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プロだから知ってる「情報漏洩」と「特許訴訟」の裏話【弁理士解説・それってパクリじゃないですか?最終話】

※本記事にはドラマ「それってパクリじゃないですか?」第十話のネタバレ要素を含みます。未視聴の方はぜひ、本編視聴後にご覧ください。作品はTVerHuluにて配信されています。

第10話のあらすじ

6月14日に「それってパクリじゃないですか?」がついに最終話を迎えました。最終話は、第9話に引き続き、社運をかけたカメレオンティーを巡るハッピースマイルビバレッジとの特許紛争がテーマでした。

侵害訴訟の対象となっている特許は、冒認出願されたものだった…?もし本当に冒認出願されていて、更にそれを証明できれば、新商品を無事に発売できると分かった亜季たちは証拠集めに奔走しつつ、裁判に備えていく。そして裁判が始まるが、月夜野は苦戦を強いられる。果たして亜季たちは無事に証拠を手に入れ、特許を、そして新商品カメレオンティーを取り返せるのか!?

最終話にふさわしく、ライバル企業であるハッピースマイルビバレッジとの全面対決でした。営業秘密の漏洩を疑われた五木の運命と、実際の特許侵害訴訟との比較などについて、現役弁理士が徹底解説します。

余談ですが、今回ネタとしては1話と同じ冒認出願なので「セルフパロディ」「セルフオマージュ」作品とも見れる話になっています。

営業秘密の漏洩

最終話の見どころの一つは、月夜野ドリンクの五木が、カメレオンティーに関する営業秘密をハッピースマイルビバレッジの篠山瑞生に漏洩したのか?でした。

最終的には五木が漏洩した証拠を亜季が見つけて一件落着、となりましたが、今回問題となった営業秘密に関して、ドラマに沿ってお話ししたいと思います。

そもそも、営業秘密とは

第1話や第9話でも出てきた「営業秘密」ですが、この営業秘密も立派な知的財産の一つです。不正競争防止法では、「営業秘密」を以下のように定義しています。

第2条第6項
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

引用:不正競争防止法 | e-Gov法令検索

カメレオンティーに関する実験データ等は①秘密として管理されており、②事業活動に有用な技術上の情報であって、③公然と知られていないものですから、営業秘密となるわけです。

月夜野ドリンクのように、カメレオンティーに関する有用な情報をあえて特許出願しないという手段に出ることがあることは第9話で説明しました。特許出願をしなかった場合、その情報は特許ではなく営業秘密という知的財産で一定の保護を受けることになります。

営業秘密を漏洩するとどうなる?

最終的には五木が営業秘密を漏洩した証拠を亜季がつきとめましたが、その後五木がどうなったかについてはドラマ内ではわからずじまいでした。ここでは、営業秘密を漏洩した者がどうなってしまうのかについて説明したいと思います。

民事上の責任

不正の手段によって営業秘密を取得したり、その営業秘密を開示した結果他人の営業上の利益を侵害したりした者は、民事上の損害賠償責任を負います。

月夜野ドリンクは、五木に営業秘密を開示されたことによりハッピースマイルビバレッジに特許を取得され、カメレオンティーの発売中止に追い込まれました。最終的には冒認出願であることが証明されたため事なきを得ましたが、それまでにかかった商品の回収費用や風評被害の回復にかかった損害は相当なものでしょう。

月夜野ドリンクから訴えられた場合、五木はその損害を賠償しなければなりません。一社員では到底払えないくらいの賠償責任を負うことになってしまうでしょう。

刑事上の責任

不正に営業秘密を漏洩した者は、民事上の責任だけでなく刑事上の責任を負います。逮捕・起訴されて有罪が確定すると、10年以下の懲役又は2000万円以下の罰金に処せられることになります。

月夜野ドリンクの社運をかけた重要な営業秘密を、五木がライバル会社の社員である篠山に対し故意に漏洩したとなると、五木の刑事責任は免れないでしょう。過去には営業秘密を漏洩したことで実際に逮捕された事例がいくつもありますので、その中から一部をご紹介します。

