米国弁護士&日本弁理士が解説!世界展開の事業についてはどの国まで商標をとるべき?
はじめに
外国商標入門において、商標の保護・効力は、基本的には登録を受けた国内に留まるという属地主義が採用されており、複数の国で効力のある商標は、ヨーロッパなどの特定の地域連合を除き、現時点では存在しないことを説明しました。
したがって、この原則からすると、例えばスマートフォンアプリにより、国境に関係なくビジネスを展開する場合には、アプリの提供される世界各国で商標登録を受けなければ、自分のブランドを守れないことになります。
そればかりか、世界のどこかの国で第三者が先に商標登録を受けてしまえばその国で当該第三者によりビジネスを妨害されてしまうということになりそうです(詳しくはオンラインビジネスと海外商標も参照)。
しかしながら、世界各国で商標登録を受けるとなると、そのコストは莫大なものとなりますし、その維持管理にも大きな手間と費用がかかります。
今回は、商標登録を受ける国をどのように優先付けしていけばよいか?について考えてみたいと思います。
主観
まず考慮すべき事項としては、あなた自身がどの国でそのビジネスの成功を目指しているのか?という主観面であろうと思います。
日本を軸足にまずは考えていて、徐々に海外でも成功できるとよいなと思われている場合、まず考えるべきは日本での商標登録取得ということになるでしょうし、次に考えるべきは日本語や日本文化が一定程度浸透している近隣諸国(韓国、中国、台湾、香港など)ということになるでしょう。
一方、たとえばそもそもビジネスを英語で展開しており、欧米狙いなのだということであれば、まず考えるべきは、欧米諸国(アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア等)でしょうし、次に考えるべきは、英語圏の諸国(シンガポール、香港、フィリピン、インドなど)ということになります。
世界展開とは言っても、ご自身が主観的に意識している国に合うように、展開されるビジネスの内容も、当該国の文化や嗜好に則した作りをされることになるかと思いますので、その意味でもご自身が狙いを定めている国を中心にまずは優先順位付けをしていくことがよいのではないでしょうか。
市場
次に検討すべき事項としては、市場の大きさではなかろうかと思います。
主観としては、特定の国で成功を目指したいものの、ビジネスとして考えた時に、大きい市場は捨てられないということは往々にしてあることかと思います。
大きい市場とは、人口がそれなりにいて、かつ可処分所得がある程度あるところに限られてくるように思います。
現時点において、隣接又は接続市場も含めた広域市場として大きなところとしては、アジアであれば、韓国、中国、台湾、シンガポール、インドあたりだろうと思われますし、欧米であれば、アメリカ、ヨーロッパあたり、中南米であれば、メキシコ、ブラジルあたりになるでしょうか。
顧客の属性
別の視点から考慮すべき事項としては、ターゲットとしている顧客の属性です。
たとえばですが、スマートフォンでのアプリを介したビジネス展開なのであれば、そもそもスマートフォンが普及している国でないと意味がないので、スマートフォン普及率の高いところから優先順位をつけるということもありえるでしょう。
また別の例でいうならば、日用品の販売に係るビジネスであれば、その品目があまり流通していない国の潜在需要を狙うということも考えられますので、その場合には流通していない国に高い優先順位をつけることも考えられるでしょう。
商標登録のない国での商標リスク
また別の視点から検討するに、商標登録を一部の国のみで取得して、他の国では取得しない場合、その取得しない国で生じる商標リスクが、ビジネス全体にどの程度影響するか?ということも要考慮事項といえます。
外国商標入門やオンラインビジネスと海外商標でも解説したとおり、属地主義が原則である商標制度において、ある国で商標登録を得ずにビジネスをするということは、当該国で以下のリスクに晒されます。
- 自分のブランドを他人に模倣されて、その信用にタダ乗りされる(=利益を奪われる)
- 先に登録を得た第三者から「当該商標を今後使用するな」と言われる(差止)
- 先に登録を得た第三者から「当該商標の使用により生じた損害を支払え」と言われる(損害賠償請求)
- 先に登録を得た第三者から「当該商標を使用した商品・サービスの全てから当該商標の表示を外せ」(≒在庫等を全て処分せよ)と言われる(除却等請求)
このようなリスクが現実化した場合、当該国に特化した対応をすることができる(つまり、当該国だけ商品・サービスの提供をやめることや、当該国だけブランドを変更することができる)のであれば、当該国で商標登録を得る優先順位を低く評価することもできると思います。
一方、当該国に特化した対応が困難(たとえば、全世界同一ブランドで商品・サービスを展開することが肝であるだとか、当該国からの利益が大きく、当該国を捨ててしまうとビジネスの存続自体が危ぶまれるなど)な場合には、当該国で商標登録を取得しないという選択肢は取り得ないように思われます。
海外での商標登録を見据えた戦略は?
国境を越えるビジネスを展開すると言っても、このサイトをご覧になっている読者の多くは、日本においてビジネスを立ち上げられた方なのではないかと推測しています。
そうであれば、今時点において、海外での商標取得をあまり現実的に考えられない場合であっても、まずはとっかかりとして、日本において商標登録を取得することをご検討されてはいかがでしょうか。
マドプロルートが使えるようになる
世界各国で商標を将来に取得していくにあたって、日本での商標登録の有無は、その戦略に大きな影響を与えます。
例えば、いざ海外商標を取得に動く場合、出願ルートを検討する必要があるところ(詳しくは外国商標入門をご参照)、日本に商標登録があれば、マドプロ出願により複数国に対して一括出願することができます。
アメリカ出願・登録の時間・手間を短縮
また、将来的にアメリカへの商標出願をご検討される場合、日本の登録と紐づけずにアメリカに直接出願を行ってしまうと、その商標をアメリカで現在既に使用しているか、又は今後アメリカで使用する意思があるのかを示して出願する必要があります(詳しくはアメリカ商標をご参照)。
アメリカでの使用実績を基礎に出願するのであれば、その使用実績を証拠づける使用証拠の提出手続を出願と同時に行わなければなりませんし、また今後の使用意思を基礎に出願した場合には、登録査定を受けた後にその手続を行わなければ登録を受けることはできません。
この使用証拠の提出手続は、近年審査が厳しくなっており、想定以上に手間と費用がかかってしまうことも考えられます。
この点、日本の商標出願又は商標登録を基礎とする場合や、マドプロルートでアメリカに商標出願を行う場合には、出願・登録時点で使用証拠の提出手続を行う必要がありません。
よって対アメリカを考えた場合にも、日本での商標登録の有無は、アメリカでの商標取得の早期化に影響を与えるといえます。
おわりに
商標というのは、専門知識の求められるもので、とっつきやすいものであるとは言い難いものである一方、その登録の有無によって、ビジネスで受ける影響は大きなものがあります。
それに加えて、言語・文化を異にし、異なる制度を有する国において、商標について考えることは、よほどの経験者でないと非常にハードルが高いもののように思います。
そもそも何から考えたらよいのか?を含めて相談できるのが、日本国内・国外の商標について専門的な知見を持っている弁理士といえます。
出願を具体的にお考えでないとしても、気軽に弁理士に相談されるとよいのではないでしょうか。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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