地理的表示(GI)保護制度とは?分かりやすく解説!
地理的表示保護制度に馴染みのある方は多くはないと思いますし、知財実務としてもほとんど携わることがないでしょう。
しかし、この制度は地域ブランドの価値の向上を図りたいと考える生産者にとっては重要な制度といえます。
本記事では地理的表示保護制度の概要や登録要件、地域団体商標制度との違いなどを紹介していきます。
目次
地理的表示(GI)保護制度とは?
地理的表示保護制度とは、簡単に言うと、農林水産物・食品等の名称を保護する制度をいいます。
具体的には、品質、社会的評価などの確立した特性が産地と結び付いている農林水産物・食品等の名称を登録により保護するものです。
実例としては「夕張メロン」や「米沢牛」が地理的表示として保護されています。
この地理的表示保護制度を創設するために平成26(2014)年6月に特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)が成立しました。
地理的表示法は「農林水産物等の生産業者の利益の保護」と「需要者の利益を保護」という大きく2つを目的とした法律です。
TRIPS協定との関係
知的財産に関する条約である「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」は、地理的表示の保護について以下のように規定しています。
第22条 地理的表示の保護
(1) この協定の適用上,「地理的表示」とは,ある商品に関し,その確立した品質,社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において,当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう。
(2) 地理的表示に関して,加盟国は,利害関係を有する者に対し次の行為を防止するための法的手段を確保する。
(a) 商品の特定又は提示において,当該商品の地理的原産地について公衆を誤認させるような方法で,当該商品が真正の原産地以外の地理的区域を原産地とするものであることを表示し又は示唆する手段の使用
(b) 1967年のパリ条約第10条の2に規定する不正競争行為を構成する使用
(3) 加盟国は,職権により(国内法令により認められる場合に限る。)又は利害関係を有する者の申立てにより,地理的表示を含むか又は地理的表示から構成される商標の登録であって,当該地理的表示に係る領域を原産地としない商品についてのものを拒絶し又は無効とする。ただし,当該加盟国において当該商品に係る商標中に当該地理的表示を使用することが,真正の原産地について公衆を誤認させるような場合に限る。
(4) (1),(2)及び(3)の規定に基づく保護は,地理的表示であって,商品の原産地である領域,地域又は地方を真正に示すが,当該商品が他の領域を原産地とするものであると公衆に誤解させて示すものについて適用することができるものとする。
このように地理的表示は、国際的に保護されている知的財産なのです。
そして日本の地理的表示法第1条においても、TRIPS協定に基づいて特定農林水産物等の名称の保護に関する制度を確立することが明記されています。
GIマークについて
GIマークは、地域ならではの要因と結び付いた特性を有する産品であることを証明する登録標章であり、産品自体や容器、包装、広告物などに付すことができます。
なおGIマークは単体で表示することはできず、地理的表示と併せて用いなければならないというルールが「GIマークの活用促進に向けた使用方法のガイドライン」に設けられています。
地理的表示の登録例
平成27年12月22日に第1号として登録された地理的表示が「あおもりカシス」です。
以下に登録産品パネルを載せておきます。
なお令和5年7月20日現在の登録産品は139産品であり、「夕張メロン」や「米沢牛」、「阿波尾鶏」などの多種多様な特定農林水産物等の名称が保護されています。
酒類の地理的表示は国税庁の管轄
農林水産物等の地理的表示は農林水産省の管轄なのに対して、酒類の地理的表示は国税庁の管轄です。
酒類の地理的表示の場合は、酒類の産地からの申立てに基づいて、国税庁長官の指定を受けることで保護を受けることができます。
例えば清酒の分野では、兵庫県産の「はりま」や山口県産の「萩」などが地理的表示として指定されています。
地理的表示(GI)保護制度のメリット3つ
次に地理的表示保護制度のメリットについて、見ていきます。
1.同種の他産品との差別化を図ることができる
地理的表示保護制度によって保護された産品には、上述のGIマークを付すことができるため、同種の他産品との差別化を図れるメリットがあります。
2.不正な表示は行政が取り締まってくれる
地理的表示保護制度に似た制度として、「地域団体商標制度」があります。
この制度は、「地域の名称」と「商品(サービス)の名称等」の組み合わせからなる商標を保護するものです。
