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GREEがSupercellに提訴し和解した件に見る、日本と米国の訴訟の違い

日本国内で知的財産関係の訴訟は年間100~200件ほど発生しています。

そのなかでも、ゲーム関係の訴訟は世間一般からの注目度も高い事件となっています。

今回は有名なゲーム訴訟のうちのひとつ、GREEとSupercellの訴訟について解説していきます。

「GREE」と「Supercell」の訴訟の経緯

まずは訴訟の経緯を紹介します。

訴訟の舞台にあがったのは、日本の会社である「GREE」とフィンランドのゲーム会社「Supercell」です。

Supercellは「クラッシュ・オブ・クラン(通称クラクラ)」「クラッシュ・ロワイヤル(通称クラロワ)」といった世界的に人気のゲームを運営している会社です。本件では、この2タイトルを筆頭にした複数ゲームに特許侵害の疑いがあるとして訴訟が起きました。

両社は訴訟を提起する前の段階で、特許権侵害の警告とその回答、ライセンス交渉等の交渉がなされ、不調に終わったために訴訟となっています。そして両社間の侵害訴訟は、日本と米国でそれぞれ提起されました。

日本国内では、Supercellが配信・運営しているゲームが、GREEの日本特許権を侵害していることを理由とする侵害訴訟が、2017年5月提起されました。

また米国でも同様に、米国内でSupercellが配信・運営しているゲームが、GREEの米国特許権を侵害していることを理由とする侵害訴訟が、2019年6月と9月に提起されました。

いずれの訴訟も和解により決着しており、和解の内容は秘密にされていますが、いずれの和解もGREEに有利な条件での和解であると言われています。

【GREEとSupercellの訴訟 時系列まとめ】

  • 2017年5月 日本でGREEがSupercellを提訴
  • 2019年2月 日本での訴訟、和解が成立
  • 2019年    Supercelが当事者系レビュー(IPR)手続を請求するも、無効化失敗
  • 2019年6月、9月 アメリカでGREEがSupercellを提訴
  • 2020年9月 連邦裁判所がSupercellに850万ドルの賠償命令
  • 2021年5月 連邦裁判所がSupercellに9210万ドルの賠償命令
  • 2021年8月 和解が成立

日本での訴訟

日本での訴訟は、2017年5月に東京地裁に提起され、この地裁での審理中(2019年2月)に和解が成立しました。

ライセンスの対象特許などは秘密保持義務の対象となっているため、詳細はうかがい知れませんが、GREEが所有する日本特許について、ライセンスを締結したことがGREEから発表されています。そのため、SupercellからGREEにライセンス料の支払いがあったことが予想されます。

日本における侵害訴訟の問題点

日本における侵害訴訟の問題点として、損害賠償金が低額となる傾向があります。そのため特許権者としては、損害賠償請求をするメリットが米国よりも少ない、ということが多くなります。

また、ゲームなどのソフトウェア関係の特許では、特許権侵害の証拠が相手方のコンピュータ等に入っていることが多いため、特許権者が特許権侵害を立証するための証拠を提出するのが困難である、という問題が従来ありました。

ただしこの点は2020年の特許法改正によって査証制度が導入されたことで、ある程度解決しています。訴訟において中立公正な専門家が相手方の工場などに行き、必要な資料を収集することができるようになったため、この証拠の収集が容易になったからです。

米国での訴訟

米国での訴訟は、GREEを原告、Supercellを被告として2019年6月と9月に連邦裁判所に提起されました。

しかしこの訴訟の前に、SupercellはGREEの米国特許に対して、特許を無効にする手続である当事者系レビュー(IPR)手続をしています。

IPRは米国特許庁に対してする手続きであり、特許公報などの証拠に基づいて、相手方の特許に新規性・進歩性違反であることを主張・立証することで、特許を無効化できます。今回の訴訟においては、Supercellは、GREEの米国特許を無効にするため、複数回IPRを請求しています。しかし、IPRでは、特許を無効にすることは認められませんでした。

