商標ゴロって何!?事例と対策についてご紹介

「商標ゴロ」と聞いてピンとこない方もいるかもしれませんが、何も知らずに商標ゴロに巻き込まれれば高額な費用を支払わされる危険性があるのです。
そこで本記事では、商標ゴロの概要や実際に起きた事例、対策法などについて紹介していきます。
商標ゴロとは?
商標ゴロとは商標権を高額で買い取らせたりライセンス料を得ることを目的として、先取りで商標出願する者をいいます。
「商標トロール」や「商標ブローカー」、「商標マフィア」などと呼ばれることもあります。
日本の商標法は、基本的に「先願主義」を採用しています。この主義は2つ以上の商標出願がされた場合に、出願日が先の出願が優先的に保護されるという考え方です。
商標ゴロはこの先願主義の制度を悪用して、本来であれば商標権者になるべき者よりも先に出願してしまうのです。
そして商標ゴロに対して商標を使用したい旨の交渉をすると、商標権の高額譲渡やライセンス契約へ誘導されるのが手口と言われています。
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1.ベストライセンス社と上田育弘氏による商標大量出願
ピコ太郎氏の「PPAP」の商標が、無関係の第三者によって出願されたというニュースが話題になりました。
この出願人がベストライセンス社であり、同社の創業者が元弁理士の上田育弘氏です。
ベストライセンス社と上田育弘氏による商標出願件数は圧倒的なものでした。
例えば2017年の出願件数は約32,000件であり、これは同年の特許庁への全商標出願件数の約17%を占める数です。
両者によって出願された商標の例としては、以下のものが挙げられます。流行語や国の施策など話題性のあるネーミングを片っ端から出願していました。
大量に商標出願をする目的は、商標の使用を希望する者とライセンス契約を締結することで商標の使用料を得ること、といわれています。
年間に3万件も出願をしていて出願費用がかかりすぎるのでは?と思う方もいるかもしれませんが、出願コストは0円でした。
なぜならば特許庁に対し、出願手数料としての印紙代を支払わずに出願していたからです。
印紙代を支払わずに出願をした場合は出願が却下にはなるものの、それ以外のペナルティは特にありません。
出願の却下は4か月~6か月程度でなされるので、新しく出願した人が商標登録されるようにも思えますが、ベストライセンス社の出願は生き続けました。
それを可能にしたのが「分割出願制度」の悪用です。
分割出願とは元の出願から指定商品(サービス)の一部を分割して、新たな出願ができる制度をいいます。
この新たな出願の出願日は、元の出願の出願日にさかのぼります。そのため元の出願と新たな出願の間の日に他人が出願したとしても、新たな出願に出願日で勝てないのです。
ベストライセンス社は元の出願が却下される前に分割し、新たな出願が却下される前にさらに分割するということを繰り返して、大元の出願日を無料で維持し続けていました。
このような状況が見過ごされる訳がなく、後述する特許庁の運用変更や法改正が行われるような大きな事態に発展したのです。
2.「ゆっくり茶番劇」事件
「ゆっくり茶番劇」とは東方Projectの「ゆっくり」という2人のキャラクターを使って行われる茶番劇動画のことです。
この「ゆっくり茶番劇」という単語が、東方Projectとは無関係のとあるYouTuberによって出願され、商標登録されました。
そして商標権を取得したYouTuberは、「ゆっくり茶番劇」の商標を使用する者に対してライセンス契約が必要になるとSNSなどで公言したのです。
YouTuberの一連の行動に対しては当然のことながら世間の批判が相次ぎ、地上波でも報道されるような大きな騒動となりました。
その後、事態を重く見たYouTuberは「ゆっくり茶番劇」に関する商標権を放棄し、騒動は収束に向かいました。
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モンスターエナジー社も商標ゴロ?
