企業の知財分析コーナー -メルカリ編-
知財の情報は企業の分析を行う上で、非常に役にたちます。
本コーナーでは、知財部に所属する現役の弁理士が、気になる企業の知財分析を行います。
知財部にお勤めの方や経営層の方に参考になるように、知財分析の方法から、実務・経営に活かす方法までわかりやすく解説していきます!
実際に私も、特許出願業務や他社特許調査等を定常的に実施している他社の知財分析を行うことで、その会社の今後の動向等をある程度キャッチアップすることができるようになりました。
なぜ知財分析を行うのか
日常業務に手一杯で知財分析までやる時間がない私がなぜ知財分析を行うようになったのか。
それは、知財分析で得た情報が企業の利益に直結するからです。
競争状況が激しく変化する業界においては、保有する特許の価値や、競合の権利化状況が急激に変化していきます。
常に情報をキャッチアップしておかないと、大きな損失を出してしまうかも知れません。
競争要因 -ポーターのファイブフォース分析-
業界の競争状況の変化には、5つの競争要因(ファイブ・フォース)が存在します。
- 新規参入企業
- 供給業者
- 顧客
- 代替品
- 競争相手
上記の5つについて解説します。
1.新規参入企業
1.新規参入企業とは、業界に対して、新規で参入しようと検討している企業になります。既存企業からの反撃及び参入障壁の大きさにより、この新規参入企業が参入してくるかが決まります。
そして、既存企業からの反撃及び参入障壁の大きさの一つとして、知的財産権があります。
2.供給業者
2.供給業者が力を付けると、仕入れ値が高くなったり、サービスのレベルが制限されたりします。そうしますと、業界にコストが転嫁されますので、全体の収益性が悪化いたします。
3.顧客
3.顧客は、業界にいる企業に対して、値引きや品質・サービス等について様々な要求を行います。つまり、企業が複数存在する場合に、その企業同士を競争させることにより、より値引きを要求したりします。
4.代替品
4.代替品とは、業界の製品及びサービスに類似した機能です。
コストパフォーマンスがよい製品及びサービスが存在すると、大変な脅威になります。
5.競争相手
5.競争相手が多ければ多いほど、競争が激化します。
また、業界の撤退する障壁が高ければ、企業はその事業を中断しにくくなります。
これらが1つでも変化すると、今まで強いと評価していた自社の特許の価値が減少したり、全く気にもしなかった他社の特許が障壁になったりと、従前の知財の価値とは異なる判断をしなければならなくなります。
そして、現代社会において、これらの環境は極めてタイムリーに変化しますので、この時間に応じた知財としての対応が必要になります。
そのためには、個々の業務に対して、ベストエフォートを尽くすだけでは限界があり、事業環境の変化を予見できるように、知財分析が必要となります。
どんな方法で分析を行うのか
知財の情報×知財ではない情報
で総合的に分析します。
具体的には、知財からの情報は、出願している会社・出願した年・技術内容・課題・効果等があげられます。
知財ではない情報は、その企業のHP、有価証券報告書、業界誌、論文、経済動向、政策、法制度等があげられます。
例えば、
- ○○社が2021年に△△技術に対して出願が増加している。
- 2021年に、△△技術をコアにした◆◆商品を発売される。
- 上記を踏まえると、2021年に増加した出願は、◆◆商品に搭載される△△技術なのだ。
ということが推測されます。
そして、この△△技術こそが、競合他社を出し抜く商品を差異化できる内容だったりします。
このように、特許を1件ずつ確認するのではなく、知財の情報と知財ではない情報から総合的に判断し、分析することが知財分析になります。
企業の知財分析~株式会社メルカリ~
誰でも簡単且つ手軽にモノを売買できるフリマアプリ「メルカリ」を日本、USに展開し、決済サービス「メルペイ」にも注力している会社です。設立は2013年2月、上場は2018年6月と非常に勢いのある会社になります。
以下の表は、日本で展開している「メルカリ」の流通総額とMAU(Monthly Active Users)
を表示しています。2013年の設立から順調に成長しています。
(参考 有価証券報告書)
このように勢いのあるメルカリですが、競合会社としては、楽天グループ株式会社、ヤフー株式会社等が存在します。これらの会社は非常に知的財産権を多数保有しているため、メルカリとしても、これらの知的財産権を意識して事業を実施しなければなりません。
分析手法1-出願件数の分析-
出願件数の分析から得た情報は、企業のR&Dの状況や、注力している事業を推測するカギとなります。
上記は出願件数を示したグラフです。
集計方法としては、出願人で特許の母集合を作成します。
この母集合に対して、出願年度で図にします。また、公開年度や登録年度での集計も可能だと思います。
2019年における111件を頂点として、近年は減少傾向ですが、公開期間を考慮すると、直近の件数はもう少し増加するかもしれません。
