特許は資金調達にも活きる!方法や注意点を解説します

特許など知的財産を利用した資金調達
近年、特許などの知的財産権を会計的な観点から金銭的に評価をする場面が増えています。そして、特許権を資金調達に利用する際、特許権を有することによる市場優位性に加えて、この金銭的な評価を考慮される機会が増えています。
その一方で、特許権に基づく資金調達には
- 特許権の金銭的な評価は評価方法によってばらつきが生じる
- 無効審判などによる特許権の消滅リスクがある
といったため、未だ十分に活用されているとは言えない状況です。
今回は、企業の規模に着目した、特許による資金調達の方法について解説します。
大企業の場合
大企業の場合、企業運営のために多額の資金が必要となります。そのため資金調達は、主に銀行からの借り入れと株式の発行によって行われます。
資金調達のためには、銀行や株主に事業の状況・財務状況の説明が必要となります。
近年、事業の状況や財務状況を説明するための有価証券報告書において、特許などの知的財産に言及する企業が増えています。
<有価証券報告書で「知的財産」に言及した企業数>
2010年12月末 | 2020年12月末 | |
---|---|---|
東証一部上場企業数(A)※1 | 1,670社 | 2,186社 |
有価証券報告書で「知的財産」に言及した企業数(B)※2 | 527社 | 899社 |
割合(B/ A) | 32% | 41% |
知的財産×会計──知的財産管理のための新たな視点と会計手法に基づく情報活用 | PwC Japanグループより引用
銀行からの借り入れ
銀行からの借り入れを受けるためには、銀行側の審査に合格する必要があります。この審査に合格する一助として知的財産権を提示することが増えています。
銀行の審査においては、多数の書類を提出する必要がありますが、その中でも主な書類は以下の通りです。
- 決算書類
- 事業計画書
- 資金使途明細
- 資金繰り表
これらのうち、決算書類の一つである貸借対照表の資産には、資産、負債、資本を記載する項目があり、特許などの知的財産は固定資産に該当します。
近年では、この資産の項目に知的財産権の資産を記載することで、企業の資産をより適切に見えるようにして、銀行からの適切な借り入れを受ける企業が増えてきているのです。
知的財産権の売却
企業には、せっかく特許を取得したものの、使われていない特許(休眠特許)があります。このような休眠特許を、事業の予定のある他社へ売却することで収益を得ることも、有効な資金調達方法となります。
休眠特許の売買は、自社ホームページに載せる、特許事務所で仲介してもらう、などの方法で休眠特許を紹介し、買い手を探す方法が主に用いられています。
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中小企業の場合
中小企業の場合、地方金融機関からの借り入れを受けることで資金を調達することが多いです。
地方金融機関からの借り入れに際しては銀行と同様に審査があり、決算書類や事業計画書などの各書類に基づいて審査がなされます。
しかし中小企業の場合、保有している特許の数が大企業よりも少ないため、決算書類に特許権などの知的財産を固定資産に記載したとしても、その数字がなかなか見えない、という状況も生じえます。
これに対し特許庁では、中小企業が地方金融機関などに借り入れをするための資料として、知財ビジネス評価書のひな型を用意しています。
この知財ビジネス評価書は、中小企業の経営力の源泉となる技術力やブランド力などの知的財産と事業との関係性を評価した書類です。
この評価書に基づいて、知的財産と事業との関連性を地方金融機関などに説明することで、借り入れを受ける際に知的財産をより効果的にアピールできます。
もし事業の核となる特許を所有しているなら、評価書に基づいて特許と事業の関係性をアピールすることで、借り入れの審査を有利に進めることも可能になります。
スタートアップ企業の場合
スタートアップ企業は、地方金融機関からの借り入れの他に、ベンチャーキャピタルによる借り入れがあります。
スタートアップ企業の場合、事業の核となる特許があるなら、この特許を利用した事業をアピールすることで、ベンチャーキャピタルによる借り入れの可能性を高くできます。
その一方で、事業の核となる特許がない場合には、ノウハウや営業秘密などの情報が企業の価値を高める一因となります。これらの情報も資金調達の際にアピールすると良いでしょう。
「知的財産評価融資制度」という仕組みもある
なかには知的財産を活かして経営基盤の強化を図る法人・個人事業主に向けた「知的財産評価融資制度」という仕組みもあります。
知的財産評価融資制度とは、公益財団法人東京都中小企業振興公社と東京きらぼしフィナンシャルグループ、きらぼし銀行とで締結した資金調達支援スキームです。
融資金額は100万円以上1億円以内、融資期間は運転資金で5年以内、設備資金で10年以内です。
なお対象者等の条件については細かい指定があるので、詳しくはこちらのページをご参照ください。
知的財産による資金調達の課題
ここまで、知財を資金調達に活かす方法についてご紹介しましたが、一方では2つの課題があります。
- 知的財産の価値評価の困難性
- 特許権などの権利無効化のリスク
価値評価の困難性
知的財産権は価値評価が難しい、という問題があります。
特許をはじめとする知的財産の価値は、本来、事業の利益にいかに寄与したか、という点にあります。
しかし近年の事業では1つの製品に複数の知的財産権が使用されていることも多く、製品に対する特許の寄与度を図ることが難しくなっています。また知的財産権を有することによる他社参入の防止についても、評価方法が難しいという課題があります。
そこで近年では、以下の3つの方式によって知的財産権の価値を計算することが行われています。
これらの方式は、それぞれ異なる視点に基づいて知的財産権の価値を計算しているのですが、算出した知的財産権の価値評価は方式によって異なるため、価値評価が困難であるという課題は残り続けます。
- コストアプローチ…特許の取得に要したコストを基準に、特許の価値を計算
- インカムアプローチ…製品のインカム(収入)を基準に、特許の価値を計算
- マーケットアプローチ…マーケットを基準に、特許の価値を計算
無効化のリスク
知的財産権には権利が無効化される可能性もあります。そのため特許の価値評価の際には、この無効化リスクをどの程度含めて評価するのか、という課題も生じます。
特許や商標などの知的財産権は、特許庁の審査を経て権利化されているため、権利の安定性はある程度担保されています。
しかしながら、無効審判により権利が消滅するということもあり、仮に特許の無効が確定した場合、無効化された当該技術は誰でも実施することが可能となるのです。
特許権の場合、無効審判の請求件数は1年間で100件前後です。また、無効審判で特許権の無効が認められる割合は概ね2割前後、つまり20件程度です。
その一方で、特許権は1年間で約20万件新規に登録されているため、特許権の無効化リスクは非常に少ないと言えるのですが、対象となる特許が事業の核となる特許である場合には、この無効化リスクを含めた評価が難しくなります。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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