QRコードのビジネスモデルは?デンソーの知財戦略について解説

買い物や、施設の入場管理、物流管理など、QRコードは日常生活に欠かせないものになっています。
QRコードはなぜここまで広く普及したのでしょうか。今回はQRコードのビジネスモデルについて解説します。
QRコードの特許
QRコードは、自動車部品メーカーである株式会社デンソーが開発したコードです。
デンソーでは、自動車の生産ラインで使用するバーコードにおいて、より多くの情報を効率良く処理するためのコードの開発が行われていました。
そして、従来のバーコードは横方向の一次元にしか情報を持たないのに対し、縦横に二次元の情報を持たせるQRコードを開発することで、より多くの情報処理を可能にしました。
基本特許
QRコードの基本特許は1994年に出願され、1999年に登録されています。基本特許の概要は以下の通りです。
特許番号:2938338号
発明の名称:二次元コード
権利の状態:存続期間満了による消滅
この特許は、以下の特徴を有しています。
- QRコードの3隅に、特徴的な模様(ファインダパターン)を配置することで、機械がコードの向き(上下、左右)とコードの領域を正確かつ高速で把握できる。
- ファインダパターンの間にタイミングパターンを配置することで、正確なデータの読み取りが可能となる。
- アライメントパターンを配置することで、QRコードのデータが大きくなった場合でもデータを読み取ることが可能となる。また、コードが傾いてもデータを正確に読み取ることが可能となる。
この特許により、従来の一次元コードと比較して、同程度の読み取り時間にも関わらず約200倍の情報を記録することが可能となっています。

画像引用:「QRコード」(株)デンソーウェーブ | 経済産業省 特許庁
周辺特許
デンソーは、このQRコードに関する周辺技術についても、以下の①から⑤の特許を取得しています。
また先程の基本特許や周辺特許①,⑤については、アメリカやヨーロッパでも特許を取得しています。
①特許番号:2867904号
発明の名称:二次元コード読取装置
権利の状態:存続期間満了による消滅
②特許番号:3716527号
発明の名称:二次元コードの読取方法
権利の状態:存続期間満了による消滅
③特許番号:3726395号
発明の名称:二次元コード及び二次元コードの読取方法
権利の状態:存続期間満了による消滅
④特許番号:3843595号
発明の名称:光学的情報印刷媒体、光学的情報読取装置及び情報処理装置
権利の状態:存続期間満了による消滅
⑤特許番号:3996520号
発明の名称:二次元情報コードおよびその生成方法
権利の状態:年金不納による消滅
QRコードの特許戦略
QRコードは情報処理において非常に便利なツールであり、様々な用途に使用されています。しかしQRコードが急激に普及した背景には、デンソーの仕掛けた様々な特許戦略や商標戦略が関わっています。
まずQRコードの特許戦略として、オープン&クローズ戦略と、標準化の戦略について説明します。
戦略①オープン&クローズ戦略
オープン&クローズ戦略とは、特許を取得した技術の一部を無償で開放することで、多くの企業に技術を実施してもらい(オープン戦略)、その一方で、オープンした技術の周辺技術を特許で固めてライセンス料を得る(クローズ戦略)手法です。
オープン&クローズ戦略は、特許を保有している会社が市場優位性を確保するためにしばしば用いられています。
QRコードでは、基本特許について無償で開放することでQRコードを普及させ、周辺特許である読取装置や情報処理装置(QRコードリーダー)の使用を有償とすることでライセンス料を得る戦略がとられました。
QRコード関係の特許が切れた、その後は
上述した基本特許や周辺特許は既に消滅しているため、現在では特許権に基づくライセンス料を得ることはできません。代わりに、QRコードに関する様々な事業展開で収益を得ています。
その一例としては、東京都交通局と共同で行った、QRコードを用いたホームドア開閉システムの開発があります。
このシステムは、車両ドアのガラス面に貼り付けたQRコードをホームのカメラで読み取り、どの事業会社の車両か、何両編成か、ドアがいくつあるかなどを確認した上で、該当するホームドアの開閉をするシステムです。
また別の例としては、TOPPANエッジと共同で行った、入退管理システムの開発があります。
このシステムは、スマホで撮影した顔写真に対応したQRコード(セキュリティ機能搭載QRコード)を用いて、入退管理をするシステムです。
戦略②標準化
標準化とは、市場にある使用の中から、「標準」あるいは「規格」とされる仕様を定めることを指しています。デンソーは、基本特許の無償開放によって普及したQRコードを標準化の規格とするため、各種活動を行ってきました。
まず国内の標準化として、自動車業界での標準化を目指し、QRコードをJAMA(日本自動販売協会)/JAPIA(日本自動車部品工業会)での標準コードとしました。
また日本での標準化をもとに、AIAG(北米自動車産業協会)での標準コードに採用されました。
このほかJIS規格についても標準化を目指し、最終的にQRコードはJIS化されました。
さらに自動認識業界では、ISOの国際標準化を目指しました。国際標準化では、漢字を効率よく表現することができるという点で、中国などの漢字圏の国々を仲間にすることができ、標準化が承認されました。
このようにQRコードが標準化されることで、QRコードの使用が世界中に広がり、QRコードに読み取り装置で多くの利益を生むことが可能になりました。
QRコードの商標戦略
デンソーでは、QRコードに関連する商標として、複数の商標を有しています、その一例として、以下の商標が登録されています。
デンソー以外の会社が勝手にQRコードの用語を使用して、コードの読み込みなどを行なった場合、商標権の侵害となることがあります。
とはいえQRコードの用語を使用することについて、デンソーが積極的に商標権を行使する様子は見られません。
またQRコードという言葉は日常的に使用されているため、普通名称化するのではないか、という疑問もあります。この点についてデンソーは、QRコードが登録商標であることを示し、普通名称化を防止しています。
「QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です」という表記を見たことがあるという人も少なくないでしょう。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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