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欧州(ヨーロッパ)で特許を取るには!弁理士が徹底解説します!

はじめに

欧州は、欧州連合(European Union:EU)の存在により、少なくとも経済的局面においては国家を超えた結びつきの強い地域です。
しかしながら国家の概念がなくなっているわけではないことも事実です。

このようなユニークな地域において、効率的に特許を取得する方法をお話させていただきます。

(執筆:柴田純一郎 米国弁護士/弁理士

特許とは

特許とは、有用な技術的なアイデア(≒発明)を、公にしてくれることを条件に、そのアイデアを思いついた人に、一定期間そのアイデアを独占させてあげましょう、という制度です。
日本においては、特許法に定められる制度です。
特許制度については、アメリカ特許の解説にかみ砕いた説明をしていますので、ご参照ください。

欧州各国でも同様の制度が採用されており、その出願先には、以下の2つがあります。
日本やその他の国とは異なるユニークな特徴です。

  • (1)欧州特許庁
  • (2)欧州各国特許庁

上記(1)は、欧州特許庁(European Patent Office:EPO)に対して出願する方法です。
EPOでは、中央集約的に特許性審査を行っています。EPOで特許性ありとされたものを、欧州各国に移行させて欧州各国で特許にします(後述のバリデーションにて詳述)。

一方、上記(2)は、欧州各国の特許庁に個別にかつ直接に出願する方法です。

欧州出願ルート

日本からの出願ルート

アメリカ特許の解説の際に、日本から出願する場合には、以下の3つの方法があると申しました。

  • (1)パリルート出願(日本出願を優先権主張して他国に出願)
  • (2)PCTルート出願(専用願書を使って複数国に一括出願)
  • (3)単独出願(日本出願と関係なく単独で他国に出願)

これらの出願ルートは、欧州出願でも使用することができます。
ただ、上述のとおり、欧州には、出願先として、中央集権型のEPOと、個別直接型の各国特許庁の2種類があります。
よって、どの出願ルートを選択する場合も、出願先をどちらにするのか検討する必要があります。

2.EPOへの出願

EPOは、欧州38か国が加盟する欧州特許条約(European Patent Convention:EPC)により設立された機関です。
EPOは、各条約加盟国の特許庁で個別に特許性審査を行う不効率性解消のために、各国特許庁に代わって中央集約的に特許性審査を行います。
ただし、あくまで審査を集約して行うまでで、全加盟国に共通して有効な特許を付与するものではないことに注意が必要です(各国で特許を有効化するには、後述のバリデーションが必要)。

なお、英国のEU脱退が一時期話題となりましたが、欧州特許条約はEUとは切り離された制度なので、英国については今でのEPO経由の出願が可能です。

2-1.メリット

検討猶予の確保

EPOに出願さえしておけば、どこの欧州加盟国で特許を得るべきか、EPOでの審査が終わるまで検討できます。

審査品質

EPOが集約して特許性審査を行うので、特許性の判断が各国でばらつくことが回避できます。

2-2.デメリット

権利化の所要時間

EPOでの審査、各国でのバリデーションを経て特許となるので、個別出願に比べて時間がかかります。

費用

EPOへの出願費用からその後の各国へのバリデーション費用までを含めると、個別に各国特許庁に出願するのと比べて、費用が高くなりがちです(ただし後述のロンドン協定により、英独仏での権利化では大差ないといえるでしょう)。
目安としては、3か国以上の欧州各国で特許を取得するのであれば、EPO経由がお得と一般的に認識されています。

国別カスタマイズ

EPOによる審査後のバリデーションは、EPOで審査されたクレーム(特許権がほしい範囲を記載した書類)をそのまま用いて行うことが原則です。
よって、特定の国では、違う範囲で特許がほしいというカスタイマイズがやりにくいと言わざるを得ません。

