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商標権を侵害している? 警告書が届いた場合の対応

ある日突然、商標権侵害の通知書(警告書)が届いた!

いったい、この警告書にはどう対応すれば良いのかを現役弁理士が解説します。

警告書が届いたときに注意すべきこと

商標権を侵害している旨の警告書が届いたときは、専門家(弁理士または弁護士)による判断を受けたうえで、対応をしましょう。

その理由として、警告書を相手方に送る会社は、警告書に対する回答次第で商標権の侵害訴訟をすることも考えているからです。仮に侵害訴訟となった場合には、訴訟にかかる時間と費用が莫大なものとなります。

また侵害訴訟となった場合には、この警告書や警告書に対する回答書は、証拠として提出されることが多いです。そのため回答書の作成は、侵害訴訟での攻防を念頭に置いた対応をする必要があります。

さらに警告書の中には、商標権の権利範囲から明らかに外れているものや、商標権における指定商品を明らかにしないものなど、内容の不明確な警告書もあります。このような警告書に対しては、後に、万一侵害訴訟となったときの対応を考慮して、余計な主張をしないということが重要になります。

このように、警告書に対して送る回答書の中身の作成には、高度な専門知識が求められるのです。

そのため警告書の対応としては、専門家に警告書の件を相談したうえで、回答書を作成してもらうのが一般的です。

警告書が届いた場合の対応の流れ

商標権侵害の警告書が届いた場合の対応としては、概ね次のようになります。

  1. 相手方の商標権を確認する
  2. 自分(自社)の行為が、相手方の商標権の権利範囲に含まれるか、検討する
  3. 自分(自社)に非侵害となる正当理由・権原があるか、検討する
  4. 商標権の侵害に該当しないと判断した場合、その旨回答する
  5. 商標権の侵害に該当すると判断した場合には、使用中止や使用許諾意思の回答をする

この1~5の作業は主に、専門家である弁理士や弁護士が行います。依頼者は、これらの対応の際に、必要に応じて様々な資料を専門家に提出するといった対応をしていきます。

そもそも商標権の侵害とは?

商標権の侵害となる主な行為としては、商標権を直接侵害する行為と、商標権の侵害につながる一定の予備的行為があります。

例えば文房具を指定商品とし、「ABC」を登録商標とする商標権があるとき、商標「abc」を付した消しゴムを販売する行為は直接侵害となります。

そして商標「abc」を付した消しゴムを販売の目的で所持する行為や、商標「abc」のラベルを所持していて、かつ、このラベルを消しゴムに付して販売する目的で所持する行為が、予備的行為としての侵害に該当します。

ただし商標権侵害の警告書は直接侵害に対する警告が多く、予備的行為については比較的少ない、という傾向があります。

ステップ1:相手方の商標権を確認する

商標権侵害の警告書が届いたら、まず、相手方の商標権を確認します。確認する事項は、登録商標、指定商品・指定役務、商標権の存続期間です。

この確認で仮に、商標権の存続期間がすでに切れていた場合には、現時点での商標権侵害はないため、その旨の回答をすることが可能となります。

ステップ2:相手方の商標権を侵害しているか確認する

相手方の商標権を侵害しているか否かの確認は、直接侵害の場合と、予備的行為による侵害で、チェック内容が異なります。それぞれの確認内容について、詳しく解説します。

いずれの場合においても、依頼者はこの侵害確認のために、自分(自社)が使用している商標と、使用している商品やサービスについて、専門家に伝える必要があります。

>>確認後にやることを、すぐにチェックする

登録商標の直接侵害に該当するか

商標権の直接侵害は、次の1、2を共に満たす場合に該当します(商標法25条、37条1号)。

  1. 自分(自社)の使用している商標が、登録商標と同一又は類似である
  2. 自分(自社)で商標を使用している商品やサービスが、登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似である

商標の同一・類似については、両方の商標の外観・称呼・観念を考慮したうえで判断されます。例えば、それぞれの商標が「ライオン」と「Lion」である場合、両者は同一又は類似の関係となります。

