中国への特許出願!現役弁理士が詳しく解説します!
はじめに
中国は、日本にとって隣国であり、今でも多くの企業が製造拠点を置いている地域でもあります。
一時期は世界の工場とも呼ばれた中国で、効率的に特許を取得する方法を解説します。
(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士)
中国における特許の動向
1.特許とは
特許とは、有用な技術的なアイデア(≒発明)を、公にしてくれることを条件に、そのアイデアを思いついた人に、一定期間そのアイデアを独占させてあげましょう、という制度です。
日本においては、特許法に定められる制度です。
中国でも同様の制度が採用されています。
特許制度については、アメリカ特許の解説にかみ砕いた説明をしていますので、ご参照ください。
2.出願数
中国は、特許出願数が急激に増加している国で、2019年の世界知的所有権機関(WIPO)による調べによると、全世界の特許出願数が3,224,200件に対し、中国知的財産局の受理した特許出願数は、その約半分のおよそ140万件だったとされています。
これは、第2位の米国621,453件、第3位の日本307,969件を大きく凌駕する数です。
日本貿易振興機構(JETRO)の調べによると、中国における特許出願の90%は、中国国内の居住者によるものとのことで、国家をあげた知財立国戦略や補助金の給付などがその背景にあるようです。
ただ、補助金については、本年1月27日に中国知的財産局より今後は厳格な運用にすることが発表され、これによる出願数への影響が気になるところです。
3.出願分野のトレンド
工業所有権情報・研修館の調べによると、2000年代後半は電気通信技術に関する出願が多かったところ、2010年代に入って、医薬系や計算・計数の出願が増えてきており、ITやAIに関する技術などに関心が寄せられていることが分かります。
中国の特許制度
1.日本からの出願ルート
アメリカ特許の解説の際に、日本から出願する場合には、以下の3つの方法があると申しました。
- (1)パリルート出願(日本出願を優先権主張して他国に出願)
- (2)PCTルート出願(専用願書を使って複数国に一括出願)
- (3)単独出願(日本出願と関係なく単独で他国に出願)
これらの出願ルートは、中国出願でも使用することができます。
2.出願/国内移行
どのルートによるにせよ、まずは出願書類を中国知的財産局に提出することから手続が始まります。
出願書類
出願書類としては、以下の5つが必要です。
- 願書
- 明細書(発明の内容詳細が開示された書類)
- クレーム(特許権がほしい範囲を記載した書類)
- 要約書
- 図面
日本や米国、欧州とは異なり、中国には中国語以外の言語で出願することはできません。
中国語以外の言語で出願された場合、不受理となり出願日が認定されない点に注意が必要です。
3.出願公開
中国に出願・国内移行されると、その出願日(又は優先日)から18か月を経過した後に公開されます。
4.特許性審査
4-1.審査請求
中国では、日本や欧州同様、「審査請求制度」を採用していますので、審査請求を行わない限り特許性審査は行われません。
この審査請求は、出願日(又は優先日)から3年以内に行わなくてはなりません。
この期間中に審査請求が行われない場合、出願は取り下げたものとみなされます。
4-2.自発補正
中国で審査請求を行う場合に、他国と異なり注意を要するのが、自発的に補正をすることのできる時期が、(1)審査請求と同時、(2)実体審査以降通知から3か月以内の期間に制限されている点です。
この時期を逸してしまうと、拒絶理由を克服するために必要な補正を除き、行うことができないのが原則となります。
よって、各国の審査結果に応じて、クレームの戦略を練り直したい場合や、模倣品の状況に対応して従属クレームを追加したい場合などには、自発補正の可能な時期に対応するように注意しましょう。
4-3.特許性審査
審査請求後は、日本や他国と同様、主に以下の点について審査がなされます。
- 発明適格(特許の対象となる事項であるか否か)
- 新規性(過去に例がないものか否か)
- 進歩性(既存の技術的アイデアから簡単に思いつかないか否か)
発明適格について、日本同様、特許の対象とならないものが列挙されて規定されています。
アメリカ特許同様、中国でも、コンピュータ・プログラムの発明適格性がよく問題とされます。
新規性や進歩性について、日本や他国と大差ないとお考えいただいてよいでしょう。
特許性審査の結果、特許可能という結論になれば、発明特許通知書(日本の特許査定に相当)という通知が中国知的財産局よりなされ、発行手数料の支払い等を行うことにより、特許に進める段階となります。
一方、特許性審査の結果、問題ありということになれば、担当審査官より、拒絶理由通知が発せられ、これに対して補正等により不備を解消していくことが必要となります。
4-4.審判
