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ヤバいで出願?共同研究トラブルの賢い切り抜け方【弁理士解説・それってパクリじゃないですか?第6話】

※本記事にはドラマ「それってパクリじゃないですか?」第六話のネタバレ要素を含みます。未視聴の方はぜひ、本編視聴後にご覧ください。作品はTVerHuluにて配信されています。

第6話のあらすじ

「それってパクリじゃないですか?」の第6話は、大学との共同研究という、研究者にとってはなじみの深いテーマでした。

新商品の開発により見つけた技術を学会発表しようとする開発者と、「新規性」のために発表を遅らせたい知財部。新商品開発のための共同研究も打ち切られそうになり……!? 学会発表まで時間がない中で、弁理士・北脇が取った特許出願の秘策とは?

今回は特許の新規性に端を発し、企業と大学との共同開発でよくある問題、そして最後は官能評価による特許出願という、専門的な話題についてエンタメ要素を交えながらわかりやすく扱っていました。今回はこれらの事項について、現役弁理士が掘り下げて徹底解説します。

特許が取れない?「新規性」のあるある

月夜野ドリンクは大学と「じゅわっとフルーツ」を共同開発をしていました。

月夜野ドリンクの営業・五木の後輩である大学生の道重は、2週間後に学会発表で「じゅわっとフルーツ」に関する開発成果を発表することを亜季に話したところ、これが問題に。

ここでは、ドラマで問題となった「新規性」と、「新規性喪失の例外」について、実務でのあるあるを交えながら解説したいと思います。

新規性とは

開発成果である発明を特許出願しようとする場合、その発明は、世の中に知られていない状態でなければなりません。つまり、新規な発明でなければならず、これを「新規性」要件といいます。

道重が学会発表をしてしまった場合、自ら発明の内容をしゃべってしまうことになり、新規性が失われるため原則として特許は取れなくなってしまいます。

※編集部注:特許として認められるための条件、はこちらの記事で解説中

新規性が失われないための対処方法

私が知財部にいたころ、ドラマと同じような状況になることがよくありました。企業内で生まれた発明は、研究開発が一段落した段階で知財部に報告されることが多いのです。研究者や開発者が研究や開発を終えてのんびりしていると、いつの間にか製品のリリースまであと1週間しかない!というようなことがありました。

ドラマのように学会発表であれば発表をキャンセルすることは可能ですが、製品のリリースはそうはいきません。

その場合、弁理士さんに頼んで超特急で明細書を仕上げてもらうことが多かったです。超特急でお願いした場合、弁理士さんは不眠不休で明細書を仕上げてくれました。

このように、新規性が失われないよう、超特急で仕上げてもらうということが実務上はよくあります

頼む側の私は気楽なものでしたが、頼まれた側の弁理士さんは大変だったと思います。

弁理士に特許出願を依頼した場合、通常の納期は1か月前後です。少し急ぎですと2週間くらいで対応してくれる場合もありますが、発表まで1週間を切ると特急対応になります。

特急対応になると、特急料金が発生し高額な弁理士費用を支払うことになるため、企業としてはなるべく余裕をもって出願するようにします。

しかし発表が近い場合、特急料金を払ってでも出願しなければならない場合はあります。

新規性喪失の例外

弁理士・北脇は、一応「新規性喪失の例外」という方法もあるが、あまりおすすめはできないとして、小さな字で「リスク大」と書いて大学生たちにつっこまれていました。

新規性喪失の例外とは、文字通り、新規性を喪失しなかったものとして取り扱ってくれる例外規定です。学会発表をしてしまったとしても、1年以内に特許出願をすれば、新規性を喪失しなかったものとしてくれます。

しかし新規性喪失の例外は、ドラマ内でも北脇が言っていたように、実務上もあまり使われません知財部では、「なるべく使わないように」と指導されます。

理由としては、ドラマ内でも言われていたように、学会発表を聞いた第三者がその発明を先に出願してしまう可能性があるからです。

もう一つの理由としては、将来外国にも特許出願をしたい場合、国によって新規性喪失の例外規定が異なったり、無かったりする場合があるので、外国出願をする場合に不利になるからです。

よって、実務上も新規性喪失の例外はあまり使わないことが多いです。私も知財部時代はほとんど使いませんでした。新規性喪失の例外を使うよりも、超特急で弁理士さんに明細書を仕上げてもらうことのほうが圧倒的に多かったです。

企業と大学との共同開発

今回のドラマのメインテーマであった大学との共同開発。ドラマでは、月夜野ドリンクとしょうか大学が対立する状況になってしまいました。企業と大学が協力して開発を行うのに、ドラマみたいに喧嘩することなんてあるの?と思った方もいらっしゃるかもしれません。

実は、企業と大学との共同開発は、お互いの思惑が交錯してドラマのように揉め事になることも多いのです。

お互いの目的の違い

大学という機関は、研究をしてその成果を発表するのが究極的な目的です。一方で、企業は営利を目的とする法人ですから、研究成果をもとに良い製品を市場で販売し、売上を上げることが目的です。

ドラマの最後でも、月夜野ドリンクの開発部隊が大学生に対し、「お金は大事」「お金のためにやっている」と正直な気持ちを話していました。企業は売上を上げて株主に還元することが目的ですから、ビジネスである以上お金儲けをするのは当然なのです。

