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知財戦略まとめ!目的別の知財戦略の立て方と活用事例!

知財戦略という言葉が世間で認知されていますが、知財戦略を実践できている企業は多くはありません。経営幹部から「当社の知財戦略を作れ!」と言われて困っている知財担当者の方もいるのではないでしょうか?

今回は、知財戦略の立案に際して具体的にどのようなことをするのか、事例紹介を交えながら解説します。本記事を読むことで、知財戦略の必要性や具体的な手順がイメージできるようになります。

<この記事でわかること>
・知財戦略の必要性
・大企業、中小企業など規模によって異なる知財戦略
・標準化、オープンイノベーションなど協業における知財戦略

(執筆:知財部の小倉さん

特許事務所・知財部の専門求人サイト「知財HR」

知財戦略の必要性

知財戦略とは、他社の動向を把握し、自社事業が優位となるように知的財産を活用する方針のようなものです。

近年、知財戦略の重要性が叫ばれていますが、それは企業が知的財産を事業に活用し始めたという背景があります。
知的財産はどんな場面で活用されるようになったのでしょうか?

企業が知的財産を事業に活用する場面

  • グローバルマーケットでの特許訴訟
  • 同業種・異業種との協業の場

これらの場面でどのように知財が使われているか、具体的に解説します。

グローバルマーケットでの特許訴訟

特許庁から公開されている「特許行政が直面する課題」によると、グローバルの知財訴訟件数は下図のように中国で増加しています。

アメリカは減少傾向にありますが、それでも年間5000件以上の訴訟が発生しています。一方で、日本は年間150件ほどに留まっており、訴訟経験という意味ではアメリカや中国と大きな差ができています。

出典:特許庁 特許行政が直面する課題 平成30年6月

日本はアメリカや中国とは異なり、訴訟を起こしても認められる賠償額が低いこともあり、訴訟でなく和解で解決しているのかもしれませんが、それでも経験値に差ができてしまうことは事実です。訴訟の中で、活用できる特許や活用できない特許の考え方が更新され、それが中国企業の知財戦略にも反映されます。したがって、今後は権利を登録するだけでなく、権利行使の場面でどのように対応するかという戦略を立てる必要があります。

同業種・異業種との協業

次に、国際標準化などの活動を通じて同業種との協業が増えています。特に電子機器やソフトウェア関連で標準化が進んでいましたが、自動車の分野が電子化されているもあり、自動車関連の企業でも協業が増えています。

うまく、標準化の内容に自社の特許技術を入れることができれば、必須特許として他社が使ってくれライセンス収入となります。

また、イノベーションを求めて異業種との協業も増えています。例えば、自動車でも通信技術が重要となったため、2017年にはトヨタ自動車とNTTがコネクティッドカー分野での協業を開始しました。

今後も、デジタルトランスフォーメーションが進むことで、ITと既存事業との協業が増えることでしょう。その際に、互いの特許技術を共有することで新たな市場を創出し、Win-Winの関係を構築できます。

ただ、協業といっても他社ですので、なるべく自社に利益が多く配分されるように契約などで交渉してくるでしょう。その場合に、他社との交渉戦略も立てておく必要があります。

企業規模別の最適な知財戦略

知財戦略の必要性は理解できたと思いますが、実際にどのように進めるのでしょうか?まずは、企業規模ごとに異なる戦略を解説します。

大企業の戦略

大企業の知財戦略は、特許庁ホームページに「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」という資料で海外企業6社を含む全23社の事例が公開されています。

デンソーの事例

自社の知財戦略を考える場合、どうしても自社技術の保護に目が向きがちになります。

しかし、デンソーの事例で紹介されているように他社が欲しがる権利をもっていないと競争に勝つことや仲間作りができません。他社が欲しがる権利をもっていればクロスライセンスなどの選択肢を持つことができます。
したがって、他社の事業状況を分析して自社技術の特許出願であっても他社の製品を含むような権利範囲とすることが重要になります。

旭化成の事例

旭化成の事例では、経営層に知財部から情報を提供していたにも関わらず17年もの間、社内で注目されない時期が続きました。

しかし、そこで腐ることなくIPL活動を続け、IPLが知財業界の方向性と合致したことを追い風に、社内へIPLを浸透させることに成功しています。

※IPL=IPランドスケープ(Intellectual Property Landscape)
知財に基づいて、その業種や業界を把握・状況を分析し、経営層へ提言する活動

活動の有益性が認められ、経営方針に知財情報を反映させることは知財部門だけでは達成できません。スキルやノウハウを着実に積み上げ、最後は熱意で社内の関係部門を説得することも必要となります。

大企業の知財戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
知財戦略の立て方を解説!大企業の知財戦略を徹底比較します

中小企業の戦略

中小企業の知財戦略も特許庁の中小企業の活用事例集「Rights」で20事例が紹介されています。

株式会社ジンノ工業

株式会社ジンノ工業は、マイクロバブル発生に関する技術を開発する際、ゼロから作るのではなく、特許公報を先に読み参考にしました。
新製品をゼロから作ろうすると莫大な時間とコストがかかりますが、今回のように技術文献として特許を利用することで、技術者の苦悩や発想のポイントを読み取ることができたようです。

その後、他社特許からヒントを得たジンノ工業は、さらに新規性や進歩性を加えた自社技術を開発して製品化することができました。

興研株式会社

興研株式会社は、発明に対する評価システムも充実しています。

例えば、技術者の意識を高めるため年に1回発明審査委員会を開き発明を評価しています。参加者には経営者と発明者が含まれています。
自分の特許を経営者に直接アピールして、経営者から評価の理由を説明してもらえます。

経営者からの意見を次の発明に生かすことができるので、技術者と経営者との良き意見交換の場となっているのではないでしょうか。

中小企業では特許を開発者の教育として活用し、開発力の向上に繋げていますね。

中小企業の知財戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
中小企業が特許を経営に生かす方法!事例を交えて解説します!

