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ITベンチャーの知財活用!VCからの出資や技術情報の収集のポイントを解説!

知財戦略 知財活用

ITベンチャーにとって知的財産権の取得にかかる費用は負担が大きいです。知財の必要性は理解できていても、具体的な活用がイメージできないと出願しようと思えないですよね?

そこで今回は、特許庁が運営するIP BASEというサイトに掲載されている事例を紹介しつつ、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受ける際の知財活用ポイントや特許情報から開発のヒントを得るためのポイントを解説します。

<この記事でわかること>
・ITベンチャーがVCから出資を受ける場合の知財活用ポイント
・先行技術調査による他社特許情報の活用ポイント

(執筆:知財部の小倉さん

ITベンチャーの知財戦略事例

スタートアップ向けコンテンツとして公開されている「国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」から、ベンチャー企業で知財戦略を取り入れた事例を紹介します。

株式会社One Tap BUY (ワンタップバイ)の事例

One Tap BUYは日本初のスマホ証券として、2016年6月にサービスを開始しました。1,000円でリアルタイムに株式投資できる仕組みや使いやすいインターフェースを基盤に、「何よりも簡単」で「最も使いやすい」証券会社を目指しています。

また、利益分のみ売るという業界初のシステムも導入し、「利益分だけをワンタッチ操作で売却可能にする」「ポートフォリオを示すグラフィックで、取引注文操作を可能にする」などの特許を取得しました。

大企業からアイデアを保護するため特許を積極的に取得!

金融業界は「商標はあるが特許はない世界」と言われており、テクノロジーを軸として金融商品の競争力・独自性を発揮することは難しいと考えられています。そのため、大企業のブランドやマーケティング力を背景とした事業展開が中心となっています。

One Tap BUYでは、金融業界でもテクノロジーを軸とした独自性・競争力の強化が可能であると創業当初から考えていたため、起業時点から積極的に知財戦略などを意識して取り組みました。

契約する弁理士へ特許になりそうな技術をすべて展開し、可能なものはすべて権利化するという方針としています。そして年間予算を管理し、多くの資金を特許出願に割くようにしています。

このように弁理士とすばやく連携することで、大企業が豊富な資金を使ってOne Tap BUYのサービスに追随してこないよう防御を意識した知財戦略をとっています。

過去の苦い経験が知財戦略のモチベーションに

大企業を追随を意識した知財戦略は、One Tap BUYの社長である林 和人氏の苦い経験から来ています。

林氏は以前に中国株専門のネット証券会社を起業し、類似のビジネスモデルはなく独占状態を作り上げました。しかし、サービス開始2年後から中堅の証券会社が市場に参入し、類似技術の特許を取られてしまいました。

最初のうちは脅威には感じていませんでしたが、6年後には追い付かれ、10年後にはついに並ばれてしまいました。林氏はお金になるアイデアは盗まれるのが当たり前で、知財がないと守るのは難しいと実感したようです。

One Tap BUYでは、これを教訓にベンチャーキャピタルの出資者ともNDAを結ぶなど、特許出願中のアイデアが流出しないように対策をしました。

将来のビジネスを想定して海外でも出願

One Tap BUYでは日本国内だけでなく、海外にも特許出願をしています。

すぐに海外で日本と同様の金融取引をめざすということではありませんが、現地の証券会社がOne Tap BUYのインターフェースを利用したいという依頼があった場合に、ライセンス契約を結ぶことを想定したものです。

本格的な海外展開には事業基盤が必要なため、まずは段階的な展開としてのライセンスビジネスを見据えています。

大企業の模倣を意識して参入障壁を形成

One Tap BUYが大きく成長したフェーズも意識し、大企業からの模倣の防衛策として多数の特許を取得した、同社製品のアプリケーションについて強固な参入障壁を形成しました。

参入障壁形成の結果として、大企業側からOne Tap BUYと連携してビジネスを展開していくことを目指した数々の協業オファーの声がかかるようになってきています。

まずは国内唯一の企業となることをめざしてきたため、自社特許を活用したライセンスビジネスの展開は日本国内では想定していませんでしたが、こうした企業との協業も今後の展開として検討しているようです。

知的財産を活用して企業価値を最大化するポイント

特許による参入障壁を形成したことで大企業から協業オファーがあったり、ビジネスに良い影響があったようですが、そのような参入障壁は専門家の協力なくしては実現できません。弁理士との連携や資金調達への活用について解説します。

