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”ZOOM”商標をめぐる攻防について。現状まとめと、問題点の分析

コロナ禍に入ってから、ウェブミーティングの普及とともに有名になったウェブ会議システムのZoom。

実は、このZOOMという名前をめぐって日米企業の商標に関する知財紛争が起こっているのはご存じでしょうか?

商標「ZOOM」に関する訴訟状況

株式会社ズームは、1983年9月9日に設立された日本の音響機器メーカーで、世界へも多くの商品を展開している業界でも有名な企業になります。

(株式会社ズーム:https://ir.zoom.co.jp/corp_ja/profile.html

そんな株式会社ズームですが、Zoomビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications, Inc. 以下Zoom)提供のウェブ会議システムZoomが登場してコロナ禍で急激に成長を遂げる中、様々な影響を受けることになりました。

本提供行為が継続された結果、当社は、2019 年 10 月頃より当社のカスタマサポートの受付電話やメール対応窓口にビデオ会議サービスに関する問い合わせが殺到する状況に陥り、また、2020 年 6月には、ZVC 社の決算発表を契機に、社名誤認によって当社の株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落するという事態に至るなどし、当社の業務上の支障に留まらず、善意の第三者である投資家に損害を与える結果となり、現在も日々、支障が生じております。

引用:株式会社ズーム 訴訟提起に関するお知らせ

そのような状況から、株式会社ズームはZoomに対して提訴することになりました。

Zoomへの訴訟ということですが、具体的には、2件の訴訟になります。

  • 1件目…日本の代理店を担うNECネッツエスアイ
  • 2件目…米国のZoom社本体

”ZOOM”は商標権の侵害に当たるのか?

商標権を侵害していると判断するためには、

  • 登録商標の指定商品・役務と同一または類似の範囲内で
  • 登録商標と同一または類似の商標を
  • 事業として使用する

必要があります。

まず指定商品・役務についてどの位置に収まるかを考えてみます。

以下に、商標登録第4940899号(株式会社ズームのロゴ)についての指定商品・役務を記載します。

9類
理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,録音済みの磁気カード・磁気シート・磁気テープ・コンパクトディスク・その他のレコード,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム,電子計算機用マウスパッド,電子計算機用マウス,コンピュータプログラムを記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・その他の記録媒体,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,電子出版物,オゾン発生器,電解槽,ロケット,業務用テレビゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスク・CD-ROM・デジタルバーサタイルディスク-ROM及び磁気テープ,業務用テレビゲーム機,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,鉄道用信号機,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,消防艇,消防車,自動車用シガーライター,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,磁心,抵抗線,電極,新聞・雑誌・書籍・地図・図面・写真の画像・文字情報を記録させた電子回路・ROMカートリッジ・光ディスク・磁気ディスク・光磁気ディスク・磁気カード・磁気テープ,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,計算尺,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,潜水用機械器具,アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,家庭用テレビゲームおもちゃ専用のプログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスク・CD-ROM・デジタルバーサタイルディスク-ROM及び磁気テープ,家庭用テレビゲームおもちゃ専用のコントローラ・ジョイスティック・メモリーカード・ボリュームコントローラ・マウス,その他の家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,検卵器,電動式扉自動開閉装置,磁石,永久磁石,標識用ブイ,二輪自動車用シガーライター,耳栓但し、計算尺を除く、但し、電子計算機用マウスパッド,電子計算機用マウスを除く、但し、コンピュータプログラムを記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・その他の記録媒体を除く

※強調部筆者

15類
調律機,楽器,演奏補助品,音さ

「テレビ会議」に関わる指定商品は明記されていませんでした。

しかし、上記のように電子計算機用プログラムに関する指定商品を含むで9類での取得をされています。

電子計算機用プログラムというものは、例えばスマホやPCにインストールして使うソフト自体のことを指しており、今回の”Zoom”が展開しているウェブ会議システム自体も含む内容であると考えられます。

出典:J-PlatPat

このことから、本件商標は指定商品の同一であると考えられ、指定商品・役務の判断については争点とはならないと考えられます。

そうなると、本件商標と、ウェブ会議システムZoomの使用する商標が類似するか否かが争点になります。

現在は、まだ裁判が継続されており、結論は出ていない状況にあります。

ここで、この二社だけを比較をできれば、ことは単純でした。

しかしながら、ここで第3の商標についても論じる必要があります。

出典:J-PlatPat

なんと、株式会社ズームの商標の出願以前に、株式会社トンボ鉛筆がZOOM商標(商標登録4363622)を取得していたことが判明しています。この商標には、先ほどご紹介した”電子計算機用プログラム”という指定商品も含まれています。

この商標の存在を踏まえて考えるべきポイントは、株式会社トンボ鉛筆の商標と株式会社ズームの商標の評価によって、株式会社ズームの商標による”ZOOM”の扱いが変わるということにあります。

しかし、仮に株式会社ズームの商標の対応で米が勝利したとしても、次にトンボ鉛筆からの訴訟の可能性もあるため、商標の取消審判の対応を行っています。

今後の3社の動向が気になるところです。

新規サービス立ち上げ時には商標の調査・確認が大切

本ケースからもわかる通り、他国展開するサービスに当たっては、サービス対象国の商標登録状況がどのようになっているか、しっかりと調査・確認する必要があります。(本ケースにあるように米Zoom社は対応を怠っていたと判断せざるを得ません)

もし、先に問題となりうる商標がある場合は、

  1. 自社商標を出願して登録可否(権利範囲の確認)を図る
  2. 問題となる商標の無効化検討
  3. 事前のライセンス交渉

などの対応を行うべきでした。

ですが今回は先にサービスを実施して、訴えられる余地を作ってしまっています。

訴訟を提起される前であれば、とりえる選択肢も多くあります。

商標は、ビジネスを行う上では絶対に登録状況の確認を要する知的財産です。新たにビジネスを興す際には、他社の権利に対して配慮をしておきましょう。

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