また連邦裁判所ではSupercellの行為が故意侵害であると認められ、2020年9月に850万ドル(約9億2500万円)の賠償、2021年5月に約9210万ドル(約100億円)の賠償を命じる判決がなされました。しかし、その後2021年8月に、両社は和解しています。(GREEが公開した和解のお知らせ

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米国における侵害訴訟の問題点

米国における侵害訴訟には米国特有の制度があります。そのため、これらの制度がしばしば問題点となることがあります。

米国特有の主な制度としては、次の3つが挙げられます。

  • 故意侵害認定による損害賠償金の高額化
  • 当事者系レビュー
  • ディスカバリー制度

故意侵害認定による損害賠償金の高額化

米国の侵害訴訟では、故意に侵害をしたと裁判所が認定することで、損害賠償金が3倍まで引き上げられるという制度があります。

そのため米国では、損害賠償の金額が日本よりも高額となる傾向にあります。また、この故意の判断基準が曖昧であるため、故意侵害と認定されるか否かが分かりにくい、という問題点もあります。

当事者系レビュー(IPR)

IPRは日本における無効審判に相当する制度ですが、日本の無効審判よりも頻繁に用いられています。IPRの請求件数は、2017年から2019年までの3年間で約5,300件あり、日本の無効審判の請求件数450件(2017年から2019年の累計)の10倍以上となっています。

またIPRによって権利範囲が限定されたり、権利が無効になったりした割合は約8割と非常に高い値になっています。

ディスカバリー制度

ディスカバリー手続とは、正式な事実審理(トライアル)の前に行われるプレトライアルにおいて、訴訟当事者が当該事件に関係する情報を互いに提出するという手続きです。

米国ではこのディスカバリー手続きにより情報や争点が整理されるため、当事者間で和解することが非常に多い(案件の90%以上が和解)という特徴があります。

このように米国には特有の制度があるため、訴訟を提起する前に行う事前準備もこれらの制度に応じたものになります。

例えば故意侵害において、故意と認定されないようにするための対応や、IPRを請求する際の無効資料集めなどが事前準備で必要になります。これらの事前準備も、米国の侵害訴訟で時間的、金銭的な負担が大きくなる理由のひとつです。

和解による訴訟の終了

和解による訴訟の終了は、米国、日本のいずれでも、多く見られます。

和解によるメリットの一つとして、判決による終了よりも早期に決着がつく、ということが挙げられます。

特許権侵害訴訟は、訴訟の提起から判決までに1年以上かかることも多いです。特に損害賠償請求では、侵害の可否を審理した後に損害額の審理が行われるため、さらに長期化する傾向があります。

実際に、米国での本件訴訟は、訴訟の提起から最初の判決までに2年近くかかっており、日本での訴訟も、訴訟の提起から和解までに1年半以上の期間を要しています。

和解による終了の割合

米国では、侵害訴訟の約9割が和解により終了します。また、日本では、侵害訴訟の約3割が和解により終了します。

米国で和解が非常に多い理由としては、先ほど説明したIPR制度やディスカバリ-制度により、特許権の有効性(権利範囲)や、訴訟での落としどころが見えやすい、ということが挙げられます。

和解によるメリット

和解によるメリットには、単純に決着が早いというほか、早期決着により時間的・金銭的コストを減らせる、という点があります。

また他のメリットとして、和解の内容を秘密にできる点も挙げられます。判決となった場合には、秘密にしておきたい事項が判決文に掲載される、というリスクもあるからです。

最後に

本件については、Supercellによるゲーム機能実装が普及した後にGREEが賠償金目的で訴訟を提起し、そのためにゲームユーザー等が不利益を被っているのでは、との批判もあるようです。

当時、この訴訟の影響でクラッシュ・オブ・クランは「レイアウトエディタ」というゲーム機能に一時期制限をかけました。

この機能はゲームプレイを非常に快適にしてくれるものだったこともあり、ネットでは「#グリーを許すな」というタグで炎上することとなります。

しかし特許法の観点からいえば、自社製品が他社の特許権を侵害する可能性がある場合には、ゲームへの実装を普及させる前に、侵害を回避する手段を取る必要があります。

この点については、ユーザー側の感覚と違う所もあり、結果として炎上に繋がることもあるのではないか、と思っています。

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