商標の早期審査をするメリット・デメリット、申請時の注意点を解説
商標の早期審査とは【審査期間、申請件数】
商標の早期審査とは、一定の要件の下、出願人からの申請を受けて通常よりも早く審査をする制度をいいます。
早期審査を申請した場合、審査待ちの期間は平均して申請から約2ヶ月です。通常審査では審査待ちの期間は出願から約8ヶ月程度であるため、早期審査の申請により、平均で約6ヶ月短縮することが可能です。
早期審査制度は追加費用なしで申請できるため、申請件数は近年増加しています。
早期審査の件数は2015年時点で約2,000件でしたが、2019年では約8,000件に増加しています。2019年の商標登録出願数が約19万件であるため、出願した商標の約4%が早期審査を申請していることになります。
なお商標には、出願から約6ヶ月で最初の審査結果通知を行うことで、通常よりも審査期間を短縮できるファストトラック制度がありましたが、令和4年度で廃止となりました。
早期審査をするメリット
早期審査をすると、出願から審査結果を得るまでの時間を通常の審査よりも短縮することができるため、次のメリットがあります。
他人に対して、より早く商標権に基づく権利行使ができる
商標権者は、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に使用している者に対して、差止請求や損害賠償請求をすることができます。
そのため、自社の出願した商標が他人に使用されている、という状況では、早期審査を請求して早期に商標権を取得することで、他人による登録商標の使用をよりスピーディーにやめさせることができます。
早期に審査結果を知れる
商標登録の有無により使用をするネーミングを変える場合には、早期に結果を知ることが事業をするうえで重要となります。
というのも、万が一商標登録を受けられなかった場合に、ネーミングの変更や、変更に伴うパンフレットの作成などで、相応の費用が生じるからです。
早期審査をするデメリット
早期審査は後述する一定の要件のもと、認められます。しかしながら要件を満たさない場合、例えば、出願した指定商品・役務の一部を使用していない等の場合には、使用している指定商品・役務に限定するよう求められることがあります(限定を求められない場合もあります)。場合によっては、権利範囲が狭くなってしまうのです。
この場合には、早期審査の対象とならない商品・役務について分割出願をすることで、商標登録を受けることが可能となります。
早期審査の対象になる商標
早期審査の対象となる商標は、特許庁のホームページにも示されているように、以下の3つのいずれかに該当する商標です。
- 出願人又はライセンシー(出願人等)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、権利化について緊急性を要する場合
- 出願人等が、出願商標を既に使用している商品・役務(又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務) “のみ” を指定している場合
- 出願人等が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、「類似商品・役務審査基準」等に掲載されている商品・役務 “のみ” を指定している場合
いずれも、既に出願した商標を使用している、または使用の準備を相当程度進めていることが条件となります。
ここで言う「出願商標の使用の準備を相当程度進めている」とは、対外的に出願商標の使用に向けて動き始めていて、使用することが確実視される場合等、「使用」とほぼ同等と認められる場合を指します。
具体的には
- 出願商標を使った商品・役務のカタログ等の印刷を発注した
- 出願商標を商品・役務に使用する予定であることが報道された
等が該当します。
なお出願した商標と類似する商標を使用したとしても、早期審査の対象にはなりません。
指定商品・役務の一部を使用している場合の審査対象
出願人等が出願した商標の指定商品・役務のうち、一部については使用しているものの、使用していない指定商品・役務もある場合には、権利化について緊急性を要することが条件となります。
例えば、出願した商標の指定商品・役務が、「第1類:肥料」、「第3類:せっけん」、「第5類:除草剤」であったにも関わらず、せっけんにしか出願した商標を使用していない際は「緊急性を要する」が条件になるのです。
緊急性を要するか否かは、1~5のいずれかに該当するか否かにより判断されます。
- 第三者が出願商標を無断で使用(又は使用準備)している
- 出願商標の使用(又は使用準備)について第三者から警告を受けている
- 出願商標について第三者から使用許諾を求められている
- 出願商標について日本以外にも出願中である
- 早期審査の申出に係る出願をマドプロ出願(国際出願)の基礎出願とする予定がある
またこの場合の指定商品・役務が、特許庁の「類似商標・役務審査基準」等に記載されている商品・役務のみを指定している場合には、これらの1~5に該当しなくても、早期審査を受けることができます。
ただし「類似商品・役務審査基準」等の表示と少しでも異なる商品名(役務名)の場合は対象にならず、削除する補正を要求される点に注意する必要があります。
指定商品・役務の全部を使用している場合の審査対象
出願人等が指定商品・役務の全部を使用している場合には、先ほどの「緊急性を要する要件」は不要です。
ただし指定商品・指定役務のなかに、証拠書類により出願商標の使用等が確認できない商品・役務が含まれている場合には、その商品・役務を削除する補正が必要となります。
早期審査で必要な書類
早期審査では、「早期審査に関する事情説明書」の提出が必要となります。事情説明書については特許庁で用意されているものを使用します。
事情説明書の提出は出願と同時である必要はありませんが、出願と同時、もしくは出願後速やかに提出することが望まれます。
事情説明書に記載する事項
事情説明書に記載する事項は、こちらの2つです。
- 商標の使用証明
- 緊急性の要件が要求されている場合には、緊急性に関する証明
商標の使用証明については、以下の3つが客観的にわかる資料を提出する必要があります。
- 使用している商標
- 上記1の商標が使用されている商品・役務
- 上記1の使用者が出願人等であること
1,2は例えば、商標を付けた商品を撮影した写真、パンフレット又はカタログ、広告やウェブサイトの画面の写し等が該当します。
また3については、商品パッケージに記載された販売者情報を撮影した写真や、ウェブサイトの運営者に関するページの写し等が該当し、これらを資料として提出する必要があります。
また緊急性に関する証明については、以下の資料の提出が求められます。
- 第三者が、出願商標を無断で使用している場合には、第三者が使用している商標、第三者が商標を使用している商品・役務、使用者が第三者であることを証明する資料
- 出願商標の使用について、第三者から警告を受けている場合には、出願商標を指定商品・役務に使用することについて警告を受けていること、警告を発した者が第三者であることを証明する資料
- 出願商標について、第三者から使用許諾を求められている場合には、出願商標を指定商品・指定役務に使用することについて、使用許諾を求められていること、使用許諾を求めている者が第三者であること、使用許諾を求められている者が出願人であることを証明する資料
- 出願商標について、出願人が日本以外の特許庁又は政府間機関へも出願中である場合 には、外国へ出願した商標が、日本における出願商標と同一であること、外国への出願に係る指定商品・指定役務に、日本における出願に係る指定商品・役務の少なくとも一部が含まれていること、外国へ出願した出願人が、日本における出願人と同一であることを証明する資料
- 出願人が、早期審査の申出に係る出願を、マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願 の基礎出願とする予定がある場合には、出願商標について、マドリッド協定議定書に基づき国際登録出願を行う意思、国際登録出願の出願予定を証明する資料
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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