商標ゴロなのではないかと一時期話題になっていたのが、エナジードリンクの「モンスターエナジー」を展開するモンスターエナジーカンパニーです。
同社は任天堂社の「ポケットモンスタ-」やミクシィ社の「モンスタ-ストライク」、カプコン社の「モンスタ-ハンタ-クロス」など約120件の商標登録に対し登録異議の申立てをしました。
登録異議申立てとは、特許庁の商標登録の判断に異議がある場合に、第三者がその登録の取消しを求められる制度です。
結果としてモンスターエナジーカンパニーの申立てが認められたものは、1件もありませんでした。
このような大量の登録異議の申立てに対し、ネットでは
イメージ最悪になったわ
モンエナ買うのやめるわ
などの辛辣なコメントが多く見受けられました。
モンスターエナジー社は商標ゴロなのかという問いに対して筆者は、いわゆる商標ゴロではないと考えています。
なぜならブランド保護の意識が高い企業であれば、自社の商標権を守るための権利行使や登録異議申立て等の手続をするのはごく普通のことだからです。
しかしモンスターエナジー社に対して辛辣なコメントが多く寄せられたように、ブランド保護活動も度が過ぎるとかえってブランド価値を落としかねないということが教訓として得られたのではないでしょうか。
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ベストライセンス社の一件に伴う特許庁の対応・法改正
ベストライセンス社と上田育弘氏による商標大量出願が各種メディアで取り上げられる中、特許庁も異例の対応をしました。
具体的には「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」というページを設け、このような商標ゴロの大量出願に対する特許庁の審査運用や対応方法について注意喚起したのです。
法改正の内容
前述のとおりベストライセンス社と上田育弘氏は印紙代を支払わずに分割出願を繰り返しており、これは分割出願制度の穴を突いたものでした。
そこで平成30年の法改正により、元の出願で印紙代を納めない場合は後に分割したとしても、新たな出願の出願日が元の出願の出願日にさかのぼらないこととなりました。
商標ゴロへの4つの対策
次に商標ゴロに巻き込まれた場合の対策4つを、紹介していきます。
1.商標ゴロの出願が却下されるのを待つ
先に商標ゴロの出願がされてしまったからといって、自身の出願をあきらめるのではなく却下されるのを待ちましょう。前述のとおり印紙代を支払わずに出願をしている場合は、出願が却下されます。
また商標ゴロに対して出願の取下げを求めるなどのアクションを起こすことは、おすすめしません。
なぜなら商標ゴロに対して自身が困っていることを知らせることとなり、出願が却下になるどころか印紙代を支払われて商標登録されてしまうリスクが出てくるからです。
2.登録異議の申立て・商標登録無効審判の請求
仮に商標ゴロの出願が登録されてしまった場合には、登録異議の申立てや商標登録無効審判の請求が可能です。
例えば商標ゴロの商標登録に対しては、使用意思のない商標(商標法3条1項柱書)や他人の未登録の有名な商標と同一・類似の商標(商標法4条1項10号)などに当てはまることを主張していくこととなります。
なお商標登録無効審判とは、本来登録されるべきではなかった商標登録に対して、利害関係人がその商標登録の無効を請求できる制度です。
ちなみに特許庁が発行する「特許行政年次報告書2022年版」によると、2021年の登録異議申立ての成功率は約5%、商標登録無効審判の成功率は約29%といずれも低い割合でした。
3.不使用取消審判の請求
商標ゴロの商標が登録されてから一定期間経過している場合は、不使用取消審判の請求も可能です。
不使用取消審判とは継続して3年以上、商標権者等が登録商標を指定商品(サービス)に使用していない場合に、何人もその商標登録を取消す審判請求ができる制度です。
なお2021年の取消審判全体の成功率は、前述の報告書によると約79%でした。
取消審判には不使用取消審判のほか4種類の「不正使用取消審判」があるため、この成功率は不使用取消審判のみの割合ではありませんが、成功率は高めといえるでしょう。
しかし商標登録されてから3年を経過しないと審判を請求できないので、その点が大きな欠点です。
4.先使用権の主張
上記2、3の対策をしても商標ゴロの商標登録を取消せず、権利行使を受けた場合は先使用権の主張も可能です。
先使用権とは他人の商標登録出願前から使用されている、未登録の商標を保護する制度をいいます。
しかし先使用権が認められるためには「需要者の間に広く認識されていること(いわゆる周知性)」の要件が課されるので、一地方程度の範囲で有名な商標でなければ、先使用権の主張は困難といえるでしょう。
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まとめ
世の中に公開されたネーミングのうち、話題性があるものなどは人目に付きやすく、他人が先に出願することも起こりえます。
例えば「PPAP」は、2016年8月25日付けでピコ太郎氏がYouTubeに動画を投稿し、同年9月28日にアメリカの歌手ジャスティン・ビーバーが、Twitterで紹介したことにより大ブレイクしました。
そしてピコ太郎氏が所属するエイベックス・グループ・ホールディングス社は、2016年10月14日に「PPAP」の商標出願をしましたが、その9日前の2016年10月5日にベストライセンス社が出願していました。
また仮に商標ゴロの出願が登録された場合は、上述の登録異議申立てや商標登録無効審判、不使用取消審判などの対策が可能ですが、必ず成功する保証はありません。
これらを踏まえるならば、商品やサービスに使用するネーミングを世間にリリースする前に商標出願を済ませておくことをオススメします。
本記事を何度でも読み返して、商標ゴロに対するリテラシーを高めましょう。

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知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。
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