を付すことで、商品の産地などのみからなる商標でないと判断され、登録されたものと思われます。

登録後の普通名称化について

普通名称化とは、商標登録出願の審査段階では普通名称に該当しなかったものの、登録後、不特定多数の者に使用されることで商標の自他商品等識別機能を失い、その商品の普通名称として一般的に認識されるようになることをいいます。

普通名称化する商標の特徴としては、

  1. 自社で大々的にその商標を使用する
  2. 多数の者が知っている商標となる
  3. あまりにも著名になりすぎた結果、指定商品において他の商標が知られていない状態となる
  4. 登録商標が普通名称化する

という流れがあります。

そして商標が普通名称化した場合、第三者が商標権を侵害する行為をしたとしても、差止請求や損害賠償請求等の権利行使が認められなくなります

そのため商標権者は、登録商標が著名な商標となった場合、その商標が普通名称化しないように対応する必要があります。

普通名称化を防ぐには

普通名称化を防ぐ手段として、商標が登録商標であることを積極的に示す方法があります。具体的には、商品の包装やパンフレット等に、「…は△△社の登録商標です」という記載や、登録番号を付すことなどが挙げられます。

また他者が商標権を侵害する行為をしたとき、商標権侵害の警告や訴訟を行って第三者の使用を防ぐことも、普通名称化の防止に対して重要な行為となります。

普通名称化した商標の取り扱い

登録商標が普通名称化した場合、この登録商標は、指定商品・役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標となるため、商標法第26条の規定により、商標権の効力は及ばなくなります

そのため、第三者が商標権を侵害する行為をしたとしても、商標法第26条の規定に基づく商標権の効力の制限により、差止請求や損害賠償請求等の権利行使が認められなくなります。

普通名称化した商標の一覧

普通名称化した商標を4つご紹介します。

1.指定商品:胃腸用丸薬 商標:正露丸 (登録商標第545984号)

正露丸は、大幸薬品株式会社の登録商標です。そして、昭和34年に商標登録され、令和5年時点で存続しています。

しかし「タカダ正露丸」、「まつやセイロ丸」、「日新正露丸」等、商標「正露丸」を付した多数の商標が、複数の会社によって使用された結果、この正露丸は普通名称化されています。

そのため大幸薬品株式会社は、第三者の「正露丸」の使用に対して、商標権の侵害ではなく、不正競争防止法上の不正競争であるとして訴訟を行うことで、ブランドの保護を図っています。

2.指定商品:うどんめん、うどんめんを主材にした 加工食料品 商標:うどんすき (登録商標第553621号)

うどんすきは、株式会社美々卯の登録商標です。

うどんすきが普通名称と判断された事案において裁判所は、他者の商標「杵屋うどんすき」のうち、「うどんすき」は、『うどんを魚介 類、鶏肉、野菜、その他の具と合わせて食べる鍋料理の一種』として一般に認識され、普通に使用されているため、普通名称に該当すると判示しています。

3.指定商品:葡萄,葡萄の種子 商標:巨峰 (登録商標第472182号)

巨峰は、株式会社日本巨峰会の登録商標です。巨峰という名称はもともと品種名ではなかったのですが、品種名として長年使用されることで、葡萄の品種名として普通名称化しました。

現在では国語辞書にも、「ブドウの一品種。実は黒紫色で大粒。昭和17年(1942)大井上康がアメリカ系とヨーロッパ系とを交雑して作出。商標名。(出典:デジタル大辞泉)」との記載がなされており、商標としての自他商品等識別機能は失われているといえます。

4.指定商品:すし等 商標:招福巻 (登録商標第2033007号)

招福巻は、株式会社小鯛雀鮨鮨萬の登録商標です。

招福巻は、全国のスーパーマーケットや寿司店が複数年にわたって節分用巻き寿司に使用することで、普通名称化しました。

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