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著作権侵害の身近な例について解説します

著作権関係のニュースを探すと、人気アニメなどにあやかった悪意あるビジネスによる著作権侵害の他に、使用者が著作権侵害となることを想定していなかった事案も流れてきます。

著作権法は”どんなときに著作権侵害となるか?”の場合分けが複雑であることから、著作権法に普段接していない人にとっては難しい法律となっています。

今回は、様々な著作権侵害のうち、特に身近な例を中心に紹介します。

今回紹介する事例の一覧

まずはこの記事で取り上げる事例を簡単に紹介します。

「ニュースで見たことある」や「自分も関係あるかも…!」といった例があるのではないでしょうか?

  • 学校の配布物に、インターネットで見つけたイラストを使用
  • アニメキャラを描いたケーキの販売
  • 動画作成の外注
  • パンフレット用の写真撮影を外注
  • 店内で流すBGM
  • SNSのアイコンに、有名人の写真を使用
  • デザイナーズ家具の模倣
  • 包装紙やキャッチフレーズに著作権は発生するか?

インターネット上のイラストを学校の配布物に使用する行為

学校の配布物にイラストを無断使用したことで、著作権者に賠償金を支払った事件がありました。

「学校だより」で著作物無断使用 フリー素材と勘違いで11万円賠償 [佐賀県]:朝日新聞デジタル

この事件は、インターネットの検索で「フリー 無料 風鈴」と入力して見つけた風鈴のイラストを、著作権者に無断で学校の配布物に使用したところ、著作権者の代理人弁護士から著作権侵害の指摘をされ、賠償金11万円を支払ったという事件です。

この事件のポイントとしては、次のことが挙げられます。

  1. フリーで無料と示されている著作物(フリー素材)であっても、使用する際に著作権者の承諾が必要か?
  2. 学校での使用が著作権侵害となるのか?

フリー素材と著作権法との関係

インターネット上に掲載されているいわゆるフリー素材と著作権法との関係は、概ね以下のようになっています。

  • フリー素材の著作権は存在している(放棄はしていない)
  • 原則として無料で使用しても問題はない(著作権侵害を主張しない)
  • ただし利用規約に従わない場合には、著作権侵害を主張することがある

ですから利用規約に従わない使用をした場合には、著作権侵害であるとして、損害賠償請求などの法的措置を取られることがあります。

また利用規約については、各サイトにより異なる点があるため、良く確認する必要があります。

【サイトごとに利用規約が異なる部分の例】

  • 商業的な使用を禁止する。
  • フリー素材に変更を加えることを禁止する。
  • 著作権者の名前を表示しなければならない。

今回の事件では、この利用規約に抵触した可能性もあると思われます。

学校での使用に関する著作権の制限

学校や教育機関は、以下の条件を満たしている場合には、著作権法第35条により、著作権者の承諾を得ることなく著作物を複製したり、公衆送信をしたりすることが可能です。

  1. 学校その他の教育機関が営利を目的として設置されていないこと
  2. 授業の過程における利用に供することを目的とすること
  3. その必要と認められる限度であること

しかし学校だよりには通常、行事の予定や長期休暇中の注意点などが書かれているため、2の条件「授業の過程における利用に供することを目的とすること」を満たしていない可能性が高いと考えられます。

そのため著作権法35条の規定に基づいて、学校だよりにイラストを自由に使用することはできないと考えられます。

アニメのキャラクターがデザインされたケーキを販売する行為

パティシエが、アニメの著作権者の承諾を得ることなくアニメキャラをケーキに描いて販売した行為は、著作権(複製権)侵害に該当するとして、書類送検された事件がありました。

「鬼滅」キャラケーキ、パティシエ摘発は見せしめか 制作会社の憤り [フカボリ]:朝日新聞デジタル

複製権の侵害に該当するためには、ケーキのキャラクターが以下の①②いずれの要件も満たす必要があります。

  1. ケーキのキャラクターがアニメのキャラクターに依拠している。
  2. ケーキのキャラクターがアニメのキャラクターと同一であるか、又は類似している。

今回の事件では、客から依頼されたアニメのキャラクターをケーキに描いていることから、いずれの要件も満たすと判断され、書類送検されたものと思われます。

アニメキャラをケーキに描いてもOKな場合は?

