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ゲーム画面は著作権で保護することができるか? 「GREE」と「DeNA」の訴訟を題材にして

資金を投入して世に出したゲームは、著作権で保護することは可能なのでしょうか。あるいは、他の知的財産権で保護することができるのでしょうか。今回は「GREE」と「DeNA」で争われた訴訟を題材にして、知的財産権によるゲームの保護について解説します。

裁判の概要

本訴訟は、DeNAの「釣りゲータウン2」に対して、GREEが著作権侵害と不正競争防止法上の不正競争に基づく差止請求と損害賠償請求を求めた事件です。

この裁判では、主に、DeNAの釣りゲーム「釣りゲータウン2」が、GREEの釣りゲーム「釣り★スタ」の著作権を侵害するか、また、DeNAのウェブページに「釣りゲータウン2」の画面を掲載する行為が、不正競争防止法上の不正競争に該当するか、について争われました。

本件は、平成23年(2011年)11月に東京地裁で第1審の判決が、平成24年(2012年)8月に知財高裁で控訴審の判決がなされて確定しています。

第1審ではDeNAの「釣りゲータウン2」に対して著作権侵害が認められ、ゲーム画面の差止、ゲーム画面に関するデータの削除、ゲーム画面の配信停止と、2億3460万円の支払いを命ぜられました。しかし第2審では著作権侵害は認められず、GREEの請求はいずれも認められずに、この裁判は確定しました。

訴訟の争点

この訴訟の主な争点は、以下の2つです。

  • DeNAの行為が「釣り★スタ」の著作権侵害(翻案権、公衆送信権、著作者人格権)に該当するか
  • DeNAの行為が不正競争防止法上の不正競争に該当するか

ただし今回の訴訟では、著作権侵害に該当するか否かが大きな争点となっているため、不正競争については割愛します。

翻案権とは

翻案権とは、元の著作物の特徴を活かしながら翻訳、変形などの翻案(改作)をすることで、別の著作物を創作できる権利です。

第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

引用:著作権法 | e-Gov法令検索

翻案の具体的な例としては、小説を映画化したり、ゲーム化する行為があります。

そしてどのような行為が翻案に該当するか、その判断基準については、2001年の最高裁判決(江差追分事件)で次のように判示されています。

【過去判例における、翻案に当たる行為の判断基準】

  • 既存の著作物に依存している
  • その表現上の本質的な特徴を維持している
  • 具体的表現に修正、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する

参考:平成11(受)922 最高裁判例全文

公衆送信権とは

公衆送信権とは、公衆が直接受信することを目的として、著作物を通信技術を用いて送信する権利です。

第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

引用:著作権法 | e-Gov法令検索

公衆送信の具体例としては、テレビ放送やインターネット、ラジオ放送等があり、ゲームの画面をインターネット・SNSに掲載する行為も公衆送信に該当します。

著作者人格権とは

著作者人格権とは、著作者の人格的利益(名誉や感情等)を保護する権利です。具体的には、公表権、氏名表示権、同一性保持権があります。

第十八条 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

引用:著作権法 | e-Gov法令検索

それぞれの権利の詳細は以下の通りです。

  • 公表権…自分の著作物を公表するかどうか、公表する場合にはいつ公表するか、を自由に決められる権利
  • 氏名表示権…著作物の利用に際して氏名を表示するかどうか、氏名の表示を本名・ペンネーム等どのようにするか、について決められる権利
  • 同一性保持権…著作物のタイトルと、その内容について、自分の意に反する改変はされない権利

地裁での判決

地裁では、以下の認定に基づいて、DeNAの「釣りゲータウン2」がGREEの「釣り★スタ」の翻案権を侵害していることを認めました。

  • 「釣り★スタ」の画面のうち、魚を引き寄せる画面には、三重の同心円を書き、釣り針に掛った魚影を黒く描き、魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくされている。そして、このような画面表示は、「釣り★スタ」以前の釣りゲームでは使用されていなかったため、この点について創作性を欠くとは言えず、この点に製作者の個性が強く表れている。
    そして、DeNAの「釣りゲータウン2」で使用されている魚を引き寄せる画面は、これらの点に変更を加えて、新たに「釣りゲータウン2」製作者の思想又は感情を創作的に表現することで、「釣り★スタ」の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。


    原告作品がGREEの「釣り★スタ」、被告作品がDeNAの「釣りゲータウン2」
    引用:平成21(ワ)34012 地裁判決全文
  • 「釣りゲータウン2」の制作時期は「釣り★スタ」の制作時期の約2年後であり、DeNAはGREEの「釣り★スタ」を知っていたため、「釣りゲータウン2」の当該画面は「釣り★スタ」の画面に依拠している。

またゲーム画面について翻案権の侵害が認められたため、DeNAが行っているゲーム画面の配信は、翻案権を侵害しているゲーム画面を公衆に送信する行為となり、公衆送信権の侵害になると認定しました。

その一方で、著作者人格権の侵害については認めませんでした。

知財高裁での判決

一方高裁では、翻案権、公衆送信権、著作者人格権のいずれの侵害も認めませんでした。

高裁では、魚を引き寄せる画面はありふれた表現であるため、両者の画面が同一性を有していたとしても、「釣りゲータウン2」の当該画面は「釣り★スタ」の画面の翻案に当たらないと認定しました。また、翻案権が認められなかったため、公衆送信権も認められませんでした。

つまりグリーが逆転敗訴する、という結果になったのです。

著作物性の認定について

本件では、魚を引き寄せる画面が著作権法の保護対象であるか否か、の判断が地裁と高裁で分かれたことで、結論が変わりました。

著作権法では、2つの作品について同一性がある場合であっても、その同一部分が思想又は感情の表現とはいえないアイデアであったり、創作的でない部分であった場合には、著作物性が認められない傾向にあります。

しかし「アイデア/思想又は感情の表現」の境界線ははっきりしていないこともあり、事案毎に判断される傾向にあります。したがって著作権法によるゲーム画面の保護は、結論がはっきりしない、不安定な保護であるとも言えます。

ゲーム画面をどのように保護する?

このようなゲーム画面を知的財産権で保護する方法としては、著作権による保護の他に、特許権による保護も考えられます。

特許権では、以前のGREEとSupercellの訴訟解説記事で紹介したように、ゲームのシステムとして保護を受けることが可能です。

意匠権による保護を受けることも可能ですが、意匠法では何らかの操作をする画面、ないし、何らかの表示をする画面であることが要求されているため、いずれにも該当しない画面については意匠権による保護を受けられません。

以上より、ゲーム画面の保護については、著作権や意匠権での保護が難しいため、特許権による保護を検討することが好ましいと思われます。

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