「小道具(体モノマネTシャツ)」〜発明者はロバート秋山〜【おもしろ特許】
「え!?これ特許なの?」
今回は思わずそんな声が出てしまいそうになる、ちょっと変わった特許をご紹介します。
その名も「体モノマネTシャツ」。
発明者は秋山 竜次さん。あの人気お笑い芸人、ロバートの秋山さんです。
この特許のネーミングを聞いただけで、どんな内容かピンとくるでしょうか?
【特許の基本情報】
特許番号:特許第6366202号
発明者:秋山 竜次
出願日:2016.9.3
出願状況:特許取得
特許の肝「発明が解決しようとする課題」を簡単解説!
まずは特許明細書に書かれている内容を紹介します。
【背景技術】
観衆に対して芸を行う者等が、自分の顔を瞬時に別人の顔等に変えることで観衆を笑わせ或いは驚かせる芸を披露する場合がある。この場合には、従来、他人の顔等をかたどった絵や写真等から作成したお面(例えば、特許文献1)を用意しておき、これを予め手に持っていたり近くにおいておいたりして、必要なときに取り出すようにしていた。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記お面のような小道具を手にすることなく顔を変化させることができれば、観衆に更に意外性を感じさせて、より一層興趣を高めることができる。
そこで本発明は、自分の顔を瞬時に別人の顔に変えてみせるにおいて、観衆の興趣をより一層高めることができる小道具を提供することを目的とする。
【発明の効果】
本発明によれば、自分の顔を瞬時に別人の顔に変えてみせるにおいて、観衆の興趣をより一層高めることができる。
出典:J-PlatPat
この特許明細、ちょっと面白い書かれ方をしていると思いませんか?
簡単にいうと、
【背景技術】
これまでは他人の顔が描かれた絵や写真などでお面を作り、それを使って観衆を笑わせたり驚かせたりしてきました。
【発明が解決しようとする課題】
でも、お面を使わずに顔を瞬時に変えることができればもっと面白くなるはず…。
そこで、芸をもっと面白くできる小道具を発明しました。
【発明の効果】
この小道具(体モノマネTシャツ)を使えば、瞬時に別人の顔に変わることができて、より一層、ウケることが可能です。
という内容です。
この特許を使うシチュエーションといえば…
「ちょうど観衆を笑わせる予定があったんだ。」
「お面を使うと片手がふさがるし、ネタバレしやすいんだよね。」
考えられるのは、宴会の余興などでしょうか。
特許明細書にもどこか遊び心が感じられますね。
特許取得までの道のり
この特許は、出願してから取得するまでに約2年かかっています。
その道のりは以下のとおり。
- 2016年09月 特許出願
- 2016年11月 拒絶理由通知
- 2016年12月 意見書提出
- 2017年02月 拒絶理由通知
- 2017年04月 手続き補正書・意見書提出
- 2017年06月 拒絶査定
- 2017年09月 手続き補正書提出
- 2017年10月 拒絶査定不服審判
- 2018年06月 審決:拒絶査定の取り消し
- 2018年07月 特許取得!
じつは、特許庁から拒絶の判断を3度受けています。
焦点となったのは、「新規性」と「進歩性」。この2つの特許要件を満たしていない、というのが拒絶の理由です。
【原査定の概要】
1.(新規性)この出願の請求項1~3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1~3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
J-PlatPat
簡単にいうと、
(新規性)この発明品は、すでにメディアを通して皆に知られている
(進歩性)関係者なら容易に発明できる
という指摘が入ったのです。
このままでは特許が取得できないので、当然、反論します。
[相違点]
本願発明1が、「前記像が有する目の位置を示す」目印が設けられ、前記目印は「前記像の目の」並び方向に延び、「前記像の目の並びの位置と合致した位置に設けられており、前記目印の両端はそれぞれ前記像の輪郭と対応する位置にある」小道具であるのに対し、引用発明は、そのようなものでない点。
出典:J-PlatPat
どういう内容かと言うと、
この6つに並んだ星マーク。これは、自分の目と顔の輪郭にピッタリ配置しています。このマークに合わせることで、素早く別人の顔に変わることが可能に。だれも知らない新しいアイデアです!
この反論を受けて、特許庁も拒絶査定を取り消しました。
このように「工夫」や「使用制限」などを設けることで、特許審査をクリアするケースは少なくありません。
この特許のルーツとは!
ロバート秋山さんの代表的な芸といえば、体モノマネ芸。
「なんだその大御所みたいな体は」
この芸は、芸人仲間から指摘されたひとことから生まれました。
体モノマネ芸とは、上半身裸になり、大御所役者の顔写真を無言のまま顔にあてがい笑いを取る芸のこと。
芸のネタになっていたのは、ご存知、梅宮辰夫さん。
秋山さんの体モノマネ芸について「どうせなら長く続けて、俺が死んでもやってくれよ」と温かい言葉をかけていました。
気分を害さずに、相手を激励できる。さすが「昭和の大スター」です。
まとめ
ロバート秋山さんの「小道具(体モノマネTシャツ)」を紹介しました。
読みづらく難しいと感じる特許明細書も、面白く表現されています。
余談ですが、ロバート秋山さんの体モノマネTシャツは公式サイトから購入が可能です。価格は3,520円(税込)。ベビースタイやポーチも販売中です。
興味のある方は是非見てください。
※価格は2022年5月15日現在の情報です。
自動車、航空機業界で設計エンジニアとして15年以上勤務。
業務で特許出願に関わったことから「知的財産」に興味を持つ。
じつは前職場で1件特許出願した経験あり。
今はWebライターとしても活動中です。
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