教えて柴田先生!知財戦略について米国弁護士にインタビュー!
近年、知財戦略という言葉が注目を浴びていますが、
知財戦略ってなに?
具体的に何をすればいいの?
ネットや本で調べたけどよくわからない!
などと感じている人もいるかと思います。
特に知財部を持たない中小企業やベンチャー企業にとって、知財戦略は理解するだけでもハードルが高いものかと思います。
今回は弁理士・米国弁護士の柴田先生に知財戦略についてお話を伺いました。
知財を専門としない方でも分かりやすいように、知財戦略は何か・具体的にどんなことを考えれば良いかということを中心に解説して頂きます!
柴田先生
弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。
知財タイムズ編集部
日本の中小企業がしっかりと知財戦略について理解できるように、
柴田先生に根掘り葉掘り聞いていきます!
そもそも知的財産って何?
柴田先生!よろしくお願いします!
まず質問なのですが、知的財産ってなんですか?
簡単に言うと、
知的財産とはアイデアやブランドなど、無形の資産のことです。
これらを保護するのが”知的財産権”であり、権利を持つ者は知的財産を独占して使用するができます。
知的財産権が侵害されたら?
特許などの知的財産権を他者に侵害された場合は
・売るな! (差止請求)
・金はらえ!(損害賠償請求)
と言うことができます。
詳しくは特許庁のHPをご参照ください。
知財戦略とは?どんなことを考えればいいの?
では本題の知財戦略についてお伺いします!
知財戦略には考えるべき、2つの側面があります。
①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか
②:他人の権利を侵害しないか
これら2つを実現するための戦略が、知財戦略です。
なるほど!
ちなみになぜ①・②を考える知財戦略が重要なのでしょうか?
まず「①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか」についてですが、どんなに良い商品・サービスを開発したとしても、権利を保護しておかないと競合に真似されてしまいます。
知的財産権でしっかりと自社の商品を保護すれば、市場を独占しビジネス上優位に立つことができます。
「②:他人の権利を侵害しない」については、他者の権利を侵害してしまうと、差止や賠償金の請求をされてしまいます。
せっかく商品がヒットしたとしても、権利侵害だ!と差し止められてしまったら、これまでの努力が水の泡になってしまいます。
他者の権利を調査し、しっかりとリスクを可視化しておくことで、未然にトラブルを防ぐことができるのです。
知財戦略というと、大手企業のイメージが強いのですが、中小企業やスタートアップにとっても重要なのでしょうか?
中小企業・スタートアップにとっても知財戦略は非常に重要です!
「①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか」をしっかりと考えておくことで、資金調達やIPOにもプラスに働きます。
知的財産権を取得し参入障壁が高くしておけば、市場優位性の証明にもなるので、投資家から資金を集めやすいです。
IPOでもしっかりと権利を固めている企業は、企業価値を評価されやすいです。
また、「②:他人の権利を侵害しない」ことを検討していないと、足元をすくわれることもあります。
売上が伸びているビジネスほど注目を浴びやすいので、権利侵害だ!と主張してくる競合他社が出てくるかも知れません。
せっかく事業が軌道に、権利侵害で事業を差し止めされてしまったらと思うと怖いです……
収益の柱が少ない中小企業やスタートアップこそ、しっかりと知財戦略を練っておくべきだと思ってきました。
知財戦略には具体的にどんなものがあるの?
知財戦略の重要性はわかってきたのですが、具体的にどんな戦略があるのかまだイメージが湧かないです…..
わかりました!
ここからはより具体的な知財戦略についてお話していきます!
先ほどお話した知財戦略の2つの側面
①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか
②:他人の権利を侵害しない
に沿って解説をしていきます。
利益を生む、知財戦略!
まず「①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか」の知財戦略を考えたときに、
・オープン/クローズ戦略
・知財ポートフォリオ
さらには
・標準化戦略
が挙げられます。
一気にむずかしくなってきました….
一つずつかんたんに説明していきます。
オープン/クローズ戦略!
オープン/クローズ戦略とはざっくり言うと
・自分のもっている技術を積極的に市場に公開する=オープン
・自社内に情報をとどめて(秘匿化)おく=クローズ
どちらがいいのかを検討することです。
それぞれの戦略でどんなメリットがあるのでしょうか?
例えばライセンス提供によって収益を得るなどが挙げられます。
オープン戦略の場合、しっかりと特許取得しておく必要があります。
クローズ戦略の場合は、技術を独占することで、利益を得ることができます。
情報を留めておくために、特許は出願しないケースもあります。
秘匿化するためには、特許出願をしてはいけないのでしょうか…?
特許とは出願した内容が公開されることを引き換えに、独占が許される制度です。
秘匿化しておくため、あえて特許を出願しないこともあります。
例えばコカコーラのレシピなどは、作り方を秘密にするために特許を取得していません!
そうなんですか!?
でも特許をとっておかないと、他社に真似されてしまうのではないでしょうか?
消費者が商品を見た時にすぐに技術を理解できるものは、簡単に類似品が作れてしまうので、特許出願すべきです。
ですがコーラのように、商品を見ただけでは作り方がわからないものは、あえて特許を出さずに秘匿化しておく場合もあります。
商品を見て、技術がわかるかどうかというのは特許出願すべきか判断する一つのポイントです。
オープン/クローズ戦略について、すごくざっくりと説明しました。
この話はあくまで一部ですので、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
→教えて柴田先生!企業の知財戦略とは?
