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ゲームソフトにまつわる著作権訴訟について解説します

最近、ゲームにまつわる著作権訴訟がニュースで取り上げられています。

ゲームソフトの著作権では、キャラクターの模倣は著作権侵害に該当することがある、ということは知られていますが、それ以外の行為も著作権侵害となることがあります。

今回は、20年ほど前の少し古い判例ですが、著作権判例として有名な事件を紹介します。

【基礎知識】ゲームソフトは映画の著作物

まず、ゲームソフトが何の著作物に該当するか、という問題があります。著作権法第10条1項には、著作物について以下の例示がなされています。

  • 小説等の言語の著作物
  • 音楽の著作物
  • 舞踊又は無言劇の著作物
  • 絵画等の美術の著作物
  • 建築の著作物
  • 地図等の著作物
  • 映画の著作物
  • 写真の著作物
  • プログラムの著作物

ここで、「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする、とされています(著作権法第2条3項)。

そのため、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現された」ゲームは映画の著作物として保護されています。

その一方で、静止画面が多く、ストーリー性のないゲームの場合は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていないとして、映画の著作物として保護されないこともあります。

ときめきメモリアル事件とは

ときめきメモリアル事件とは、恋愛シミュレーションゲームとして販売された『ときめきメモリアル』において、主人公のパラメータを改変する行為が著作権侵害に該当するか、争われた事件です。

『ときめきメモリアル』は、1990年代に販売開始されたゲームであり、プレイヤーは男子高校生を操作して、卒業式の日に意中の女子生徒から告白されることを目指すゲームです。

そして、この告白には主人公のパラメータが影響しており、パラメータを上げるためにプレイヤーはゲーム内で様々なイベントを行います。

本訴訟は、スペックコンピュータが改変セーブデータを格納したメモリーカードを販売したことで起きました。このメモリーカードを使うと、本来パラメータ値が低い状態でゲーム開始となるところを、ゲーム内イベントによるパラメータ値上昇がいらないほど高い数値でゲームを始められました。

一見すると、主人公のパラメータを改変する行為が、なぜ著作権侵害になるのか、という疑問も生じるかもしれません。

実際、地裁(第1審)では著作権侵害は認められず、高裁(控訴審)で著作権侵害が認められた後、最高裁の棄却により著作権侵害が確定したことから、かなり解釈の難しい判決となっています。

裁判での争点

裁判での主な争点は、以下の2つです。

  • 本件のゲームソフトが映画の著作物に該当するか
  • パラメータの改変が著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか

本件のゲームソフトについては、地裁、高裁、最高裁のいずれも、映画の著作物に該当すると認定されました。

その一方で、同一性保持権の侵害については、地裁では認められず、高裁と最高裁で認められ、最終的に同一性保持権の侵害が確定しました。

判決

【映画の著作物について】

本件ゲームソフトが映画の著作物に該当するか、という点については、地裁において、

通常の映画と比べて映像の連続的な動きという点では格段に劣るものではあるが、一応「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている」(著作権法二条三項)ということができる

引用:大阪地方裁判所 平成8(ワ)12221

とし、映画の著作物に該当すると認定しています。

また、高裁も映画の著作物について同様の認定をしています。最高裁ではこの点について特に言及していないため、映画の著作物について高裁からの変更はありません。

【同一性保持権について】

まず同一性保持権とは著作者人権権の1つであり、自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利です(著作権法第20条1項)。

地裁では、意中の女子生徒からの告白は、本件ゲームソフトが予定している多種多様なゲーム展開のうちの一つとして当然予定されているため、パラメータの改変は著作者の意に反する改変でないとして、同一性保持権の侵害が認められませんでした

その一方で高裁と最高裁において、パラメータの改変は、制作者が初期設定の数値によって表した主人公の人物像を変化させ、ゲーム展開の表現を変えるものであるため、同一性保持権の侵害が認められました。

似て非なる事件~三國志Ⅲ事件~

このときめきメモリアル事件と同じく、映画の著作物に該当するか否か?と同一性保持権の侵害可否が争われたゲームソフトの事件があります。俗に言う「三國志Ⅲ事件」です。

『三國志Ⅲ』は歴史シミュレーションゲームであり、プレーヤーは任意の武将を選び、武将を集めながら中華統一を目指すゲームです。また、武将の能力はパラメータで定められています。

本件でもときめきメモリアル事件同様、第三者によって、武将の能力パラメータを通常より高く設定できるプログラム入りフロッピーディスクが本の付録として頒布されました。

三國志Ⅲ事件では、ゲーム画面の多くが静止画面であるため、映画の著作物に該当しないと認定されました。

また同一性保持権についても、武将のパラメータが変わることによって、ゲームのストーリーがどのように改変されるに至るのか明らかでないとして、侵害が否定されました。

中古ゲーム事件とは

中古ゲーム事件とは、中古ゲームソフトが映画の著作物に該当するか、また、この中古ゲームソフトの販売が、著作権の一つである頒布権の侵害に該当するかについて争われた事件です。

映画の著作物の場合、複製物を頒布(販売・貸与など)する権利(頒布権)が著作権法上認められています(著作権法第26条)。

しかし、映画の著作物については、複製物を頒布した後の権利消尽について規定されていないため、複製物を頒布した後であっても、著作権を行使することが可能であるとの解釈がなされています。

ただ、映画の著作物で頒布権が消尽しない理由としては、複製品の数次にわたる貸与を前提とする映画配給の制度が影響しており、ゲームソフトにこの消尽規定をそのまま適用するべきか、という点が問題となりました。

裁判での争点

裁判では、以下の点が争われました。

  • 本件ゲームソフトが映画の著作物に該当するか
  • 著作権者が頒布権を有するか
  • 頒布権は消尽するか

裁判所はゲームソフトがロールプレイングゲームであることから、映画の著作物であると判示されました。また、本件が映画の著作物である以上、著作権者は頒布権を有すると判示されました。

その一方で、頒布権の消尽については、中古ゲームソフトの事情に鑑み、次のように判示されました。

判決

判決では、新品のゲームソフトは1回頒布することで頒布権が消尽するため、中古ゲームソフトの販売は頒布権の侵害に該当しないとの判決がなされました。頒布権が消尽するとした理由は、次の通りです。

  • 著作物またはその複製物について譲渡を行う都度、著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害される。
  • 著作権者は著作物または複製物を譲渡するにあたって譲渡代金を取得し、または使用料を取得でき、その代償を確保する機会は保障されている。

まとめ

ゲームソフトが映画の著作物に該当するか否かは、ゲームのストーリー性や、連続的な動きの有無により、個別に判断されます。したがって、映画の著作物に該当しないゲームソフトもあるという点に注意する必要があります。

また、同一性保持権の侵害の有無については、ゲームストーリーの改変が行われているか否かが判断の対象となるため、ゲームの内容によって判断が変わる可能性があることに注意する必要があります。

このように、ゲームソフトと著作権との関係は、事案に応じて結論が変わることもあるため、今回挙げた事案のような事件が起きた場合には、専門家に問い合わせることがよいと思われます。

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