3.欧州各国への出願

EPOが存在するからと言って、欧州各国へ直接出願することができないわけではありません。

3-1.メリット

国別カスタマイズ

当該国でほしい特許がほしい範囲をクレームに記載して審査を受けることができます。
よってEPOと比べて、カスタマイズの利便性が高いといえるでしょう。

権利化の所要時間

バリデーションのプロセスがないため、EPO経由よりも権利化までの時間は短縮できるでしょう。

費用

その国だけを考えれば、バリデーションのプロセスがない分、EPOよりお得でしょう(ただし後述のロンドン協定により、英独仏での権利化では大差ないといえるでしょう)。

3-2.デメリット

審査品質

特許性の判断が各国でばらつくことは避けられません。
また、各国の審査能力には差があります。
審査能力の高くない国では、EPOであれば見逃さなかったであろう文献が見逃されてしまって、無効理由を抱えたまま特許になることも可能性としてあるので、留意が必要です。

費用

上述のとおり、その国だけ考えれば費用対効果は高いですが、欧州複数国で特許を取得する場合には、EPOの方が費用対効果がよいといえます(特に後述のロンドン協定による利便性は大きい)。
また、個別出願の場合には、各特許庁による拒絶理由通知に個別に対応する必要があるので、欧州複数国で出願するのであれば、手間も増えると言わざるを得ません。

PCT特有の留意点

欧州各国の中には、PCTルートの出願の移行を直接に認めていない国があります(代表的には、フランス、オランダなど)。
PCTルートの出願をこれらの国に移行させるには、一旦EPOに移行させて審査を経た後、バリデーションを経る必要があることに注意が必要です。

外国出願

EPOでの特許の手続

欧州各国での特許手続は、国により差異が大きいため、ここではEPOでの手続に特化して解説します。

1.出願/国内移行

どのルートによるにせよ、まずは出願書類をEPOに提出することから手続が始まります。

出願書類

出願書類としては、以下の5つが必要です。

  • ・願書
  • ・明細書(発明の内容詳細が開示された書類)
  • ・クレーム(特許権がほしい範囲を記載した書類)
  • ・要約書
  • ・図面

願書以外の出願書類は、一旦は日本語で作成したものを提出することができます
ただし、この場合には、出願後2か月以内に、EPO公用語による翻訳文を提出することが必要です(このあたりは、アメリカ特許の場合と共通ですね)。

ちなみにEPO公用語は、英語、ドイツ語、フランス語の3つとなっています。

2.出願公開

EPOに出願・国内移行されると、その出願日(又は優先日)から18か月を経過した後に公開されます。

この出願公開に先立ち、EPOでは、各出願についてその特許性に関する評価を簡潔にまとめた欧州調査報告(サーチレポート)が発行されます。これは、出願内容と一緒に公開されます

これは、日本やアメリカにはない制度で、出願審査請求(後述)せずとも、全ての出願について発行されます。
この内容を見て、出願人は、特許性に関するEPOの評価をおおよそ把握できます。
その結果、詳細なる審査に進む前に、自発補正を行って、特許性審査がスムーズに進むよう準備することができます。

3.特許性審査

3-1.審査請求

EPOでは、日本同様、「審査請求制度」を採用していますので、審査請求を行わない限り特許性審査は行われません
この審査請求は、出願公開(厳密には、欧州調査報告の公開)日から6か月が経過するまでに行わなくてはなりません。
この期間中に審査請求が行われない場合、出願は取り下げたものとみなされます。

3-2.特許性審査

審査請求後は、日本や他国と同様、主に以下の点について審査がなされます。

  • ・発明適格(特許の対象となる事項であるか否か)
  • ・新規性(過去に例がないものか否か)
  • ・進歩性(既存の技術的アイデアから簡単に思いつかないか否か)

発明適格について、適格性を認める要件を定めるのではなく、適格性を認めない事項が列挙されています。
アメリカ特許同様、EPOでも、コンピュータ・プログラムの発明適格性がよく問題とされます

新規性について、概念的には日本や他国と大差ありません。
しかしながら、日本や他国と異なり、自己が先に出願した出願の明細書に基づき、自己が後に出願した出願が拒絶されるという「セルフコリジョン」というシステムがEPOでは存在します。
「セルフコリジョン」の詳細の解説は、ここでは割愛しますが、内容の類似する特許出願を複数個行う場合には、専門家に出願戦略を要相談という点にご留意ください。

進歩性について、日本やアメリカと同様と考えていただいて差し支えないでしょう。

特許性審査の結果、特許可能という結論になれば、Notice of Grant(日本の特許査定に相当)という通知がEPOよりなされ、発行手数料の支払い等を行うことにより、特許に進める段階となります。

