ゲームシステムにおける特許権侵害訴訟について~コーエーとカプコンの訴訟を例に~
みなさんは「無双シリーズ」と呼ばれるゲームをご存じでしょうか?株式会社コーエーテクモゲームスから販売されている有名な作品ですが、過去には特許権侵害訴訟が起きています。
今回は株式会社コーエーテクモゲームスの「真・三國無双」「戦国無双」「零」の各シリーズを巡って、株式会社カプコンとの間に起きた訴訟についてを解説します。
事件の概要
この事件は、株式会社コーエーテクモゲームスのゲーム製造・販売行為に対し、株式会社カプコンが特許権の侵害に基づく損害賠償請求を求めた事件です。
侵害されたとされる特許権
この事件では、株式会社カプコンは、以下の2件の特許権に基づいて、侵害訴訟を提起しています。
①特許第3350773号 システム作動方法
この特許は、以下の構成要件を含む特許です。
- 記憶媒体は、少なくとも、所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されている
- 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対し、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成されたものである
- 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる
②特許第3295771号 遊戯装置,およびその制御方法
この特許は、以下の構成要件を含む特許です。
- 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて、ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段
- 上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に、上記画像情報からは認識できない情報を、体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段
- 上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段
判決の概要
東京地裁では、①の特許権に対する損害賠償請求は認めませんでしたが、②の特許権に対しては損害賠償請求を認めました。また賠償金は約500万円という判決でした。
しかし控訴審である知財高裁では、①、②の両方の特許権について損害賠償請求を認め、コーエーテクモゲームスに約1億4400万円の賠償金支払いが命じられました。
そしてこの事件は、最高裁の上告棄却により、知財高裁での判決が確定しています。
事件の流れ
本事件の流れを、簡単にまとめました。
1994年5月 ②特許出願
1994年6月 ①特許出願
2002年4月 ②特許権登録
2002年9月 ①特許権登録
2014年7月 ①,②侵害訴訟を東京地裁に提起
2014年5月 ②特許権満了
2014年6月 ①特許権満了
2017年12月 東京地裁:①損害賠償請求棄却判決、②認容判決
2019年9月 知財高裁:①、②共に損害賠償請求認容判決
2020年12月 最高裁上告棄却により、知財高裁の判決確定
地裁での争点
地裁での主な争点は、以下の通りです。
- 直接侵害の成否
- 均等侵害の成否
- 間接侵害の成否
- 無効理由の有無
地裁では①の特許権について、①の出願前に公知となっているゲーム機(MSX)のゲームソフトに基づく進歩性違反があるため無効理由を有し、特許権を行使することはできないと判断しました。
(特許権者等の権利行使の制限)
第百四条の三 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
その一方で、②の特許権については無効理由はないと判断したうえで、コーエーテクモの製造・販売行為が②の特許権を侵害するか否かが検討されました。
またこの裁判では、特許権の満了した2014年の後に、損害賠償請求が確定しています。特許権の満了後であっても損害賠償請求が認められる理由は、損害賠償請求が、製造・販売時点において特許権を侵害していた場合に、その損害を賠償するものであるためです。
地裁での判決(②の特許権侵害について)
地裁では②の特許権侵害について、直接侵害、均等侵害、間接侵害のいずれに該当するかを判示しています。
直接侵害か否か
②の特許権は、ゲーム機におけるゲームの進行に際して、遊戯者による操作によりゲームの進行に参加できる遊戯装置についての特許権です。一方で、コーエーテクモの製造・販売しているゲームソフト自体は、遊戯装置に用いられる製品です。
そのため両者は対象物が異なっており、直接侵害とは判断されませんでした。また同様の理由で、均等侵害についても判断されませんでした。
間接侵害か否か
間接侵害とは、直接侵害に該当しない製品であっても、この製品が特許権に関する専用部品等である場合には、この専用部品の製造・販売行為を侵害行為とみなすことをいいます。
今回の事件では、コーエーテクモの製造・販売しているゲームソフトが、遊戯装置にのみに用いられるものであるかどうかが争点となりました。
そして地裁では、この②の特許権の対象がプレイステーション 2でありゲームソフトがプレイステーション 2用であることから、専用部品等に該当すると認定し、損害賠償請求を認めました。
高裁での判決
高裁では①、②のいずれの特許権についても、損害賠償請求を認めました。地裁と異なるのは、次の点です。
①の特許権の無効理由
高裁において①の特許権は、①の出願前に公知となっているゲーム機(MSX2)のゲームソフトによって進歩性を否定されないため、無効理由を有しない、と判示しました。
進歩性に関しては、技術的な内容が深く関係することもあるため、地裁と高裁で判断が変わることも時々起こります。
①の特許権侵害について
①の特許権は、家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関する特許権です。①の特許は方法の特許であるため、方法を使用する行為について特許権の効力が及びます(特許法2条3項2号)。そのため、ゲームソフトの製造・販売自体は直接侵害、均等侵害に該当しません。
(定義)
第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
しかし高裁では、この①の特許権についても、地裁における②の間接侵害と同様の理由で、ゲームソフトの製造・販売行為が、間接侵害に該当すると判示しました。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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