地図に著作権は発生するか?について解説します

チラシやパンフレット、会社案内等を作成する際、Google MapsやYahoo!マップ等を使うこともあると思います。
しかし、これらの地図を使うことが、法律上(特に著作権法上)制限されるのか、よくわからない方もいるのではないでしょうか?
今回は、地図に著作権は発生するのか、また著作権が発生する場合はどの範囲なら利用することができるのか、という点について解説します。
地図は著作物か?
著作権法では、この著作物の例として地図が示されています(著作権法第10条第1項第6号)。従って、地図は著作物に該当します。
その一方で、地図の著作物性について、裁判所は「地形や土地の利用状況等の…を所定の記号によって、客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、…著作権による保護を受ける範囲が狭い」との立場を取ることが多いです(令和元年(ワ)第26366号 著作権侵害差止等請求事件 )。
したがって地図の著作物性は、他の著作物よりも狭い範囲で認められると言えます。
著作権侵害に該当する例
地図は著作物に該当するため、地図を著作権者に無断で利用する行為は、一部の例外を除いて著作権の侵害となります。
この利用行為のうち、特に地図の複製行為とWebサイトに載せる行為について、説明します。
複製権の侵害にあたるケース
複製権とは、著作物を独占的に複製する権利です(著作権法第21条)。また、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することと規定されています(著作権法第2条第1項第15号)。
そのため、WEBサイト上の地図を業務で使用するために印刷する行為は、複製権の侵害となります。また、会社で購入した地図を業務で使用するためにコピーする行為も、複製権の侵害となります。
「会社で購入した地図を業務で使用するためにコピーする行為」が問題となった裁判についても、のちほど解説いたします。
公衆送信権の侵害にあたるケース
公衆送信権とは、著作物を独占的に公衆に送信する権利です(著作権法第23条)。また公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことと規定されています(著作権法第2条第1項第7号の2)。
そのため地図をWEBサイト等に掲載する行為は、それだけで公衆送信権の侵害となります。
著作権侵害に該当しない例
著作権法では、教育目的や私的利用など、公共の利益との関係で、著作権が制限される行為(著作権侵害とならない行為)が規定されています。
著作権の制限については、著作権法第30条から第50条において細かく規定されていますが、今回は、地図の著作物との関係ということで私的利用と学校での使用について紹介します。
私的使用のための複製
個人的に又は家庭内等の範囲内において著作物を使用する(私的使用)際に、使用する者がその著作物を複製する行為は、著作権の侵害に該当しません(著作権法第30条)。
したがって業務での使用は私的使用でないため、著作権の侵害となります。
また個人的に著作物を使用する場合であっても、著作物を使用しない者が複製した場合(例えば代行業者などが複製した場合)には、私的使用のための複製とはならず、著作権の侵害となります。
学校での使用
学校等の教育機関では、授業に使用するために必要と認められる限度で、著作物を複製することが認められています(著作権法第35条)。
ただし教育機関のうち営利を目的とする教育機関(例えば塾など)は、この著作権第35条の適用外であるため、塾などで著作物を複製することは、著作権の侵害となります。
Google Mapsなど、大手地図サービスの利用について
Google Mapsなど、大手地図サービスの利用については、いずれの会社も、許諾の要不要をガイドライン等を通じて公表しています。
Google Maps
Google Mapsでは、主に商用の印刷物に地図を利用する場合に、Googleからの許可が必要になります。
Webサイトに埋め込みなどをする場合などは、許諾はいりません。
なおGoogle Mapsをウェブサイトに埋め込む場合には、「© Google」を明記する必要があります。
Google マップ / Google Earth 追加利用規約 – Google
Google 利用規約 – ポリシーと規約 – Google
Yahoo!マップ
Yahoo!マップでは、商用利用をする場合に、Yahoo!からの許可が必要となります。ただし、Yahoo!マップを印刷広告に使用することはそれ自体が認められていません。
その一方で、Webサイトの「共有」機能を利用してYahoo!マップを掲載するときには、商用利用であっても、使用することは可能です。その際、Yahoo!からの許可は不要です。
地理院地図(国土地理院)
国土地理院の地理院地図では、商用利用をする場合や、地図の内容を加工して配布する場合に、国土地理院長への申請が必要となります。また、地理院地図を使用する場合には、出典を明示することが義務づけられています。
ただ、書籍・パンフレット、ウェブサイトへ地図を挿入するときなど、一部の場合は申請不要で地図を利用できます。
詳しくは国土地理院が発行しているこちらのパンフレットに、申請がいるかチェックできるフローが記載されています。
地図の著作権侵害について争われた事例
次に、地図の著作権侵害について争われた訴訟を紹介します。
この訴訟は、住宅地図を作成・販売する会社が、この地図を使用した会社の代表取締役に対して、著作権侵害を訴えた訴訟であり、第1審が東京地裁、第2審が知財高裁で行われています。
そして第1審では原告側(著作権者側)が勝訴したものの、被告側が控訴し、第2審で和解により終了しています。
概要
原告(著作権者)は、昭和55年以降、住宅地図の作成・販売を行っている会社です。
その一方で、被告会社は、各家庭に広告物を配布するポスティング業務を行うために、以下の事項を実施しています。
- 原告の住宅地図を含む地図を購入している。
- 購入した地図を適宜縮小して複写し、 配布員がポスティングを行う配布エリアごとに、複写した地図を切り貼りした上、集合住宅名、配布禁止宅等のポスティング業務に必要な情報を書き込むなどした地図(ポスティング用地図)の原図を作成する。
- このポスティング用地図をさらに複写し、ポスティングを行う。
判決
第1審では、以下の事項について判断がなされたうえで、被告会社の著作権侵害を認めました。
①原告地図の著作物性について
地図は、地形や土地の利用状況等を客観的に表現するものであるため、文学、音楽、造形美術等よりも、著作権による保護を受ける範囲は狭い。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択や、その表示の方法に関しては、創作性が表れ得る。
→原告地図は著作物に該当する。
②著作権侵害の有無について
被告会社は、購入した原告地図を縮小して複写したうえで、これらの複写した地図を切り貼りしている
→複写する行為が複製権の侵害に該当する。
③被告会社は、ウェブページ上に、ポスティング用地図を掲載している。
→公衆送信権を侵害する。
この後、被告側が控訴をしましたが、第2審で和解したことにより本件は終了しています。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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