ゲーム画面やゲームシステムにおける著作権侵害訴訟の事例 「PUBG」と「荒野行動」の訴訟
今回は有名なゲーム訴訟のうちのひとつ、「PUBG」と「荒野行動」の訴訟について解説していきます。
【各ゲームの様子】
「PUBG」と「荒野行動」の訴訟の経緯
本件は、「PUBG」を配信しているPUBG Corp.が、「荒野行動」を配信しているNetEase, Inc.に対して、著作権侵害や不正競争に基づく差止請求、廃棄請求、損害賠償請求をした訴訟です。
PUBG Corp.は韓国に拠点を置く会社であり、NetEase, Inc.は中国に拠点を置く会社ですが、今回の訴訟はアメリカで配信されている「荒野行動」に関する訴訟なのでアメリカで争われています。
この訴訟は2018年4月に提起されていますが、両社は訴訟を提起する前の段階で、著作権侵害の警告とその回答、ライセンス交渉等の交渉をしています。しかしこれらの交渉は不調に終わり、訴訟となっています。
訴訟の争点
今回の訴訟では、主に、以下の点が争点となっています。
- 米国における「荒野行動」の配信が「PUBG」の著作権を侵害するか
- 米国における「荒野行動」の配信がトレードレス侵害に該当するか
- 米国における「荒野行動」の配信が不正競争に該当するか
ただし今回の訴訟では、著作権侵害に該当するか否かが大きな争点となっているため、不正競争については割愛します。
今回の著作権侵害において、PUBG Corp.は、ゲームのシステム、画面などが複製されていることを根拠として、著作権侵害を主張しています。具体的には、以下の点です。
- 100人同時参加型のゲーム
- 航空機から降下することで、ゲームを開始するエリアを選ぶ
- マップ内に作られた港や廃墟などの建造物
- 特定の建物の形状や内部構造
- 登場する銃器、近接武器の種類やデザイン
- フライパンや鍋の蓋を保持する姿
- キャラクターの肩や腰に、アイテムを保持するためのスロットがある
- 体力回復ドリンクや絆創膏などのアイテムの種類と効果
- 車両の種類やデザイン
- 一定時間経過でゲームプレイエリアが狭まり、その境界に光る壁が表示される
和解による終結
本訴訟は和解により終了しているため、「荒野行動」の配信が著作権侵害に該当するか否かについて、裁判所は判断していません。
なおかつ和解の内容については公開されておらず、PUBG Corp.、NetEase Inc.のいずれかの主張が認められたのか、また、和解金の支払いの有無、ライセンス契約の有無、などの和解条件等については、知ることができないようになっています。
一般的な著作権侵害の流れ
次に、一般的な著作権侵害訴訟の流れについて説明します。一般的な著作権侵害訴訟では、著作権侵害を主張する側(原告。今回ならPUBG Corp.)が、以下の①、②を立証する必要があります。
① 原告が著作権を有すること
② 相手方(被告)が著作物を違法に複製したこと
また、②では、さらに、
ⅰ)被告の作品が原告の著作物を複製して作成したか
ⅱ)原告の著作物と被告の作品との類似性が「著作物の保護要素」の「複製」に該当するか
の要件を満たす必要があります。
「著作物性」「複製(複製権)」について、具体的に考えてみましょう。
著作物性について
著作権法では著作物が保護される一方、著作物でないものは保護対象となりません。作品が著作物に該当するか否かは、作品が上述した著作物の保護要素であるか、によって判断されます
著作権法で保護される著作物の保護要素は、創作的な表現になります。したがってアイデア自体、事実自体、アイデアの平凡的な表現などは、著作物の保護要素に含まれません。
したがって、今回の事案のようなゲームのシステムや画面表示等については、著作物の保護要素に該当しない、と判断される可能性も否定できないと思われます。
複製権について
米国の著作権法では、著作権として、複製権、二次的著作物作成権、頒布権、実演権、展示権が認められています。そして、これらの権利のうち、複製とは、コピー又はレコードを新たに作出することであると言われています。今回の訴訟では、「荒野行動」が「PUBG」の複製であるか否かが争われました。
ただし本件の場合、ゲームのシステムはアイデア自体であり表現に該当しないとして、著作物性を否定される可能性は高いと思われます。
一方で、ゲーム画面については、そのゲーム特有の画面であれば著作物であると認定される可能性もありますが、本件の場合、そのゲーム特有の画面であるとまでは言えないため、ゲーム画面も著作物性を否定される可能性は高いと思われます。
したがって、本件では複製権の侵害検討に入る前の段階で、PUBG Corp.の主張が認められていない可能性が高いと思われます。
ゲーム画面をどのように保護する?
ゲーム画面を著作権で保護することは一般的に難しいと思われます。その理由として、ゲームのシステムやゲーム画面に対して、著作物性が認められない可能性もあるからです。
ゲームのシステムの場合、ゲームシステムはアイデア自体であるため、著作物性を有しないと判断されることが考えられます。またゲーム画面の場合、アイデアの平凡的な表現であるため、著作物性を有しないと判断されることも考えられます。
その一方で、アメリカではゲーム画面を意匠法で保護することも可能です。この点はゲーム画面の意匠登録を認めない日本の意匠法と、制度が異なっているといえます。しかし、配信されるゲームの画面の数は膨大な量であるため、画面ごとに意匠法で保護することは現実的でないと思われます。
したがって、ゲーム画面やゲームシステムの模倣を防止するためには、特許で保護することを検討すべきであると考えます。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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