台湾への特許出願!現役弁理士が解説!
はじめに
台湾は、数々のハイテク企業が研究開発拠点を置く領域です。
最先端技術が集結する国において、効率的に特許を取得する方法をお話させていただきます。
(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士)
台湾における特許の動向
1.特許とは
特許とは、有用な技術的なアイデア(≒発明)を、公にしてくれることを条件に、そのアイデアを思いついた人に、一定期間そのアイデアを独占させてあげましょう、という制度です。
日本においては、特許法に定められる制度です。
台湾でも同様の制度が採用されています。
特許制度については、アメリカ特許の解説にかみ砕いた説明をしていますので、ご参照ください。
2.出願数
台湾は、多くの日本企業が特許出願を希望する領域です。
2010年以降の出願数は、工業所有権情報・研修館の調べによると、年間4万件後半から5万件の間での横ばい傾向が続いた後、2015年・2016年で4万件前半に微減した後、その後再び4万件後半まで微増しているようです(日本アイアール社の調べ)。
台湾の2019年の出願件数について、日本アイアール社の調べによると、台湾知的財産局の受理した特許出願数は、約4.8万件だったとされています。
世界各国の統計としては、第1位の中国約140万件、第2位の米国621,453件、第3位の日本307,969件、第4位の韓国21.9万件、第5位の欧州18.1万件であるところ、台湾の特許出願件数は、ドイツ(約6.7万件)、インド(約5.4万件)に次ぐ件数です。
日本アイアール社の調べによると、台湾における特許出願の60%強は、台湾外から出願とのことで、これは日本や韓国(いずれも20%程度)、中国(10%程度)などの近隣東アジア国の状況に比べると非常に高い数字です。
台湾外からの出願のうち、日本に最も件数が多く、2019年では13,195件だったようです(日本アイアール社の調べ)。
3.出願分野のトレンド
工業所有権情報・研修館の調べによると、現在まで半導体やコンピュータに関する出願が首位だったところ、2014年頃から医薬用製剤の出願が増えてきているようです。
4.台湾の特許庁について
台湾の特許庁(※智慧財産局)はこちらからアクセスが可能です。
→http://www.tipo.gov.tw
ウェブサイトでは中小企業向けに知財に関する情報などを確認することができます。
また台湾の特許庁には、技術用語辞書が無料で提供されています。
→http://paterm.tipo.gov.tw/IPOTechTerm
中国語および英語で検索が可能です。
台湾の特許制度
1.日本からの出願ルート
アメリカ特許の解説の際に、日本から出願する場合には、以下の3つの方法があると申しました。
- (1)パリルート出願(日本出願を優先権主張して他国に出願)
- (2)PCTルート出願(専用願書を使って複数国に一括出願)
- (3)単独出願(日本出願と関係なく単独で他国に出願)
米国や欧州、中国、韓国では、上記全てのルートを使うことができますが、台湾については、PCTルートを使うことができない点に注意が必要です。
これは、PCTルートの基礎となっている特許協力条約(詳しくはアメリカ特許の解説をご参照)に台湾が加盟していないためです。
厳密に言えば、パリルートの基礎となっているパリ条約(詳しくはアメリカ特許の解説をご参照)にも台湾は加盟していませんが、日本との相互取極により優先権制度を利用可能である他、台湾の加盟するWTO条約を介した優先権制度の利用が可能であり、実質的にパリ条約上の優先権制度が利用可能となっています。
2.出願
どのルートによるにせよ、まずは出願書類を台湾知的財産局に提出することから手続が始まります。
出願書類
出願書類としては、以下の5つが必要です。
- 願書
- 明細書(発明の内容詳細が開示された書類)
- クレーム(特許権がほしい範囲を記載した書類)
- 要約書
- 図面
台湾でも日本や米国、欧州と同様、外国語出願が可能です。
受理される外国語は、韓国同様に制限がありますが、日本語、英語、ドイツ語、韓国語、フランス語、ロシア語、ポルトガル語、スペイン語およびアラビア語の9言語が受理されるようです。
外国語で出願した場合、出願日ら4か月以内に繁体字中国語翻訳文を提出する必要があります。
3.出願公開
台湾に出願されると、その出願日(又は優先日)から18か月を経過した後に公開されます。
4.特許性審査
4-1.審査請求
韓国では、日本や欧州同様、「審査請求制度」を採用していますので、審査請求を行わない限り特許性審査は行われません。
この審査請求は、出願日から3年以内に行わなくてはなりません。
この期間中に審査請求が行われない場合、出願は取り下げたものとみなされます。
4-2.自発補正
中国や欧州では自発補正のできる時期が制限されていましたが、台湾では、日本同様、特許査定を受けるまでは自発補正ができるのが原則とされます。
この例外としては、拒絶理由通知を受けた後には補正ができる期間が意見書提出期間に制限されるとともに、最後の拒絶理由通知の場合には、補正が可能な項目が所定のものに制限されます。
このあたりは日本でも同様ですので、日本での出願戦略が台湾でもほとんど活かせるところがありがたいですね。
4-3.特許性審査
審査請求後は、日本や他国と同様、主に以下の点について審査がなされます。
- 発明適格(特許の対象となる事項であるか否か)
- 新規性(過去に例がないものか否か)
- 進歩性(既存の技術的アイデアから簡単に思いつかないか否か)
発明適格について、日本同様、特許の対象とならないものが列挙されて規定されています。
アメリカ特許同様、台湾でも、コンピュータ・プログラムの発明適格性がよく問題とされます。