・双日の社員が営業秘密を持ち出していた事件

2023年4月25日、大手総合商社の「双日」の社員が、同業他社である総合商社から転職する際に営業秘密を不正に持ち出したとして家宅捜索されたことが報道されました。

この社員は現時点で逮捕されているかは不明ですが、今後捜査が進むことにより、民事上の責任、刑事上の責任を負う可能性はあるでしょう。

参考:双日の本社捜索、社員が転職元から営業秘密持ち出しか – 日本経済新聞

・カッパ・クリエイトの社長が逮捕された事件

2022年9月30日、同業他社である「はま寿司」の営業秘密を不正に取得したとして、「かっぱ寿司」の田辺社長(当時)が逮捕されるという事件がありました。

2023年5月31日に、田辺元社長は懲役3年、執行猶予4年、罰金200万円の有罪判決を受けています。

参考:雇用流動化、秘密漏洩に警鐘 「かっぱ寿司」元社長有罪 – 日本経済新聞

・ソフトバンクの社員が逮捕された事件

2021年1月12日、同業他社である「ソフトバンク」の5Gに関する技術情報を不正に取得したとして、「楽天モバイル」の社員(当時)が逮捕されるという事件がありました。

2022年12月9日に、元社員は懲役2年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を受けています。

参考:ニュース「5G情報流出でソフトバンク元社員に懲役2年の判決」 : 企業法務ナビ

このように、実際にも営業秘密が同業他社に持ち出され漏洩してしまった事件は数多く発生しており、いずれも刑事責任が追及されています。ドラマ内の五木も相応の罰を受けることは免れないでしょう。営業秘密を漏洩するということは非常に大きな責任を伴うということがおわかりいただけたと思います。

営業秘密を漏洩したことを立証するのは大変

五木が営業秘密を漏洩したことを証明するため、亜季は防犯カメラやパソコンの使用履歴などを徹底的に調査していました。

実際、営業秘密を漏洩したことを立証するのは本当に大変です。亜季のように連日深夜まで証拠を探すこともあるでしょう。

営業秘密を漏洩したことを疑われている社員が使っていたパソコンのログイン履歴、メールの履歴などは徹底的に調査されることになります。ドラマでは五木が営業秘密を不正に取得したことが防犯カメラに写っていて証拠をつかめましたが、実際は隠ぺい工作が図られることも多く、立証が困難である場合も多々あります。

近年では営業秘密侵害事件は増加傾向にあり、企業側が営業秘密の漏洩を立証するためにログの管理などを徹底するようになってきています。

会社内ではすべてのログが管理され、メールもすべて見られているということは頭に入れておきましょう。怪しい私用メールや私的なサイトへのアクセス履歴は会社から疑われることにもなりかねません。

特許侵害訴訟の実際

最終話では、月夜野ドリンクの弁理士・北脇と、ハッピースマイルビバレッジの知財部長の弁理士・田所が法廷でやりあうシーンがありました。

実際の特許侵害訴訟ってどうなの?という点について、特許侵害訴訟の経験が豊富な執筆者が、ドラマと比較しながら徹底解説します。

特許侵害訴訟をする場所は?

ドラマ内では「民事58部」の「地裁民事第402号法廷」で訴訟が行われていました。特許侵害訴訟のような技術が絡む専門訴訟については、複雑な技術上の問題にも対応できる裁判官がいる東京地裁と大阪地裁の2つの地方裁判所が管轄となります。

東京地裁で特許事件を扱うのは民事29部、40部、46部、47部の4つの部、かつ東京地裁は民事51部までしかありませんので、ドラマ内の「民事58部」は架空のものということになります。

また、特許事件については2022年10月より東京地裁中目黒庁舎のいわゆる「ビジネス・コート」で扱われることになりました。以前は霞が関にある本庁舎で扱われていましたが、現在は破産事件・商事事件・知財事件を専門的に扱うビジネス・コートで法廷が開かれることになります。

ビジネス・コートは中目黒駅から徒歩8分程度、恵比寿駅から徒歩10分程度の目黒川沿いに位置し、春になると桜がきれいな場所です。私も裁判に出廷するために行ったことがありますが、できたばかりで中は非常にきれいでした。ドラマ内で北脇と亜季が歩いていた建物もきれいでしたが、実際のビジネス・コートでの撮影ではないように思います。

ちなみに、地裁の控訴事件や審決取消訴訟を扱う知的財産高等裁判所もこのビジネス・コートにあります

特許侵害訴訟は法廷で行われる?