なお、2019年には、利用者数が1000万人を突破したメルペイのリリースがありましたので、件数の増加は、このサービスによる影響もあると推測されます。
このように、時間軸で出願件数を図にすると、その会社が
いつ、どのような内容(サービス)に注力していたか
がわかります。
また今後、出願件数が伸びるようなことがあれば、何か新たな事業が始動するのかも知れない。など、企業の今後の展望などを推測することができます。
分析方法2-技術分野の分析-
出願している特許の技術分野の分析を行うと、その企業のメイン事業はなにか・企業のコアコンピタンス(強み)がどこに隠れているか、などということが推測できます。
上記の表は取得している特許の、技術分野に関する件数を表示したグラフになります。
方法としては、上記分析方法1で実施した内容と同様で、出願人で特許の母集合を作成します。
この母集合に対して、IPC(国際特許分類)で図にします。
販売に関する技術が非常に多く、この内容からも株式会社メルカリがメルカリアプリに注力しているかということが伺えます。
また、マーケティングに関する技術の出願件数が2番目に多く、サービスを広げるためのマーケテイング手法の開発に、非常に力を入れていることがわかります。
下記は、メルカリアプリのダウンロード数になります。
ここまで数が伸びた理由としては、綿密にマーケティング戦略を策定し、テレビCMやメディアを駆使して、ユーザーの認知度を獲得できたからでしょう。
参考
mercari インフォグラフィックスより
2,000万ダウンロード記念 インフォグラフィックス 「数字で見るメルカリ」
このように、技術分類で出願件数を図にすると、その会社がどのような技術に注力をし、どのような戦略の元事業を行なっているかが推測できます。
分析方法3-競合との比較-
同業他社の特許の権利化状況を分析することで、自社の業界内での立ち位置や、他社の経営戦略を推測することができます。
上記が、出願×技術に関する件数を表示したグラフになります。
方法としては、上記分析方法2で表示したグラフを基に、株式会社メルカリが注力している
技術上位5つ(購買、販売またはリース取引、マーケティング、オークション、サービス業、認証)について、メルカリと同じフリマアプリをリリースしている楽天グループ株式会社、ヤフージャパン株式会社も出願人にくわえた状態で母集合を作成しました。
株式会社メルカリは、競合と比較すると、出願件数が圧倒的に少ないことがわかります。
しかし、特許の世界では、件数が全てではないので、株式会社メルカリがフリマアプリを運営する上で避けてとおれない特許(必須特許)を取得しているのであれば、競合他社に対する参入障壁を形成できます。
分析から得た情報
3つのグラフを作成して、読み取れることは上記で示した内容になります。
楽天グループ株式会社、ヤフ―ジャパン株式会社等の知財権取得に積極的な企業がいる業界に参入したことから、何も特許等を取得しないで事業を展開できない。という背景から、自社が注力する技術に対して積極的に権利を取得しにいったというのが推測されます。
また、以下のグラフは、分析1及び分析2で出願年×IPCのグラフになります。
株式会社メルカリは、2019年頃から、機械学習、パターンを認識するための方法または装置、GUI等の出願もしていることから、これらの技術に注力する可能性がある。と推測されます。
また、支払いに関する内容も2019年に出願されており、これは、分析1でも記載したように、メルペイに搭載された技術だと推測されます。
ユーザー間取引のサービスを立ち上げる場合、特許侵害に注意が必要!
メルカリをはじめ、ラクマを運営する楽天やヤフオクを運営するYahoo!など、ユーザー間で直接取引をする企業は、多くの特許を取得しています。
「フリマアプリ」や「オークション」など、直接競合としてバッティングする事業ではない場合でも、ユーザー間で直接売買を行うサービスを立ち上げる場合は、権利を侵害しないかしっかりと調査しておくことが重要です。
最近では、特定の物品(本のフリマアプリ・靴のオークションサイト)をやりとりするプラットフォームも増えてきています。
新たなサービスを立ち上げる際は、他社の権利に注意をしましょう!
まとめ
知財1件1件を確認することは大事ですが、図にすることで、俯瞰的な視点で他社がどのような動きをしているか、という点が把握できます。
売上をあげている製品や注力しているサービス等を多角的に検討することで、知財ならではの視点で事業に貢献できるはずです。
※本分析は、PATSNAPを使用しました。
https://www.cks.co.jp/home/Products/PatSnapInsights.html
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ゲーム業界の知財部で10年以上勤務。日々、他社の知財を警戒しながら、自社の商品を守るため、奮闘中。 調査や出願、一通りの業務をこなしてきました。
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