ITベンチャー企業の特許分析!デジタルものづくりのカブクを解説
今回分析するITベンチャー企業、株式会社カブクです。製造業のデジタル化をコアに技術経営を推進しています。特許網の構築だけでなく、M&Aや大企業との協業を見据えた知財戦略を実行した企業ですので参考になると思います。
<この記事でわかること>
・株式会社カブクの特許と商標の出願傾向
・大企業と協業するための特許戦略と関連特許
(執筆:知財部の小倉さん)
株式会社カブクの概要
会社概要
株式会社カブクは2013年に稲田雅彦氏によって創業された、「デジタルものづくり」のプラットフォームを開発・推進するベンチャー企業です。
カブクは「ものづくりの民主化」をビジョンに製造業向けのオンデマンド製造サービスなどを手がけ、トヨタやホンダなど最大手メーカーとのモノづくりを推進しています。
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株式会社カブク ホームページ
製品・サービス
「Kabuku Connect」は試作・特注品・量産のオンデマンド製造サービスで、国内・海外の工場ネットワークにより納期短縮、低価格、新素材でのオンデマンド製造を実現するしています。最新産業用3Dプリンターによる試作・最終製品製造のほか、金属3Dプリンターによる製造などの実績があります。
「Kabuku MMS」は工場向け営業支援・受発注管理システムで、製造を行う工場向け営業支援・受発注管理のクラウドサービスです。製造工場の見積~納品までの業務工数を削減し、生産性を約5倍向上させることが可能です。見積もり作成、受発注管理、請求書の発行、会計処理などの手間と時間がかかるプロセスの簡素化を実現します。
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カブクコネクトサイト
Kabuku MMS ホームページ
特許動向分析
株式会社カブクの知財戦略
特許庁のスタートアップ向け情報というページに「国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」が公開されており、ベンチャー企業での知財戦略の活用事例が紹介されています。カブクも事例の一つとして紹介されています。
カブクはAI、IoT、セキュリティなど幅広い範囲で特許を取得し、戦略的にポートフォリオを構築し、大企業との協業時に対等な関係を築く施策としています。
カブクでは社会的にインパクトのある事業を展開するため将来的に大企業となることを想定していましたが、そのためにはグローバルなコネクションや工場の立ち上げ、人材教育が必要であり、膨大な資金と時間が必要でした。
そこで、東証一部上場企業である双葉電子工業株式会社からのM&Aを受け、事業を加速させました。
カブクは自社の特許ポートフォリオ構築に力を入れていたことで、他社権利を侵害しているリスクが少ないと連携先の大企業から評価され、信頼性の確保に繋がったようです。
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スタートアップ向け情報(特許庁)
国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集
分析に使用したツール
今回の分析にも以下のツールを使用しました。
【検索ツール】J-PlatPat
【分析ツール】Microsoft Excel(Office365)
分析の詳細な手順については過去の記事で紹介していますので、ご参照ください。
参考URL
パテントマップ実践!J-PlatPatとExcelを使った知財状況の可視化
特許マップ(パテントマップ)の作り方!知財部員がやさしく解説!
母集団の取得
J-PlatPatで四法全ての件数を把握します。「テキストボックス」には株式会社カブクと入力しました。
検索結果として、特許・実用新案13件、商標14件がヒットし、ノイズはありませんでした。
次に、特許と商標の内容をそれぞれ見てみましょう。
特許出願の推移
特許13件の出願番号と登録番号をグラフにすると以下のようになります。13件のうち9件が登録されています。また、特許は2016年、2017年に集中して出願されています。
出願人を見てみると、全て「カブク」となっています。通常、大企業と協業すると共同出願になりやすいのですが、自分たちのアイデアは協業前に出願しておいたのだと推測できます。
これにより、自分たちの独自のアイデアが共同出願となってしまい、大企業に無料で使われてしまう事態を避けることができています。
さらに出願のIPC分類を見てみると下のようになります。分類内容を知りたい場合は「特許・実用新案分類照会(PMGS)」から確認できます。
特許ポートフォリオは、ほぼG06(計算または計数)で占められています(13件中の10件)。
商標出願の推移
特許と同じように、商標の出願件数の推移を見ていきます。最新の1件(審査中)以外は無事に登録されています。
ロゴは下にあるように「kabuku」と「u」の2つがメインで登録されており、その他Kabuku MMSなど上記したサービス内容が標準文字で登録されています。
特許事例紹介
株式会社カブクの特徴的な特許を事例として紹介します。
「価格見積もりシステム、価格見積もり方法及びプログラム」(特許第6831676号)
従来は3次元CAD装置から見積もり対象となる加工物品の3次元データを取得し、取得した3次元データから加工物品の製造に必要な材料及び加工工程を特定する加工物品情報を抽出して取得していました。
しかし、3次元データを作成する人、ソフト、規格などの相違によって、その加工物品の特徴部分とは異なる部分のデータ内容が異なり、その結果として見積もり精度が高くなかったようです。
本発明は3次元データに基づき、仮想空間に配置された製品を所定の視点から見た外観を示す複数の2次元画像を生成し、生成された複数の2次元画像から入力特徴ベクトルの和集合を含む入力画像情報を生成しています。
この処理により見積もり精度の高い価格見積もりシステムを実現しています。
「造形支援システム」(特許第6836363号)
3Dプリンタなど立体的形状を造形する装置が注目されており、素材を積層することで造形を行います。
この際、重力の影響下で所望の造形を実現させるため、立体の形状や用いる材料の物性等に応じて、造形途中の立体を支持し造形完了後に目的物から除去される部材(サポート部材)が利用されています。
しかし、サポート部材の最適な位置などを決定するにはコンピュータによる複雑な構造計算が必要であり、ハードウェアリソースを大量に消費します。そのため、このような計算を条件変えて何度も繰り返すことは現実的ではありません。
本発明によって、ユーザによるサポート部材の導入方法についての決定を支援することができます。
まとめ
今回は株式会社カブクの特許分析を行いましたが、2016~2017年に特許や商標を集中的に出願することで、強力な知財ポートフォリオを構築していました。
その結果、自社の強みである3次元CADによる見積もり技術や3Dプリンタによる造形技術と合わせてブランドも保護できていました。そしてその後に大企業と連携することで、対等な立場での連携ができたものと思われます。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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