韓国への特許出願!現役弁理士が詳しく解説します!
はじめに
韓国は、サムスンをはじめ世界的な大企業が拠点を置く国です。
最先端技術が集結する国において、効率的に特許を取得する方法をお話させていただきます。
韓国における特許の動向
1.特許とは
特許とは、有用な技術的なアイデア(≒発明)を、公にしてくれることを条件に、そのアイデアを思いついた人に、一定期間そのアイデアを独占させてあげましょう、という制度です。
日本においては、特許法に定められる制度です。
韓国でも同様の制度が採用されています。
特許制度については、アメリカ特許の解説にかみ砕いた説明をしていますので、ご参照ください。
2.出願数
韓国は、以前から特許出願数が比較的多い国で、韓国特許庁は5大特許庁の1つに数えられています。
2010年以降の出願数はやや微増の横ばい傾向が続いているようです。
横ばい状態は、韓国に限った話ではなく、中国を除く5大特許庁のある全ての国で見られる傾向です。
韓国の出願件数は、2019年の世界知的所有権機関(WIPO)による調べによると、全世界の特許出願数が3,224,200件に対し、韓国特許庁の受理した特許出願数は、その約半分のおよそ21.9万件だったとされています。
これは、第1位の中国約140万件、第2位の米国621,453件、第3位の日本307,969件に次いで、世界第4位を誇る数です(欧州は、第5位で18.1万件)。
特許行政年次報告書によると、韓国における特許出願の21%は、韓国国外から出願とのことで、これは日本と同水準(日本は20%程度)、中国よりは外内出願比率が高い(中国は10%程度)状況のようです。
3.出願分野のトレンド
工業所有権情報・研修館の調べによると、2000年代後半は基本的電気素子や電気通信技術に関する出願が多かったところ、2010年代に入って、計算・計数の出願が増えてきており、ITやAIに関する技術などに関心が寄せられていることが分かります。
韓国の特許制度
1.日本からの出願ルート
アメリカ特許の解説の際に、日本から出願する場合には、以下の3つの方法があると申しました。
- (1)パリルート出願(日本出願を優先権主張して他国に出願)
- (2)PCTルート出願(専用願書を使って複数国に一括出願)
- (3)単独出願(日本出願と関係なく単独で他国に出願)
これらの出願ルートは、韓国出願でも使用することができます。
2.出願/国内移行
どのルートによるにせよ、まずは出願書類を韓国特許庁に提出することから手続が始まります。
出願書類
出願書類としては、以下の5つが必要です。
- ・願書
- ・明細書(発明の内容詳細が開示された書類)
- ・クレーム(特許権がほしい範囲を記載した書類)
- ・要約書
- ・図面
韓国でも日本や米国、欧州と同様、外国語出願が可能ですが、外国語とは英語に限られているので。注意が必要です。
英語で出願した場合、出願日又は優先日のいずれか早い方から1年2か月以内に韓国語翻訳文を補完提出する必要があります。
3.出願公開
韓国に出願・国内移行されると、その出願日(又は優先日)から18か月を経過した後に公開されます。
4.特許性審査
4-1.審査請求
韓国では、日本や欧州同様、「審査請求制度」を採用していますので、審査請求を行わない限り特許性審査は行われません。
この審査請求は、出願日から3年以内に行わなくてはなりません。
ただし、2017年2月28日以前に出願されたものについては、出願日から5年の官となります。
この期間中に審査請求が行われない場合、出願は取り下げたものとみなされます。
4-2.自発補正
中国や欧州では自発補正のできる時期が制限されていましたが、韓国では、日本同様、特許査定を受けるまでは自発補正ができるのが原則とされます。
この例外としては、拒絶理由通知を受けた後には補正ができる期間が意見書提出期間に制限されるとともに、最後の拒絶理由通知の場合には、補正が可能な項目が所定のものに制限されます。
このあたりは日本でも同様ですので、日本での出願戦略が韓国でもほとんど活かせるところがありがたいですね。
4-3.特許性審査
審査請求後は、日本や他国と同様、主に以下の点について審査がなされます。
- 発明適格(特許の対象となる事項であるか否か)
- 新規性(過去に例がないものか否か)
- 進歩性(既存の技術的アイデアから簡単に思いつかないか否か)
発明適格について、日本同様、特許の対象とならないものが列挙されて規定されています。
アメリカ特許同様、韓国でも、コンピュータ・プログラムの発明適格性がよく問題とされます。
この点、コンピュータ・プログラムに関する発明の基準として、日本の基準にかなり近い基準が韓国では採用されているので、日本からの出願人にとっては日本での例を参考にすることができ、便利といえます。
ただし、日本とは異なり、プログラムそのものやデータ構造のクレームは認められない可能性があることに注意が必要です。
新規性や進歩性について、日本や他国と大差ないとお考えいただいてよいでしょう。
特許性審査の結果、特許可能という結論になれば、特許査定が韓国特許局よりなされ、発行手数料の支払い等を行うことにより、特許に進める段階となります。
一方、特許性審査の結果、問題ありということになれば、担当審査官より、拒絶理由通知が発せられ、これに対して補正等により不備を解消していくことが必要となります。
4-4.審判
拒絶理由通知への対応によっても拒絶理由が解消されない場合には、審判請求をすることができます。設定登録日から登録公告日後6か月になる日まで、誰でも異議を申し立てることができます。
5.異議申立
韓国でも、日本と同様、特許付与後の特許異議申立制度が採用されています。
設定登録日から登録公告日後6か月になる日まで、誰でも特許の取消を韓国特許庁に対して求めることができます。