地域団体商標制度の場合は類似商標の不正使用者に対して、商標権者が差止請求や損害賠償請求をする必要があります。
一方、地理的表示保護制度の場合は行政が取り締まりをするため、地理的表示の不正使用の排除に手間や費用がかからない点にメリットがあります。
3.海外展開を優位に進められる
日本で登録された地理的表示について、相互保護の取決めのある国(EUや英国)においても保護されるため、海外でのブランド展開を優位に進められるメリットがあります。
地理的表示(GI)保護制度のデメリット2つ
さらに地理的表示保護制度のデメリットについて、見てみましょう。
1.登録維持のための報告義務があること
地理的表示の登録後、生産者団体には、地理的表示や GI マークが適正に使用されているか否かなどを毎年1回以上、国に報告する義務があるため、管理負担のデメリットがあります。
またこの義務に違反する場合は、農林水産大臣による措置命令の後、登録が取り消されてしまうリスクもあるのです。
2.登録申請書類作成の負担
地理的表示の登録には、産品の名称や特性、地域との結びつきを記載した申請書のほかに、明細書や生産行程管理業務規程などの各種添付書類の提出が必要となります。
こういった書類の提出は生産者団体としては、頻繁に起こる作業ではなく慣れてはいないでしょうから、少なからず手間となる点がデメリットといえます。
地理的表示(GI)保護制度と地域団体商標制度との違い
地理的表示保護制度と地域団体商標制度は、地域ブランドを保護するという点において共通していますが、相違点も多く存在します。
そこで、特に大きく異なる点を以下4つピックアップしました。
1.保護対象となる物について
地理的表示保護制度では、保護対象物が農林水産物や酒類を除く飲⾷料品などに限られるのに対し、地域団体商標制度では全ての商品・サービスが対象となる点で異なります。
2.保護対象となる名称について
地理的表示保護制度では地域を特定できるのであれば、必ずしも「地名」が地理的表示の名称に含まれなくても良いのに対し、地域団体商標制度では「地域の名称」が含まれることは必須となっている点で異なります。
3.規制手段について
上述のとおり、地理的表示保護制度の場合は地理的表示の不正使用を国が取り締まります。
それに対し地域団体商標制度では、そのような不正使用を商標権者が差止請求や損害賠償請求等の権利行使をすることで排除するという構造の違いがあります。
4.更新手続の有無について
地理的表示保護制度の場合は更新手続は不要であり、取り消されない限り登録を維持し続けることができます。
一方、地域団体商標制度の場合は10年間ごとに更新手続が必要であり、この手続を怠ると商標権が消滅してしまうという違いがあるのです。
地理的表示の主な登録要件3つ
次に地理的表示が登録されるための主たる要件を見ていきます。
1.登録の主体が所定の生産者団体であること
生産業者を直接又は間接の構成員とする団体であって、農林水産省令で定める生産者団体でなければ、地理的表示の登録ができません。
2.登録する産品が特定農林水産物等であること
具体的には、産品が特定の場所や地域、国を生産地とするものであり、品質・社会的評価その他の確立した特性を有することが要件とされています。
また特性が確立していることの基準としては、特性を有した状態で概ね25年以上の生産実績が必要です。
3.地理的表示法に定められている名称であること
例えば登録を受けようとする名称が、普通名称や既に商標登録されている場合などに当てはまるときは、登録できません。
なお商標登録されている名称については、商標権者の承諾を得ている場合は除かれます。
地理的表示法に違反した場合の罰則
地理的表示の違反に対しては、様々な罰則が設けられています。
1.地理的表示の不正使用に対する罰則
個人の場合は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられ、団体の場合は3億円以下の罰金が科せられます。
2.GIマークの不正使用に対する罰則
個人の場合は3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられ、団体の場合は1億円以下の罰金が科せられます。
3.登録後の義務違反に対する罰則
個人・団体いずれについても、30万円以下の罰金が科せられます。
まとめ
地理的表示は、特性・地域との結びつきといった産品の魅力や強みを見える化して、私たち需要者に訴求できる頼もしいツールだということが分かりましたね。
GIマークも有効活用しながら、日本のみならず海外へ地域ブランドを展開していきましょう。
本記事が地理的表示の理解への一助になれば幸いです。
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知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。
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