参考:IT系でも知財活用は時価総額に跳ね返ってくる 企業価値を最大限にするポイントとは

知財戦略は弁理士と相談しましょう

One Tap BUYでは、サービスの参入障壁を構築するため特許を出願し、その後、知財ポートフォリオの構築についてもサポートを受けています。One Tap BUYの場合、社長の林 和人氏が知財戦略について考えをもっており、弁理士からは出願のタイミングについてアドバイスしたようです。

弁理士いわく、知財はタイミングが重要であり、製品のローンチと特許出願のタイミングは近いほうが効率的とのことです。

早過ぎると特許の存続期間がムダになるケースもあり、見極めが必要です。さらに将来的なポートフォリオまで考えることで、知財戦略を進めやすくなります。

事業戦略にもとづいた知財戦略を立て、タイミングよく実行するには、弁理士など専門家からのアドバイスが必要ですが、社長が知財を理解していることがいちばん大事であるとOne Tap BUYをサポートした弁理士は言います。

最初のうちは社長主導で、社内で一定のフローができてから、知財担当者を立てるのがよいとのことです。複数の特許事務所と接点を持ち、使い分けできるようにしておくのがベストで、自社と相性の合う弁理士との出会いが重要なようですね。

大企業からの出資獲得

One Tap BUYではベンチャーキャピタルの他にも、ソフトバンク株式会社やみずほ証券株式会社などからの出資も
獲得しています。このような大規模な出資においては、事業拡大前にコア技術を権利化しているかどうか確認さ
れます。

別の企業では、上場時の目論見書に「特許戦略」の項目を記載しているようです。IT系の企業が目論見書で特許戦略をアピールするのはかなり珍しいケースですが、参入障壁を作るために特許戦略をしていることがひと目でわかり、機関投資家からの一定の評価を受けることが可能なようです。IT系でもうまく知財を活用すると時価総額を上げることができるのですね。

その他、知財を投資家へアピールするために、投資家へのプレゼン資料にこれから進めようとしている事業を包含している特許を説明するスライドを入れるのも効果的です。

他社特許情報から開発のヒントを得る

One Tap BUYの社長である林氏は、技術情報を得るためにも特許を活用しているようです。具体的に、どのような活用をしているか紹介します。

参考:先願調査でアイデアを磨け One Tap BUY林氏のスタートアップ知財ハック

特許情報はアイデアの宝庫!

One Tap BUYの最初の特許出願では、大手コンサル会社から弁理士を紹介してもらい、特許のイロハを学んでいきました。林氏が特に興味をもったのが、過去の特許出願、登録文献を調査する「先願調査」(先行技術調査ともいう)です。

林氏は「先願調査をすると、その時点で同業他社の動向や競合がどれくらいいるのかがわかり、こういう考え方があるのかと異なる視点の勉強にもなる。起業家にとって、特許情報はアイデアと技術の宝庫。先願調査のコストはかけるべき」と言っています。

One Tap BUYでは、現在も継続して毎月先願調査を実施しているそうで、他社特許を把握するのは権利侵害の回避にも繋がっていますね。

林氏いわく、新しい商品やサービスが世に出るおよそ2年前には、特許が申請されているようです。次の時代を読むためにも先願調査は役に立つため、スタートアップが事業戦略を立てるための手段として有用ということです。   

減免制度も活用し費用を抑えましょう

スタートアップにとって気になるのは、費用の問題です。知財予算を立てて資金調達を考える必要があります。

One Tap BUYの場合、先願調査に30~40万円、申請に約30万円、国内の特許取得までにかかる費用は120万円程度を見込んでいます。さらにPCT(国際特許出願)が200~300万円、翻訳費用などを含め、年間予算として600万円を見積もっています。

知財を抑止力にするのか、実際のビジネスに生かすのかによって、費用のかけ方は違ってきますが、設立したばかりのスタートアップにとっては大きな金額ですね。

知財が重要なビジネスであれば、VCや投資家に特許費用も支援してもらえると理想的ですが、特許取得前の技術を評価してくれる金融機関やVCは少ないようです。

最初のうちはスタートアップ向けの特許料の減免制度などを利用することで、審査請求料や特許料、国際出願の手数料などが、3分の1に軽減される可能性があります。

参考:特許料等の減免制度(特許庁)

まとめ

今回はITベンチャーの知財活用ポイントをOne Tap BUYの事例を交えて解説しました。新規事業の立ち上げ時は資金繰りが厳しいと思いますが、うまく知的財産を活用することで資金調達に有利にはたらきます。

価値の高い特許を取得することは簡単ではなく、特許調査を行って他社動向を監視し、出願タイミングを見極める必要があります。ある程度のスキルは社長や社員が習得したほうがよいですが、専門家に任せることも必要です。

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