また商品・役務の同一・類似については、特許庁で公表されている類似商品・役務審査基準をベースにして判断されます。

なお1の条件にある「使用」に該当する行為は、商標法で以下のように規定されています(商標法2条3項)。従って、これらの1~9に該当しない行為は「商標の使用」と見なされず、商標権の侵害に該当しません

  1. 商品又は商品の包装に標章を付する行為
  2. 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡、輸出、輸入等する行為
  3. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為
  4. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
  5. 役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
  6. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
  7. 電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
  8. 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示等をする行為
  9. 商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為

また形式上1~9に該当する場合でも、そもそも商標としての使用でないため、商標権の侵害に該当しない、という場合もあります。この「商標としての使用」については後ほど説明します。

みなし侵害(予備的行為)に該当するか

商標権のみなし侵害とは、その行為自体は商標権の直接侵害に該当しないものの、商標権の直接侵害につながる可能性の高い予備的行為を、商標権の侵害とみなすことをいいます。

商標権のみなし侵害に該当するパターンとしては、以下のものが規定されています(商標法37条2号~8号)。

1.譲渡や輸出の目的をもって、指定商品・指定役務と同一又は類似の商品に、登録商標と同一又は類似の商標を付したものを所持する行為

この規定は、所持する行為自体は商標の使用でないものの、使用の予備的行為として、譲渡や輸出の目的を持って所持する場合にみなし侵害とする内容の規定です。

2.指定商品・指定役務と同一又は類似の役務に、登録商標と同一又は類似の商標を付した役務の提供にあたり、その提供を受ける者の利用に供する物を、役務の提供のために所持、又は輸入する行為

この規定は、役務を提供する行為の予備的行為として、提供を受ける者の利用に供する物を、役務の提供のために所持、又は輸入する場合に、みなし侵害とする内容の規定です。

3.指定商品・指定役務と同一又は類似の商品又は役務について、登録商標と同一又は類似の商標の使用目的をもって、これらの商標を表示する物を所持する行為

4.指定商品・指定役務と同一又は類似の商品又は役務について、登録商標と同一又は類似の商標の使用をさせる目的をもって、これらの商標を表示する物を所持する行為

3と4の規定にある「商標を表示する物」には、ラベルや包装紙などが該当します。そして、この3と4の規定も、商標の使用目的がある場合に、商標権の侵害とみなされる規定です。

5.自ら使用し又は他人に使用させる目的をもって、登録商標と同一又は類似の商標を表示する物を製造、又は輸入する行為

この規定は、ラベルや包装紙などの商標を表示する物を製造、輸入する行為についての規定です。そして、この規定にある「他人に使用させる目的をもって」の意味は、他人に委託して製造させる場合であって、その受託者が商標権侵害の事情を知らないで製造する場合には、製造者ではなく委託者の行為が商標権の侵害とみなされます。

6.登録商標と同一又は類似の商標を表示する物以外の製造ができない物を製造、譲渡、輸入などする行為

 この規定にある「商標を表示する物以外の製造ができない物」は、商標印刷用の紙型などを指します。

非侵害となる正当理由・権原を有するか

直接侵害やみなし侵害に該当する場合でも、自社に正当理由や権原があれば、商標権の侵害を免れることができます。

ただし正当理由や権原を相手方に主張する場合には、自社で立証のための証拠を準備しなくてはいけません。

商標権の侵害における主な正当理由・権原としては、5つあります。

商標としての使用か?   