一方、特許性審査の結果、問題ありということになれば、担当審査官より、「Office Communication」(日本の拒絶理由通知に相当)が発せられ、これに対して補正等により不備を解消していくことが必要となります。

3-3.審判

拒絶理由通知への対応によっても拒絶理由が解消されない場合には、審判請求をすることができます。

4.特許性審査後

4-1.特許付与手続

特許付与手続において、EPO特有の制度としては、発行手数料の支払いの他、クレームについて手続言語以外の公用語による翻訳文を提出することが必要な点です。
例えば、英語で手続をした場合には、クレームについては仏語・独語の翻訳文を作成して提出することが求められます。

4-2.バリデーション

EPOにおける特許付与手続が完了すると、いよいよ特許を取得したい欧州各国へ特許有効化手続(バリデーション)を行います。

バリデーションは、各国特許庁に対して、特許付与の公告から3か月以内に、以下の手続をすることにより行います。

  • ・当該庁に対する手数料の支払い
  • ・当該国における代理人の指定
  • ・クレーム及び明細書について当該国における公用語翻訳文の提出

従来は特許有効化を希望する各国でバリデーションを行う必要があったため、費用がかさみがちでした。
しかしながら、関係欧州各国で締結されたロンドン協定により、特にEPOの公用語を自国の公用語とする国(英国、仏国、独国など)では、クレーム及び明細書の公用語翻訳文提出が免除されています。

他にもロンドン協定に基づき、庁手数料の支払いや当該国内代理人指定の要件までもが免除されている国もあるようです(英国、仏国、独国など)。

一時期は、非常に高額なイメージの強かったバリデーション手続ですが、現在では主要3国では相当に負担が軽減され、EPOによる集中審査の利便性がより高まっているといえるでしょう。

5.異議申立

EPOでは、日本同様、特許異議申立制度が採用されています。

出願について、特許査定の旨が公告されると、その公告の日から9か月間、公衆の目による特許付与妥当性の審査に晒されます(異議申立制度)。
特許付与が妥当でないと思う人は誰でも、EPOに対して異議を申し立てることができます。

異議が申し立てられると、EPOによる出願の見直しが行われ、異議に理由がある場合には、出願人に通知され、拒絶理由通知と同様の対応が必要となります。

異議が解消されるか又は9か月間異議が申し立てられない場合には、そのまま特許付与が維持されます。

特許期間及び維持年金

EPO経由で付与された特許の存続期間は、特許の出願日に開始し、その出願日から20年が経過するまでとされています。
なお、「出願日」とは、優先日とは関係なく、EPOに実際に出願された日(PCT出願の場合には、日本国特許庁にPCT出願をした日)となります。
欧州各国は、これよりも長い特許期間を定めることができますが(EPC第63条)、これよりも短い期間を定めることはできません。

欧州特許を維持するためには、日本同様、特許料(維持年金)を支払うことが必要です。
この維持年金は、日本や米国と異なり、出願時から発生するので注意が必要です。
維持年金は、EPO係属中はEPOに対して支払い、バリデーション後は、各国特許庁に支払います。

現地代理人の起用

欧州での現地代理人の資格は、以下の2種類があります。

  • ・EPOの手続ができる代理人(European Patent Attorney)
  • ・各国庁での手続ができる代理人(Local Patent Attorney)

欧州の現地代理人の多くは、自国での代理資格とEPOでの代理資格の両方を持っていることが多いです。

日本から依頼する場合には、英国、仏国、独国に所在の現地代理人を起用することが多いかと思いますが、これら以外の国でバリデーションを行う場合には、当該国で代理人を別途起用することが求められる場合があります。

European Patent Attorneyは、EPOでの手続以外(特許に関する契約など)を行うことができません。
Local Patent Attorneyの資格を併せ持つ代理人の場合には、当該国の法制によっては契約や交渉、訴訟を取り扱うことができます。
例えば、独国Patent Attorneyや英国Patent Attorneyは、日本の弁理士同様、一部の訴訟代理などが認められています。

ただし、英国や仏国、その他一部の欧州各国では、特許を専門に扱うPatent Attorneyと商標を専門に扱うTrademark Attorneyが別個の資格となっている点は、日本の弁理士と異なる特徴です。

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