クロスライセンスとは?メリットデメリット、事例を解説
クロスライセンスとは
クロスライセンスとは、特許権や意匠権などの権利を所有している会社同士が、互いに実施許諾しあうことをいいます。
クロスライセンスが用いられる場面の例としては、一つの製品に対して多数の特許技術が用いられており、これらの特許技術が複数の特許権者によって保護されている場合が当てはまります。
このような場面では、当該製品の特許権者であっても、製造販売において他社の特許権を侵害することになるため、誰もこの製品を製造販売することができません。しかしクロスライセンスを締結することで、特許権者が互いにこの製品を製造販売できるようになります。
クロスライセンスのメリット
クロスライセンスのメリットは、自社の特許権について実施許諾をすることで、他社の特許技術を無料もしくは通常より低額で実施することが可能となる点です。
そのため、他社の特許権が障害となって製造販売することのできない製品についても、クロスライセンスの締結により、製造販売ができるようになります。
また複数の特許権について包括的なクロスライセンス契約を締結することで、その後の製品開発の自由度が増えるというメリットもあります。
クロスライセンスのデメリット
クロスライセンスのデメリットとしては、自社の特許技術を独占的に実施することができなくなることです。
そのため、例えばクロスライセンスを締結した相手が大きな市場シェアを持っている場合には、他社によって、この特許技術を用いた製品のシェアが奪われるおそれもあります。
このような事態を防ぐため、クロスライセンス契約においては
- 許諾する販売地域を一定の地域に限定する
- ライセンスをする時期を一定期間に限定する
等の契約を結ぶこともあります。
クロスライセンス契約が、独占禁止法に違反する可能性もある
独占禁止法では、公正・自由な競争を実現するため、以下の規制を定めています。
- 私的独占の禁止
- 不当な取引制限の禁止
- 事業者団体の規制
- 企業結合の規制
- 独占的状態の規制
- 不公正な取引方法の禁止
そのため、クロスライセンスで定めた契約事項が、これらの禁止事項や規制事項に該当する場合には、独占禁止法に違反する場合があります。
例えば、クロスライセンス契約において、特許製品の販売価格や販売数、販売地域などについての制限が課され、これによって製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限に該当するとして、独占禁止法に違反する場合があります。
またクロスライセンス契約により、販売地域や研究発動などに制限を課すことにより、ライセンス契約を締結した者の活動を制限し、一定分野の公正競争を阻害する場合には、不公正な取引方法の禁止に該当するとして、独占禁止法に違反する場合があります。
クロスライセンスの事例・具体例
クロスライセンスの締結は企業秘密であることが多いため、他社の動向について知る機会はあまりありません。
しかし一部のクロスライセンスについては、企業戦略上あえてメディア等で報道することもあります。今回は、メディア等で知られている具体例を紹介します。
訴訟における和解に使用した例
Microsoftとサン・マイクロシステムズ
訴訟における和解にクロスライセンスを使用した例としては、マイクロソフトとサン・マイクロシステムズの一件があります。
両者は長年法廷で争っており、特に1997年以降は、Javaライセンス契約違反や、独占禁止法違反について訴訟を行っていましたが、2004年4月に和解しました。
この和解でサン・マイクロシステムズは、裁判での和解金とライセンス料を得ました。一方で両者は、過去の特許権侵害問題を理由に提訴しないこと、今後クロスライセンスの交渉をすることで合意しました。
富士通とサムスンSDI
ほかの例としては、富士通とサムスンSDIとのクロスライセンスがあります。
両者は、PDP(プラズマディスプレイ)の特許権侵害について法廷で争っていましたが、2004年6月にクロスライセンスを締結し、和解しました。
特許権侵害訴訟は、例えば控訴審まで争った場合、判決が出るまでに2~3年以上かかることもあるうえに訴訟費用の負担も大きくなります。そのため原告と被告との間で交渉の上、特許権の侵害について争わず、両者の特許権に基づくクロスライセンスを締結して和解することもあるのです。
他社の参入を抑制するために使用【キリンHDとサントリーHD】
他社の参入を抑制するためにクロスライセンスを使用した例としては、キリンHDとサントリーHDの件が挙げられます。
両者は糖質ゼロビールの特許におけるNo.1とNo.2ですが、この糖質ゼロビールについて、クロスライセンスを締結し、その事実をあえて公表しています。
公表した理由については明らかにされていませんが、クロスライセンスを締結することで、これらの特許を含む糖質ゼロビールはキリンHDとサントリーHD以外が販売することができなくなります。競業他社や後発で参入する会社に対して、参入する障壁が高くなるという効果を狙ったものではないかと考えられています。
先ほども紹介したように、クロスライセンスを締結するデメリットとして、自社の特許技術を独占的に実施できない点や、場合によっては両者の販売力の差により自社の製品が売れなくなるというリスクもあります。
ですが今回のように、両社の販売力に圧倒的な差はなく、互いに特許を実施することで製品として優れたものができる場合には、デメリットよりもメリットの方が大きいこともあるのです。
クロスライセンス契約時の注意点
クロスライセンス契約の注意点としてはまず、契約書に明記し特定する事項と、ある程度の幅を持たせて流動的に対応できるようにする事項を使い分けることが挙げられます。
明記し、特定させたほうがいい事項
契約書で特定する事項としては、ライセンスの対象となる特許権が挙げられます。
またクロスライセンスの場合、複数の特許権について実施許諾をすることが多いため、これらの特許番号を特定して書くか、あるいは包括的な名称を用いるか、ということも契約時には注意しなくてはいけません。
その他にも
- 実施できる期間・範囲(地域)・用途について
- 第三者への実施権の譲渡が認められるか否か
についても、明記する必要があります。
さらに、ライセンス料について締結する場合には、ライセンス料の金額や算定方法も明記する必要があります。ライセンス契約の継続や解除をする際の取り決めも記載するべきでしょう。
ある程度の幅を持たせたほうがいい事項
流動的に対応したい事項については、例えば「相互で相談のうえ決める」といった記載を契約書に盛り込むことが多いです。具体的には、特許権が今後増えた場合の取り決めなどが該当します。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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