今回の事件は、パティシエが事業として行ったため、複製権侵害として書類送検されました。

ですが私的使用(個人的又は家庭的に使用)の範囲で、アニメのキャラクターをケーキに描くことは、複製権の侵害に該当しません(著作権法第30条1項)。

なので例えば、子供のお祝いとして、親がキャラクターをケーキに描いたとしても、このことが複製権の侵害となることはありません。

またこちらのショップのように、著作権者から承諾を得てキャラクターケーキを販売する場合も、もちろん複製権の侵害となりません。

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配信する動画の制作を外注する場合

結論から言うと、配信する動画の制作を外注するとき、契約内容によっては動画を修正・編集する行為が著作権侵害となるかもしれません。

著作権は原則として著作物を創作した者(著作者)に発生します(著作権法第17条)。ですが動画は”映画の著作物”に該当し、法律に以下の規定が設けられています。

映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。(著作権法第29条1項)

引用:著作権法 | e-Gov 法令検索

ですから配信する動画の制作を外部に依頼した場合、この動画の著作者は、原則として外注先の制作会社になります。

そして、動画の制作を依頼し対価を支払ったとしても、契約内容によっては著作権が譲渡されていない場合もあります。もし著作権の譲渡を望むなら、動画制作会社との契約において、権利を譲り受けることを明記するのがベターです。

また、動画の一部を修正・編集する行為は、ときに著作者人格権(同一性保持権)の侵害となることがあります(著作権法第20条1項)。著作者人格権は一身専属の権利であり、譲り受けることができないため(著作権法第59条)、動画の編集などをする可能性がある場合には、著作者人格権の行使をしない旨の契約を結ぶことも必要となります。

パンフレット用の写真撮影を外注する場合

先ほどの動画制作のケースと同じになりますが、著作権は原則として著作物を創作した者(著作者)に発生します(著作権法第17条)。そしてパンフレットに写真を掲載する行為は、写真の著作物を複製する行為に相当します(著作権法第2条1項15号)。

そのため、外部委託して撮影した写真をパンフレットに掲載する際には、写真の撮影者=著作権者の承諾が必要です。

また写真を修正する行為も、動画制作のケース同様、著作者人格権(同一性保持権)の侵害となることがあるため、修正をする可能性があるときは、著作者人格権の行使をしない旨の契約を結ぶことも必要となります。

店内で音楽を使用する行為

店内で音楽を使用する場合、特に上演権・演奏権(著作権法第22条)との関係が問題となります。

商用の音楽配信サイトやアプリを使う場合

商用の音楽配信サイトやアプリは原則として、サイト使用料・アプリ使用料に著作権使用料が含まれています。そのため基本的に、改めての使用許諾申請は不要です。

ただし著作権の取り扱いについては利用規約によって変わることがあるため、利用規約を確認する必要があります。

フリー音源を使用する場合

いわゆるフリー音楽素材を店内BGMとして使うなら、利用規約をよく確認してください。

フリー音楽素材の場合であっても著作権を放棄しているとは限らず、また、規約によっては商用利用を認めていないことも考えられるため、これらの利用規約に抵触しないことを確認したうえで、音楽を使用する必要があります。

Spotifyなど、個人利用のサブスクリプションは?

個人利用の音楽サブスクを店内で使用する行為は、商用利用における著作権の承諾がなされていない限り、演奏権の侵害となります。

例えば、Spotifyの音楽は個人利用にのみ許可がされているため、商用利用はNGです。ほかYouTube Music、Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimitedも商用利用は不可でした。

なお、非営利で、かつ聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、著作権の行使は制限されるため、音楽を使用することも可能です(著作権法第38条1項)。

しかし店内で音楽を使用する以上、通常は営利であり、店内のサービス等に対して料金が発生していることから、この規定は適用されません。

SNSのアイコンに有名人の写真などを使う行為

写真をSNSのアイコンに使う行為は、写真の著作物を利用しているため、カメラマンの承諾を得ていないと複製権の侵害になります。

また、有名人の写真を無断でSNSに使用する場合は肖像権の侵害となります。

肖像権とは他人から無断で写真を撮られることや、許可なく公表されることを禁止できる権利です。肖像権は、著作権のように法律で規定されている権利ではありませんが、判例上認められている権利です。

肖像権は主に人格的な面を保護する権利ですが、特に有名人の場合には、写真を利用することで顧客を引き付けることも可能となるため、この顧客吸引力によって生じる経済的な利益も肖像権で保護しています。

