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重要判例!青色LEDの裁判から職務発明の課題まで知財部が解説!

職務発明 事例

前回は職務発明制度職務発明導入に際し企業が気を付けるべきポイントを解説しました。そして会社と従業員の間のトラブル事例として、青色LEDの裁判例を紹介しました。

→ 特許は誰のもの?知財部が職務発明制度をわかりやすく解説!

今回は「青色発光ダイオード訴訟」で実際にどのような議論がなされたか、詳しく解説します。

<この記事で分かること>
青色LED訴訟の詳細
・過去の職務発明の法改正のポイント
・企業としてすべき職務発明への対応

青色LED訴訟

訴訟の経緯

本事件はノーベル物理学賞受賞者である中村修二氏が、元勤務先である日亜化学工業(以下、日亜化学)を相手にして起こした裁判です。発明の帰属と発明の譲渡に対する補償について争ったもので、補償金の額が200億円と高額でした。そのため、企業からの注目も高い裁判となりました。

裁判例の原文は裁判所ホームページから以下のとおり確認できます。

→ 平成13年(ワ)第17772号 特許権持分確認等請求事件 中間判決

当時の特許法35条

特許法35条の職務発明は平成16年と平成27年に改正がされ、現在では会社と従業員との利益調整が図られたものになっています。では、中村氏が裁判を起こした当時の法律はどんな内容だったのでしょうか?

特許庁ホームページにある平成16年の特許法改正の資料に改正前の35条の内容が掲載されています。

→ 参考:平成16年法律改正(平成16年法律第79号)

平成16年改正の前は、勤務規則などで従業者が使用者に権利を渡す場合、「従業者は相当の対価の支払を受ける権利を有する」と規定されています(35条3項)。一方で、対価の額は「使用者が受けるべき利益の額、使用者が貢献した程度を考慮して定めなければならない」と規定されています(35条4項)

特許庁が出している法改正の解説を見ていると、時代背景としては従業員よりも会社の方が力が強く、会社が一方的に勤務規則で発明対価の額を決めていることもあったようです。そんな中、発明対価の額について会社に異議を申し立てるという行動はとても勇気の要る行動だったのではないでしょうか。

→ 参考:職務発明規定の見直し

原告(中村氏)の請求

中村氏は日亜化学に在職中、青色LEDに関する特許を100件近く出願していたようですが、特許第2628404号(通称404特許)のみが「日亜化学が圧倒的な競争力を誇る高輝度LED及びLDに貢献している」と主張しました。そのような重要特許であったにも関わらず、その対価として会社が中村氏に支払った金額は出願時に1万円、登録時に1万円の計2万円でした。

ノーベル賞級の発明対価が2万円と言われ、発明者としては納得できなかったようですね。特に中村氏は会社から反対されつつも青色LEDを開発していたようですので、自分の力で発明したという思いも強かったのかもしれません。

中村氏は具体的に以下の内容を日亜化学に請求しました。

  • 本特許は中村氏から日亜化学には承継されていない。特許権の一部(1/1000)を中村氏へ移転し、不当利得の返還として1億円を請求する
  • 仮に、職務発明として日亜化学に承継されているとした場合、相当の対価として20億円を請求する

被告(日亜化学)の主張

日亜化学も手順を踏んで出願をしていましたので、以下のように反論しました。

  • 勤務規則を制定しており、中村氏の職務発明も本規則が適用され会社に譲渡されている。本規則にしたがって合計2万円の報奨金を支払った
  • 中村氏は特許を受ける権利を日亜化学へ譲渡する内容の譲渡証に署名している。

裁判所の判断

両者の主張から主な争点は以下のとおりです。

  • 中村氏の発明が職務発明なのか
  • 特許を受ける権利は会社に譲渡されていたのか
  • 支払った対価の額は適切か

まず、中村氏の発明は「職務発明」であると認定されました。会社に反対されていたとはいえ、会社の設備や他の従業員の補助もあって発明を完成させたためです。

次に、特許を受ける権利も会社に譲渡されていたと認定されています。勤務規則に職務発明の取扱いが規定されており社員にも認識されていたこと、譲渡証に署名していたこと、中村氏が報奨金を受け取っていたこと、などが考慮されたようです。

ここまでが中間判決の内容ですが、概ね会社の主張が採用されていますね。しかし、驚くべきは終局判決で出た対価の額です。

→ 平成13年(ワ)第17772号 特許権持分確認等請求事件 終局判決

1つの発明で200億円!