純粋に研究だけに打ち込んでいる大学の研究者は、ドラマ内の大学生のように、企業内研究者・開発者のマインドがわからない場合もあるかもしれません。

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共同開発契約の内容

作中では、道重の研究室の大学教授が共同開発契約をよく確認しておらず、特許出願前に研究発表をしてはならない条項が入っていることを見落としていた場面がありました。

実際は見落とすということはあまりないのですが、共同開発契約では、お互いの利害調整を図るための規定が随所に設けられることが多いのです。

例えば、ドラマでも出てきた研究発表の時期の制限規定。研究成果を一早く世の中に公表したい大学に対し、特許出願をして自社の技術を守りたい企業という利害対立を調整する規定が入っているのが通常です。

また、大学と企業のどちらに特許が帰属するのか、という規定も重要です。大学は研究成果として特許の持分を持っておきたいため、企業側に特許の持分を譲ることはほとんどありません。

製品化された後の利益の分配についても、大学側はシビアです。大学側は製品を作る工場を持っていないのが通常ですから、利益は専ら企業に入ってきます。大学側は製品を作らない代わりに、利益を多くよこすように企業に働きかけたりもします。これに対し企業は、ドラマのように、製品化に向けた開発に対して出資をすることによって製品化後の利益は確保できるようにしたりします。

このように、共同で開発をするといっても大学と企業でそれぞれの思惑があり、利害が対立することは実際にもあるのです。

意外な方法?官能評価での出願

ドラマでは、学会発表まで2週間しかない中で、特許出願をする最後の秘策として、「官能評価」による特許出願をすることになりました。

この「官能評価」による特許出願というのは、食品分野の特許出願に見られる手法で、人の味覚に基づいてデータをそろえて出願するというものです。

食品の食感や風味に対する評価というのは、計測器で数値化するのが困難です。そこで、ドラマのように、多くの被験者を集めて一定条件のもと、食品試料を味わってもらった上で数字や感想をアンケート形式で答えさせ、その結果を統計的に解析するということが行われます。

ただし、この官能評価による出願は食品分野でみられる手法で、私が所属していた電機メーカーの知財部では全く聞いたことがなく、意表を突かれたというのが正直な感想でした。もしかすると食品メーカーの方は予想していたのかもしれません。

特許出願まで期限が短い場合、超特急で弁理士に明細書を作成してもらう方法はお伝えしましたが、ほかにも「優先権主張」を行うといった方法もあります。実は、私が予想していたのは優先権主張をする、でした。

優先権主張とは、実験データなどの裏付けが取れない場合、まずは理論的な部分だけを先に出願してしまい、後から実験データなどの裏付けを追加した出願をするという方法です。この方法をとれば、理論的な部分は学会発表の前に出願することができ、実験データなどの裏付けは後から追加することができるため、理論部分の新規性は失わずに済みます。

優先権主張出願は、実務上もよく採用されている方法で、私も知財部時代はよく使いました。

特許と営業秘密

今回のメインの話題から外れた話題として、特許と営業秘密というテーマが扱われていました。弁理士・北脇が、カメレオンティーの発明については特許出願せずに営業秘密で守ると言っていました。

特許を出願した場合、権利化できれば発明を独占することができますが、その権利は出願から20年で切れてしまいます。切れてしまうとその後は第三者が自由に発明を使うことができます。

「ジェネリック医薬品」という言葉を聞いたことがあると思いますが、「ジェネリック医薬品」とは、特許が切れた医薬品です。特許が切れているため、特許料を払うことなく製造することができ、通常の医薬品よりも安く購入することが可能です。

このように、特許はメリットもありますが、切れると自由に使われてしまうというデメリットもあります。それならいっそ特許なんて出さないで秘密にしておけばいいと思うかもしれません。発明を秘密にしておけば、それは「営業秘密」と呼ばれ、これも知的財産として一定の保護が与えられます。

しかしながら、実際には営業秘密として隠し通すことは少なく、やはり特許を出したほうがメリットがある場合が多いのです。

ドラマでも触れられていたように、他社が同一の発明を特許出願してしまう場合もあります。また、秘密が漏れてしまう場合もあります。営業秘密として守ると決めたら、とことん秘密として守り抜くことが必要であり、特許を出すよりも大変なのです。

まとめ

第6話のテーマは、大学との共同開発や官能評価による出願という極めて専門的なテーマでしたが、北脇と亜季の恋のすれ違いなど、エンタメ要素が適度に入っており知財を楽しく学びながら観ることができる回に仕上がっていました。

亜季が「これはビジネスです!」と言った場面は、ビジネスの場に情を持ち込む亜季が、北脇に影響されて知財部員として着々と進歩していることを感じました。

次回はパテントトロールという話題性のある話が扱われる予定ですので、楽しみです。

今後の亜季と北脇の関係がどうなるのか、亜季が知財部員としてどのように成長していくのかにも注目しつつ、パテントトロールとの闘いに北脇や亜季がどう対処していくのか期待したいと思います。

番組概要・原作情報

番組概要

番組名:それってパクリじゃないですか?

放送日時:毎週水曜夜10時 (TVerHuluにて配信あり)

出演:芳根京子、重岡大毅(ジャニーズ WEST)ほか

脚本:丑尾健太郎(「半沢直樹」「ノーサイド・ゲーム」「下町ロケット」など)

製作:日本テレビ

公式サイト:https://www.ntv.co.jp/sorepaku/

原作情報

「それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~」奥乃 桜子 /集英社オレンジ文庫

「それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~」奥乃 桜子 /集英社オレンジ文庫
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