北脇と田所がやり合ったのは法廷でしたが、特許侵害訴訟はドラマのような感じで行われるのか気になった方も多いと思います。ドラマでの裁判というとまさにあのような感じで描かれることが多いのですが、実際はどうなのでしょうか。

特許侵害訴訟が法廷で行われるのは最初と最後くらいで、後は全て法廷ではなく裁判所の中の小部屋で行われるのが通常です。これを弁論準備手続といいます。弁論準備手続は一般的には公開されていないのですが、裁判所から許可されれば傍聴することもできます。

特許訴訟のような民事事件は傍聴を希望する人がほぼ皆無であるため、ドラマのような典型的な法廷で行われることはあまりないのが現状です。

ドラマ内でも傍聴している人は月夜野ドリンクの関係者しかいませんでしたが、実際もあのような感じで傍聴者はほとんどいません。ドラマの法廷シーンでは傍聴席がびっしり埋まっていることが多いのですが、あれは刑事事件であり、民事事件では誰も傍聴していないことのほうが多いです

法廷でバトルすることも稀

ドラマ内では北脇と田所がハッピースマイルビバレッジの篠山瑞生を証人尋問している場面がありましたが、実際の特許侵害訴訟で証人尋問が行われることは少ないです。

ドラマのように冒認出願が絡むような事件や、職務発明訴訟のような事件では実際の発明者を呼んで証人尋問を行うことがありますが、新規性や進歩性が無効理由の争点となる事件では書面の陳述だけで終わることのほうが圧倒的に多いです。

時には5分くらいで終わることもあり、仮に法廷で行ったとしても傍聴している人はつまらないと思います。よって先ほども説明したように、弁論準備手続で行われることが多いのです。

法廷における弁理士について

ドラマでは、月夜野ドリンクの弁理士・北脇とハッピースマイルビバレッジの弁理士・田所がそれぞれ会社の代理人として訴訟に出廷していましたね。

最後に、この、訴訟の場における弁理士について解説したいと思います。

特許侵害訴訟で弁理士は代理人になれるのか

弁理士はドラマのように特許訴訟の代理人となることができます。

ただし、特定侵害訴訟代理業務試験という試験を受けて合格した弁理士(付記弁理士)でなければ特許訴訟の代理人になることはできません。また、弁理士単独では出廷することはできず、弁護士との共同出廷が要件とされています。

ドラマでも北脇の横にもう一人代理人が座っていましたが、おそらく弁護士でしょう。

弁理士バッジ

法廷のシーンで北脇が金ピカのバッジをつけていましたが、あれは弁理士バッジです。金ピカというと弁護士バッジを思い浮かべる方も多いと思いますが、弁理士バッジも金ピカなのです。

実際の大きさは弁護士バッジよりも大きく、周りが赤くなっています。バッジを付ける弁理士はほとんどいないのですが、裁判所では北脇のように弁理士バッジを付ける弁理士もいます。

先ほども説明した通り、現在特許訴訟はビジネス・コートで行われているのですが、かつて霞が関の本庁舎で行われていたときは弁理士バッジを付けていると荷物チェックが不要になるというメリットがあったのです(東京地裁では弁護士や裁判所職員等以外は入る際に荷物チェックが行われます)。

まとめ

最終話のテーマは、第1話と同様、営業秘密の漏洩と冒認出願でした。第9話の時点で第1話と被ってしまうのではないかと思いましたが、ネタとしては見事に被ってしまい少し残念とも思われました。

しかし、第1話と最終話をあえて同一のネタにすることで、第1話では情報漏洩を疑われる身であった亜季が、最終話で情報漏洩を突き止める側に回るという亜季の成長を描きたかったのだと感じました。

最後は親会社から出向を解かれた北脇がまた月夜野ドリンクに出向することになり、以前よりも堅物ではなくなって皆と釜めしを楽しむなど、亜季の影響を如実に受けていることを視聴者に感じさせるとともに、亜季の知財部員としての成長がわかった場面で締めくくられており、非常に良いドラマでした。

このドラマを通じて、知的財産に興味を持っていただける方が増えてくれることを願いつつ、全10話に渡る記事を締めくくりたいと思います。ドラマで知的財産に興味を持った方は、過去記事もぜひご覧ください。

番組概要・原作情報

番組概要

番組名:それってパクリじゃないですか?

放送日時:毎週水曜夜10時 (TVerHuluにて配信あり)

出演:芳根京子、重岡大毅(ジャニーズ WEST)ほか

脚本:丑尾健太郎(「半沢直樹」「ノーサイド・ゲーム」「下町ロケット」など)

製作:日本テレビ

公式サイト:https://www.ntv.co.jp/sorepaku/

原作情報

「それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~」奥乃 桜子 /集英社オレンジ文庫

「それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~」奥乃 桜子 /集英社オレンジ文庫
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