結論を先に言ってしまいましたが、中村氏の青色LEDの発明の対価として200億円を日亜化学が支払えという判決が出ました!しかも200億円というのは、対価の一部であり、全体としては604億3,006万円の請求権が認められたのです。対価額の算定方法は以下のとおりです。

まず「使用者が受けるべき利益」として、その発明を特許権で独占して得られる利益(独占の利益)を算出します。この事件の場合には、日亜化学の青色LED等の売上額が1兆2,086億127万円でした。そして、この売上額の半分を404特許が保護しており、他社にライセンスする場合には20%の実施料が見込めるとされました。したがって、独占の利益は1兆2,086億127万円×1/2×0.2=1208億6012万円となりました。この独占の利益に発明者の貢献度を掛けたものが発明の対価となります。

次に「発明者の貢献度」ですが、ここで会社に反対されても研究を続けた状況が考慮されました。その結果、一般的な職務発明では5%程度が相場のところ少なくとも50%が貢献度として認められました。

したがって404特許の職務発明として相当の対価は、独占の利益×貢献度=604億3,006万円となりました。裁判所はその一部請求として200億円の請求を中村氏に認めました。

和解による裁判の終結

その後、両者は東京高等裁判所でも争いましたが、裁判所から「和解についての当裁判所の考え」という和解勧告文が出されました。そして404特許だけでなく他の特許やノウハウの貢献、他社とのクロスライセンスの事実、会社の貢献度見直しなどを考慮し、約6億円まで発明の対価が減額されました。

職務発明の法改正

この青色LED訴訟以外にも職務発明に関する訴訟が起ったこともきっかけとなり法改正がなされ、職務発明のルールが以下のように整備されてきました。

平成16年改正

従来は一方的に会社が職務発明規定を設け、従業員は従うしかなったという状況でしたが改正によって「会社と従業員との協議の状況、対価決定基準の開示の状況、従業員からの意見聴取の状況などを考慮して不合理であってはならない」旨が規定されました。対価算出基準の策定に関し、会社と従業員の協力を促しています。

また、「対価の額は会社が受けるべき利益の額、会社が行う負担貢献、従業員の処遇などを考慮して定めなければならない」旨も規定されました。これにより企業はどのような要素で対価の額が判断されるのか予測しやすくなりました。

→ 参考:職務発明規定の見直し(平成16年改正)

平成27年改正

これまでは発明者に特許を受ける権利が帰属していましたが、勤務規則等で初めから会社に帰属させることができるようになりました。これにより手続きの簡素化ができ、発明者が別の企業に譲渡してしまう(二重譲渡)などのリスクも無くなりました。

また、「相当の対価」という文言が「相当の利益」に修正され、お金以外にも留学やストックオプションなど企業戦略に合わせた柔軟なインセンティブの在り方が認められるようになりました。

さらに、経済産業大臣が「相当の利益の内容を決定に関する指針」を定め、それを公表することも法律に規定されました。この指針で更に会社と従業員との争いが少なくなり、日本のイノベーション促進が期待されます。

→ 参考:職務発明規定の見直し(平成27年改正)

企業として対応すべきこと

職務発明規定について社員と意見交換しましょう

これまで青色LED訴訟の内容や法改正の内容を見てきましたが、会社と社員とで話し合い、納得感のある職務発明規定の導入が重要であることが分かります。企業としても従業員からの訴訟リスクが高いと研究開発に投資しづらくなってしまいます。従業員も訴訟するには覚悟や費用が必要となりますので、できれば避けたいでしょう。

まずは特許庁ホームページに公表されている職務発明ガイドラインに従って、職務発明規定を導入してみましょう。特許庁の資料によると、残念ながら中小企業では20%しか導入されていないようです。

→ 参考:中小企業のための職務発明規程導入について

時代に合った規定の見直しも必要

法律が改正されてきたように、時代によって職務発明の取扱いも変わってきます。最近ではインセンティブの内容がお金以外にも拡張されましたね。したがって、職務発明規定も一度作ってしまえば終わりということではありません。定期的な見直しが必要でしょうし、その際にも会社と社員の意見交換が重要かと思います。今後も法改正の情報をキャッチできるように専門家に相談するとよいでしょう。

まとめ

今回は重要判例として青色LED訴訟を解説し、その後の法改正と企業が取るべき対応についても触れました。

訴訟は会社も従業員もできれば避けたいことだと思います。それにはまず職務発明規定の導入が最優先となりますので、特許出願ラボで職務発明制度や知財訴訟に詳しい専門家を探して社内規定の文言や制度設計を相談しましょう。

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