拒絶理由通知への対応によっても拒絶理由が解消されない場合には、審判請求をすることができます。
5.異議申立
中国では、日本と異なり、特許異議申立制度は採用されていません。
特許期間及び特許年金
中国における特許の存続期間は、特許付与日に開始し、出願日から20年が経過するまでとされています。
日本と同様の制度となっており、欧州と異なり出願維持年金制度は採用されていません。
中国特許における注意事項
1.外国出願規制
日本企業の中国拠点において完成された発明について特許出願(又は実用新案出願)を行う場合、中国政府の許可を受けることなく、中国外へ出願してはなりません。
日本企業の多くが、知的財産については日本本社で統括管理をしていることかと思いますが、中国拠点で完成した発明を、うっかり中国当局の許可を受けることなく、日本特許庁へ出願しないよう注意が必要です。
この規制に反して中国外へ出願してしまうと、当該発明について中国での特許保護が受けられないこととなってしまいます。
中国当局への許可申請をして、6か月以内に許可決定を受けない場合、中国外へ出願ができるようになるようなので、該当する案件がある場合、現地代理人に相談することが好ましいでしょう。
2.新規性喪失の例外
学会発表などで特許出願の前に自ら発明を公開してしまうことが時としてあります。
この場合、自己に起因する公開行為に対して、多くの国では救済措置を定めています。
日本では、この救済措置のことを「新規性喪失の例外」手続と称しています。
中国では、日本やアメリカとは異なり、新規性喪失の例外の範囲が限定的で、学会発表については、「国務院関係主管部門又は全国的な学術団体組織が主催する学術会議又は技術会議」での発表について認めるとされており、日本や欧米での学会は基本的には該当しないと考えておいた方がよいでしょう。
中国での権利化機会を喪失することなく、学会発表の機会を失わないためには、学会発表前に日本やアメリカなどで仮出願をしておき、後日に優先権主張して中国に持っていくなどの手法を検討された方がよいでしょう(アメリカ仮出願の「仮出願の利用例は?」もあわせてご参照ください)。
3.実用新案との併願
日本では特許出願したものを実用新案出願に変更したり、その逆を行うことができます(いわゆる変更出願)が、同じ発明・考案について、同時に特許出願と実用新案出願とを行うことはできません。
中国では、反対に、変更出願の制度はありませんが、同じ発明・考案について特許出願と実用新案出願とをそれぞれ行うことができます。
通常は実用新案の方が先に登録となりますが(無審査のため)、特許出願が審査中の間は、実用新案を使って権利行使を行うことができます。
ただし、特許出願が特許査定を受け、登録手続を行う際には、実用新案を放棄することが必要です。
中国では、日本と異なり、実用新案権の行使について特段の制限が課されていないので、中国での技術保護については、実用新案も視野に入れることができるといえます。
4.侵害対応
日本では、特許権の侵害の場合、裁判所による司法ルートで対応することが一般的で、警察や税関などによる行政ルートによる対応は限定的です。
一方、中国では、行政ルートでも司法ルートでも対応が可能で、一般的には行政ルートの方が迅速な対応が可能といわれています。
行政ルートによるか司法ルートによるかは、目下の侵害を撲滅することに力点があるのであれば行政ルート、これに加えて、損害賠償なども確保することに力点があるのであれば司法ルート、を選択することを勧められることが多いようです。
現地代理人の起用
中国外から中国に特許出願を行う場合、専利代理人を起用する必要があります。
専利代理人は、所定の資格試験を経て、特許出願の代理を取り扱うことができる点では、日本の弁理士に類似しますが、その代理の範囲に商標は含まれないことが異なります。
多くの専利代理人は、英語・日本語などの複数外国語対応が可能で、中国特許について日本語で相談できるのが非常にありがたいところです。
中国で特許を取得する意義
中国は、政府をあげて模倣品や海賊品の問題に取り組んでいる側面がある一方、その根絶がなかなか難しい状況でもあります。
自社の製品や技術を中国で保護するには、中国で特許を取得することは重要と言えるでしょう。
また上述のように中国は世界一の特許大国と言っても過言ではありません。
現時点では、中国出願を基礎として日本や欧州、米国に出願している例はそれほど多くはないようです。
しかしながら、もし中国から外国出願が活発になされるようになると、世界の多くの国で特許が占められてしまうことも懸念されます。
このような観点からも、中国の動向を視野に入れた知財戦略がますます重要性を帯びていると言えるでしょう。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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