過去にはプロカメラマンの写真をアイコンに無断使用し、80万円以上の賠償を命じられた例もあります。

デザイナーズ家具を模倣する行為

デザイン家具は意匠法で保護することができるため、意匠権が存在している場合には、模倣する行為は意匠権の侵害となります。

その一方で、デザイナーズ家具が著作権法で保護される可能性は低いです。

その理由として、著作権法では、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しているところ(著作権法2条1項1号)、実用品であるデザイナーズ家具がこの規定に該当するとは言えない可能性が高いからです。

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”美術工芸品”として=著作物として認められる?

また著作権法では、この著作物のうち、美術の著作物には美術工芸品が含まれることが規定されています(著作権法2条2項)。

美術工芸品の定義については条文上示されていませんが、概ね実用品の形をした美術品と解釈されています。しかし、この解釈によれば、デザイン家具はあくまで家具であり美術品ではないため、美術工芸品には該当しません。

”応用美術”として保護できる?

また著作権法では、応用美術(実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物)についても著作権法で保護するか否かということが議論されています。

実用品については、優れたデザインを有している応用美術であっても

  • そもそも応用美術について著作権法で保護しない
  • 一定の要件を満たす場合に応用美術について著作権法で保護するものの、要件を満たさないため著作権法で保護しない

という判例が多く出されています。

しかし、幼児用椅子について応用美術と認定したうえで、一定の要件を満たすため著作権法で保護するという判例も出ているため(TRIPP TRAPP事件)、デザイン家具の模倣を著作権法で防止することは、難しいものの、必ずしも不可能ではないと言えます。

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銅像の頭部を取り換える行為

この事案は実際に著作権侵害として争われた事案です。

この事案は、江戸時代に建立された寺に置かれていた銅像の頭部を取り換えたところ、銅像の彫刻家の遺族から、著作者人格権(同一性保持権)の侵害であるとして訴訟が提起されました。そして、その結果、裁判所は遺族の主張を認め、銅像の頭部を元に戻すことを命じました

この事例ではまず、銅像の著作権が存続しているのか?という点が問題となります。しかし、江戸時代に作られた銅像は空襲で焼失し、その後1990年代に再建されたものであるため、この銅像の著作権は2024年現在も存続しています。

また著作者人格権は、著作者が亡くなった場合に相続の対象となるため、著作者人格権の侵害となるような行為があったときには、著作者人格権を相続した者が侵害訴訟を提起することができます。

このような事情があり、この銅像の頭部を元に戻すことを命じる判決が出ました。

包装紙に著作権は発生するか?

包装紙のデザインに著作権が発生するか否か、という問題は、包装紙のデザインがどのような経緯で創作されたのか、という点が影響すると言われています。

三越の包装紙のデザインは、洋画家の抽象画を転用したものであるため、包装紙が実用品であっても、このデザインに著作物性が認められると言われています。

ただ問題の抽象画は、三越の包装紙用に描き下ろされたという話もあり、この場合は三越の包装紙に著作権が発生しない可能性があります。

その一方で、高島屋の包装紙のデザインは、初めから包装紙用に創作されているため、著作物性がないと言われています。

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そのため、最初に絵画などの著作物を創作してから、実用品に転用することで、デザインを施した実用品を著作権法で保護する可能性も生じると言えそうです。

キャッチフレーズに著作権は発生するか?

著作権法では言語も著作物の一形態であることが認められています(著作権法10条1項1号)。その一方で、言語の著作物として認められるためには、ある程度の文章の長さが必要だとされています。

この長さについては明確な基準はないものの、一般的にキャッチフレーズに著作権が認められる可能性は低いと言われています。

ただし、俳句や短歌には原則著作物性が認められると言われており、過去の裁判で、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」に著作物性が認められた事案もあるため、個別具体的に著作物性を検討する必要があると思われます。

まとめ

近年では、SNSでの投稿や、インターネット上での開示などにより、著作権の侵害となる場面が増加しました。

その一方で、著作物を複製などにより使用する場合であっても、著作権法上認められた使用であることも多いため、著作物の適法な使用をすることで、我々の業務や日常生活をより快適にすることができます。

そのため、著作物の使用をする際には、著作権の専門家に問い合わせをすることをおすすめいたします。

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