超大変?それともラク?知財部と侵害予防調査の関係【弁理士解説・それってパクリじゃないですか第3話】
※本記事にはドラマ「それってパクリじゃないですか?」第三話のネタバレ要素を含みます。未視聴の方はぜひ、本編視聴後にご覧ください。作品はTVer、Huluにて配信されています。
こんにちは、弁理士フムフムです。4月26日に「それってパクリじゃないですか?」(通称、それパク)の第3話の放送がされました。わたしも北脇と同じように企業の知財部で働いているのでこれまでドラマを楽しく視聴しています。
目次
侵害予防調査ってどんな業務?
製造や販売を予定している新製品が、他社の特許権を侵害していないか事前に調べる侵害予防調査が、今回のテーマになりました。このように他社の知財を自社がパクってしまわないように事前に目を光らせておくのも知財部の仕事の一つです。
他社の売れ筋商品に似せようとした結果として権利を侵害してしまうこともあるのですが、今回のスムージーのようにまったくの偶然で他社の権利に触れてしまうこともあります。
故意でないからといって問題がないわけではありません。例えば特許法においては他人の特許権を侵害してしまった場合には過失が推定される、という規定があります。
第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。(特許法 | e-Gov法令検索)
つまりビジネスを行う上では事前に他社の特許を調査するのは当然であり、それを怠っているのは落ち度がある、とされるのがルールです。特許権を侵害してしまうと製品の製造販売を差し止められることに加えて損害賠償の責任まで負うことになります。
したがって特許権の侵害を予防するために事前の調査を十分に行う必要があります。
ただ、この手の仕事はしっかりこなすほど何も起こらなくなるので成果が外から見えにくくなります。働き損な感じもあるので知財部の中でも正直あまり人気のない業務といえます。北脇が繰り返し述べたように本当に大事な仕事ではあるのですが……。
特許を回避することで新しい技術が生まれる!
作中では、牛乳(乳成分)の代わりにライスミルクを使うようにスムージーを改良して、問題の特許を回避する方法を亜季が見いだしていました。実はドラマ中で表示された特許の記載は特許権の範囲の一部のみを示すものです。したがってこの方法で特許のすべてを回避できているのかは実は視聴者にはよくわからないのですが、北脇のお墨付きがあったので特許の他の部分についても問題はなくなったのでしょう。
ドラマではスムージーに関する知財部の仕事はここまでだったのですが、このスムージーを月夜野ドリンクの発明として特許出願することはできないでしょうか?
既存の特許で説明されていたスムージーの製法において、牛乳を使うところを単にライスミルクに置き換えたにすぎないとみなされれば特許庁の審査で拒絶されてしまいます。技術の一部を代替品に変更すること自体は技術者であれば簡単に思いつくと考えられるからです。
しかし牛乳の代わりにライスミルクを製法に取り入れるうえでは、これまでとは違う技術的な工夫が必要になるかもしれません。そのような工夫を特許出願にうまく盛り込んでおければ、月夜野ドリンクがライスミルクのスムージーについて特許を取得する可能性も十分あったものと思います。
侵害予防調査で見つかった問題特許を回避するためにいろいろ工夫することで新しい発明が生まれるケースは現実にもよくあります。
知財部における侵害予防調査の取り組み方。委託するケースも
今回の侵害予防調査は亜季に任されていたことになっていて、実際のところは北脇が自分で行っていたようでした。
たしかに、弁理士であれば研修等で調査について学ぶ機会もあるのですが、弁理士すべてが調査を得意とするわけではないのが現実です。特許の調査を専門にしているサーチャーというプロフェッショナルがいるので、予算さえあればサーチャーが所属している調査会社や特許事務所に業務を委託することも多いです。
調査を外部に委託するのは、特殊なスキルが必要だからという理由に加えて大きな責任の一端を外部の専門家にも背負ってほしいという理由もあるかもしれません。企業内弁理士も知財の専門家ではあるのですが、侵害予防調査に限らず責任重大な局面であればあるほど外部の専門家の意見を聞きたくなるものです。
仮にミスが生じたときであっても、専門の調査会社に業務を委託した結果として生じたことであれば社内的に許してもらいやすいという打算もあります。
それ以外にも、ドラマ内でのスムージーのように問題がある特許が見つかって開発中の製品の使用を変えてもらう必要があるときに、外部の専門家の意見を添えて開発部門に頼んだほうが説得が容易になる効果がありますね。
ちなみに記事後半で、亜季のように「自身の手で調査をするならどんな感じか(大変かどうか)」を解説しています。
調査を行うのはどんな人たち?