知財ポートフォリオも「①:自社の知的財産を守り、どう利益を生むか」を考えるために使います。
知財ポートフォリオは、「一つの商品に対してどれだけの技術が活用されているか」を洗い出し、「その技術をどの守っていくか(活用していくか)」を検討するのに役立ちます。
なるほど….
何か具体例を教えていただけますか?
例えばiPadは
・指紋認証技術
・インカメラの技術
・タッチパネルの技術
など、さまざまな技術があります。
これらの守るべき技術の要素のまとまりを、それぞれどのように権利化し守っていくかを検討します。
例えばタッチパネル関連の技術は、どのように権利化すれば
・「他社のタブレットに模倣されないか」
・「次世代のiPadにも活用できるか」
を検討します。
知財ポートフォリオは”今”と”将来”の両軸から、商品ごとに複数の技術の守りかた(活用の仕方)を考えます。
商品単位だけでなく、事業の単位や企業単位で技術を洗い出し、ポートフォリオ化することもあります。
こちらもすごくざっくり説明しましたので、詳細はこちらの記事で解説いたします。
→教えて柴田先生!企業の知財戦略とは?
標準化戦略!
「①:自社のアイデアを真似させずに利益を生む」のための戦略に”標準化戦略”というものがありますが、これは
・オープン/クローズ戦略
・知財ポートフォリオ
の次のステップの戦略です。
標準化戦略とは自社の特許技術を”規格化”してしまうことで、使用する人を増やし、収益を得る戦略です。
なるほど!例えばどんな商品が標準化戦略ですか?
具体例としてiPhoneの充電器などが挙げられます。
AppleはiPhoneの充電器としてライトニングケーブルを作り、規格化しました。
iPhoneはライトニングケーブルでしか充電できないので、ライトニングケーブルを使用する人はどんどん増えていきます。
ライトニングケーブル自体の需要が増えますが、他社は勝手に作ることはできないので独占できます。
ライトニングケーブル作りたい企業からはライセンスでの収益も得ることができます。
標準化戦略についてもこちらで詳しく解説しています。
→教えて柴田先生!企業の知財戦略とは?
他社の権利を侵害しない、知財戦略!
「②:他人の権利を侵害しない」ために行えることとして
・パテントマッピング
・パテントトロール対策
があります。
パテントマッピング
パテントマッピングとはなんですか?
パテントマッピングは、自社や他社の特許の取得状況を、図面やグラフなどで可視化することです。
なんのために可視化するのでしょうか?
「他人の権利を侵害しない」というのが一つの目的です。
ある製品を展開するにあたり、障害になりそうな権利をマッピングしていくことで、未然に他社の権利侵害を防ぐことができます。
他にもマッピングをすることで、
・他社が既に権利化している市場にどう乗り込むか?
・どの市場は誰にも権利化されていないブルーオーシャンか?
など具体的な計画をつくるのに役立ちます。
特許の取得状況を俯瞰するだけで、市場がよく見えてくるのですね!
経営判断にも役に立ちそうです!
パテントマッピングは市場を把握する重要分析ツール
パテントマッピングで特許の取得状況を把握することで
- 市場での自社のポジション
- 市場の権利化されている状況
- 競合他社の動向
など、経営戦略を練る上で重要な情報が見えてきます。
これらを社内の経営層や各事業部の統括と共有することで、知財情報をマーケティング戦略や商品開発にも活かすことができます。
知財情報の分析・社内共有することをIPランドスケープといい、パテントマッピングはIPランドスケープを行う上で重宝されます。
パテントトロール対策
日本ではあまり馴染みはないですが、パテントトロール対策も「②:他人の権利を侵害しない」ために考えておくべきことの一つです。
パテントトロールとは?
- 自らは研究開発や発明実施を行うことなく、他人の特許権を買い受けて、その買い受けた特許権を行使してライセンス収益を狙うことを業とする個人や団体のことを指します。
(参照:パテントトロールって何?!米国弁護士&日本弁理士が解説!)
パテントトロールは権利行使のためだけに、他社を特許を買い上げているので、比較的小さい特許が多いです。
そのため前途のパテントマッピングで対策をしておいても、漏れてしまうケースがあります。
中小企業が対策をするにはどうすれば良いのでしょうか….?
しっかりと特許調査をしておくことが一番かと思います。
・定期的に第三者の権利を監視しておくこと。
・商品を部品単位で特許調査しておくこと。
などが大切です。
初心者にとって知財戦略は理解するのが困難だったのですが、
①知的財産を守り利益を生む
②他社の権利を侵害しない
という”考えるべき2つの側面”から教えて頂いたので、とてもよく分かりました!
今日のお話を聞いたあとに、本やその他ウェブサイトで解説されている知財戦略の情報を読めば、頭にスッと入ってくる気がします!
今回話した内容はあくまで知財戦略の基礎知識ですが、大枠を抑えておけばより高度な内容も理解しやすくなるかと思います。
知財戦略は奥が深くさまざま見解・意見がありますが、経営をする上で非常に重要なことです。
普段知財に関わりのない方も、是非参考にしてみてください。
柴田先生!本日はありがとうございました。
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