特許期間及び特許年金
韓国における特許の存続期間は、設定登録日に開始し、出願日から20年が経過するまでとされています。
日本と同様の制度となっており、欧州と異なり出願維持年金制度は採用されていません。
韓国特許における注意事項
1.新規性喪失の例外
学会発表などで特許出願の前に自ら発明を公開してしまうことが時としてあります。
この場合、自己に起因する公開行為に対して、多くの国では救済措置を定めています。
日本では、この救済措置のことを「新規性喪失の例外」手続と称しています。
韓国では、日本やアメリカと同様、特許を受けることができる権利を有する者による開示行為について広く例外を認めています。
ただし、この例外適用を受けるには、公知となった日から12か月以内に韓国に対して出願しなければなりません。
たとえ日本出願に基づき優先権主張を行う場合でも、優先日から12か月以内ではないのでご注意ください。
またこの手続のためには、韓国特許庁に対して所定の証明書類を提出する必要がある点にも注意が必要です。
2.仮出願
アメリカ仮出願でも触れましたが、韓国でもアメリカの仮出願に類似する制度が採用されています。
つまりいわゆる特許出願書類の形式が整っていない形態(学術論文など)やクレームがない形態であっても、出願として受理され、出願日を確保することができます。
ただし、この場合、出願日又は優先日のいずれか早い方から1年2か月以内に、特許出願書類の形式に整えるための補正を行わなければなりません。
もちろん新規事項(仮出願として提出した内容に記載なき事項)を追加することはできませんので、特許出願書類の形式が整っていないとしても、開示内容としては特許明細書相当のものでなければなりません。
上記期間内に補正を行わない場合、取下げられたものとみなされます。
なお、注意を要するのは、米国や欧州と異なり、韓国にて仮出願を行う場合、英語以外の外国語により仮出願を行うことはできませんので、ご注意ください。
3.実用新案
日本や中国同様、韓国でも実用新案制度が採用されています。
実用新案の対象となるのは、日本の実用新案の概念に近く、物品の形状、構造又は組合せに関する考案です。
韓国の実用新案は、日本と異なり、審査制度が採用されており、特許と同様、出願日から3年以内に審査請求がされると登録性の審査がなされ、この期間に審査請求がなされない場合、取下げたものとみなされます。
登録性審査は、特許の特許性審査と同様で、考案適格、新規性、進歩性などが主に審査されます。
韓国特許法の条文上は、特許の進歩性については「容易に発明することができるか」が基準、実用新案の進歩性については「極めて容易に考案することができるか」が基準とされており、実用新案の進歩性のハードルの方が低く設定されています。
しかしながら、実態としては、特許の判断と変わらないことが多いように聞いています。
審査を経て登録となるので、日本と異なり、実用新案権の行使は、特許権の行使と同様、特に制限は付されません。
ただ、実務上、実用新案権の方が特許権と比べて権利範囲が狭く解釈されることが多いようです。
また、日本同様、韓国では、特許出願したものを実用新案出願に変更したり、その逆を行うことができます(いわゆる変更出願が可能)が、同じ発明・考案について、同時に特許出願と実用新案出願とを行うことはできません。
よって、韓国の実用新案は、特許とほぼ同様に使うことができるため、構造等に関する発明であれば、実用新案を検討することも一案です。
実用新案にてまずは出願をしておき、様子を見て変更出願を検討するという戦略も視野に入れることができます。
4.侵害対応
韓国でも、日本同様、特許権の侵害の場合、裁判所による司法ルートで対応することが一般的で、行政ルートによる対応は限定的です。中国出願の「侵害対応」をご参照ください。
行政ルートによる対応は、税関での水際対策や刑事告訴を見据えた刑事事件絡みとなります。
現地代理人の起用
韓国外から韓国に特許出願を行う場合、韓国弁理士を起用する必要があります。
韓国弁理士は、所定の資格試験を経て、特許・実用新案・意匠・商標に関する韓国特許庁での手続及び特許法院(裁判所)での審決取消訴訟における代理を取り扱うことができます。
日本の弁理士に非常に類似していますね。
しかしながら、その業務範囲に、特許侵害民事訴訟の訴訟代理権の有無については、争いがあるようです。
多くの韓国弁理士は、英語・日本語などの複数外国語対応が可能で、韓国特許について日本語で相談できるのが非常にありがたいところです。
そのため、特許出願を韓国に行う場合には、日本語の明細書等を韓国弁理士に引き渡して、韓国語に翻訳する等して韓国用の特許出願書類を作成してもらうのが一般的です。
しかしながら、上述のとおり、日本語による外国語出願は認められないので、日本語で急いで出願日を確保することはできない点に留意が必要です。
もし日本語書類について出願日を確保することが不可欠であれば、日本やアメリカに一旦出願して、優先権主張をして韓国に出願することを検討されるとよいでしょう。
韓国で特許を取得する意義
上述のとおり、韓国は、技術大国です。
韓国市場において自社の製品や技術を展開するには、韓国で特許を取得して優位性を得ることは重要と言えるでしょう。
特に家電関係や映像技術、モバイル通信などでは、韓国は世界をリードすると言っても過言ではありません。
このような観点からも、特に上記の分野においては、韓国の動向を視野に入れた知財戦略がますます重要性を帯びていると言えるでしょう。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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