スタートアップの戦略

特許庁のスタートアップ向け情報というページには、起業したばかりの時期に知財的に何を対策するべきかなどスタートアップに役立つ情報が提供されています。また、「国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」には、ベンチャー企業での知財戦略の活用事例が紹介されています。

Spiderの事例

例えば、Spiberは知財戦略を策定する前は、特許出願すべき内容とノウハウとして秘匿する内容の区別や出願の順番などを間違えると効果的に活用できないと特許出願を渋っていたようです。しかし、競合の特許対策から学び、特許取得数を目標値として定めて積極的に出願するように切り替えました。

その結果、技術力の高さを特許取得数で可視化することができ、大学との共同研究の交渉を有利に進めることができ、ベンチャーキャピタルによる資金調達においても、特許数の多さが競争優位性として評価されているようです。

ペプチドリームの事例

また、ペプチドリームは1つの特許ではカバーできない範囲を複数の技術に関する特許で埋め尽くし、特許ポートフォリオによる参入障壁を形成しています。その結果、大企業との対等なアライアンスを締結させています。

特にバイオや製薬業界では契約締結時には非常に厳しい審査が行われ、特許に穴が見つかると大幅にディスカウントされてしまうようですが、ペプチドリームは提携先企業から「我々が持っていないものを全てあなたたちが持っている」と言われるほど特許ポートフォリオの完成度が高いため、強気の交渉ができています。

このようにスタートアップにとっては、有利に交渉を進めるために知財戦略が活用されています。

スタートアップの知財戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
スタートアップの知財戦略!特許の活用方法を事例をまじえて解説!

他社との協業を踏まえた知財戦略

また、知財戦略は標準化やオープンイノベーションなどの仲間づくりにも役立てることができます。

標準化・規格化に対する知財戦略

特許庁から経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】(2020年発行)という資料には、標準化関連の事例も紹介されています。

例えば、ダイキン工業は、R32空調機に関する特許については、先進国や新興国で無償開放することを発表しました。

無償開放に踏み切ったきっかけは、ISO規格化です。
特許開放することでダイキン工業だけがシェアを伸ばして独り勝ちすると、他社が別の環境負荷の高い冷媒を使用してしまい、自社のビジネスがやりにくくなります。
他社も冷媒R32を採用するようにR32の仲間作りという方向に舵を切りました。特許を開放するだけでなく、特許をクローズすることで差別化も図っています。

ダイキン工業は省エネ技術や快適性・信頼性を高める技術などで競争力を維持しています。

また、デンソーは誰でも自由にQRコードを作成、印刷できるようQRコードの必須特許を無償開放して普及を図りました。

一方で、読み取り技術の特許は開放せず、デンソーが販売するQRコードリーダーで収益を確保する戦略としました。QRコードが普及することでQRコードリーダーの数も増えていくため、デンソーはQRコードの認識やデコード部分を差別化領域としました。

このような知財戦略に基づき、QRコードリーダーやソフトウェアを有償で販売した結果、デンソーはQRコードリーダーの国内シェアトップを獲得しています。

標準化・規格化の知財戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
標準化・規格化における知財戦略!グローバル市場での特許活用事例!

オープンイノベーションのための戦略

オープンイノベーションの知財戦略については、特許庁の「オープンイノベーションポータルサイト」やIP BASEの「オープン・イノベーション(企業連携)」に参考となる情報がたくさん掲載されています。特許庁の広報誌「とっきょ」Vol.41ではオープンイノベーションの知財戦略の事例が紹介されています。

例えば、KDDIはベンチャー企業に対して人や場所、ノウハウなどの事業支援を行う「KDDI ∞ Labo」を開始し、2012年には、国内外の有望なベンチャー企業に投資を行う「KDDI Open Innovation Fund」を立ち上げて、資金面でもベンチャー企業を支援しています。

2018年には、大手企業とベンチャー企業とをマッチングさせた事業共創も推し進めています。さらに、弁理士を招いたセミナーなどでの啓発、契約書の書き方といった実務面までベンチャー企業をサポートし、ベンチャー企業の知財意識の向上を図っています。

また、FLOSFIAはデンソーとの資本提携を行い、独自技術であるα-Ga₂O₃の車載応用に向けた共同開発を開始しました。

ハイブリッド車や電気自動車向けのパワーコントロールユニットに搭載する低損失パワー半導体の研究開発を進めています。そのほか、複数の企業との資本提携・協業も進んでいます。ベンチャー企業として、開発技術の詳細などを提示しすぎないよう注意し、さらに基本特許を保有するという特許戦略で競合他社から技術を守っています。

オープンイノベーションの知財戦略についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
オープンイノベーションのための知財戦略!仲間づくりの特許活用事例!

まとめ

今回は目的に応じた知財戦略の立て方を解説しました。

知財戦略は企業規模や活用目的でアプローチが異なります。その際には協業相手との交渉や権利行使を考慮した権利化戦略が必要となりますので、裁判のプロである弁護士や特許登録のプロである弁理士に相談しましょう。

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