知財関係者は亜季のように、企業などで研究開発の経験がある人が多いのですが、とりわけ特許調査を行うサーチャーはベテラン開発者がジョブチェンジしてなる割合が高い傾向にあります。月夜野ドリンクのような民間企業のために調査業務を行う人たちだけではなく、特許庁の審査のために調査の委託をうけている人たちもいます。
企業の知財部では業務に占める打ち合わせの割合が多くて、企業内弁理士の私もガヤガヤした環境で毎日働いているのですが、サーチャーは業務の大半を黙々と特許文献を読み込むことになるのでかなり静かな環境で働いているようです。同じ知財の職場でもかなり雰囲気が異なることになりますね。
調査ってどんな感じ?実際、大変なのか
調査の大変さは技術分野にかなり左右されます。医薬品のように、ある化合物がそのまま製品になるような分野であれば、一つの製品に関係する特許の数は少なくなりやすく調査の規模は比較的小さくなります。
一方で電化製品のように、たくさんの部品やソフトウエアが一つの製品に組み込まれる分野であれば、一個の製品に万を超える特許が搭載されているとも言われています。それぞれの部品やソフトウエア自体にも特許がありますし、複数の部品やソフトウエアのコンビネーションの仕方に対しても特許が成立するからです。調査するべき特許の数も膨大なものになります。
カメレオンティーのような飲料の分野では、それほど特許活動に積極的ではないといわれていたのですが、機能性飲料など高度な技術が使われた製品も増えてきており最近は状況も変わってきたようです。
キツイ?それとも楽?実際の調査方法を見てみよう
特許文献のデータベースを使って製品に関係がありそうな特許文献を検索することが、具体的な調査方法となります。亜季はキーワードをつかって特許を検索していたようなのですが、言葉による表現の仕方には幅があるので、このような検索では漏れが生じやすいです。
従って特許文献を技術分野で分類する特許分類というコードを使って検索することが多いです。例えば作中のカメレオンティーに関係するコードとしては国際特許分類の「A23F 3/00」があります。これは「茶 茶の代用品 それらの調製品」という技術分野を示すものになります。
ここで試しに「A23F 3/00」で日本の特許文献のデータベースであるJ-PlatPatを検索すると8000件弱の文献が見つかります。これらの中には、
- 特許庁による審査がされておらず権利として成立していないもの
- 審査の請求がされずに出願が取り下げられたもの
- 特許権が切れてしまったもの
等々も含まれています。ですからすべてが侵害予防調査の対象になるわけではありませんが、大まかな調査の規模感がわかるので紹介しました。
また、お茶以外の分野として分類された特許がカメレオンティーに関わってくることも考えられるので、「A23F 3/00」以外の分類に調査範囲を広げることもあるかもしれません。
検索によって調査対象となる特許文献をピックアップできれば、それぞれの特許がカメレオンティーに関係するか否かを照らし合わせるために各文献を読んでいくことになります。亜季もいくつか気になる特許を見つけていたようで、特許事務所の又坂の見解をもらうことを北脇に提案できていました。北脇の期待には十分に応えられていたと思います。
※編集部注:ピックアップした特許文献(明細書)の読み方はこちらの記事で解説中。合わせて読むと、亜季の頑張りをより感じられると思います!
【コラム】なかには、開発部門から短納期で侵害予防調査をお願いされる場合があったりなかったり…
【#知財部あるある 】短納期で特許侵害予防調査を依頼される
— 知財タイムズ【知財専門ポータル】 (@chizai_times) April 26, 2023
「私は納期〇日で頼まれた」
「知財部ではこんなこともよく起きる」
「別部署だけど、知財部に対してこんなこと思ってる」
などあれば、リプ・引用RTで教えてください!
面白い知財部あるあるは漫画化することも…!? pic.twitter.com/p55OpTBD9a
第4話のみどころ
第4話では「ツキヨシ」というキャラクターについての商標出願が取り上げられるようです。
商標制度は一般的に理解が難しいこともあって、企業の商標出願や商標権が世間で過敏に受け止められて炎上することもよく見られます。ドラマの中で商標出願について分かりやすく説明してもらえることを期待しながら第4話の放送を待ちたいと思います。
【弁理士解説】ドラマ「それってパクリじゃないですか?」関連記事 まとめ
◆1話「情報流出」について ◆2話「パクリとパロディ」の違い ◆2話「パクリ」の線引き ◆3話「侵害予防調査」のリアル ◆4話 なにが「商標出願の勝ち」か ◆5話「知財部の日常」とは ◆6話「ヤバい」で出願 ◆7話 プロから見た「パテント・トロール」 ◆8話 対パテント・トロール戦線 ◆9話アイデアを守る「戦略と駆け引き」 ◆最終話「営業秘密」「特許訴訟」について
番組概要・原作情報
番組概要
番組名:それってパクリじゃないですか?
放送日時:毎週水曜夜10時 (TVer、Huluにて配信あり)
出演:芳根京子、重岡大毅(ジャニーズ WEST)ほか
脚本:丑尾健太郎(「半沢直樹」「ノーサイド・ゲーム」「下町ロケット」など)
製作:日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/sorepaku/
原作情報
「それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~」奥乃 桜子 /集英社オレンジ文庫
こんにちは。某機械系メーカーの知財部で10年以上働いている弁理士フムフムです。発明者の相談にのったり世界各国の特許庁からの通知や弁護士・弁理士からの連絡に対応したりして毎日をすごしています。
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