コンピュータ・プログラムに関する発明の基準としては、アメリカの基準と日本の基準とを参照して作成された基準が台湾では採用されているようです。
新規性や進歩性について、日本や他国と大差ないとお考えいただいてよいでしょう。
特許性審査の結果、特許可能という結論になれば、特許査定が台湾知的財産局よりなされ、発行手数料の支払い等を行うことにより、特許に進める段階となります。
一方、特許性審査の結果、問題ありということになれば、担当審査官より、拒絶理由通知が発せられ、これに対して補正等により不備を解消していくことが必要となります。
4-4.審判
拒絶理由通知への対応によっても拒絶理由が解消されない場合には、審判請求をすることができます。
5.異議申立
台湾においては、付与前も付与後も異議申立制度は採用されていません。
特許期間及び特許年金
韓国における特許の存続期間は、特許公告日に開始し、出願日から20年が経過するまでとされています。
日本と同様の制度となっており、欧州と異なり出願維持年金制度は採用されていません。
台湾特許における注意事項
1.新規性喪失の例外
学会発表などで特許出願の前に自ら発明を公開してしまうことが時としてあります。
この場合、自己に起因する公開行為に対して、多くの国では救済措置を定めています。
日本では、この救済措置のことを「新規性喪失の例外」手続と称しています。
台湾では、日本やアメリカと同様、特許を受けることができる権利を有する者による開示行為について広く例外を認めています。
ただし、この例外の適用を受ける場合、公知となった日から12か月以内に韓国に対して出願しなければなりません。
たとえ日本出願に基づき優先権主張を行う場合でも、優先日から12か月以内ではないのでご注意ください。
ただ、この手続のためには、日本や韓国と異なり、何ら証明書類の提出は不要なので、この意味ではアメリカに近い制度が採用されているといえます。
2.仮出願
台湾では仮出願制度(特許出願書類の体裁をなさない書類の提出により出願日を確保する制度)は採用されていません。
よって、例えば学会発表原稿やラボノートなどにより早急に出願日を確保したい場合には、アメリカや日本の仮出願制度を利用した後、優先権主張を行って台湾に出願する必要があります。
3.実用新案
日本や中国同様、台湾でも実用新案制度が採用されています。
実用新案の対象となるのは、日本の実用新案の概念に近く、物品の形状、構造又は組合せに関する考案です。
台湾の実用新案は、日本と同様、無審査制度が採用されており、出願した後は方式・形式審査があるのみです。
無審査により権利設定される関係上、日本と同様、権利行使に際しては、技術評価書を取得して権利の有効性を確認することが肝要です。
技術評価書によらずして権利行使をし、実用新案権が取り消された場合、日本と同様、権利行使に過失があったとされ、損害賠償責任を負担させられるリスクがあります。
なお、技術評価書は、出願人/権利者のみならず、誰でも請求することが可能です。
また、日本同様、台湾では、特許出願したものを実用新案出願に変更したり、その逆を行うことができます(いわゆる変更出願が可能)。
一方、中国同様、同じ発明・考案について、同時に特許出願と実用新案出願とを行うこともできます。
この場合には、出願時点でその旨を申告し、特許出願について特許査定がなされる前に実用新案登録がなされる場合には、いずれかを選択しなければならず、選択しない場合には、特許を受けることができなくなります。
よって、台湾の実用新案制度は、日本と中国の制度が混在するものと評価できるでしょう。
4.侵害対応
台湾でも、日本同様、特許権の侵害の場合、裁判所による司法ルートで対応することが一般的で、行政ルートによる対応は限定的です。
行政ルートによる対応は、税関での水際対策や刑事告訴を見据えた刑事事件絡みとなります。
現地代理人の起用
台湾外から台湾に特許出願を行う場合、台湾代理人を起用する必要があります。
代理人の種類としては、専利師(日本の弁理士に相当)、専利代理人(審査官経験など所定の資格に基づく業務経験に基づき付与される資格)、弁護士があります。
専利師は、所定の資格試験を経て、特許・実用新案・意匠に関する台湾知的財産局での手続を取り扱うことができます。
しかしながら、その業務範囲に、訴訟(審決取消訴訟を含む)の訴訟代理権の有無については、争いがあるようです。
また専利代理人の資格については、以前はこちらの資格に基づく方が多かった模様ですが、現在ではほとんどの代理人が専利師の資格に基づくようで、専利代理人は減少傾向にあるようです。
多くの台湾代理人は、英語・日本語などの複数外国語対応が可能で、台湾特許について日本語で相談できるのが非常にありがたいところです。
そのため、特許出願を台湾に行う場合には、日本語の明細書等を台湾代理人に引き渡して、繁体字中国語に翻訳する等して台湾用の特許出願書類を作成してもらうのが一般的です。
もし急ぎの場合には、上述のとおり、日本語による外国語出願が可能なので、日本語で急いで出願日を確保することができます。
台湾で特許を取得する意義
上述のとおり、台湾は、技術大国です。
台湾市場において自社の製品や技術を展開するには、台湾で特許を取得して優位性を得ることは重要と言えるでしょう。
特に半導体やコンピュータ関係などでは、台湾は世界の研究開発拠点になっていると言っても過言ではありません。
このような観点からも、特に上記の分野においては、台湾の動向を視野に入れた知財戦略がますます重要性を帯びていると言えるでしょう。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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