「商標の使用」は先述したように商標法で規定されています。しかし、そもそも商標として使用しているものではない=商標権を侵害していないケースもあるのです。

鍵となる「商標として使用している」とは、商標の機能を使用している、という意味になります。

どういうことかといいますと、まず商標法における保護対象は、商標の使用をする者の業務上の信用で商標自体ではありません。ですから業務上の信用に関係する形での使用、たとえば商品の識別や、商標に化体した信用に影響を及ぼす使用をした場合に、商標としての使用となります。

【例1】

以前、タレントのピコ太郎さんが使用していた「PPAP」が他人によって商標登録されたので、ピコ太郎さんは「PPAP」を使用できないのではないか、というニュースが流れました。

しかしピコ太郎さんの「PPAP」は芸の一つとして使用しており、業務上の信用に関係する形での使用ではないため、商標としての使用にはなりません。

【例2】

書籍のタイトル(題号)は書籍の内容を表しており、業務上の信用に関係する形の使用ではないため、商標としての使用にはなりません。

過去の裁判例として「POS」という文字商標に基づいて、「POS実践マニュアル」のタイトルを付した書籍に対して商標権侵害の訴訟をした事案がありますが、裁判所は、書籍に表示されている「POS」は単に書籍の内容を示す題号として表示されており、商標の機能を有しないことを理由に、商標権の侵害を否定しています。

無効調査で、登録商標が無効理由を有するかリサーチ

相手方の登録商標に無効理由があれば、商標権に基づく権利行使はできません。そのため、無効理由の有無について検討・調査することも有効です。

【検討する主な無効理由】

  1. 登録商標がその指定商品・指定役務の普通名称である
  2. 登録商標がその指定商品・指定役務の品質等を表しているにすぎない
  3. 無効にすべき登録商標に対して、先願でかつ他人の登録商標があって、さらに、指定商品・指定役務も同一又は類似である
  4. 商品・役務の品質誤認を生じる

その他にも、商標法において取り得る無効理由がありますので、専門家に相談することをおすすめします。

ただし商標登録から5年経過している場合、無効理由によっては登録商標の無効化が認められません。

またこれらの無効理由のうち、3を検討する場合には、相手方の登録商標よりも先に出願されて登録されている商標を調査する必要があります。

先使用権の検討

もし自社の使用、もしくは使用の準備が、相手方の登録商標の出願時よりも先である場合、先使用権を主張することも可能です。

しかし先使用権を主張するには、自社の使用している商標が周知性を有していることが必要となります。自社の使用時期や、周知性を証明できる証拠の準備が必要です。

商標権の効力が及ばない範囲である

商標法では、商標権の効力が及ばない範囲について規定されています。その主なものとしては、以下の2つが挙げられます。

  1. 自社の名称を普通に用いられる方法で使用する行為
  2. その指定商品における普通名称や、品質を表す表示を、普通に用いられる方法で使用する行為

並行輸入の検討

並行輸入とは、 正規代理店ルートとは別のルートで真正品を輸入することです。自社の使用している商品が並行輸入によって仕入れている商品の場合、以下の条件を満たせば、商標権の侵害に該当しない、とされています。

  1. 商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたこと
  2. 外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであること
  3. 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行いうる立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないこと

侵害に該当しない場合の対応

商標権の侵害について検討した結果、商標権の侵害に該当しなかった。この場合は、商標権の侵害に該当しない旨の回答を回答書において行います。そして、この回答書には2つ留意点があります。

  • 何をどこまで書くか
  • 自社名で回答するか、それとも依頼した弁理士や弁護士の名前で回答するか

まずは商標権の侵害に該当しないことについて必要以上に書かない、ということが重要になります。万一訴訟になった場合には、この回答書が証拠として提出されることが多く、仮に訴訟において、この回答書に書いたことと異なる主張をした場合には、裁判官の心証が悪くなるからです。

そして回答をする際の氏名に弁理士・弁護士の名前を使用した場合には、自社名での回答の場合よりも、相手方と争うという意思表示になる点にも留意が必要です。

侵害に該当する場合の対応

自社が確かに相手の商標権を侵害している場合の対応としては、商標の使用中止や、使用許諾の交渉について、回答書に記載することが一般的です。

また、使用許諾の交渉をする場合には、その後、使用許諾における契約内容を相手方と詰めたり、契約内容を弁理士や弁護士に依頼するなどの対応が生じるため、やはり回答書には余計な回答をしないようにする必要があります。

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